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太田述正コラム#1793(2007.6.4)
<日韓関係改善に尽力する朝鮮日報>
(本篇は、PR目的を兼ね、即時公開します。)
1 始めに
サッカーのワールドカップを共同開催した2002年には、韓国人の35%が日本について、日本人の69%が韓国について、それぞれ好意を抱いていましたが、それが今年3月に実施された世論調査によれば、20%と36%まで減少してしまいました。
最も緊密であるべき国についても、韓国人は、米国(37%)、北朝鮮(28%)、中共(20%)で日本(5%)であるのに対し、日本人は、米国(42%)、中共(17%)、韓国(6%)、北朝鮮(3%)、と対照的です。
(以上、
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200705/200705170007.html
(5月日アクセス)による。)
この逆風の中で、日韓関係改善に尽力する朝鮮日報の戦いは続いています。
最新の記事のいくつかをご紹介しましょう。
2 現在の日韓の密接な関係を示す記事
(1)日本の翻訳書大国の韓国
2004年に韓国で出版された本のうち、翻訳書は29%を占めるが、この数字はチェコと並んで世界一だ。ちなみに2位はスペインで25%、3位はトルコで17%。中共は4%、米国は2.6%にとどまる。
韓国の翻訳書のうち、日本の本が40.2%を占めている。次いで、米国の本が25.2%、英国の本が9.9%、フランスとドイツの本が6%だ。
(以上、
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200704/200704170010.html
(4月17日アクセス)による。)
(2)韓国で最も優秀な学生が留学する日本
「<女性で24歳の>チェ・ウンミさん・・は<東京>大学4年間の成績が4.0点満点の3.9点以上で、卒業論文も高い評価を受けたことにより、<今年3月、東京大学>総長大賞を授与された。総長大賞は大学と大学院を合わせ、総長賞を受け取った16人のうち、特に優秀な1人に与えられる賞だ。チェさんは2001年、<韓国の>高校3年のときに受けた修学能力試験(日本のセンター試験に当たる)でも首席(理系)だった。チェさんの両親はソウル大学入学を勧めたが、チェさんの夢は違っていた。「韓国よりも科学の水準が高い日本で物理の勉強がしたかった。もっと広い世の中で思い切り勉強してみたかった」という。当時、チェさんは両親の勧めでソウル大学も受験し合格したが、結局入学せず、2002年に国費留学生として東京大学物理工学科に首席で入学した。チェさんは4年間の努力の末、東京大学を、事実上首席で卒業し、卒業と同時に物理工学専攻の大学院に外国人初の首席で入学した。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070405000029
(4月6日アクセス)アクセス)。
3 日本の朝鮮半島統治の積極的評価
(1)日本統治以前の朝鮮半島の後進性
「現在、朝鮮王朝が儒教を統治理念とした国家だったというのは、何ら疑いの余地なく受け入れられている。しかし、西原大政治行政学科の朴鍾晟(パク・チョンソン)教授は、<4月>9日に出版した著書・・で、朝鮮は儒教的徳治ではなく残酷な刑罰により維持された法家の国に近かったと主張し、こうした通念に根本的な疑問を投げかけた。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070429000006
。4月29日アクセス)
「ソウル大学<の>・・李栄薫(イ・ヨンフン)教授は・・韓国史学界・・は、朝鮮王朝が滅亡したのは「凶暴な盗賊」(日本)のせいであり、「善良な主人(朝鮮王朝)」のせいではないと主張している<ところ、>こうした歴史認識に対し、「歴史から何も学ぼうとしない無責任な姿勢」と批判している・・。
<同教授いわく、李氏>朝鮮王朝は19世紀には既に事実上解体されていた。人口の増加により火田民(焼き畑農業を行う農民)が増えたため山林は荒廃し、少し雨が降っただけでも土砂が田畑に押し寄せ、農業生産力は減少した。18世紀中ごろに比べ、農業生産力は19世紀末にはほぼ3分の1の水準にまで衰退した。こうした農業生産力の衰退の影響で1850年代以降にコメ価格が暴騰し、それが政治的・社会的混乱へとつながり、それに対し朝鮮王朝は何ら有効な対策を打ち出すことができなかった。
・・<また、同>教授は、韓国の指導者らが韓国の近現代史に否定的な歴史認識を持つ背景として性理学(儒教の一派。朝鮮王朝では絶対的権威を誇った)の思想的影響を挙げた(注1)。
(注1)私は、コラム#404で、両班精神が李氏朝鮮の政治の搾取性をもたらしたと指摘したところだ。(太田)
<同教授いわく、>「性理学は一種の原理主義哲学であり、あらゆるものの因果関係を一つの要因で説明しようとする。その典型的な例が、“これまでの60年間、韓国政治が混乱を極め、社会が腐敗したのは、親日派を清算できなかったため”という主張だ。こうした原理主義的思考に陥っている知識人らが社会の摩擦と対立をさらに激しくしている。
韓国人は自ら伝統を否定し、批判した経験がない。韓国の伝統を批判した日帝が敗亡し、それにより伝統自体が美化され、産業化の始まりとともに民族主義的に利用された。性理学は、人間を道徳的存在と見なし、社会を道徳原理が支配する場と見なしている。これは、西洋的意味での実用主義や経験主義、多元化された思考とはかけ離れている。ここ数年間、韓国社会が深刻な摩擦と対立を経験したのも、余りに観念的かつ道徳的な性理学的思考からもたらされたものではないかと思う。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070603000015
