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太田述正コラム#1663(2007.2.17)
<官制談合について(増補版)>

 (本扁は、コラム#1655(公開しない)の増補版であり、情報屋台用コラムの転用です。有料読者は、末尾の脚注だけお読みください。)

 大阪の毎日放送のラジオ番組、MBSラジオ「特集1179」(昨年、日本放送連盟の報道部門で最優秀賞受賞)で、2月17日(土)の20時??21時に談合問題が取り上げられました。
 この関連で、2月11日に同放送の記者の取材を受けたのですが、その時、使用した私のメモをご披露します。
 なお、末尾に脚注をつけ加えました。

問1 官制談合おいて、官僚が談合に加担するのは、どのようなメリットがあるからなのですか?また、政治家はなぜ談合を仕切ろうとするのですか?

 最初に申し上げておきたいのは、私は官庁調達や官僚の人事の専門家ではなく、安全保障・外交問題の専門家であるということです。
 そんな私に、わざわざ大阪から官製談合問題で取材に来られる、というところに官製談合問題の根深さが表れている、と思うのです。
 つまり、事情に通じている政治・官僚・業者の現役・OBが固く口を閉ざしており、せいぜい匿名で断片的なことしかしゃべらない、ということです。
 どうして関係者が口を固く閉ざしているか、をお考えいただきたいのです。

 さて、最初のご質問についてですが、まず官僚に関しては、在職中に業者に官製談合等によって便宜を供与すれば、退職後にその業者に天下ることができるからです。
 天下りは再就職とは言えません。
 天下った官僚は、業者にとっては人質のようなものであり、出勤はしても基本的に仕事はせずに給与だけをもらっているからです。
 政治家に関しては、業者に便宜供与すれば、その業者から政治資金がもらえるし、選挙の時には票集め等の支援をしてもらえるからです。
 与党の政治家が業者に便宜供与する方法の一つが、官僚に官製談合をやらせて、お目当ての業者に落札させることです。官僚が与党の政治家の言うことを聞くのは、与党の政治家が官僚の人事や官僚の属す官庁への予算配分やその官庁の政策実現に強い影響力を持っているからです。
 つまり、与党の政治家、官僚、そして官需に依存している度合いの大きい業者の三者は、癒着関係に陥りやすいのです。ところが日本の場合、戦後、自由民主党系の議員が中央においても、またどの都道府県においても、ほぼ継続的に政権を担ったきたか議会で多数を占めてきたため、政官業が構造的な癒着関係にあります。
 福島県、和歌山県、そして宮崎県でこのところ次々に官製談合が露見しましたが、これは、中央での政官業の癒着関係と同じような政官業の癒着関係が、各都道府県レベルにおいても、そして恐らくは市町村レベルにおいても確立していることを示しています。

問2 政治家は、どのように官僚に談合の話を持ってくるのですか?お聞きになっていることを教えて下さい。

 政治家は、大臣官房ないし長官官房で政治家との折衝を担当する官僚か、さもなければ面識のある官僚に対し、特定の業者をよろしくと話を持ってきます。これら官僚は、契約を直接担当する官僚にその話をつなぐのです。
 ちょっと補足させてください。
 防衛庁・・現在は防衛省ですが・・・の場合、昨年、防衛施設庁官製談合が明るみに出るまでは、契約を直接担当する官僚以外の官僚は、このような口利きに対して便宜を図ることを不当であるとは思っても、違法であるとまでは認識していなかった人が大部分だと思います。口利きがあった場合は、その業者を指名競争入札の指名業者にする慣行が成立していましたが、それだけでは、その業者が落札、受注する保証はないからです。
しかし、官製談合が行われておれば話は別です。
 ちなみに、長官官房の官僚の多くは、官製談合が行われていることを知っており、政治家のこのような口利きに対して便宜を図ることの意味を十分認識していたはずです。というのも、長官官房は、防衛官僚の天下りシステム全体の管理と個別キャリア官僚の天下りも担当しており、防衛施設関係業者に、キャリア官僚OBを採用させるに当たっては、その業者に対し、防衛庁がいかなる見返りを与えることができるかを把握しているはずであるし、把握していなければ仕事にならないからです。
 同じことは口利きをする政治家についても言えます。
 特定の業者が政治家に口利きを依頼する際には、政治献金等の謝礼を用意するわけであり、政治家としても、この謝礼以上のメリットが確実に業者に与えられることが分かっていなければ仕事にならないからです。つまり、官僚に対し口利きをすれば、官製談合で、当該業者にその官庁が、いずれ確実に受注させてくれることを知っていたはずなのです。
 もちろん、政治家に口利きを依頼する業者も官製談合が行われていることを知っての上で口利きを依頼したはずです。

