消印所沢通信11:自衛隊は空っぽの洞窟?(その3)

 またまた間隔が空いてしまいましたが,続けます.
 海上装備についても,異論が出ています.しかも,たっぷりと.
「蜃気楼」という言葉が強過ぎたのかもしれませんね.

 まず,太田氏はこう述べています.

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 次に海上装備である.
 人目見て分かることは,日本が,空母や揚陸強襲艦〔原文ママ〕を
潜水艦等の攻撃から守ることを主眼とする駆逐艦や,警戒監視
ないし警察行動を担うフリゲート艦の隻数だけはやたら多いが,
肝心の空母や揚陸強襲艦といった攻撃用の艦艇を全く持って
いないことである.
 しかも,「航空」の中の対潜ヘリコプターのところを見ると,
対潜ヘリコプターの数も英国より少ない.
 対潜ヘリコプターの大部分は艦艇(駆逐艦やフリゲート艦艇)に
搭載されて運用されるが,対潜ヘリコプターの数が少ないということは,
駆逐艦とフリゲート艦の隻数は多くても,その対潜水艦作戦能力
ないし哨戒能力が英国よりも劣っているということを物語っている.
 つまるところ,日本の海上兵力は,船の数だけは揃えているが,
蜃気楼のようなもので,実態は殆ど何もないと言っても過言ではない.

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 これに対する異論は,次のようなものです.

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>肝心の空母や揚陸強襲艦といった攻撃用の艦艇を全く
>持っていないことである.
 海上自衛隊のドクトリン上,空母も揚陸艦も必要ないのでは
ないだろうか.
 英国のように,大洋の向こう側に植民地を持っているわけでもなく,
アメリカと共同して,紛争に介入するわけでもないのだから.  簡単に比べる
と以下の通り.
海上自衛隊 人員約4万4000名 イージス艦4隻,護衛艦8隻,汎用護衛艦約20隻,
潜水艦16隻等(ディーゼル潜)
英海軍 人員4万600人 軽空母3隻,揚陸艦4隻,駆逐艦8隻,フリゲート18隻,
潜水艦15隻等(ミサイル原潜4隻を含む)
 まぁ,互角と言ったところ.  日本近海防衛を目的とする海自と,外征型で
ある英海軍の特徴を表している,くらいのものだろう.
>しかも,「航空」の中の対潜ヘリコプターのところを見ると,
>対潜ヘリコプターの数も英国より少ない.
 外征型の軍隊である英国海軍は,陸上機の支援が期待できない
場合があるので,艦載の対潜ヘリを多く持つ.  しかし,近海作戦主眼の海自
は,P-3Cのカバーがあるので
問題ない.
 というより,だから海自の対潜ヘリが少なく,逆にP-3Cが多いと
考えるのが自然である.

by 極東の名無し三等兵
>イージス艦4隻,護衛艦8隻,汎用護衛艦約20隻,
潜水艦16隻等(ディーゼル潜)
 正確にはヘリ無しのDDG(こんごう・はたかぜ・たちかぜ)が8
(あたごが就役すれば+1)
ヘリ3搭載のDDH(はるな・しらね)が4,ヘリ1搭載のDD(なみ・
あめ・きり・ゆき)が31(練習艦3隻除く)  で,対潜ヘリ枠はSH-60換算で都
合43となる訳だ(あたごは
どうせ乗せないから無視)
 一方の王立海軍  ヘリ1搭載の42型が8,同じくヘリ1搭載の23型が14,ヘリ2
搭載の
22型が4,ヘリ6搭載のインヴィンシブル級が3,ヘリ12+6搭載の
オーシャンが1.  以上,対潜ヘリ枠はリンクス換算で54とシーキング/マーリ
ン換算で
12となる.(23型はマーリン搭載可22型はマーリン搭載時定数半減42型は
搭載不可インヴィンシブルとオーシャンは不明)  ただし,オーシャンを純然
たる対潜戦力に加えるのはどうかと思うし,
インヴィンシブルとて既述のように陸軍と空軍の運び屋と化してるので,
これを除外した数も一応示してくとたったの30.  インヴィンシブルを加えて
も48と,対潜プラットフォームの数は実は
大したことないんだよね.  ま,22型が多数現役だった頃はもっと多かったん
だけど.
 それと卵とバスケット論というのがあって,英軍は見ての通り
インヴィンシブル一隻を沈められたらそれだけで対潜戦力が
ガタ落ちする(対潜だけじゃないが)リスクを抱えている.  この点,海自の
場合はきり型以降の汎用DD20隻でヘリ格納庫の
スペースを2機分確保しているので,仮にDDHが沈められたとしても,
対潜プラットフォームを残ったDDだけで最低限確保することが出来る.
(あたご型が就役すればマーリンクラスの大型ヘリプラットフォームも
確保可能)
 も一つ指摘しておくと,22型も23型も42型も新型の45型も
USMの類を全く装備していない,
 海自は地方隊のDEはおろか,ヘリ空母然とした16DDHにまで
アスロック標準装備なのにだ.  排水量に余裕がないのは分からんでもないが
,ちょっとそれは
どうかと思うぞと.
 以上を勘案すれば,海自とロイヤルネイビーのASWに対する
姿勢がどのようなものであるのかは自ずと見えてくる筈.  まぁそもそも,リ
ンクス/シーキング/マーリンとシーホークを一緒くたに
対潜ヘリなんて纏めちゃうのもどうかと思うが.
(マーリン>シーキング≒シーホーク>リンクスの順でそれぞれ5トンぐらいの
重量差がある)

