太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/
太田述正コラム#1552(2006.12.7)
<イラン・アラブ・ホロコースト>
1 イランでホロコースト国際会議開催
(1)始めに
12月11、12日の両日、イランの首都テヘランでホロコーストに関する国際会議が開催されることになりました。
何でも、世界30カ国から67人の専門家が集まるそうなので、かつて私のホームページの掲示板上で私とホロコースト論議を戦わせた日本人の読者の中に、この会議に参加される方がおられたら、ぜひ会議の模様を後で報告していただきたいものです。
(2)この会議について
さて、イランのアフマディネジャド大統領が、昨年、累次に渡って、ホロコーストに言及し、600万人がナチによって殺害されたというのは、誇張か神話かどちらかであると述べ、また、ユダヤ人はホロコーストをイスラエルの利益を伸張させるためのプロパガンダとして用いている、とか、イスラエルは世界地図から消し去られるべきである、といった発言をしたことはご記憶の方が多いと思います。
今回の国際会議は、大統領のかかる発言を受けて行われることになったものであり、欧州のいくつかの国ではホロコースト否定論は犯罪となっていて自由にホロコーストの研究ができないことに鑑み、ホロコースト論者と否定論者が自由闊達に議論をする機会を設けるために開催する運びとなったという触れ込みです。
この会議でとりあげられるテーマは、イランやイスラム諸国におけるユダヤ人(注1)、シオニズム、ガス室、意見表明の自由、ホロコースト否定論者を処罰する法律、等30にわたっているといいます。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/12/06/world/middleeast/06holocaust.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print
(12月6日アクセス)による。)
(注1)イランには2万5,000人のユダヤ人が住んでいる。
2 アラブとホロコースト
イスラム世界でホロコースト否定論寄りの発言をしているのはイランのアフマディネジャド大統領だけではありません。
彼のお友達であるアラブの超有名人のお二人である、シリアのアサド大統領とレバノンのヒズボラの指導者であるナスララも、それぞれ最近、「ユダヤ人がどうやって殺され、何人殺されたか、良く分からない」、「ユダヤ人はホロコーストという伝説を作り上げた」と述べています。
この三人の大好きなパレスティナのハマスも、その公式ウェッブサイトで、「いわゆるホロコーストとは、ユダヤ人によって何の根拠もなしに作られた話である」と記しています。
また、エジプト、カタール、サウディアラビアの各国政府も、ホロコースト否定論に肩入れしています(注2)。
(注2)エジプトの街頭のキオスクではどこでも、帝政ロシアの秘密警察が1905年に捏造した、ユダヤ人の世界支配の陰謀を記述したシオンの議定書(Protocols of the Elders of Zion)や、ヒットラーの「我が闘争」を売っている(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4701162.stm
。2月15日アクセス)。
更に、米国のホロコースト記念博物館が調べたところ、開館以来の13年間に、アラブ諸国の高官でこの博物館を訪問したのは、湾岸諸国のうちの一つの国の若い王子一人だけであることが判明しました。
このようなアラブの姿勢の背景には、イランもそうなのですが、自分達はホロコーストとは何の関係もないという思いこみがあります。
しかし、イランはともかくとして、アラブはホロコーストと、悪い意味でも良い意味でもご縁が大いにあるのです。
ナチスドイツ、及びその一味であるイタリアのファシスト政権とフランスのヴィシー政権は、北アフリカを1940年6月から1943年5月にかけて支配し、ホロコーストのはしりをここで行ったからです。
すなわち、北アフリカのユダヤ人は、財産・教育・生計手段・住居・移動の自由、を奪われ、拷問・奴隷労働・移送・処刑、の対象となったのです。
欧州ではユダヤ人の半分以上が亡くなったのに対し、北アフリカのユダヤ人の約1%に相当する4,000人から5,000人が亡くなっただけでしたが、これは、北アフリカでは戦いの期間が短かった上、欧州の強制収容所にユダヤ人を船に乗せて連行するのが容易ではなかったことが幸いしたのです。
ここで忘れてはならないのは、多くのアラブ人は、ナチスドイツ等に命じられてとやむなくいうより、どちらかと言えば積極的にユダヤ人迫害に手を貸した、という事実です。その一方で、少数ながら、ユダヤ人を助けたアラブ人もいましたが・・。
(以上、特に断っていない限り
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/06/AR2006100601417_pf.html
(10月9日アクセス)による。)
3 コメント
上述したような、アラブとホロコーストとの関わりは、 テヘランで行われる国際会議でのテーマの一つとして極めてふさわしいと思われるところ、アラブ世界の歴史教科書では全く言及されていない(ワシントンポスト上掲)だけに、恐らくテーマには入っていないことでしょう。
イランやアラブ諸国は、ホロコーストそのものについて論じる前に、まず、自らがホロコーストと関わった過去と真摯に向き合うべきだと思います。
太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/