太田述正ブログは移転しました 。
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消印所沢通信13:自衛隊は空っぽの洞窟?(その5)
<消印所沢>
本稿で,『防衛庁再生宣言』の文章そのものへの
反論は最後となります.
これ以後は,反論に対する太田氏のコメントに,mixiの
ほうでコメントが来ておりますので,それを転載する形での
議論となろうかと存じます.
さて,自衛隊の航空装備について,『防衛庁再生宣言』では
以下のように述べられています.
--------------------------------------------------
最後に航空装備である.
日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない.(16)
しかも,日本の戦闘機パイロットは,燃料費を節約する
ため(!),英国の3分の2の時間しか訓練していない.
まことにお粗末な限りである.
他方,英国の軍人が決まって嗤(わら)うのが,日本の
保有する固定翼対潜機の80機(かつては100機だった!)
という数の多さだ.
なんと英国の4倍近い.
この数は,米海軍の固定翼対潜機(空母搭載の
小型固定翼対潜機を除く)244機の3分の1にもなり,
堂々世界第2位である.(17)
固定翼対潜機は陸上の飛行場から運用するが,
いかに日本が排他的経済水域を設定できる沿岸
200海里水域が広い海洋大国だとは言っても,明らかに
固定翼対潜機の持ち過ぎである.
攻撃ヘリコプターや対潜ヘリコプターの少なさについては
すでに触れた.
要するに,現代の軍事力の中心が航空兵力である
ことに思いをいたせば,日本の航空兵力は,(突出している
固定翼対潜機は別として)あまりにも弱体であると
言わざるをえまい.
以上は,あくまでも数だけの議論である.
輸出もできず,国内でも競争に晒されていない日本の
装備品は,価格が高いだけでなく,米国等の装備を
ライセンス生産しているものはともかくとして,日本で
独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符がついて
いること――すなわち,仮に輸出が解禁され,それとも
あいまった価格を下げることができたとしても,他国に買って
もらえるものはほとんどないこと――も忘れてはなるまい.
太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38-42
-----------------------------------------------------
これに対する異論としては,以下のようなものがあります.
----------------------------------------------------
>日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない
とりあえず,作戦機を比べてみる.
英国航空兵力(海軍航空隊を含む) トーネードF3 113機 ハリアーGR7/9 72機
トーネードGR4 145機 ジャギュア 60機 計 390機 (簡略化のため,2003年よ
り引渡しが始まったタイフーンは無視します) (まだ,大した数は揃ってないだ
ろうし)
航空自衛隊 F-15J/DJ 203機 F-2A/B 94機 F-4EJ改 90機 計 387機
ここで,トーネードGR4とジャギュア,ハリアーGR7/9は
攻撃機であり,制空戦闘機と言えるのは,トーネードF3 113機と,
まだほとんど数が揃っていないタイフーンのみである.
しかし,空自の機体387機は,すべて戦闘機として
使用できる. F-4EJ改は古いので除く――といっても電子機材などは
F-16級にアップグレードされているので侮れないのだが――
としても,約300機の戦闘機(F-2支援戦闘機を含む)がある.
攻撃面に関しては英国は充実しており,トーネードGR4 145機を
中核とし,ハリアーGR7/9 72機,ジャギュア 60機が
これを補完する. 計277機である. 自衛隊は,F-2A/B 94機,F-4EJ改 90
機,が攻撃機として用いられる. 計180機であり,やや少ない.したがって,
対地攻撃能力は
英国に比べ劣っている. しかしながら,F-2A/BはASM4発の搭載が可能であり,
F-4EJ改にも複数のASMが搭載できため,対艦攻撃能力は
英国に比べ圧倒的に高い.
そして,空自の存在意義の一つは,敵の着上陸を阻止する
ことであり,対艦攻撃である.