by メッサー=ハルゼー

 英軍の対潜ヘリ現存数について,最新のものではありませんが,
ミリタリーバランス2004-2005が手元にありますので書きます.
ちょっと数字の読み方がいまいちわかんないのでそのまま写します.

88 seaking(42 HAS-5/6, 33 HC-4,13 AEW[2Mk7,11Mk2])
36 Lynx Mk3
6 Lynx Mk7(inclin Marinesentry)
23 Lynx Mk8
38 EH-101 Merlin Mk1
8 Gazelle AH-1(inclin Marinesentry)

 あと,空軍にもMerlinHC4が22機,seaking HAR3が23機あります.
 参考になればと思います.

by 唯野

 上記の中から,とりあえず対潜型だけ抜き出すと
シーキングが42機
リンクスが36+23機
マーリンが38機
合計139機か?

 連中のタイプ分けはいまいちハッキリしない.

 もひとつの70機という数字で思い当たったのが,SH-60J陸上型の
存在.
 しかし陸上型な筈のシリアルナンバーを付けた機体が護衛艦の
RAST上に鎮座してたり,明らかにRAST用拘束具が付いてたりと
更に混乱.
 陸上型=RAST未対応がガセなのか,シリアルナンバーが
間違ってるのか.

by メッサー=ハルゼー

 シーキングのうちHC.4は輸送型だから,ASW戦力からは
除外していいでしょう.
 ガゼルも攻撃ヘリの代用品でASWヘリじゃないですね.
 他にもいろいろ混ざっているので,純粋にASW戦力といえるのは,

・シーキングHAS.5
・リンクス(海軍型のみ) 
・マーリンHM.1

だけでしょう.

by 井上@Kojii.net

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 まとめますと,

・海上自衛隊のドクトリン上,空母も揚陸艦も必要ないのでは?
・対潜水艦戦力として算定されている英海軍ヘリの中に,戦力と
呼べるか疑問のものが混ざっている.
・英国海軍では対潜プラットフォームが比較的乏しく,ゆえに
「対潜水艦作戦能力ないし哨戒能力が英国よりも劣っている」とは
言えない.
というのが主な反論点になるのではないかと愚考します.

 軍事アナリストの小川和久氏も,海上自衛隊の対潜能力「だけ」は
高いことを認めていますね.
 以下引用.
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 例えば海上自衛隊は「単能海軍」と呼んでよいほど,単一の
機能が突出しています.それは対潜水艦戦(ASW)能力で,
その部分こそ世界トップクラスですが,それ以外の能力は備わっていないに
等しいし,もちろん空母も戦艦も巡洋艦も原子力潜水艦も
強襲揚陸艦もありません.

小川和久著『日本の戦争力』(アスコム,2005.12.5),p.41

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 私見では,この突出ぶりは,第2次大戦において日本が
米潜水艦によって輸送船を大量に沈められたという苦い記憶に
起因するのではないかと見ておりますが.

 おそらく,「海上自衛隊のドクトリン」という点等については,太田氏他,
一言おありの方も多いと思われますので,忌憚のないところをご
拝聴したいと存じます.
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<太田>

 お忙しいところを、太田述正コラムのためにご貢献いただいていることに対し
、改めて御礼申し上げます。
 その上で、普通の読者に分かりやすいように引用箇所に少しは手を入れていた
だくこと、(僭越ながら少し手直しさせていただきましたが)「まとめますと」
以下等、消印所沢さんご自身の文章をもう少し推敲していただくこと、をお願い
しておきます。

 さて、とりあえずのコメントをさせていただきます。

>海上自衛隊のドクトリン上,空母も揚陸艦も必要ないのでは?

