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太田述正コラム#1615(2007.1.12)
<ブッシュの新イラク戦略(その1)>(2007.2.13公開)

1 始めに

 ブッシュ米大統領は10日、新イラク戦略を発表しました。
 この戦略の概要とこの戦略に対する評価をご紹介しましょう。

2 新戦略の概要

 (1)前提

・今までのイラク戦略は間違っていた。最も重要であるところのイラクの一般住民の安全を確保できるだけの必要十分な兵力を送り込んでいなかった。その結果としてのイラクの現状は容認しがたいものがある(注1)。

 (注1)スンニ派不穏分子の掃討もできないまま、2006年の2月にはスンニ派不穏分子がサマラ(Samarra)でシーア派のモスクを破壊し、一挙にシーア派とスンニ派との間の殺し合いが始まり、特に首都バクダッドの治安状況が悪化して現在に至っている(
http://www.csmonitor.com/2007/0112/p09s01-coop.html
。1月12日アクセス(以下同じ))。

・安全の確保ができなかった理由は二つある。一つは兵力が不足していたため、スンニ派不穏分子を掃討しても、その地域に兵力を残置させることができなかったことと、シーア派民兵組織の掃討が、シーア派が牛耳るイラク政府への政治的配慮からできなかった(注2)ことだ。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/01/10/AR2007011002437_pf.html
による。)

 (注2)2003年の対イラク戦争以来、2005年に短期間サドル(Moqtada al-Sadr)師率いる民兵組織マーディ軍(Mahdi Army)掃討がナジャフ(Najaf)で行われた以外は、シーア派民兵組織は放置されてきた。首都バクダッドの総人口は600万人だが、マーディ軍等のシーア派民兵組織が盤踞するところの200万人の住民が住むバクダッドのシーア派地区(Sadr City)は、一種の治外法権地帯となっている。(
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,,1988737,00.html

 (2)核心部分

・21,500人の米軍兵力を増派する(注3)。なお、増派期間は数ヶ月から1年未満というニュアンスの発言がゲーツ米国防長官によってなされている(1800過ぎのTBSニュース)。

 (注3)これは、当面は、部隊のイラク(戦地)派遣期間を延ばすことによって行われるが、それでは長期間このような態勢を維持することはできない。仮にイラクへの増派を1年未満で切り上げようとしてもそうならない場合も想定しなければならない。そこでゲーツ国防長官は、11日、米陸軍と海兵隊の兵力を92,000人増員したい、と表明した。(ガーディアン上掲)

 この21,500人の内訳は、バグダッドに増派される陸軍5個旅団17,500人(1月15日から始まって1ヶ月ごとに1個旅団ずつ増派。これにより現在15,000人の在バグダッド米軍兵力は倍増する)(注4)とアンバール県(Anbar province。スンニ派不穏分子の巣窟)に増派される海兵隊4,000人。

. (注4)米陸軍5個旅団の増派は中途半端であり、イラク政府は一層米軍に依存させるだけだ、とイラク多国籍軍司令官のケーシー米陸軍大将(Gen. George W. Casey Jr.。1948年??)とその上司である米中央軍司令官のアビゼイド陸軍大将(Gen. John P. Abizaid。1951年??。レバノン出身のアラブ系(キリスト教徒)の両親の下に米国生まれる)は、2個旅団の増派にとどめるべきだと主張してきたが、結果的に二人とも更迭されることになった。他方、次のイラク多国籍軍司令官となるペトラユース米陸軍中将(Lt. Gen. David H. Petraeus。1952年??。プリンストン大学で博士号を授与されている)は5個旅団増派を主張してきた。(
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,,1988763,00.html、及び
http://www.nytimes.com/2007/01/11/world/middleeast/11military.html?ref=world&pagewanted=print

・イラク軍に更に米軍顧問を送り込む。
・各グループや各地域に公平に石油収入を分配する法律を整備する。
・脱バース党化政策を緩和する。
(以上、特に断っていない限り
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/6251211.stmによる。)

 (3)イラク政府との協働

・米軍とイラク軍は協力してスンニ派不穏分子だけでなく、シーア派民兵組織も掃討する(注5)。(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-ed-iraq11jan11,0,1422441,print.story?coll=la-opinion-center

 (注5)ライス米国務長官は、その具体的方法がマクマスター(HR McMaster)米陸軍大佐がバクダッド北方の町であるタラファー(Talafar)で成功を収めた方法であることを明かしている。
     同大佐は、スンニ派とシーア派の殺し合いが続いたこの町を封鎖し、町の中をしらみつぶしに掃討して行き、しかもそのまま米軍は町の中にとどまった。バクダッドは巨大なのでその全体を封鎖することはできないが、シーア派地区がそのうちの一つであるところの9つの地区を、チグリス川や主要道路や警衛所でもって封鎖し、その中をしらみつぶしに掃討し、全住民を把握し身分証を交付し、雇用や公的サービスを提供する態勢を整えた上で、次の地区を封鎖・掃討する、ということを次々に実施して行く予定。掃討した地区には兵力を残置させる。
     イラク軍と米軍の役割分担は、イラク軍の旅団を1個ずつバクダッドの上記の9つの地区に一つずつ配備する。この総兵力20,000人のイラク軍を一人の司令官が、イラク政府のマリキ首相に直結する形で(つまり、大臣がスンニ派に割り当てられており、米軍と密接な関係にあるイラク国防省を迂回する形で)統括する(
http://www.nytimes.com/2007/01/11/world/middleeast/11iraq.html?ref=world&pagewanted=print
)。このイラク軍を20,000人の(大臣がシーア派に割り当てられている内務省管轄下の)国家警察部隊が支援する。米軍の増派部隊はこれらイラク軍部隊に派遣される形でイラク軍部隊に助言・支援を行う。
 (以上、特に断っていない限り、ガーディアン前掲による。)

(続く)

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