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太田述正コラム#1432(2006.10.4)
<信頼ゼロの中共社会(続)(その1)>

 (本篇は、一応コラム#1421の続きですが、切り離して読むことができます。)

1 始めに

 信頼ゼロの中共で、汚職(corruption)が蔓延し、どんどん深刻化しています。
 民衆の怒りに取り囲まれて、中共当局は、汚職の摘発に力を入れるポーズをとりつつ、民衆の口を塞ぐため、せっかくこのところ人権について改善傾向が見られていたというのに、再び人権規制を強化しつつあります。
 具体的にご説明しましょう。

2 汚職の蔓延と深刻化とその「摘発」

 (1)汚職の蔓延と深刻化
 中共の最高人民検察庁(Supreme People's Procuratorate =SPP)は、2002年以来、汚職の捜査対象とされる公務員は、毎年4万2,000人以上で起訴されるのはそのうち3万人以上である、と公表しました。
 SPPの長官は、汚職が引き続き増加しつつあることを認めています。
 世界銀行が作成しているガバナンス指標中の汚職撲滅指数(Control of Corruption index)によれば、中共は、1998年には-0.20であったところ、2002年には-0.40、そして昨年には-0.69へと悪化の一途を辿っており、昨年の中共の順位は204カ国中142位です。
 北京の精華大学経済学教授の胡安剛(Hu Angang)は、中共の1999年から2001年の間の汚職によるGDPの損失はGDPの13.2%にのぼる、と推計しています。
 
 (2)汚職の「摘発」
 汚職撲滅の最大の障害となっているのは、中共における司法の弱体です。
 先程の世銀のガバナンス指標の中の法の支配度指数(Rule of Law index)は、中共は1998年には-0.28であったところ、昨年には-0.47に低下し、昨年の中共の順位は208カ国中124位に低迷しています。
 司法が機能していないため、やむなく汚職の犠牲者は、デモや座り込み、更には暴動に訴えざるをえなくなっており、中共公安部公表の数字によれば、騒擾事件の件数は1993年には8,700件であったのに、昨年には10倍の8万7,000件へと急増してきています。
 こういう状況下では、中共当局は、汚職の摘発に力を入れているポーズをとらざるをえません。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/10/02/2003330115
(10月3日アクセス)による。)
 9月25日に行われた、24人の中国共産党政治局員の1人で上海市第一書記の陳良宇(Chen Liangyu。59歳)(注1)の汚職容疑での(両ポストからの)更迭は、政治局員の同様の理由での更迭としては、1995年の北京市長のケース以来ですが、噂されている汚職金額が今回は桁外れであり、胡錦涛政権としては、鳴り物入りで共産党の高級幹部の摘発を行ったというところでしょう。

 (注1)陳は、政治局員だが、政治局員中の9人で構成されるところの、中国共産党の奥の院中の奥の院である政治局常務委員の1人ではない。

 しかし、上海は胡錦涛の前任者の江沢民の出身地であり、陳も江沢民の子飼いの人物だっただけに、これは汚職摘発に名を借りた権力闘争なのではないか、とも取り沙汰されています。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/09/25/AR2006092500660_pf.html、及び
http://www.nytimes.com/2006/09/25/world/asia/25cnd-china.html?ref=world&pagewanted=print
(どちらも9月26日アクセス)による。)

3 人権状況の悪化

 (1)人権状況の悪化を懸念する国際公開質問状
 胡錦涛政権は、汚職の「摘発」に力を入れるポーズをとる一方で、人権規制の強化も行っています。
 人権規制の強化を懸念して、このたび、米国の有識者達が連名で胡錦涛中共主席に公開質問状を送付しました。

(続く)

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