太田述正ブログは移転しました 。
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消印所沢通信10:自衛隊は空っぽの洞窟?(その1)
先日,拙作サイトにて,太田述正氏の『防衛庁再生宣言』
http://www.bk1.co.jp/product/2043850(※1)
から
「自衛隊の戦力は実質ゼロ」
というくだりを紹介したところ,多くの異論反論を寄せられた.
そこで今回から何回かにわたり,その要点を整理してみることで,議論を
喚起するものとしたい.
太田氏からも許可を得ているので,忌憚なく御意見を寄せられたし(※2).
(a)攻撃ヘリコプターについて
太田氏は,同書の中で次のように述べている.
以下引用------------------------------
まず陸上装備だが,対戦車機動攻撃力で見ると,戦車の数こそ日本が
上回っているが,攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
仮に戦車と攻撃ヘリコプターの戦力比が価格比とイコールであると言う,
いささか乱暴な仮定を置けば,日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしか
ならない(計算方法は次の通り).
(1) 日本が調達している最新の戦車である90式戦車の1997年度単価は
935,741万円であり,最新の対戦車ヘリコプターAH-1Sの1998年度単価は
486,600万円である.
(2) この価格で,日本および英国の現有戦車と対戦車ヘリコプターを
買いかえるとしたら,それぞれいくらかかるかを計算する.
日本: 90機×4866+1050両×935.741=1420468.050(単位:百万円)
英国:269機×4866+ 627両×935.741=1895663.607
(3) 最後に,この経費の額と戦力が比例するものとして,両国の比率を計算す
る.
1420468.05/1895673.607=0.75
太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38
---------------------------------------------
なお,同書によれば兵器機材の数字は「ミリタリー・バランス 2000/2001」からの
ものだとのこと.
さて,これに対し,
「英軍の攻撃ヘリの数を過大に見積もっている」
との声が多く寄せられた.
異論の要点は
「攻撃ヘリと武装ヘリとの区別がついておらず,ただの武装ヘリまで攻撃ヘリとして
カウントしてしまっている」
というものである.
以下にその反論の主なものを紹介したい.
--------------------------------------------
>攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
英陸軍の攻撃ヘリの数は,TOW搭載可能なものの兵員輸送用にも使われる
リンクスや観測用のガゼルを全部ひっくるめた数字ですな.
それに対して陸自はコブラだけの数を比較している.
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊 "NATO Air Power"のUKの
部分によれば,攻撃ヘリとしても使われるリンクスは124機に過ぎず,269機が
どこから来ているのか不明です.
ガゼル162機を足せばその数に近づきますが,これは意味がありません.
なお2000年7月の同誌記事によると,記事執筆時点で英軍に引き渡されている
アパッチはわずか9機.うち飛行隊配備はたったの4機です.
2001年の「英軍の攻撃ヘリ」にアパッチはせいぜい1個飛行隊10機ていどしか
入れられません.
当時の英軍攻撃専用ヘリはたったこれだけです.
by BMP in FAQ BBS
--------------------------------------------
--------------------------------------------
リンクスというのは本来汎用ヘリです.正確には武装ヘリというと思います.
攻撃ヘリ並にTOWを搭載してもスペック的に同じでも,実戦的な強さという
意味では攻撃ヘリの方が圧倒的に上です.
そういう武装へりと攻撃ヘリを単純比較というのは??という感じがします.
この文章の中で日本の攻撃ヘリの数が少ないという記述がありますが,世界中で
アメリカ,ロシアを除いた場合,AH1Sを90機装備してるのは決して少なくなく
先進国レベルでは平均的な数だと思います.
by ヒロ in FAQ BBS
--------------------------------------------
--------------------------------------------
この人によると,英国の攻撃ヘリ269機,とのこと. 手元の『戦闘機年間2005-
2006 イカロス出版』をあたって内訳を見てみる.
