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太田述正コラム#1773(2007.5.19)
<米国で今何が起こっているか(その2)>

 (本篇は、前篇と併せ、情報屋台に公開します。)

3 米国民による国のリーダー達への批判

 (1)始めに

 戦前の昭和期の日本もそうでしたが、軍内部における下克上の機運は、往々にして国民の国のリーダー達に対する信頼感喪失の反映です。
 今の米国はまさにそうです。
 このことを、三つの世論調査結果を踏まえてご説明しましょう。

 (2)世論調査結果(その1)

 ブッシュ大統領は、2005年1月20日の二期目の就任演説で「世界における専制(tyranny)を終わらせるという究極的目標に向かって、すべての国(nation)と文化の民主的運動及び民主的制度の成長を支援すること」を誓うと述べました。その時は、これは米国民の総意を代弁しているかのように見えました。
 ところが、それから2年経った現在、イラクの有様を見て酔いが醒め、しかし依然としてテロリストの脅威にふるえている米国民は、もはや米国とその重要な国益だけを守るべきだと考えるに至っています。
 今年の1月から2月にかけて行われた世論調査から浮き彫りになってくるのは、米国民がすっかり自信喪失に陥っている、ということです。
 すなわち、彼らは、テロの脅威は2001年以来次第に大きくなってきていると思っており、対イラク戦は米国民をより安全にしたどころか、むしろより危険にした、と思っています。
 上記ブッシュ演説について、今では58%対36%で「米国が他の国(nation)よりも優れていると信じることは危険な幻想だ。われわれはわれわれの価値観に基づいて他の国をつくりかえようとなどすべきではない」と考えています。
 そして、ほとんど3対1で、米国民は、米国の外交政策の主要目標は、自由と民主主義の普及などではなく、米国及びその同盟国の安全を確保することであると考えています。
 更に、70%対27%で、彼らは「封じ込めることができるのであれば、敵性国家の独裁者をそのままにしておく方が、その独裁者を引きずり下ろしてわれわれが制御できなくなる混沌がもたらされる危険を冒すよりも、時にはマシな場合がある」と考えています。
 また米国民は、米国の政策を同盟諸国や国際諸機関と摺り合わせることを重視していますし、58%対38%で「イランやシリアのようなテロ支援国家と交渉することがわれわれの安全保障上の利益を守ることに資するのであれば、米国はこれらの国と交渉することを考慮すべきだ」と考えています。
 要するに、自信を喪失した米国民は、理想を追求するより現実的な方策を追求すべきだと考えているわけです。
 しかし、ただただ現実的であればよいと米国民が思っている、ということでもなさそうです。
 彼らは、自信喪失に陥りつつも、決定的に重要な利益だけは防衛しながら、地に堕ちた米国への敬意を回復したいのであろう、と考えられているのです。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/09/AR2007030901844_pf.html
(5月18日アクセス)による。)

 (3)世論調査結果(その2)

 米国民の自信喪失ぶりを象徴するのが、ブッシュ大統領の支持率の低迷です。
 今年5月初めに実施された世論調査によれば、彼の支持率は28%まで下がっており、これは、カーター大統領が1979年に同じく支持率28%であった時以来の低い数字です。
 「米国民はブッシュを信じていないし、信頼も寄せていないが、残りの19ヶ月の任期中支持率が挽回する可能性はない」と言われる有様です。
 
  (以上、
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2007/05/washingtons_worldwide_woes.html
(5月16日アクセス)、及び
http://www.msnbc.msn.com/id/18505030/site/newsweek/
(5月18日アクセス)による。)

 (4)世論調査結果(その3)

 また、今週実施されたばかりの世論調査によれば、米国民の71%が国が「悪い方向に向かっている」と考えています。
 その原因の主たるものは対イラク戦ですが、経済政策でもブッシュは支持されていません。ブッシュの対イラク戦を評価する米国民は33%しかいませんが、ブッシュの経済政策を評価する米国民も41%にとどまっています。
 評判の悪いのは大統領だけではないことも明らかになりました。
 民主党が多数派となった議会についても、よくやっているというのは35%に過ぎないからです。
 (以上、commentisfree上掲、及び
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,,-6625890,00.html
(5月18日アクセス)による。)

4 終わりに

 このように、米国では一般国民の上層部に対するフラストレーションが爆発寸前まで高まっています。
 当分の間、従来とは違った意味で、米国から目が離せない状況が続きそうです。

(完)

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