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太田述正コラム#1712(2007.3.30)
<日本は核武装すべきか(その2)>

 ここでほんの少し、「日本の自衛隊の在来兵器による第三国の核戦力の撃破計画」の種明かしをしておきましょう。
 冷戦時代のソ連の在極東第二撃核戦力(SSBN)の最大の脅威は、日本の自衛隊であったはずです、と言えば分かるかな?

<バグってハニー>

> まるで自分自身に対してコメントするようなコメントを次回以降行う羽目になりそうです。

 なんか、他人のふんどしで相撲取ってるような気分なのですが、安全保障関連は太田コラムが完璧に網羅しているので、結局そこにたどり着いちゃうんですよね。調べ物がなかなか分からなくて、ふと太田コラムを読み返してみると「何だ、書いてあんじゃん!最初から言ってよ!」というのがよくあります。

> 非核武装論は非武装論の一環であり、非武装論者でない人が非核武装論をとるのは論理的には矛盾です。

 これには高成田さんに激しく同意しますね。世界には200カ国近くある中で、核保有国はごく少数派です。その必要がないのか、別な手段で代替しているのかどちらかでしょう。五大国以外の核保有国ではイスラエル・印・パは今現在進行中の紛争を抱えてますし、日本とは違います。日本も、所期の目的が非核でも達成でき、なおかつそちらのほうがコストがかからないのであれば、当然そちらを選択するのが合理的というものです。

> 豪州政府や韓国政府等と違って、日本政府と米国政府との間で、米国の核の配置や米国による核使用に関する話し合いが全く行われていない

のが問題なのだったらその話し合いを始めればいいだけの話と違うのですかね。独自の核武装よりも政治的ハードルはずっと低いし、財政的コストは限りなく0に近いですよ。前に島田さんとの間で旧ソ連による東欧でのSS-20の配備の話が出ましたよね。西ドイツのコール首相(当時)は米国の戦術核を積極的に受け入れることによってこの危機を乗り越えました。さらに、コールの英断はINF全廃という画期的な軍縮条約へとつながり、最終的に旧ソ連を「撃破」したわけです。日米は共同して相手が音を上げるまで軍拡を続ければいいんですよ。米国と日本は世界第一位と二位の経済大国ですから、束になればどんな国でも絶対に追随できません。逆に他の国に万が一でも勝機があるとすれば、それは日米が離反したときでしょう。私は非核三原則のうちの「持ち込ませない」を朝鮮半島が非核化されるまで暫定的に廃止し、米戦略原潜に日本へ寄港することを要請するのが一番手っ取り早いと思いますね。

> 米国の核戦略へのコミットとは、NATO有事等における日本の自衛隊の在来兵器による第三国の核戦力の撃破計画が存在していることを指しています。

 最初は何のことかとドキッとしましたが

> 冷戦時代のソ連の在極東第二撃核戦力(SSBN)の最大の脅威は、日本の自衛隊であったはずです。

のことなのですね。自衛隊も「見せ金」ばかりじゃないじゃないですか。

> 議論が拡散しないための頭の整理の第一弾です。

 すいません。議論は拡散しちゃいます。というかそういう構想だったもので。

 以上は前置きです。
 それでは、太田氏への反論・第二弾を始めましょう。

??太田氏の日本核武装論は日本がおかれた国際的立場を無視している

 日本は資源・エネルギー・食糧を外国からの輸入に頼る工業国であり、そうやって作った製品を輸出することによって成り立っています。つまり、諸外国との良好な関係は日本にとって死活問題であり、たとえ米国が日本にとっての最大の貿易相手国であったとしても、大胆な政策変更を行う際にはそれ以外の国の反応も考慮する必要があります。そこで、太田氏への反論・第二弾では、私が知る限り太田氏が一度も触れたことのない、日本の核武装と核不拡散条約(NPT)の兼ね合いを議論してみたいと思います。

 言うまでもなく、日本の核武装にとってNPTは大きな足かせとなるでしょう。巷間ではNPTの趣旨が正しく理解されていないきらいがありますが、この条約は三つの柱からなっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_Non-Proliferation_Treaty
 すなわち、??核不拡散、??核軍縮、??核の平和利用です。日本の核武装がもたらす大きな弊害はその??と関わってきます。

 日本は北朝鮮とは異なり、国内に有力なウラン鉱脈がないため原子力発電に用いるウランも輸入に頼っています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%83%B3
そして、日本の円滑な原子力燃料サイクルを支えているのはとりもなおさず、このNPTなのです。このことに関して小川伸一防衛研究所主任研究官は以下のように述べています。

