中東の分断最前線のレバノン(続)(2006.12.6→2007.5.7公開)

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<コラム1548の補足>
 ブレア首相はまた、米国の核抑止力に依存するだけでは万全ではないとし、
「英国が脅迫されても米国が脅迫されていない状況における追加的保険として
の意味も、英国の独立した抑止力は持っている。・・このような状況が生起す
るようなことはほとんど考えられないが、絶対無いとは言い切れない。」と語
りました(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-
trident5dec05,1,7084084,print.story?coll=la-headlines-world
。12月6日アクセス)。
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 来年も継続講読される1人の有料読者の声を紹介します。

 太田様、来年もお願い致します。該博な知識、広範なカバー、精力的な情報
収集に感銘しています。精読して、細かくチェックする時間がとれないのが残
念です。引用文献の表示や、過去の掲載場所にいちいちチェックが入れられな
いという意味ですが、長い間読んでいると、自ずと理解はできるような気が致
します。主張と平行して、別の見解の紹介と評価があると好いと思います。

 まだ、新規の有料講読の申し込みは2件しかありません。
 コラム#1540の後半を参照し、どしどし
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(本篇は、コラム#1545の続きです。)

1 ヒズボラ支持者の考え

 中東全域を覆うスンニ派とシーア派の対立の最前線であるレバノンの、シー
ア派の中核であるヒズボラ支持者は一体どんな考え持っているのでしょうか。

 最近行われた世論調査の結果は次のとおりです。

 ヒズボラ支持者は、ヒズボラは勝利を収めつつあると考えており、レバノン
人全体もそう考えています。
 また、ヒズボラ支持者は、米国が嫌いです。実はシーア派だけでなく、スン
ニ派も米国には信頼感を持っておらず、米国は中東で民主主義を本当に追求し
ているとは考えていません。
 興味深いことには、シーア派だけが(スンニ派・ドルーズ・キリスト教徒と
は違って)、米国がさっさと撤退さえすれば、イラクではシーア派が主導権を
とってスンニ派と手を握ることができると信じていることであり、シーア派だ
けが、イスラエルがヨルダン川西岸及びガザを完全にパレスティナ人に返還し
たとしても、アラブ人はイスラエルとの戦いを続けなければならないと考えて
いることであり、また、シーア派だけが、イスラエルは見かけより弱く、敗北
寸前であると見ており、更に、シーア派だけが、ヒズボラは今年夏のイスラエ
ルとの戦争以来立場が強化されたと考えており、はたまた、この戦争の最大の
敗北を蒙ったのは、(他派はレバノン国民だと考えているのに、)シーア派だ
けが、イスラエルだと考えているのです。
 (以上、
http://www.slate.com/id/2154859/
(12月5日アクセス)による。)

2 ヒズボラが攻勢に出た理由

 ヒズボラ支持者がこのような現実から遊離した考えを抱いているのは、ヒズ
ボラによるインドクトリネーションの結果でもあるのでしょうが、このような
ヒズボラ支持者の考えが、イランやシリアの「指導」とあいまって、ヒズボラ
を、このたびのレバノン政府打倒闘争に向かわせた、と見てよいのではないで
しょうか(典拠失念)。
 つまり、イスラエルとの戦争に勝利したというウソが暴かれることを懼れる
がゆえに、ヒズボラはレバノン国内で攻勢に打って出た、と私は考えているの
です。
 内政での失敗に対する追及を避けるため対外戦争で打って出る、ということ
は、一国の政府がよくやる手ですが、その逆をヒズボラはやった、ということ
です。
 いくらシーア派の人口が急速に増えつつあるとは言っても、推定で、レバノ
ン総人口の30%しか占めておらず、スンニ派と拮抗する程度でしかないシーア
派(注1)の代表格たるヒズボラが、このたびの戦いに勝算ありと見て戦いの火
蓋を切ったのは、現レバノン政権こそ親米であるけれど、上述したように、レ
バノンのスンニ派も嫌米感情を抱いていることから、スンニ派の相当部分を味
方にできると見ているからではないでしょうか。

 (注1)レバノンでは、政治的配慮から、1932年を最後として、国勢調査は行
われていない。なお、シーア派の人々は、レバノン各派の人々の中で最も貧し
い。(
http://www.time.com/time/world/printout/0,8816,1566289,00.html
。12月6日アクセス)

2 シーア派とスンニ派等の対峙

 エジプト・ヨルダン・サウディアラビア等の中東の主要スンニ派諸国やイス
ラエル、そして欧米諸国は、ヒズボラがレバノン政権打倒に成功するようなこ
とがあれば、その先に待っているのは、キリスト教徒のレバノン大量脱出によ
るレバノンのイスラム国家化、そしてレバノンのイラン的なシーア派宗政国家
への緩慢な変貌であり、中東の戦略バランスはシーア派(注2)に決定的に傾き
、その結果、ヒズボラが再びイスラエルに武力抗争を挑んだり、パレスティナ
のハマスがイスラエルとの停戦を破棄したり、イラクのシーア派がスンニ派を
力で抑えつける方向に動いたり、イランが安んじて核保有へ向けて突っ走った
りする懼れがある、という強い懸念を抱いています。

 (注2)シリアは、シーア派の一派とされているアラウィ派が人口の74%を占
めるシーア派を支配している国(
https://www.odci.gov/cia/publications/factbook/geos/sy.html
。12月6日アクセス)。
 ただし、アラウィ派の実態は、キリスト教の影響が大きいシンクレティズム
(折衷
主義)の宗教(
http://en.wikipedia.org/wiki/Alawite
。12月6日アクセス)。

 中東の主要スンニ派諸国中、最も強い危機意識を抱いているのは、イランと
ペルシャ湾を挟んで向かい合っている、スンニ宗政国家であるサウディアラビ
アです。
 サウディアラビアは、パレスティナのアッバス議長/ファタやレバノン政府
等、スンニ派勢力に対し、武器やカネの支援を行っているほか、いざとなれば
、石油を大増産して産油国のイランの石油収入を減らしたりすることまで考慮
している、と伝えられています。 以上が、レバノンで、シーア派陣営とスン
ニ派等の陣営が、それぞれヒズボラとレバノン政府を支援する形で内戦が勃発
する可能性を否定できないゆえんです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1964092,00.html
(12月5日アクセス)による。)