以上より,航空戦力に関しても,優劣つけがたく,それぞれ,
国の環境に合致した戦力を整備している. 全体的に,ドクトリンの違いにより,
編成や装備に違いが見られるが,自衛隊は英軍と比べ,大幅に勝っているわけでは
ないが,劣っているとは言えない.
by 極東の名無し三等兵
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊"NATO
Air Power"のUKの部分から引用します.
戦闘機は
トーネードGR1/4が173機,
F.3が112機,
ジャガーが74機,
ハリアーGR.7/T.1が85機の計444機.
これの1/2.5ということは177機しか空自は戦闘機を
持っていないと主張していることになります.
英海軍のシーハリアーFA2,35機を入れてもF-4EJや
F-1,F-2を計算に入れず,F-15しか勘定に入れていない
ことになります.
by BMP
というか,これは寧ろロイヤルネイビーのASW戦力が
回転翼機に偏重してるのでは?と思い始めた.
そんでもってプラットフォームも大型のキャリアに偏重している,と.
CVSを守るため,あるいは広大なチョークポイント
一個(GIUKギャップ)を押さえるためのASW戦力なら,
これで正解だろうけど,こんじゃ海自の要求とは合致する
わけ無かろう,と.
卵の入ったバスケットを二つに引き裂いて使うことは
出来ない訳で,今後CVF二隻態勢に移行するロイヤルネイビーの
ASW戦力構成がどうなるかはある意味,見もの.
ジリジリと予算を削られて定数をジワジワと削る羽目に
なってる海自のASW戦力もまた見もの.
つーか,「しらね」と「はたかぜ」の代艦どーすんだ?,マジで,
あと地方隊に"保存"してる「はつゆき」も.
by メッサー=ハルゼー
だって,固定翼ASW機は空軍の所属ですから.
by 井上@Kojii.net
--------------------------------------
つまり,反論側の主張を,引用部分に対応した形で
まとめると,
(1) 空自の戦闘機の数が英国の2.5分の1しかない,
というのは,どう数えてもおかしい.
空自についてはF-15Jしか計算に入れていないのでは
ないか?
(2) むしろ,ロイヤルネイビーのASW戦力が回転翼機偏重で
あり,単に両国の要求するものの違いの結果そうなっている
だけではないか?
どちらがどちらを持ち過ぎといった問題ではないのでは?
ということになるでしょう.
他方,
・パイロットの訓練時間
・日本で独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符
についての反論は,今のところ見られません.
私見では,ハードウェアだけでなく,ソフトウェアへの考察も
期待したいところですが,こればかりは自衛隊外部の人間には
難しいのかもしれません.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<太田>
最初に事務的なお話をさせていただきます。
未公開のコラムについても、大部分、その内容の概要を掲示板(下掲)に掲載
しておりますので、ぜひご参照ください。
さて、戦闘機の数の比較については、拙著37頁で、英国757機、日本300機、と
明記しているのに、批判者が、この数字に即した批判を行っていない以上、議論
になりません。
ASW戦力については、前々回での私の回答で尽きています。
それにしても、次のような言葉が依然として大手を振ってまかり通っている日
本で、以上のような議論をしてみてもむなしい限りであると思いませんか。
現在の日本を代表する哲学者の一人ということになっている梅原 猛いわく、
「昭和19年の秋・・私は・・特攻隊になることが判っている特別操縦見習士官を
養成する学校に志願した・・反戦思想の持ち主であった私<は>・・日本および
私自身に希望を失って<おり、>・・どうせ死なねばならぬなら潔く死のうと考
え<たからだ。>・・最後に口頭試問があった。おそらく佐官級の軍人であった
と思うが、「日本の戦闘機の名前を言え」という質問であった。私は「加藤隼戦
闘隊」という言葉を聞いたことがあると思ったので、「隼」と答えた。試験官は