 日本は、米、英、仏、加、豪州、中国の6カ国と協定を結び、天然ウランや濃縮ウランを輸入しているが、これらの協定では、輸入した核関連物資の使用を平和(民生)目的に限定されている。したがって、日本が協定に違反した場合、禁輸措置に直面することは明らかである。日本の総発電量の約30%が原子力発電に依存していることを考慮すれば、こうした禁輸措置は、高速増殖炉を実用化し、核燃料サイクルを確立しない限り、日本経済に深刻な悪影響を及ぼすことが必定である。
http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2003/pdf/200304.pdf
 少し古いですが、それ以外の日本の核武装の問題点も非常に分かりやすく述べられているので、ぜひご一読ください。)

 太田氏が論じるように、日本の核武装が米国の戦略と合致し、民主主義の手続きに則り、日本の核がそれ以上拡散しないように努力する限り、米国は日本の核政策をインドのように承認し協力することでしょう。(米国とインドの関係は米印核協定
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States-India_Peaceful_Atomic_Energy_Cooperation_Act
を参照しました。)

 しかし、日本は米国以外の国からもウランを輸入しています。日本は米国の顔色だけを伺って核武装すればよいわけではないのです。最悪の場合、たとえ一時的だとしても、電力3割減を甘受することになります。工業国・日本にとって、これは大きな打撃となることでしょう。果たして我々は、ピョンヤン市民のように蝋燭の明かりの下で夕食をとることに我慢できるのでしょうか(以前PBSで観たドキュメンタリーにそういう場面があったので)。

 考えても見てください。五大国以外で核兵器を「違法」に所持しているのはイスラエル・印・パ・北朝鮮です。このうちイスラエル・印・パはNPTに一度も加盟したことがなく、イスラエルにいたっては核実験さえ行っていません。パキスタンは核実験に伴う制裁が効いたようで、今では米国の対テロ戦争のお先棒を担がされています。日本がNPT加盟国でありながら核保有国となれば北朝鮮に続いて二例目です。その暁には日本も晴れてトンデモ国家の仲間入りです。核武装とは国際的に干されることを覚悟の上で行うことなのです。

(第三弾では太田氏の提言を詳細に検証する予定です。)

<太田>

 それでは、議論が拡散しないための頭の整理の第二弾です。
 私の、昨年来の日本核武装論は、

>日本の核武装が米国の戦略と合致し、民主主義の手続きに則り、日本の核がそれ以上拡散しないように努力する

のが大前提です。
 そしてその場合、

>米国は日本の核政策をインドのように承認し協力する

であろうと私は考えているのです。
 この点について、議論が掘り下げられることを期待しています。

>他の国に万が一でも勝機があるとすれば、それは日米が離反したとき

 ここには違和感を覚えます。
 現状では日本は米国の保護国として、重要な対外政策に関しては常に宗主国米国の指示に忠実に従うことから、「日米が離反する」ことなどありえないわけです。
 しかし、アングロサクソン同士である英国と米国が(米国の独立戦争を含めて)二度も戦争をし、先の大戦直前に至るまで米国の最大の仮想敵国が英国であったこと(太田述正コラム#1621。情報屋台の太田による「日本・米国・戦争」シリーズ参照)を引き合いに出すまでもなく、日米それぞれの国益や対外政策等に係る世論が完全に合致することはありえません。
 しかもかねてから私が、米国を、力だけは滅法強い本来的国際音痴の巨人になぞらえていることは御承知のことと思います。
 従って、そんな米国とわが日本が一切「離反」しないことは、必ずしも健全なことではないと思っているのです。
 このような考えから、私は、(宗主国米国と合邦する・・米国に併合される・・というオプションも理論上ないわけではありませんが、)日本が米国から独立することが、日本のみならず、世界のためにも望ましいと考え、その旨を訴えてきました。
 敷衍すれば、私は、自由民主主義という価値観を真の意味で共有するところの、つまりは戦略の基本は予定調和的に一致しているはずであるところの、日本と米国(を始めとするアングロサクソン諸国)が、対等の立場で手を携えて「他の<非・自由民主主義>国」と対峙していくことが、現状よりはるかに世界にとって望ましいと考えているのです。
 以上のような考え方は、日米双方を母国とされるバグってハニーさんにはなかなか分かっていただけないのかもしれませんが・・。

>自衛隊も「見せ金」(太田述正コラム#1710)ばかりじゃないじゃないですか

 「みせ金」中、米国の戦略に使えそうな部分を、米国に勝手につまみ食いされてきた、ということです。「保護国民」たる日本国民の大部分があずかり知らないところでね。
 トリビアを一つ。
戦後、日本の占領領域内外の機雷掃海作業を行っていた旧帝国海軍の掃海部隊(形の上では海上保安庁所属)は、占領軍の命令で、朝鮮戦争に参戦しています。
http://www.mod.go.jp/msdf/mf/special5.htm
 この掃海部隊等がもとになって海上自衛隊の前身である海上警備隊が1952年に設立されるのです。

(続く)

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