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太田述正コラム#1624(2007.1.18)
<ブッシュの新イラク戦略(その2)>(2007.2.18公開)
(4)イランとシリアについて
・イランとシリアは、テロリストや叛乱分子にそれぞれの国内からの出入りを許している。とりわけイランは米軍等の部隊への攻撃に物質的支援を行っている。米軍等の部隊への攻撃は防ぐし、イラクにおける敵に高度な兵器と訓練を提供しているネットワークは破壊する。(注6)
(注6)ライス米国務長官は、そのためにはイランやシリア国内への攻撃も考えているのかと問われ、「ブッシュ大統領はこのようなものも含め、いかなる選択肢も排除はしないはずだ」と答えた。更にライスは、国境を超えて、技術や訓練を提供している連中を追いかけて行くつもりがあるのかと畳みかけられ、「米国は、これらの活動が続くのを放置しておくわけがない」と答えている。
・イラン沖にに二つめの米空母機動部隊を配備するほか、パトリオット・ミサイルを湾岸諸国に(数ヶ月前のカタールへの配備に引き続き)配備する(注7)。
(以上、特にことわっていない限り
http://www.nytimes.com/2007/01/11/world/middleeast/11diplo.html?ref=world&pagewanted=print
(1月12日アクセス)、
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/IA17Ak06.html
(1月17日アクセス)、及び
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/IA18Ak02.html
(1月18日アクセス)による。)
(注7)ライス発言で補足されたところの以上のブッシュによる発表内容と、新戦略発表とほとんど同時に実施されたイルビル(Irbil)での米軍のイラン「領事館」襲撃と「領事館」にいた6人のイラン人の拘束から、米国がイラン攻撃を目論んでいるのではないかという観測が一部でなされている。(例えば、
http://www.slate.com/id/2157489/
(1月13日)。)
しかし、ペース米統合参謀本部議長は、「米軍等の部隊の安全を確保するためにはイラク国内に実際にいる連中を何とかすれば十分だ」と発言しているし、国家安全保障会議の広報官は、米軍の活動はイラク国内だけで行われ、国境を超えて行われることはないと発言し、ゲーツ米国防長官も米軍をイラン国内に入れるつもりはないと発言している。
思わせぶりのブッシュ/ライスのラインと、明快にイラン等への軍事介入を否定するゲーツ/ペース等のラインの一体どちらが米ブッシュ政権のホンネなのだろうか。
装甲車両に載った米兵の殺傷に使われている即製爆弾(IED=improvised explosive device)が爆発した際に四方八方にまき散らす成型弾(shaped charge)が、イランから革命防衛隊要員やヒズボラ要員の手で供給されているという話は、18ヶ月も前から米国政府が言ってきたことだ。これに英国政府も一時同調した。
もっとも、それ以前には、米国政府は、成型弾はスンニ派の不穏分子が、旧イラク軍のノウハウを使って自分でつくっていると説明していた。しかも、もっぱらスンニ派の不穏分子が用いてきた成型弾をスンニ派の敵であるシーア派のイランが供給するというのもおかしい。
結局、この話は、成型弾での米兵の死傷者が増えていることに業を煮やしたブッシュ政権が、責任をイランに転嫁するためのプロパガンダを展開している可能性が高いということになる。
つまりは、イランへの軍事介入はない、と言えそうだ。
(以上、アジアタイムス上掲2論考による。)
ブッシュ政権がイランへの軍事介入を行わないであろう理由はほかにもある。
第一に、これがベーカーらによる提言に真っ向から逆らうものであること、米軍増派にさえ反対であることに加え、イラン攻撃には米議会の承認がいるという理屈で、米議会の上下院の過半数を制している民主党がこれに反対していることだ(典拠省略)。
第二に、イラク政府がこれに反対していることだ。イラン攻撃に反対であるどころか、イラク政府は積極的にイランに接近している(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iranians16jan16,1,5495103,print.story?coll=la-headlines-world
。1月17日アクセス)。
第三に、アフガニスタンにも米地上部隊を増派するとゲーツ国防長官が語っていることだ(
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,1992686,00.html
(1月18日アクセス)。成型弾等をもちこんだり成型弾がらみの訓練を施したりしているイラン要員をイラン国内に踏み込んで拘束ないし殺傷する、或いはイラン国内のこれら要員の基地を破壊するためには、多かれ少なかれ、一定期間米地上部隊を投入する必要があるが、米軍にはそのための兵力を捻出する余裕がほとんどないと考えられることだ。
では一体二つめの空母機動部隊のイラン沖への配備やパトリオットの湾岸諸国への配備は何のためなのだろうか。
イランのレバノンのヒズボラやパレスティナのハマスへの支援やイラクの内政への干渉に対する米国の不快感の強い表明であると考えるべきだろう。
もう一つ隠されたねらいも考えられる。
イスラエル空軍によるイラン核施設の爆撃が敢行された場合(
http://www.csmonitor.com/2007/0116/p01s02-wome.html
。1月16日アクセス)に、イランが暴発しないようににらみをきかせるというねらいだ。
(続く)
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