太田述正コラム#1738(2007.4.18)
<バージニア工科大学乱射事件(その2)>

3 米国の特異性

 今回の事件は、乱射に用いられた2丁の拳銃(9mm Glock pistolとWalther P22 semi-automatic)をチョが持っていなければ起こらなかったはずです。
 あの悪名高い全米ライフル協会(NRA)本部が置かれていることからも分かるように、バージニア州は全米で2番目に銃の入手が容易な州であり、チョは、州法に従い、運転免許証・永住権証(グリーンカード)・小切手帳、という三つの身分証明書を提示してクレジット・カードを使ってわずか571ドルで前者の拳銃(と弾丸一箱)を先月購入しており、これまた州法に従い、30日間の禁止期間が明けてすぐ、先週、後者の拳銃を別の店で購入しています。
 (以上、タイムス誌前掲、及び
http://www.guardian.co.uk/usguns/Story/0,,2059716,00.html による。) 

 そうである以上、銃規制を強化すべきだ、とする議論が出てきてしかるべきところ、米国は、憲法修正第2条で銃の保有が権利として認められていて、推定8,000万人の人が銃を保有している国であり、(
http://www.ft.com/cms/s/3d770d7a-ed08-11db-9520-000b5df10621.html
)、事件後まず出てきたのは、大多数の州においてと同様、バージニア州でも大学構内への銃持ち込みが禁止されているところ、この禁止を解除すべきだとする正反対の議論です(
http://blogs.guardian.co.uk/news/archives/2007/04/17/gun_control_the_us_view.html)。
 しかし、そんなことをしたら、銃の暴発事故が起きたり、単なる殴り合いの喧嘩が銃の撃ち合いになってしまう、等むしろ事態を悪化させてしまうというのが、全米の大学当局や治安当局の大方の見解であり、この見解は、最近米国科学アカデミーによっても後押しされたところです。
 今回、バージニア州の治安当局自身、大学構内への銃持ち込み禁止解除の声が出てきたことへの懸念を表明しています。
 (以上、http://www.csmonitor.com/2007/0418/p02s02-ussc.htm による。)

 しかも、最近では、米国で世論調査をすると過半数以上の人が銃規制強化に賛成しています。例えば昨2006年の世論調査では、56%が銃規制強化に賛成でした。(FT上掲、及び
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2059627,00.html

 ところが、もともと銃規制強化反対論が強い共和党(注3)だけでなく、かつては銃規制強化賛成論が強かった民主党まで、規制強化を唱えてNRAを敵に回したゴア候補とケリー候補が2000年と2004年の大統領選挙に相次いで敗れたことに加えて、このところの連邦裁判所の保守化もあって(注4)、最近は腰が引けており、英ガーディアンに至っては、このような米国の姿に愛想を尽かし、こうなったら、米国民は武装蜂起して銃規制強化に乗り出さぬ政府を転覆せよ、という過激な論説を掲げているほどです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2059749,00.htmlによる。)

 (注3)1981年にはレーガン米大統領の暗殺未遂事件が発生し、1992年にはルイジアナ州で日本人留学生、服部剛丈君(当時16歳)が民間人に射殺され、銃規制を求める声が高まる中、1993年11月、銃規制法「ブレイディ(Brady)法」(5年間の時限法)が成立した。同暗殺未遂事件で重傷を負ったブレイディ元大統領報道官の名にちなんだ法で、短銃などの販売に5日間の猶予期間を設け、販売店に購入希望者の犯歴などを警察に照会するよう義務付けた。更に服部君の遺族ら多くの日本人犠牲者の後押しもあり1994年9月、AK47など殺傷力の高い19種類のセミオートマチック(半自動式)銃の販売・所持の禁止や銃犯罪への罰則強化などを網羅した米連邦法「包括的犯罪防止法」(10年間の時限法)も定められた。しかしブレイディ法は5年の期限を迎えた1998年11月、米共和党の反対で延長されなかった。「包括的犯罪防止法」も2004年、連邦上下両院で多数派を占めた共和党が反対し、更新は見送られた。この間、1999年4月にはコロラド州コロンバイン高校乱射事件が発生し、銃規制強化を求める声が高まり、購入の年齢制限を18歳から21歳に引き上げるなどの規制法案が上程されたが、下院で否決されている。(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070417k0000e030069000c.html

 (注4)何十年にもわたって、連邦裁判所は、同じ米国憲法修正第2条にいうところの、各州は「よく統制のとれた民兵」を必要とするとの規定を援用しつつ、銃保有に対する規制は可能であるとしてきた(集団的権利説)。しかし、ブッシュ政権の初代司法長官のアシュクロフト(John Ashcrof)は、銃保有は個人の権利であるとするNRAの主張(個別的権利説)を擁護し、この見解が本年3月、連邦控訴審で初めて採用され、ワシントン地区における30年来の拳銃の自宅での保有禁止条例を憲法違反であるとした。(FT上掲。太田述正コラム#34)

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