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太田述正コラム#1572(2006.12.17)
<アフガニスタンが「順調」なわけ>
1 始めに
アフガニスタンは、イラクより、面積も広く、人口も多く(65万平方km対44万平方km、3,100万人対2,700万人。
https://cia.gov/cia//publications/factbook/geos/iz.html、
https://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/af.html
(どちらも12月17日アクセス))、しかも、イラクとは違って、19世紀以来、外国勢力の干渉を何度もはねかえしてきた、まつろわぬ国として知られている(典拠省略)にもかかわらず、2003年に米軍の侵攻を受けたイラクに比べて、2001年に米軍の侵攻を受けて以来、「順調」に物事が進行しているように見受けられます。
本当に「順調」かどうか、また、「順調」だとして、どうしてそうなのか、を考えてみましょう。
ちなみに、現時点で、イラクには米軍だけで15万人の兵力を投入されている(http://en.wikipedia.org/wiki/Multinational_force_in_Iraq。12月17日アクセス)のに対し、アフガニスタンには、わずかな米軍を含むNATO軍兵力3万2,000人が投入されているだけ、という点でも好対照です。
2 アフガニスタンの実態
(1)実態は必ずしも楽観できない?
もっとも、アフガニスタンの実態は必ずしも楽観できないという指摘もあります。
タリバンら反政府勢力の勢力が勢いを増しており、アフガニスタンの20%の地域では政府の力が完全には及んでいない、とされています。
反政府勢力とは、5年前までアフガニスタンを統治していたタリバンの残党、タリバンに新たにリクルートされた失業中の貧しい人々、タリバンに感化された青年不満分子、そして現在の政府に敵対する軍閥達です。
反政府勢力の自爆テロ攻撃は、昨年の11月までの18件から今年の11月までの116件へと急増しており、火器による攻撃は同じ期間に1,347件から3,824件に増え、路傍爆弾攻撃は530件から1,297件に、その他の攻撃は269件から479件に増えています。
そして、アフガニスタン政府軍に対する攻撃は713件から2,892件に、NATO軍に対する攻撃は919件から2,496件に、アフガニスタン政府職員に対する攻撃は2.5倍に増えています。
この結果、反政府勢力の攻撃によって、命を失うアフガニスタン人は、昨年に比べて4倍のオーダーで増えており、今年に入ってから、既に3,700人以上に達しています。また、今年に入ってから、NATO軍の戦死者は180人に達しています。
もっとも、この間、反政府勢力の戦死者は7,000人に達していると見積もられています。
また、芥子の栽培は今年、昨年に比べて60%も伸びており、麻薬取引は爆発的に増えています。
(以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-insurgency9dec09,0,5429650,print.story
(12月10日アクセス)、及び
http://www.nytimes.com/2006/12/13/opinion/13cordesman.1.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(12月14日アクセス)による。)
(2)まだまだ大丈夫
しかし、先月、米ABCと英BBCがアフガニスタンにおいて、毎年共同で実施している世論調査を見ると、アフガニスタンの状況は、依然、イラクとは全く違うことが分かります。
イスラム過激派への支持率は2004年、2005年と変わらず、わずか10%にとどまっており、現在の政府を支持する人は88%であるのに対し、タリバン政権を望む人は3%に過ぎません。
タリバン統治下の頃に比べて治安が良くなったと考える人も58%もいます。
ただし、そう考える人が昨年より17%減ったことは事実ですし、タリバンがアフガニスタンの最大の脅威だと考える人は57%と、昨年の41%より大きく増えたことも事実です。
こうして、昨年は77%の人がアフガニスタンは正しい方向に向かっていると答えましたが、今年は55%に減りましたし、現カルザイ政権の支持率も83%から68%に減りました。
それでも、約70%の人が、現政府は依然、自分達の地域で機能している、と答えています。
88%の人が、米軍がタリバン政権を倒したのは良いことだったと考えていますし、60%弱の人が米軍が治安が回復するまでアフガニスタンにとどまって欲しいと考えているのです。(もっとも、昨年の数字は70%でした。)
(以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/12/15/AR2006121501645_pf.html
(12月17日アクセス)による。)
(3)しかもできることは多い
NATO軍中、タリバン等と戦っているのは米国と英国を別にすれば、カナダ、デンマーク、エストニア、オランダ、ルーマニアであり、戦おうとしているのはポーランドですが、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、トルコはそれぞれの政府の決定と交戦規則により、戦いに従事していません(NYタイムス上掲)。
これら諸国が、自己規制を撤廃するだけで、NATO軍の戦力は大幅にアップしますし、それに加えて各国が兵力を少しずつでも増強すれば、戦況は好転すると考えられています。
また、米国を含めた諸外国は、イラクに比べて著しく少ないアフガニスタンへの経済援助(典拠省略)を更に増額することによって、現政府のテコ入れを図ることもできます。
3 どうして「順調」なのか
アフガニスタンはこの20年以上戦争がずっと続いており、戦争ずれしたアフガニスタンの人々は、少々路傍爆弾攻撃等を受けても動じない、ということもあるでしょう。
しかし、一番大きいのは、米国が2003年8月にアフガニスタンの治安維持をNATOにバトンタッチし(
http://www.nato.int/issues/afghanistan/040628-factsheet.htm
。12月17日アクセス)、治安維持について事実上英国とカナダに主導権を譲り渡したことと、アフガニスタンへの経済援助が、最初から日本等も含む多国籍的、国連的枠組みの下で行われてきた(典拠省略)ことによる、と私は考えています。
要するに米国が、不得手であるところの、体制変革ないし統治に関わらなかったからこそ、アフガニスタンは、イラクに比べて相対的に「順調」に推移している、と私は考えているのです。
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