太田述正コラム#1697(2007.3.20)
<慰安婦問題の「理論的」考察(その1)>(2007.4.20公開)



1 始めに



 また、慰安婦問題かという声が聞こえてきそうですが、ご容赦を。
 渡部昇一氏がデービッド・ヒューム礼讃をしていることに違和感を持ち、調べている過程で、Garth Kemerlingという米国人らしき人物が開いている哲学サイト(
http://www.philosophypages.com/ph/index.htm
。3月17日アクセス)に出っくわしたところ、そのサイトに、彼が選んだ欧米(West)の哲学者が39名挙げられている中、18人が英国か米国の人物である(注1)ことはご愛敬ながら、その中に2人だけ女性がおり、ウォルストーンクラフト(Mary Wollstonecraft)(コラム#71)と並んでマッキノン(Catharine MacKinnon。1946年??)が出てきたことには驚きました。 



 (注1)この18人には、主たる業績をあげたのが英国ないし米国に移住してからである人物3人を含む。32歳頃から米国住まいのオーストリア出身の論理実証主義者のバーグマン(Gustav Bergmann。1906??87年)はこの中に入れ、31歳頃からイギリス住まいであったけれど、主著の資本論を英国で書いたマルクス(Karl Marx。1818??83年)は除いた。



 ウォルストーンクラフトは世界最初のフェミニストであるし、マッキノンは、フェミニストたる法学者であり政治学者ではあるけれど、どちらも哲学者と果たして言えるのか、と思ったからです。
 なるほど、こんなにマッキノンのファンが多いのであれば、慰安婦問題で米国の人々の多くが日本に対して批判的であるのもむべなるかな、という気がしてきました。
 それはどういう意味か、をご説明しましょう。



2 韓国と米国の対日批判の違いと日本の対応



 (1)韓国と米国の対日批判の違い



 慰安婦問題に関する韓国と米国の反応には違いがあるように思われませんか。
 韓国の方は、少なくとも官憲の関与があったかどうかにこだわる日本政府と同じ土俵の上で対日批判を行っている(注2)のに対し、米国の対日批判の方は、強制性さえ認められれば、官憲の関与の有無は余り問題にしないものだけでなく、強制性の有無さえ問題にしないかのようなものさえ見受けられる(注3)からです。



 (注2)朝鮮日報は、支那で従軍した元日本人兵士に取材し、「わたしは同僚たちと駐屯地近くの村を回り、女性たちを拉致した」という証言を引き出したり(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/12/20070312000009.html。3月12日アクセス)、あの使い古された、当時インドネシア居住のオランダ人女性の証言(米下院でも証言を行った)を転載したり(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/19/20070319000023.html
。3月19日アクセス)して、官憲の関与を裏付けるべく大わらわだ。
 (注3)シーファー駐日米大使が16日、太平洋戦争中の従軍慰安婦について「強制的に売春をさせられたのだと思う。つまり、旧日本軍に強姦されたということだ」、2月に米下院外交委員会の公聴会で証言した元慰安婦を「信じる」、慰安婦が強制的に売春させられたのは「自明の理だ」と語り、かつ、河野談話を日本政府が見直すことのないよう期待を表明し、、従軍慰安婦問題で4月下旬に予定されている首相訪米が「台無しにならないよう望んでいる」と述べた(
http://www.nytimes.com/2007/03/17/world/asia/17japan.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070318k0000m030032000c.html
。3月17日アクセス)のは記憶に新しい。この発言は、保護国日本に君臨する宗主国「総督」の傲慢さの表れであると言うより、米国の識者の最大公約数的見解の表明と受け止めるべきだろう。



 (2)日本の対応



 日本政府は16日、河野談話発表までに「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による、いわゆる強制連行を直接示すような記述は見あたらなかった」とする答弁書を閣議決定し、そのスタンスを改めて明確に表明しました(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070316it14.htm
。3月17日アクセス)。
 この日本政府のスタンスを当然視した上で、在ワシントンの古森義久・産経新聞記者のように、元慰安婦の証言の信憑性に疑問を投げかけたり、米下院で慰安婦問題問責決議案の提出者であるホンダ議員の選挙区事情を暴いたりする(
http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/070310/usa070310004.htm
(3月10日アクセス)、
http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/070315/usa070315001.htm
(3月15日アクセス)、及び
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/44/
(3月19日アクセス))日本人識者は少なくありません。
 しかし、官憲の関与の有無など米国の識者は余り関心がないとしたら、関与はなかったといくら主張したところでせんないことですし、選挙区事情を云々するのは、民主主義で選挙民の意向を反映するのがなぜ悪いと開き直られるのがオチです。
 ですから、どうして強制性の有無や官憲の関与の有無が重要なのかをわれわれはきちんと米側に説明しなければならないのですが、その前に、どうして強制性の有無や官憲の関与の有無について米国の識者は余り関心がないのかを理解する必要があります。
 これを理解するためのヒントがマッキノンの主張なのです。

(続く)

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