アパッチAH1(AH64D) 67機(予定) リンクスAH7 89機 ガゼルAH1 120
機 計 276機
端数は違うが,だいたいこんなところを想定してるんでしょう. ここでマズイの
は,ガゼルAH1を戦闘ヘリとして計上してること. 英国陸軍に納入されたタイプのガ
ゼルAH1は,ATM運用能力を持たず,
武装はロケット弾と機関砲のみ. そのため,現在は偵察・観測ヘリとして運用されて
おり,通常は兵装を
搭載していない. すると,攻撃ヘリといえるのは,156機.(これは調達予定の67機
を含んでの数
字) 引き渡されたアパッチは,まだそれほど多くないので,戦闘ヘリの合計は
100〜120機程度だろう.
では自衛隊の攻撃・観測ヘリを見てみる.
アパッチAH-64D 若干(60機調達予定) コブラAH-1S 86機程度
計 150機(調達予定を含む) 加えて (観測ヘリ) OH-6D 145機 0H-1 25機(対空
攻撃能力を有する)
戦闘ヘリは,調達予定を含め150機.アパッチは2002年に8機が
予算化されているが,調達は進んでいない. 実質,戦闘ヘリは90機と見てよい.
これは英国と比べて,大幅に劣るとはいえない. また,観測ヘリの数は英国よりもず
っと多い(機数で比べれば40%多い)
by 極東の名無し三等兵 in mixi支隊
--------------------------------------------
つまり,武装はできるものの観測用でしかない「ガゼル」ヘリコプターを
算定するのは明らかに不適当だという.
『防衛庁再生宣言』執筆時点の2001年で,英軍の攻撃ヘリは
アパッチ10機程度.
これに,TOW搭載可能なものの兵員輸送用にも使われるリンクスを含めて,
やっと130機前後.
当時の自衛隊の対戦車攻撃ヘリがAH-1Sだけで90機であるとすると,
そう遜色のない数字ということになるだろうし,現在でも調達予定数は,
英軍 156機
自衛隊 150機
と,ほぼ拮抗した数字になっている.
したがって,『防衛庁再生宣言』内で行われている計算は,基礎となる数字が
誤っているために計算結果も誤っており,
>日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしかならない
という結論はおかしい,ということになる.
(続く)
(※1)
余談だが,同書はネット書店「ビーケーワン」においては防衛問題ジャンルでは
なく,官公庁問題ジャンルに分類されている.
軍事に感心を持つ者に気付かれにくいジャンルに放り込まれているわけで,
他のところではどうなのか,チェックしたほうがいいかもしれない.
「再生」という文言のせいで「リサイクル問題」なんかにジャンル分けされていた
ら笑うが.
(※2)
ただし紳士的な議論態度を希望したい.
某「反戦軍事専門家」
http://obiekt.seesaa.net/category/2748905-1.html
のような,罵詈雑言や自作自演が疑われる行為は慎まれたし.
え? 「あんな奴,そうそういない」って? ごもっとも!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<太田>
>リンクス<に>攻撃ヘリ並にTOWを搭載してもスペック的に同じでも,実戦的な強
さという意味では攻撃ヘリの方が圧倒的に上です.
>英国陸軍に納入されたタイプのガゼルAH1は,ATM運用能力を持たず,武装はロケット
弾と機関砲のみ.そのため,現在は偵察・観測ヘリとして運用されており,通常は兵装
を搭載していない
私は拙著の中では、「攻撃ヘリ」という言葉を、戦車並びの「対戦車機動攻撃力」た
るヘリ、という意味で用いています。
TOW(ATM。対戦車誘導ミサイル)を搭載できるヘリなら文句なく「対戦車機動攻撃
力」でしょう。
また、打ちっ放しの対戦者ロケットを搭載できるヘリだって「対戦車機動攻撃力」と
言えるのでは?