「もっと他の飛行機を知らないか」と問うた。・・「知りません」と答えると、
・・試験官たちはあきれたように顔を見合わせて、「本当に知らないとはあきれ
た奴だ。おまえは非国民だ」と一喝された。・・私は、戦争にまったく関心がな
かったのである。むしろ本音を言えば、戦争が嫌で嫌で、そのような戦争の情報
を強いて自分の心から追い払っていたのであろう。もちろん私は試験に落第した
・・参加した青年<の>・・動機はどうあれ、特攻隊の心情は限りなく悲しく、
限りなく美しい。しかし、・・日本の軍部は、日本国民に降りかかっている死の
運命より自分たちの権力の崩壊を恐れ、世にも無謀な特攻隊による神風作戦を考
え出したのである。そしてその主役は学徒兵と予科練、いずれも職業軍人からみ
ればとるに足らぬ人間なのである。特に学徒兵に対しては、心から戦争に協力し
ているとは思われない知識人へのひそかな懲罰の精神が込められていたような気
がする。私はこれを考え出したという大西滝治郎中将や、これを国策として採用
した東条英機大将は罪万死に値すると思っている。」(梅原猛『天皇家の"ふるさ
と"日向をゆく』新潮文庫2005年(原著は2000年)261〜263頁)
現在の日本を代表する国際「俳優<ということになっているところ>の渡辺謙
(47)が<2006年11月>23日、慶応義塾大学三田祭(東京・三田)で、映画「硫
黄島からの手紙」(12月9日公開、クリント・イーストウッド監督)の特別講演
を行った 映画の撮影にあたり多くの資料や文献を読んだことを明かし「戦争が
始まったら個人の力で止めることは不可能。絶対に戦争は起こしちゃいけない」
と強調。続けて「戦争は悲惨だけどヒーローはいた、という映画にはしたくなか
った。戦争にヒーローはいない」と力を込めた。・・歴史教育についても言及し
「日本では“なぜ”を教えない。“なぜ戦争に行き着いたのか”を映画を通して
考えてもらえれば」と呼び掛けた。」(
http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/cinema/news/20061124spn00m200008000c.html'
。2006年11月24日アクセス)
現在の日本を代表する評論家の一人ということになっている立花 隆いわく、
「いま大切なのは、誰が9条を発案したかを解明することではなく(究極の解明
は不可能だし、ほとんど無意味)、9条が日本という国家の存在に対して持って
きたリアルな価値を冷静に評価することである。そして、9条をもちつづけたほ
うが日本という国家の未来にとって有利なのか、それともそれをいま捨ててしま
うほうが有利なのかを冷静に判断することである。私は9条あったればこそ、日
本というひ弱な国がこのような苛酷な国際環境の中で、かくも繁栄しつつ生き延
びることができた根本条件だったと思っている。9条がなければ、日本はとっく
にアメリカの属国になっていたろう。あるいは、かつてのソ連ないし、かつての
中国ないし、北朝鮮といった日本を敵視してきた国家の侵略を受けていただろう
。9条を捨てることは、国家の繁栄を捨てることである。国家の誇りを捨てるこ
とである。9条を堅持するかぎり、日本は国際社会の中で、独自のリスペクトを
集め、独自の歩みをつづけることができる。9条を捨てて「普通の国」になろう
などという主張をする人は、ただのオロカモノである。」(
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070414_kaiken/
。2007年4月17日アクセス)
第一の引用中の「私は・・戦争が嫌で嫌で、そのような戦争の情報を強いて自
分の心から追い払っていた・・<だから、>戦闘機の名前<は>隼<しか>知<
らなかった。>・・世にも無謀な特攻隊による神風作戦」といった箇所、第二の
引用中の「戦争は悲惨だけどヒーローはいた、という映画にはしたくなかった。
戦争にヒーローはいない」という箇所、そして第三の引用のすべての箇所、は、
私から見れば、いずれも非論理的かつ無知のきわみであり、呆れるのを通り過ぎ
て、同じ日本人として恥ずかしい気持ちで一杯になります。
<消印所沢>
本稿で,『防衛庁再生宣言』の文章そのものへの
反論は最後となります.
