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太田述正コラム#1571(2006.12.16)
<反米感情について>

1 始めに

 世界中で反米感情が燃えさかっています。
 米国に好印象を抱く人の割合は、2003年には52%でしたが、今では12%に下がっています。
 直接的な原因は、米ブッシュ政権のイラク政策であると考えられますが、潜在的な反米感情が米国のイラク政策のひどさによって顕在化した、というのが本当のところでしょう。
このため、ハーバード大学のナイ(Joseph S. Nye Jr.)教授言うところの米国のハードパワー(強制力)は健在であるにもかかわらず、ソフトパワー(魅力)が落ちて、米国のパワーが落ちてしまっています。
これは、ベトナム戦争の当時を思い起こさせます。

2 潜在的反米感情のよってきたるゆえん

 そもそも、潜在的反米感情のよってきたるゆえんは何なのでしょうか。
 アフリカの共産主義者達は、いまだに彼らを目の敵にした米国の1960年代と70年代のアフリカ政策に怒っていますし、パキスタン人は、米国が1970年代と80年代に独裁者であるジア(Mohammed Zia ul-Haq)将軍を支援したことをいまだに憤慨していますし、フランスの理論家達は1990年代からハイパーパワーの米国に対して敵愾心を燃やしていますし、中南米の元ゲリラ達は米帝国主義に対する何十年来の闘争をいまだに続けていますし、アラブの活動家達はいまだに米国が1948年以来、イスラエルを支援し続けてきたことを怒っています。
 これらを見ると、国や地域によって反米感情のよってきたるゆえんはそれぞれ異なるように思えるかも知れません。
しかし、外交関係評議会(Council on Foreign Relations)の上級研究員のスェイグ(Julia E. Sweig)は、要するに、米国は、巨大な存在であるから妬まれ憎まれるのだとし、腐敗して停滞した社会のデマゴーグ達が、そんな米国を、自分達自身の近代化と国際化の失敗のスケープゴートに仕立て上げているのだ、と指摘しています。
国際平和と大西洋両岸のためのカーネギー財団(Carnegie Endowment for International Peace and transatlantic fellow)とドイツ・マーシャル財団(German Marshall Fund)の上級アソシエーツのケーガン(Robert Kagan)は、米国は外国に関与すると非難され、非難されることを恐れて関与しなくても非難される、とつけ加えています。

3 では米国はどうすればよいのか

 スェイグは、まずもって米国が建国理念に忠実であるように心がけるべきだと主張します。
 アブグレイブでの拷問事件などはもってのほかだ、というのです。
 それに加えて彼女は、米国政府はもっと外国の文化に対する敬意を抱かなければならず、また、対外関係においてもっと行儀作法に気をつけ、ルールや公正さに配意しなければならない、と主張するのです。
 
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/18/AR2006061800900_pf.html
(6月20日アクセス)、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/22/AR2006062200972_pf.html(6月26日アクセス)による。)

4 コメント

 潜在的な反米感情が、米国が軍事的・経済的・文化的に巨大な存在であることから生じている、というスェイグらの認識は誤ってはいませんが、それが米国のベトナム戦争参戦時や現在のようなイラク「統治」時に顕在化するのは、私が何度も指摘していることですが、米国が外国の体制変革や統治がすこぶるつきに下手なせいなのです。
 かと言って、特定の外国でジェノサイドが行われているような場合に、米国が何もしなければ、ケーガンが言うように、やはり米国は非難されるでしょう。
 思うに、米国は、対外干渉にあたって軍事力は単独で行使しても良いし、少なくとも多国籍軍の最高司令官は米国人が務めるべきだけれども、軍事干渉が一段落した暁には、不得手な(干渉対象国の)体制変革ないし統治は基本的に英国に委ね、自らは当該国への軍事的経済的支援に徹するべきなのです。
 もとより、英国がそんな役割をすべて引き受けることは困難です。
 だからこそ私は、日本が一刻も早く、英国とともにそのような役割を分担できるようになることを祈ってやまないのです。
 ところでスェイグは、現時点で、反米感情がほとんど存在しないのは、東欧とインドと日本だけだと言っています。
 東欧は、積年の仇敵であるロシアのくびきから米国が解放していくれた、という思いがあるからでしょう。
 インドの場合は、旧宗主国の英国に対する畏敬の念があり、インドから見れば、米国は英国から世界の覇権を譲り受けた、英国と同じアングロサクソン国だという意識があるからではないかと思います。
 また、日本は、米国の保護国であり続けた結果、日本人が意識の上で一方的に米国に自己同一化してしまった結果、反米感情がほとんど存在しなくなった、ということでしょう。
 東欧やインドに反米感情がほとんどないのはごく自然なことですが、日本に反米感情がほとんどないのは極めて異常なことだ、という認識を心ある日本人は持って欲しいものです。

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