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太田述正コラム#1654(2007.2.9)
<日本の新弥生時代の曙(その6)>(2007.3.13公開)

 その中共は、既にアジアの戦略環境を大きく変え、更にアフリカに積極的に進出しつつあります。

 まず、アジアの状況です。
 フリーダムハウスが発表した「世界の自由2007」によると、2006年にはアジアの国々が世界の各地域の中で最も自由民主主義が後退しました。
 これに関連して、アジアの国々で経済の開放や金融の自由化に対する逆行現象も見られます。
 米国は、2001年の同時多発テロ以降、対テロ戦争に大忙しであり、そのために各国の協力を求めることを最優先視するとともに、捕虜の「拷問」や米国内における人権規制に血道を上げていることから、アジア諸国に対し、(軍事援助や経済援助、更にはIMFを通じた金融支援を駆使して)自由民主主義や経済開放・金融自由化を求める米国の声が自ずから小さくなった一方で、アジア諸国の間では、高度成長には自由民主主義は必要ないという認識が広まっている上に、年々、中共との貿易が伸び、中共からの投資やひも付きでない援助も増え(注4)、米国を始めとする欧米等の先進自由民主主義国の存在感が急速に低下しつつあるのですから、当然と言えば当然です。

 (注4)中共は、南寧で昨年10月に、中共首脳と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の首脳全員との会議を開催し、これら諸国に対する中共の5000万米ドルの投資のほか、定期軍事交流、軍事技術相互支援や「東南アジア地域の非核化」条約の締結、など多方面にわたる協力を推進することを謳った共同声明を採択した(コラム#1495)

 もちろん、ごく少数の例外はあります。
 成熟した自由民主主義国であるインド、韓国、台湾が引き続き自由民主主義を堅持していることはさておき、インドネシアでは独立志向派による紛争が続いていたアチェ州で平和裏に選挙が行われましたし、ネパールでは専制的君主制が打倒されたところです。
 これに対し、自由民主主義が停滞・後退している例は引きも切りません。
 中共そのものの人権状況の悪化については、以前(コラム#1434、1454等で)申し上げたところですが、その範例に右に倣えするかのように、アジアでは自由民主主義の停滞・後退が進行しているのです。
 フィリピンでは、クーデターの懼れからアロヨ大統領が国家緊急事態宣言を発しましたし、東チモールでは、叛乱が起きて収拾がつかなくなり、再び国連平和維持部隊が駐留するところとなりましたし、タイでは9月に軍事クーデターが起きてタクシン首相が追放され、軍政に戻ってしまった(コラム#1471等)上に、タイ南部におけるイスラム叛乱分子の活動は一層活発になっていますし、ビルマでは軍政が(元陸軍司令官を首班とする)形だけ民政に移管したものの、アウンサン・スーチーは依然軟禁されたままです。
 マレーシアでは、非イスラム教徒の差別解消要求に対してバダウィ政権は弾圧で答えていますし、イスラム教の原理主義化傾向が見られます。
 また、スリランカでは内戦がぶり返しましたし、バングラデシュでも内戦の危機が高まっています。パキスタンでは引き続きムシャラフ大統領による強権政治が続いています。
(以上、
http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/HL23Ae01.html
(12月26日アクセス)、及び
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/01/29/2003346832
(1月30日アクセス)による。)

 また中共は、アフリカにも積極的に進出を図っています(注5)。

 (注5)中共は、北京で昨年11月に、「中国・アフリカ協力フォーラム北京サミット」なる中共首脳とアフリカ48カ国首脳との会議を開催し、2005年末に満期となる無利子借款約100億米ドルを全額帳消しにする、援助規模を2009年までに2006年の2倍に増額する、30億ドルの優待借款を提供する、これらアフリカ諸国の輸入業者に20億ドルの優待信用貸与を提供する、中共企業のこれらアフリカ諸国に対する投資を奨励するため50億ドル規模の「中国・アフリカ発展基金」を立ち上げる、これらアフリカ諸国の約1万5000人の人材に対し研修機会を提供する、などからなる「アフリカとの協力強化のための8項目」を発表した(コラム#1495)。

 現在、中共の胡錦涛国家主席は、アフリカ諸国を12日間かけて回る旅を続けており、行き先々で借金棒引きやひも付きでない経済援助(贈与や低利融資)の大盤振る舞いを続けています。
 これに対して英国のベン(Hilary Benn)国際開発相は、借金棒引きはともかくとして、ひも付きでない経済援助の大盤振る舞いは問題であると批判しました。
 英国のように、良いガバナンス・人権尊重・(医療・教育等への)貧困対策支出増、等の条件をつけて経済援助をしないと、被援助国の自由民主主義の前進を阻害し、被援助国が経済発展をするために必要なアカウンタビリティーの確立を遅らせてしまう、というのです(注6)。

 (注6)ウォルフォヴィッツ世界銀行総裁も昨年、中共によるアフリカ諸国への低利融資は、再びこれら諸国を借金漬けにする懼れがあると批判したことと軌を一にしている。ただし、ベン国際開発相は同時に、世銀がその融資の条件として(民営化等)経済の開放という「イデオロギー」を押しつけてきたことも批判した。英国は、6年前にかかる条件を付すことを止めている。
(以上、http://www.guardian.co.uk/china/story/0,,2008249,00.html
(2月8日アクセス)による。

(続く)

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