これ以後は,反論に対する太田氏のコメントに,mixiの
ほうでコメントが来ておりますので,それを転載する形での
議論となろうかと存じます.
さて,自衛隊の航空装備について,『防衛庁再生宣言』では
以下のように述べられています.
--------------------------------------------------
最後に航空装備である.
日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない.(16)
しかも,日本の戦闘機パイロットは,燃料費を節約する
ため(!),英国の3分の2の時間しか訓練していない.
まことにお粗末な限りである.
他方,英国の軍人が決まって嗤(わら)うのが,日本の
保有する固定翼対潜機の80機(かつては100機だった!)
という数の多さだ.
なんと英国の4倍近い.
この数は,米海軍の固定翼対潜機(空母搭載の
小型固定翼対潜機を除く)244機の3分の1にもなり,
堂々世界第2位である.(17)
固定翼対潜機は陸上の飛行場から運用するが,
いかに日本が排他的経済水域を設定できる沿岸
200海里水域が広い海洋大国だとは言っても,明らかに
固定翼対潜機の持ち過ぎである.
攻撃ヘリコプターや対潜ヘリコプターの少なさについては
すでに触れた.
要するに,現代の軍事力の中心が航空兵力である
ことに思いをいたせば,日本の航空兵力は,(突出している
固定翼対潜機は別として)あまりにも弱体であると
言わざるをえまい.
以上は,あくまでも数だけの議論である.
輸出もできず,国内でも競争に晒されていない日本の
装備品は,価格が高いだけでなく,米国等の装備を
ライセンス生産しているものはともかくとして,日本で
独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符がついて
いること――すなわち,仮に輸出が解禁され,それとも
あいまった価格を下げることができたとしても,他国に買って
もらえるものはほとんどないこと――も忘れてはなるまい.
太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38-42
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これに対する異論としては,以下のようなものがあります.
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>日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない
とりあえず,作戦機を比べてみる.
英国航空兵力(海軍航空隊を含む) トーネードF3 113機 ハリアーGR7/9 72機
トーネードGR4 145機 ジャギュア 60機 計 390機 (簡略化のため,2003年よ
り引渡しが始まったタイフーンは無視します) (まだ,大した数は揃ってないだ
ろうし)
航空自衛隊 F-15J/DJ 203機 F-2A/B 94機 F-4EJ改 90機 計 387機
ここで,トーネードGR4とジャギュア,ハリアーGR7/9は
攻撃機であり,制空戦闘機と言えるのは,トーネードF3 113機と,
まだほとんど数が揃っていないタイフーンのみである.
しかし,空自の機体387機は,すべて戦闘機として
使用できる. F-4EJ改は古いので除く――といっても電子機材などは
F-16級にアップグレードされているので侮れないのだが――
としても,約300機の戦闘機(F-2支援戦闘機を含む)がある.
攻撃面に関しては英国は充実しており,トーネードGR4 145機を
中核とし,ハリアーGR7/9 72機,ジャギュア 60機が
これを補完する. 計277機である. 自衛隊は,F-2A/B 94機,F-4EJ改 90
機,が攻撃機として用いられる. 計180機であり,やや少ない.したがって,
対地攻撃能力は
英国に比べ劣っている. しかしながら,F-2A/BはASM4発の搭載が可能であり,
F-4EJ改にも複数のASMが搭載できため,対艦攻撃能力は
英国に比べ圧倒的に高い.
そして,空自の存在意義の一つは,敵の着上陸を阻止する
ことであり,対艦攻撃である.
