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太田述正コラム#1766(2007.5.12)
<北朝鮮をいたぶる米国(続々)>
(本篇は、情報屋台用のコラムを兼ねています。)
1 始めに
「北朝鮮をいたぶる米国(続)」を書いてからちょうど一ヶ月経ちましたが、北朝鮮は、私の予想通り、2月の6カ国協議合意の履行をさぼりにさぼって現在に至っています。
この際、最新状況を押さえておきましょう。
2 テロ支援国家指定解除問題
4月27日にワシントン近郊のキャンプデービッドで行われた日米首脳会談で、安倍首相が「拉致問題の解決をテロ支援国家指定(注)解除の前提条件にして欲しい」と要請したのに対し、同席していたライス米国務長官が、指定や解除の根拠となる国内法に照らして判断すると説明したうえで「米国民が直接(拉致の)被害にあったわけではない。前提条件にはならない」と述べました。
(注)米政府は国内法に基づきテロ支援国家を指定。貿易取引や開発援助の禁止、金融制裁の根拠の一つにしており、国務省は1993年から毎年発表している国際テロの年次報告で当該国家を明記してきた。この日米首脳会談の直後に米国務省は2006年版のテロ年次報告書を発表したが、拉致の記述が大幅に減り、米朝がテロ支援国家の指定解除に向けた作業を始めることが新たに記された。
ブッシュ米大統領自身は、一連の安倍首相との会談で、拉致問題に関する日本政府の立場への支持を表明し、拉致問題を指定解除の前提条件にするよう求めた首相に「考慮に入れる」と語ったというのに、 拉致問題が切り離されたまま米朝が接近するのではないかという疑心暗鬼が日本政府関係者の中に広がっているといいます
(以上、
http://www.asahi.com/international/update/0512/TKY200705110339.html
(5月12日アクセス)による。)
しかし、ブッシュ米大統領は4月27日、ワシントンで開かれた「北朝鮮人権大会」に寄せた声明文を発表し、「現在、北朝鮮で暮らしている人々は、“自由の剥奪”という言葉の意味を直接的に知っている。抑圧されているすべての人々に対して“自由”をもたらすため、われわれは引き続き努力していく・・21世紀はすべての朝鮮民族にとっての“自由の世紀”になると信じている。朝鮮半島に暮らしているすべての人々が尊厳と自由と繁栄を享受できる日が来るまで、人間としての当然の権利と自由を勝ち取るために闘っていく北朝鮮の人々を支援していく」と述べており(
http://www.chosunonline.com/article/20070430000003
。4月30日アクセス)ブッシュの首脳会談での発言は額面通り受け取ってよいでしょう。
そもそも、いくら日本が米国の保護国であるとはいえ、日本政府が拉致問題を指定解除の前提条件にするよう米国政府に一貫して求め続けていることをブッシュは無視はできないはずです。
北朝鮮は、2000年に趙明録(チョ・ミョンノク)次帥(大元帥と元帥に次ぐ北朝鮮軍の階級)が訪米した際や、2003年に6カ国協議が行われた際等に、テロ支援国指定を解除するよう米国側に要求してきたところ、その都度日本の米国に対する働きかけにより解除が実現しなかったことや、昨年6月にテロ支援国から解除されたリビアの場合も、2003年12月に大量破壊兵器(WMD)を放棄したものの、サウディアラビアから反対されたため、解除が2年半も引き伸ばしされたこと(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/15/20070315000012.html
。3月15日アクセス)、を思い出すべきでしょう。
3 北朝鮮による6カ国合意履行状況
(1)履行状況
北朝鮮は、BDAの北朝鮮資金凍結が解除されるまでは6カ国合意は履行しないと主張しています。
既にBDAから北朝鮮はいつでも資金を引き出せる状況なのですが、米国政府が米国の銀行にBDAとの取引を禁じた制裁措置が解除されていないことと、北朝鮮が現金で受け取るのではなく、国際送金の形で受け取ることに固執していることが問題をこじらせています。
中国の銀行を経由させる案やロシアとイタリアの銀行を経由させる案や韓国の政府系金融機関を経由させる案が出ては消えていますが、米ドルを国際送金する場合、米国の銀行の口座を経由して処理する必要があるため、解決策にはなっていません。
そこで、一時的に米国が上記制裁を解除するという案も出ていますが、北朝鮮はこの制裁の完全解除をねらっているらしく、まだ首をタテに振っていません。
(以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070508000012
(5月8日アクセス)、及び
http://www.asahi.com/international/update/0508/TKY200705080399.html
(5月9日アクセス)等による。)
それに、BDA問題が解決したとしても、その先には、北朝鮮による核計画の開示、核施設の閉鎖、北朝鮮への経済援助、朝鮮半島における恒久平和の実現、米朝関係正常化、といった懸案が目白押しであり、その都度北朝鮮が難癖をつける可能性が大である(
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200705/200705110026.html
。5月12日アクセス)ことを考えると、気が遠くなりそうですね。
(2)米国主要メディアの論調
こうした中、米国のネオコンはもとより、米国のリベラル派を代表するメディアであるニューヨークタイムスとワシントンポストまでもが、この件で北朝鮮を非難するとともに、北朝鮮に弱腰すぎるとブッシュ政権を批判する論陣を張り始めていることは注目されます。
四面楚歌の状況下、6カ国協議米国代表のヒル国務次官補は、ワシントンでの講演で、今年中に6カ国協議が履行されなかったら自分はクビになるかもしれない、と語ったといいます。
(以上、朝鮮日報上掲による。)
北朝鮮の体制変革を心に期していると私が思っているところのブッシュ大統領は、内心、予定通りの成り行きだとほくそ笑んでいるに違いありません。
(3)日本政府の動向
日本の麻生外相は、4月9日の衆院外務委員会で追加制裁措置を検討中であることを強調したうえで、「(北朝鮮の動きを待てる期間は今後)1週間ぐらいではないか」と述べた。安倍首相は同日夜、記者団に「北朝鮮が約束を実行しないなら、米国など関係国と相談していろいろ考えないといけない。我々の我慢にも限界がある」と語りました(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070510i401.htm?from=main4
。5月10日アクセス)。
4 結論
現時点においては、日米両国の首脳レベルの北朝鮮観に齟齬は全くない、と私は見ているのですが、いかがでしょうか。
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