太田述正コラム#1693(2007.3.16)
<北朝鮮をいたぶる米国>(2007.4.15公開)

1 始めに

 2月13日の6か国合意の第一弾、ヨンビョン(Yongbyon)の核施設の閉鎖を北朝鮮が約束通り60日以内に実行するかどうかは、米国が北朝鮮に対して2005年9月に事実上科した金融制裁を解除するかどうかにかかっているのですが、米国は、猫がネズミをいたぶるように北朝鮮をいたぶっているとしか思えません。

2 いたぶりのその1

 北朝鮮を訪問したIAEAのエルバラダイ(Mohamed ElBaradei)事務局長(director)は、北京で14日、北朝鮮は、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(Banco Delta Asia=BDA)の北朝鮮の銀行口座(複数)に入っている2,500万米ドル凍結問題が、約束通り30日以内に解決・・北朝鮮からすれば凍結が解除・・された後に、核施設の閉鎖に着手するとの考えであると語りました。
 米国は、あえてその期限の3月13日を過ぎてから、14日に、上記エルバラダイ発言の後、リービ(Stuart Levey)米財務省テロ・金融情報担当次官(U.S. undersecretary of Treasury for terrorism and financial intelligence)がBDAに対する措置を発表しました。北朝鮮をじらしたとしか思えません。
 その内容は、米国の銀行のBDAとの取引を正式に禁止する一方、凍結されている北朝鮮の銀行口座の取り扱いはマカオ当局にゆだねる、というものでした。
 リービ次官は、北朝鮮の複数の会社が核兵器開発がらみの取引にBDAの銀行口座を用いていたとし、いくつかの口座は、米国通貨の偽造、タバコの偽造、覚醒剤の密輸に関わっていたし、北朝鮮のダミー会社の資金洗浄にも用いられていたとし、BDAはこれらを見逃す懈怠があったので米国の銀行のBDAとの取引は禁止するが、BDAが責任ある管理・所有の下に置かれるようになった暁には、この取引禁止を解除する、と述べました。
 この発表を受けて、凍結されている北朝鮮の口座をどうするかは、マカオ当局が中共当局の指示をあおぎつつ、決めることになりますが、その過程で米国とも事実上調整がなされると考えられています。
 米国政府内では、国務省サイドが凍結全面解除を示唆しているのに対し、財務省サイドは、三分の一ないし二分の一の解除を示唆しており、中共当局は悩ましい立場に置かれています。
 簡単に全面解除してしまうと、中共当局が、国際金融面での違法行為に甘いという非難を国際的に浴びる懼れがあるからです。
 そこで、中共/マカオ当局は、恐らく前面解除には踏み切れないだろうという観測がもっぱらです。
 しかも、仮に全面解除になったとしても、米国政府としては、事実上世界中の銀行が、米国に気兼ねして北朝鮮との取引を自粛している現状を解消すべく、「自粛する必要はない」といった明確なシグナルを発するつもりは全くなさそうです。
 つまり、北朝鮮が国際的な取引を行うことが極度に制約されている現状は、そのまま維持されることになりそうなのです。
 北朝鮮がこれに目をつぶり、2,500万ドル、悪くするとその一部を返してもらっただけで核施設の閉鎖に踏み切るかどうか、これは見物だと言わざるをえません。
 北朝鮮の狼狽ぶりは、中共の外務省の広報官が、「われわれは米側に深甚なる遺憾の意を伝えた。・・われわれは米側が、6か国協議の進展に資するとともに、マカオ特別行政区の社会的安定の維持に資する行動をとるべきだと思う。」と述べたことから類推できるのではないでしょうか。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/14/AR2007031401030_pf.html
(3月15日アクセス)、
http://www.ft.com/cms/s/c1b4ead8-d261-11db-a7c0-000b5df10621.html
(3月16日アクセス。以下同じ)、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-norkor15mar15,1,736269,print.story
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/14/AR2007031402299_pf.htmlによる。)

3 いたぶりのその2

 事業費が北朝鮮で不正に流用されているとの1月の米国の指摘(コラム#1637、1670)を踏まえ、国連開発計画(UNDP)は1月、外貨による事業決済や北朝鮮当局による地元要員採用中止を、新規事業承認や積み残し事業継続の条件とすることを決めたのですが、北朝鮮側がこれらの条件を履行しないため、3月5日、人道分野を含めたすべての対北朝鮮事業を1日で停止したと発表しました。
 5日は、北朝鮮の金桂冠(Kim Gye Gwan)外務次官が、ヒル米国務次官補との2国間会談に臨むべく米国を訪問した日でした。
 UNDPの2007??09年分の新規事業は既に凍結されており、今回の決定で05??06年分の積み残し事業約439万米ドルの執行が中断され、これで凍結された総額は1790万米ドルになりました。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007030601000063.html
(3月6日アクセス)、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/05/AR2007030501574_pf.html
(3月7日アクセス)による。)
 つまり米国は、金融「制裁」解除で北朝鮮に戻されるであろう金額に見合う金額を、別途あらかじめ凍結するのに成功したことになります。

4 終わりに

 さあ、米国と北朝鮮の一体どちらが追いつめられているのでしょう?
 お答えするまでもありませんね。

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