以上より,航空戦力に関しても,優劣つけがたく,それぞれ,
国の環境に合致した戦力を整備している. 全体的に,ドクトリンの違いにより,
編成や装備に違いが見られるが,自衛隊は英軍と比べ,大幅に勝っているわけでは
ないが,劣っているとは言えない.
by 極東の名無し三等兵
1999年発行の英雑誌Air Force Monthly別冊"NATO
Air Power"のUKの部分から引用します.
戦闘機は
トーネードGR1/4が173機,
F.3が112機,
ジャガーが74機,
ハリアーGR.7/T.1が85機の計444機.
これの1/2.5ということは177機しか空自は戦闘機を
持っていないと主張していることになります.
英海軍のシーハリアーFA2,35機を入れてもF-4EJや
F-1,F-2を計算に入れず,F-15しか勘定に入れていない
ことになります.
by BMP
というか,これは寧ろロイヤルネイビーのASW戦力が
回転翼機に偏重してるのでは?と思い始めた.
そんでもってプラットフォームも大型のキャリアに偏重している,と.
CVSを守るため,あるいは広大なチョークポイント
一個(GIUKギャップ)を押さえるためのASW戦力なら,
これで正解だろうけど,こんじゃ海自の要求とは合致する
わけ無かろう,と.
卵の入ったバスケットを二つに引き裂いて使うことは
出来ない訳で,今後CVF二隻態勢に移行するロイヤルネイビーの
ASW戦力構成がどうなるかはある意味,見もの.
ジリジリと予算を削られて定数をジワジワと削る羽目に
なってる海自のASW戦力もまた見もの.
つーか,「しらね」と「はたかぜ」の代艦どーすんだ?,マジで,
あと地方隊に"保存"してる「はつゆき」も.
by メッサー=ハルゼー
だって,固定翼ASW機は空軍の所属ですから.
by 井上@Kojii.net
--------------------------------------
つまり,反論側の主張を,引用部分に対応した形で
まとめると,
(1) 空自の戦闘機の数が英国の2.5分の1しかない,
というのは,どう数えてもおかしい.
空自についてはF-15Jしか計算に入れていないのでは
ないか?
(2) むしろ,ロイヤルネイビーのASW戦力が回転翼機偏重で
あり,単に両国の要求するものの違いの結果そうなっている
だけではないか?
どちらがどちらを持ち過ぎといった問題ではないのでは?
ということになるでしょう.
他方,
・パイロットの訓練時間
・日本で独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符
についての反論は,今のところ見られません.
私見では,ハードウェアだけでなく,ソフトウェアへの考察も
期待したいところですが,こればかりは自衛隊外部の人間には
難しいのかもしれません.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<太田>
最初に事務的なお話をさせていただきます。
未公開のコラムについても、大部分、その内容の概要を掲示板(下掲)に掲載
しておりますので、ぜひご参照ください。
さて、戦闘機の数の比較については、拙著37頁で、英国757機、日本300機、と
明記しているのに、批判者が、この数字に即した批判を行っていない以上、議論
になりません。
ASW戦力については、前々回での私の回答で尽きています。
それにしても、次のような言葉が依然として大手を振ってまかり通っている日
本で、以上のような議論をしてみてもむなしい限りであると思いませんか。
現在の日本を代表する哲学者の一人ということになっている梅原 猛いわく、
「昭和19年の秋・・私は・・特攻隊になることが判っている特別操縦見習士官を
養成する学校に志願した・・反戦思想の持ち主であった私<は>・・日本および
私自身に希望を失って<おり、>・・どうせ死なねばならぬなら潔く死のうと考
え<たからだ。>・・最後に口頭試問があった。おそらく佐官級の軍人であった
と思うが、「日本の戦闘機の名前を言え」という質問であった。私は「加藤隼戦
闘隊」という言葉を聞いたことがあると思ったので、「隼」と答えた。試験官は
「もっと他の飛行機を知らないか」と問うた。・・「知りません」と答えると、