 海上自衛隊だろうが、米海軍だろうが、およそ海軍というものは、(空軍もそ
うですが、)陸軍とは違って、本質的に攻撃的戦力なのです。(この程度の一般
論には典拠をつけるべきなのですが、ご勘弁を。)
 海軍に即して申し上げれば、一定の海域を守る、といった発想はないのです。
(ただし、対潜哨戒機、特に固定翼対潜哨戒機、や掃海部隊に限っては、それに
近い使い方をすることもできます。)
 ですから、どこの国の海軍でも、攻撃的戦力の最たるものであるところの、空
母や(揚陸艦に象徴される)本格的な着上陸兵力を持ちたいのは山々なのです。
 にもかかわらず、(海上自衛隊もそうですが、)空母や本格的な着上陸兵力を
持っていない海軍が多いのは、持ちたくても(日本の場合のように)政策上、あ
るいはカネや技術の制約上持てない、というだけのことです。

 次に、焦点の対潜水艦能力(対潜能力=ASW能力)についてです。

 まず、基礎知識から始めます。
 駆逐艦(デストロイヤー。巡洋艦やフリゲート艦との区別は無視する。=護衛
艦)の対潜能力と、(艦載、陸上を問わず、)対潜ヘリの対潜能力は、固定翼対
潜哨戒機(とりわけP-3C)の対潜能力と比べた場合、それぞれ、ほとんどゼロ、
ないよりマシ、程度であるということをぜひご認識ください。
 では、駆逐艦や対潜ヘリは何のためにあるのか?
 固定翼対潜哨戒機がカバーしきれない、あるいは固定翼対潜哨戒機に加えて念
には念を入れて、極めて狭い海域を「敵」潜水艦から守るためです。
 極めて狭い海域とは、駆逐艦(艦載対潜ヘリを含む)に関しては、護衛する空
母や本格的な着上陸兵力のいる(航海している)周辺の海域であり、陸上対潜ヘ
リに関しては、海峡や港湾です。 

 ここまでは、分かりましたか?
 この際、陸上対潜ヘリのことは捨象して議論を進めます。
 日本は空母や本格的な着上陸兵力を持っていないのに、これらを持っている英
国よりも沢山駆逐艦を保有しているのは、おかしいと思いませんか。
 結局のところ、海上自衛隊は、日本が空母や本格的な着上陸兵力を持つ日に備
えている、ということにならざるをえません。
 また、固定翼対潜哨戒機に至っては、日本は英国の何倍も持っています。
 日本が英国とほとんど同じ戦略環境にある以上、これもおかしいと思いません
か。
 この点については、説明のしようがありません。
 それもそのはずです。
 海上自衛隊の固定翼対潜哨戒機部隊は、S-2Fという小さな固定翼対潜哨戒機を
米国から供与されたところから始まるのですが、それが、P-2V(P-2J)、P-3C、
と更新されていく過程で、個機の対潜能力が(その時々の「敵」との相対関係に
おいて)幾何級数的に強化されていったというのに、保有機数約100機を(つい
最近まで)惰性で維持し続けたために、そんなバカバカしい結果になった、とい
うだけのことだからです。

><対潜能力>の突出ぶりは,第2次大戦において日本が 米潜水艦によって輸
送船を大量に沈められたという苦い記憶に起因する

というのは、海上自衛隊が苦し紛れにつけてきた理屈に過ぎません。
 これでは、説明しきれなくなった頃、有事において、最低所要輸入量を確保
するために、食糧や石油を積んだ輸送船団を「敵」潜水艦から守る必要があると
いう理屈を海上自衛隊がでっちあげたことがあります。
 この「理屈」の粉砕に私自身が関与したのですが、今となってはなつかしい思
い出です。

 いずれにせよ、結果としてであれ、これだけ対潜能力の整備に力を入れてきた
海上自衛隊が、それでもなお、

>「対潜水艦作戦能力ないし哨戒能力が英国よりも劣っている」とは 言えない

程度の対潜能力しかない、としたら、とんでもない話だと思いませんか。(実際
には、対潜能力だけなら、海上自衛隊は英海軍をはるかに凌駕しているわけです
。)

 重要なのは、小川さんも示唆しておられるように、対潜能力(と掃海能力)以
外では、英海軍に比べて海上自衛隊は無に等しいことです。

 拙著の件の日英比較は、当時の日英の累積実質国防費がほぼ同じだというのに
、いかに日本の自衛隊が英軍に比べて空疎な戦力でしかないかを説明しようとし
たものですが、陸上自衛隊に引き続き、海上自衛隊についても、ご納得いただけ
たことと思います。
 
(続く)

太田述正ブログは移転しました 。
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