現役やOBの自衛官の皆さん。
拙著を読まれた方は、私が自衛隊の部隊等に寄贈したものを読まれた方を含め、数多
いはずです。
私に対し、6年間、何のコメントもお寄せにならなかったという「汚名」を晴らすべ
く、遅ればせながらこの種議論に積極的に参加していただけないものでしょうか。
もちろん、仮名で結構ですよ。
先日,拙作サイトにて,太田述正氏の『防衛庁再生宣言』
http://www.bk1.co.jp/product/2043850(※1)
から
「自衛隊の戦力は実質ゼロ」
というくだりを紹介したところ,多くの異論反論を寄せられた.
そこで今回から何回かにわたり,その要点を整理してみることで,議論を
喚起するものとしたい.
太田氏からも許可を得ているので,忌憚なく御意見を寄せられたし(※2).
(a)攻撃ヘリコプターについて
太田氏は,同書の中で次のように述べている.
以下引用------------------------------
まず陸上装備だが,対戦車機動攻撃力で見ると,戦車の数こそ日本が
上回っているが,攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
仮に戦車と攻撃ヘリコプターの戦力比が価格比とイコールであると言う,
いささか乱暴な仮定を置けば,日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしか
ならない(計算方法は次の通り).
(1) 日本が調達している最新の戦車である90式戦車の1997年度単価は
935,741万円であり,最新の対戦車ヘリコプターAH-1Sの1998年度単価は
486,600万円である.
(2) この価格で,日本および英国の現有戦車と対戦車ヘリコプターを
買いかえるとしたら,それぞれいくらかかるかを計算する.
日本: 90機×4866+1050両×935.741=1420468.050(単位:百万円)
英国:269機×4866+ 627両×935.741=1895663.607
(3) 最後に,この経費の額と戦力が比例するものとして,両国の比率を計算す
る.
1420468.05/1895673.607=0.75
太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38
---------------------------------------------
なお,同書によれば兵器機材の数字は「ミリタリー・バランス 2000/2001」からの
ものだとのこと.
さて,これに対し,
「英軍の攻撃ヘリの数を過大に見積もっている」
との声が多く寄せられた.
異論の要点は
「攻撃ヘリと武装ヘリとの区別がついておらず,ただの武装ヘリまで攻撃ヘリとして
カウントしてしまっている」
というものである.
以下にその反論の主なものを紹介したい.
--------------------------------------------
>攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
英陸軍の攻撃ヘリの数は,TOW搭載可能なものの兵員輸送用にも使われる
リンクスや観測用のガゼルを全部ひっくるめた数字ですな.
それに対して陸自はコブラだけの数を比較している.
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊 "NATO Air Power"のUKの
部分によれば,攻撃ヘリとしても使われるリンクスは124機に過ぎず,269機が
どこから来ているのか不明です.
ガゼル162機を足せばその数に近づきますが,これは意味がありません.
なお2000年7月の同誌記事によると,記事執筆時点で英軍に引き渡されている
アパッチはわずか9機.うち飛行隊配備はたったの4機です.
2001年の「英軍の攻撃ヘリ」にアパッチはせいぜい1個飛行隊10機ていどしか
入れられません.
当時の英軍攻撃専用ヘリはたったこれだけです.
by BMP in FAQ BBS
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リンクスというのは本来汎用ヘリです.正確には武装ヘリというと思います.
攻撃ヘリ並にTOWを搭載してもスペック的に同じでも,実戦的な強さという
意味では攻撃ヘリの方が圧倒的に上です.
そういう武装へりと攻撃ヘリを単純比較というのは??という感じがします.
この文章の中で日本の攻撃ヘリの数が少ないという記述がありますが,世界中で
アメリカ,ロシアを除いた場合,AH1Sを90機装備してるのは決して少なくなく
先進国レベルでは平均的な数だと思います.
by ヒロ in FAQ BBS
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この人によると,英国の攻撃ヘリ269機,とのこと. 手元の『戦闘機年間2005-
2006 イカロス出版』をあたって内訳を見てみる.