 (私自身は、契約を直接担当したことも、キャリア官僚の天下り担当であったこともなく、従って官製談合が行われていることも知りませんでしたが、官製談合ならぬ通常の談合がかなり広汎に行われているという疑いは持っており、それだけに政治家の口利きは極めて不当なことであると思っていました。一旦指名業者にすれば、談合の仕切り役がいつかは、その業者が落札できるように取り計らうであろう可能性が高いと考えたからです。その私でも、防衛施設庁の官製談合が報道された時にはびっくりすると同時に、ようやくすべてのカラクリが分かった気がしました。)

問3 官制談合について、政・官・業、それぞれどのような問題を抱えているとお感じですか?

 この三者の中では、政治家の責任が一番重いと思います。
 政治家が政治家であり続けるためには当選を重ねなければならない、そのためにはカネと票がいります。日本の場合、自由民主党が戦後ほぼ一貫して与党、すなわち政権政党であったことで、自民党の政治家は当選を重ねれば、確実に権力をふるえる立場になります。だから、彼らがカネと票をどんな手段でもよいから確保したいと考えるのは当然です。
 そのためには、談合であれ、官製談合であれ、利用できるものは何でも利用する、ということになっても不思議ではありません。
 ですから、自由民主党政権が、談合や、官製談合や、官製談合の背景にある官僚の天下りに対して、根本的なメスを入れるはずがないのです。
 しかし、一番悪いのは誰なのでしょうか。
 官製談合に象徴される政・官・業の癒着構造を生んだ責任は、究極的には、戦後ほぼ一貫して自民党系の議員に中央でも地方でも一番多数の議席を与え続けてきた有権者にある、と私はあえて申し上げたいのです。
 もちろん、これまで有権者に対して以上私が申し上げてきたような情報を積極的に取材し、提供してこなかったメディアも責任は免れません。

問4 官制談合で、官や業の逮捕者はでますが、政の責任に踏み込まない場合が多く見られます。どのような理由があるとお感じですか?

 防衛施設庁官製談合事件を見ても、検察は、国会議員の逮捕どころか中枢キャリア官僚の逮捕にも踏み切りませんでした。
 警察はいい意味でも悪い意味でも権力の走狗であり、そもそも権力の中枢に切り込むことはありえません。
 それができるのは検察ですが、検察といえども法務省の一機構であり、検察官を含む法務官僚の人事や法務省への予算配分や法務省の政策実現に強い影響力を持っている政権与党、しかも恒久的な政権与党、を敵に回すようなことは、よほどのことがない限り、検察として躊躇するのはごく自然なことでしょう。

問5 官制談合をなくすことができると思いますか?特に政・官にやめさせることができると思いますか?そのために必要なものはなんですか? 