・・試験官たちはあきれたように顔を見合わせて、「本当に知らないとはあきれ
た奴だ。おまえは非国民だ」と一喝された。・・私は、戦争にまったく関心がな
かったのである。むしろ本音を言えば、戦争が嫌で嫌で、そのような戦争の情報
を強いて自分の心から追い払っていたのであろう。もちろん私は試験に落第した
・・参加した青年<の>・・動機はどうあれ、特攻隊の心情は限りなく悲しく、
限りなく美しい。しかし、・・日本の軍部は、日本国民に降りかかっている死の
運命より自分たちの権力の崩壊を恐れ、世にも無謀な特攻隊による神風作戦を考
え出したのである。そしてその主役は学徒兵と予科練、いずれも職業軍人からみ
ればとるに足らぬ人間なのである。特に学徒兵に対しては、心から戦争に協力し
ているとは思われない知識人へのひそかな懲罰の精神が込められていたような気
がする。私はこれを考え出したという大西滝治郎中将や、これを国策として採用
した東条英機大将は罪万死に値すると思っている。」(梅原猛『天皇家の"ふるさ
と"日向をゆく』新潮文庫2005年(原著は2000年)261〜263頁)
現在の日本を代表する国際「俳優<ということになっているところ>の渡辺謙
(47)が<2006年11月>23日、慶応義塾大学三田祭(東京・三田)で、映画「硫
黄島からの手紙」(12月9日公開、クリント・イーストウッド監督)の特別講演
を行った 映画の撮影にあたり多くの資料や文献を読んだことを明かし「戦争が
始まったら個人の力で止めることは不可能。絶対に戦争は起こしちゃいけない」
と強調。続けて「戦争は悲惨だけどヒーローはいた、という映画にはしたくなか
った。戦争にヒーローはいない」と力を込めた。・・歴史教育についても言及し
「日本では“なぜ”を教えない。“なぜ戦争に行き着いたのか”を映画を通して
考えてもらえれば」と呼び掛けた。」(
http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/cinema/news/20061124spn00m200008000c.html'
。2006年11月24日アクセス)
現在の日本を代表する評論家の一人ということになっている立花 隆いわく、
「いま大切なのは、誰が9条を発案したかを解明することではなく(究極の解明
は不可能だし、ほとんど無意味)、9条が日本という国家の存在に対して持って
きたリアルな価値を冷静に評価することである。そして、9条をもちつづけたほ
うが日本という国家の未来にとって有利なのか、それともそれをいま捨ててしま
うほうが有利なのかを冷静に判断することである。私は9条あったればこそ、日
本というひ弱な国がこのような苛酷な国際環境の中で、かくも繁栄しつつ生き延
びることができた根本条件だったと思っている。9条がなければ、日本はとっく
にアメリカの属国になっていたろう。あるいは、かつてのソ連ないし、かつての
中国ないし、北朝鮮といった日本を敵視してきた国家の侵略を受けていただろう
。9条を捨てることは、国家の繁栄を捨てることである。国家の誇りを捨てるこ
とである。9条を堅持するかぎり、日本は国際社会の中で、独自のリスペクトを
集め、独自の歩みをつづけることができる。9条を捨てて「普通の国」になろう
などという主張をする人は、ただのオロカモノである。」(
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070414_kaiken/
。2007年4月17日アクセス)
第一の引用中の「私は・・戦争が嫌で嫌で、そのような戦争の情報を強いて自
分の心から追い払っていた・・<だから、>戦闘機の名前<は>隼<しか>知<
らなかった。>・・世にも無謀な特攻隊による神風作戦」といった箇所、第二の
引用中の「戦争は悲惨だけどヒーローはいた、という映画にはしたくなかった。
戦争にヒーローはいない」という箇所、そして第三の引用のすべての箇所、は、
私から見れば、いずれも非論理的かつ無知のきわみであり、呆れるのを通り過ぎ
て、同じ日本人として恥ずかしい気持ちで一杯になります。
太田述正ブログは移転しました 。
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