アパッチAH1(AH64D) 67機(予定) リンクスAH7 89機 ガゼルAH1 120
機 計 276機
端数は違うが,だいたいこんなところを想定してるんでしょう. ここでマズイの
は,ガゼルAH1を戦闘ヘリとして計上してること. 英国陸軍に納入されたタイプのガ
ゼルAH1は,ATM運用能力を持たず,
武装はロケット弾と機関砲のみ. そのため,現在は偵察・観測ヘリとして運用されて
おり,通常は兵装を
搭載していない. すると,攻撃ヘリといえるのは,156機.(これは調達予定の67機
を含んでの数
字) 引き渡されたアパッチは,まだそれほど多くないので,戦闘ヘリの合計は
100〜120機程度だろう.
では自衛隊の攻撃・観測ヘリを見てみる.
アパッチAH-64D 若干(60機調達予定) コブラAH-1S 86機程度
計 150機(調達予定を含む) 加えて (観測ヘリ) OH-6D 145機 0H-1 25機(対空
攻撃能力を有する)
戦闘ヘリは,調達予定を含め150機.アパッチは2002年に8機が
予算化されているが,調達は進んでいない. 実質,戦闘ヘリは90機と見てよい.
これは英国と比べて,大幅に劣るとはいえない. また,観測ヘリの数は英国よりもず
っと多い(機数で比べれば40%多い)
by 極東の名無し三等兵 in mixi支隊
--------------------------------------------
つまり,武装はできるものの観測用でしかない「ガゼル」ヘリコプターを
算定するのは明らかに不適当だという.
『防衛庁再生宣言』執筆時点の2001年で,英軍の攻撃ヘリは
アパッチ10機程度.
これに,TOW搭載可能なものの兵員輸送用にも使われるリンクスを含めて,
やっと130機前後.
当時の自衛隊の対戦車攻撃ヘリがAH-1Sだけで90機であるとすると,
そう遜色のない数字ということになるだろうし,現在でも調達予定数は,
英軍 156機
自衛隊 150機
と,ほぼ拮抗した数字になっている.
したがって,『防衛庁再生宣言』内で行われている計算は,基礎となる数字が
誤っているために計算結果も誤っており,
>日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしかならない
という結論はおかしい,ということになる.
(続く)
(※1)
余談だが,同書はネット書店「ビーケーワン」においては防衛問題ジャンルでは
なく,官公庁問題ジャンルに分類されている.
軍事に感心を持つ者に気付かれにくいジャンルに放り込まれているわけで,
他のところではどうなのか,チェックしたほうがいいかもしれない.
「再生」という文言のせいで「リサイクル問題」なんかにジャンル分けされていた
ら笑うが.
(※2)
ただし紳士的な議論態度を希望したい.
某「反戦軍事専門家」
http://obiekt.seesaa.net/category/2748905-1.html
のような,罵詈雑言や自作自演が疑われる行為は慎まれたし.
え? 「あんな奴,そうそういない」って? ごもっとも!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<太田>
>リンクス<に>攻撃ヘリ並にTOWを搭載してもスペック的に同じでも,実戦的な強
さという意味では攻撃ヘリの方が圧倒的に上です.
>英国陸軍に納入されたタイプのガゼルAH1は,ATM運用能力を持たず,武装はロケット
弾と機関砲のみ.そのため,現在は偵察・観測ヘリとして運用されており,通常は兵装
を搭載していない
私は拙著の中では、「攻撃ヘリ」という言葉を、戦車並びの「対戦車機動攻撃力」た
るヘリ、という意味で用いています。
TOW(ATM。対戦車誘導ミサイル)を搭載できるヘリなら文句なく「対戦車機動攻撃
力」でしょう。
また、打ちっ放しの対戦者ロケットを搭載できるヘリだって「対戦車機動攻撃力」と
言えるのでは?
現役やOBの自衛官の皆さん。
拙著を読まれた方は、私が自衛隊の部隊等に寄贈したものを読まれた方を含め、数多
いはずです。
私に対し、6年間、何のコメントもお寄せにならなかったという「汚名」を晴らすべ
く、遅ればせながらこの種議論に積極的に参加していただけないものでしょうか。
もちろん、仮名で結構ですよ。
太田述正ブログは移転しました 。
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