 官製談合そのものより、官製談合が起きる構造に目を向けるべきでしょう。
 このところ、公共事業をめぐる官製談合が次々に明るみに出てきているのは、政府・自民党が、集金・集票構造、ひいては政・官・業の癒着構造、の全面的な組み替えを行っているからに他なりません。
 すなわち政府・自民党は、経済構造の変化、財政再建の必要性、少子化の進展等を背景として、財政支出のうち公共事業が占めるウェートを減らし、田舎から都市、とりわけ首都圏における財政支出を相対的に増やすことによって、より効率的・効果的に集金や集票ができるようにしているのです。
 当然、公共事業に携わる業者は淘汰され、それ以外の業者は相対的に増え、増えた業者が新たな癒着構造の下で自民党にカネと票を貢がされることになります。
 この過程で、談合や官製談合に対する法規制が強化されるとともに、生き残りをかけて公共事業に携わる業者の間の競争が激化し、官製談合のタレコミが増えている、ということなのです。
 しかし、官僚機構も官僚の天下りも、更には天下りと表裏一体の関係にあるところの業者への便宜供与システムも、政・官・業の癒着構造の下で温存されることでしょう。
 具体的に申し上げれば、官製談合は、全体として数を減じつつ、その中心が公共事業からそれ以外の調達事業へと移るだけであり、防衛庁等の艦艇・航空機の調達等の相対取引の世界での官・業の癒着構造は堅持されるでしょうし、政策官庁における、許認可・補助金等をめぐる官・業の癒着構造もまた堅持されるでしょう。この官・業の癒着構造に、政治家がたかる、という構図もまた、変わることはないでしょう。
 このうち官製談合以外は、捜査当局による立件がほとんど不可能な世界です。
 この癒着構造を破壊するためには、官僚の再就職規制を強化したり、官僚OBによる出身官庁への口利きを禁止したりすることでお茶を濁すのではなく、官庁による、(天下りを含む)官僚の再就職の斡旋を厳罰でもって禁止する必要があるのですが、そんなことを政府・自民党がやるわけがありません。
 そこで再度申し上げますが、官製談合に象徴される政・官・業の癒着構造を壊滅するためには、自民党系の政治勢力を一旦完全に政権の座から引きずり下ろすこと、つまりは宮崎県で起きたことを、全国の都道府県で、そして中央で、一定期間にわたって有権者が実現する以外に方法はないのです。
 大阪を選挙区とする野党の辻本清美議員や西村真悟議員だってカネがらみの不祥事を起こしていると言われるかもしれませんが、権力犯罪的な不祥事ではありませんでしたし、仮に野党が政権の座に就けば、事情通の野党自民党の監視下で、癒着構造を再構築することなど、新しい与党には到底できないはずです。
 お断りしておきますが、私は自民党にも、そして自民党の個々の議員にも全く含むところはありません。
 日本の政治をより良くしたい、日本の財政支出が抱える壮大なムダを除去したい、日本の行政の歪みを正したい、公共支出に依存する業者の堕落を是正したい、という思いから、申し上げているのです。

<脚注>

 日本に入札制度が生まれたのは、16世紀の豊臣政権の頃らしいのだが、入札(いれふだ)について初めて言及がなされた当時の文書の中で「入札を行<うと、>確かに、見積りよりも半額安くなることがあるが、手抜きも多く出来高があまりよくない。」と入札制度が批判されている(武田晴人『談合の経済学』集英社文庫1999年 57頁)ことは興味深い。
 さりとて、官側(発注者側)が手抜き工事防止のための万全な措置を講じると、今度は、安値で受注することができる体力のある特定の業者が受注を重ね、受注できない業者を市場から駆逐してしまって独占的業者が出現しかねない。そんなことになると、入札を行う意味がなくなってしまう。
 このような独占的業者の出現を回避するため、競争至上主義の米国においては、独占禁止法によって、独占的業者を分割するという形で事後的に競争状態への復帰を図ることとしているのに対し、戦前の日本では、カルテルをつくって、過当競争を事前に防止することで独占的業者の出現を予防することとしていた。従って、日本では、カルテルの一種である談合についても、それが悪いことであるという認識はなかった。
 (以上、同書37??38頁)
 だから、1941年に日本で刑法中に新設された談合罪(同書40頁)も、業者の共存共栄を図る「よい談合」とそうでない「悪い談合」があるという前提の下、「よい談合」に介入することによって利益を得るのは「悪い談合」として処罰されるとしたにとどまる(同書55??56頁)。
 ところが、戦後占領軍によって米国流の独占禁止法が日本にも導入されたことで、「よい談合」まで否定されてしまったと見ることもできる(同書38??39頁)のだが、このややこしい話には立ち入らないことにしよう。
 いずれにせよ、官制談合は、官側(発注側)が談合屋的に談合に介入することで利益を得るというシステムであることから、16世紀以降の日本のどの時代の法意識に照らしても、許されない犯罪行為であることを認識する必要がある。
 なお、米国では日本と違って、あらゆる談合(bid-rigging)が犯罪行為であるという認識が確立していることから、談合そのものが余り起こらない上、官制談合に至っては、米国人には想像することすらできないのではなかろうか。
 というのは、天下りシステムを介した組織的な「官」「業」間の癒着構造が米国には存在しないので、官側の人間が談合に介入したとしても、見返りはその人間が直接業者から金品等を受け取る形にならざるをえず、そんなものは、単なる収賄に他ならないからだ。
 (以上、
http://en.wikipedia.org/wiki/Bid_rigging
http://www.jftc.com/news&publications/Publications/PDF%20DOCUMENTS/Bid-rigging%20-%20an%20Offence%20Against%20Comp..pdf
(どちらも2月14日)等から受ける印象。)

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