。6月4日アクセス)
(2)日本の朝鮮半島統治の公正性
「<李栄薫教授(前出)は、>“土地調査事業により全国土の40%が日本のものになった”<とか、>“食糧の半分を日本に強制的に持ち去った”というのは、何ら根拠のない話」<である>と主張している。
<同教授いわく、日本の朝鮮>総督府は国有地を巡る紛争を公正に扱っていた・・。全国484万町歩(1町歩は約0.99ヘクタール)の国有地のうち、12万7000町歩だけが国有地として残ったが、その大部分は朝鮮人農民らに有利な条件で払い下げられ・・た。食糧を日本に搬出したのも市場を通じた商行為に基づくものであり、強奪したわけではない。
・・日帝が土地調査事業の過程で全国土の大部分を強奪したとされているの<は、>・・<第一に、>韓国の学界には厳格なジャッジがいないためだ。先進社会では学界を支配する厳格な審査グループがあり、主張の妥当性について判定を下している。後進社会にはこうした審査を行うグループが存在しないため、何が正しく何が間違っているのかについて、大衆はもちろん、研究者さえも知ることができない状況に陥っている。<第二に、>日帝時代を扱った・・内容<が>事実とかけ離れ<た>小説<の流布等、>商業化された民族主義が横行し、被害意識だけが膨れ上がった結果、(植民地支配を実際に体験した)高齢者よりも若い世代で反日感情が強くなった。これは、商業化された民族主義と<、もう一つつけ加えれば、>間違った近現代史教科書に基づく公教育のせいだ。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070603000016
。6月4日アクセス)
(3)朝鮮半島ナショナリズムと親日の両立可能性
「韓国芸術総合学校の許英翰(ホ・ヨンハン)音楽院教授・・は、・・親日論争のまな板に載せられた作曲家・安益泰(1906-65)<の話>を通じ、親日・反日の二分法的論調に正面から反論した。
「愛国歌」(韓国国家)を作曲した安益泰が<19>42年、満州国建国10周年記念音楽会で記念曲を作曲し指揮を行ったという報道(本紙2006年3月8 日付)(注2)は、多くの人々を困惑させた。だが、許英翰教授は「韓国という国家が存在しない状態で、日本のパスポートを持つ安益泰が日本人として活動したのは、ある意味当然のことだ。安益泰が日本の要請を拒み指揮棒を捨てたとすれば、愛国者にはなるだろうが、音楽家・安益泰は存在しなかっただろう」と指摘した。これは、「愛国」と「親日」の二分法から抜け出した第3の見方が許容されない状況では、過去は歪曲・・されるほかなく、こうした画一的に白黒つけようとする見方から抜け出し、安益泰が生きていた時代と正面から向き合い、グレーゾーンを許容する見方への移行を受け入れるべきだという主張だ。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070506000023
。5月7日アクセス)
(注2)コラム#1113参照。遅ればせながら、産経がこの話をとりあげている。(
http://www.sankei.co.jp/kokusai/korea/070604/kra070604000.htm
。6月4日アクセス)(太田)
(4)日本の朝鮮半島統治の遺産の大きさ
ア 韓国建設にあたっての親日派の不可欠性
「<李栄薫教授(前出)いわく、>高校の近現代史教科書<等>は、解放後に親日派らが建国に参加し、親日派を清算できなかったことが南北の分断をもたらしたと主張しているが、・・李光洙(イ・グァンス)や崔南善(チェ・ナムソン)のようなイデオロギー型の親日協力者らは建国の過程で排除されている。建国に参加した人々は、官僚、教師、会社員、銀行員などのテクノクラートであり、近代国家を建設しようとすれば、近代が要求する知識・技術体系を習得した人々が必要になる。(彼らを親日派と見なすのではなく)植民地体制下の近代を通じ、こうした近代国家の建設に必要な人的資源が供給されたと見るべきだ。<また、>“われわれの力で解放を勝ち取れず、親日派を清算できなかったことにより歴史が歪曲・・された”というイデオロギーが左派により広められているが、自らの力だけで植民地から解放された国がどこにあるというのだろうか。」(
http://www.chosunonline.com/article/20070603000017
。6月4日アクセス)
イ つい最近までの韓国を規定した日本の総動員体制
「鄭根埴(チョン・グンシク)教授(ソウル大)・・は、日帝が身体規律を強調したこと<に>植民地支配の1つの様相を見いだしている。
近代国家では国家が必要とする軍事力と、市場が要求する労働力を担当する身体が必要となる。そのため、前近代の「身体」が修養と保全の対象だったならば、近代以降の身体は国家権力の精密な検査対象になり、より良い身体と健康を訓練によって育成する「体育」という概念が登場した。
そして、学校は体操や教練などの教科を通じ、身体能力の育成と規律化を行う上で核心的な役割を果たした。日帝は、1938年に戦時動員体制への転換を進め、朝鮮に「皇国臣民体操」を制定した。近代朝鮮に新たに入ってきたスポーツや体操は、そのほとんどが日本から流入したものだったが、皇国臣民体操は植民地朝鮮から逆に日本に輸出された。また体力章(体力検定)制度は、日本の厚生省の発表に先立つ1939年7月に京城(ソウル)で実施された。さらに、42年に日帝は健民運動を大々的に繰り広げ、「鋼鉄のごとき身体は興亜の礎石」と強調した。
ところで、日帝の敗亡と朝鮮の解放以降、総動員体制に立脚した「身体規律」が日本ではほとんど消滅した一方で、朝鮮(韓国)ではそのまま残り続けたという事実は非常に興味深い。70年代韓国の維新体制は、国民教育憲章・徴兵制・教練・体力章・国民体操など、40年代の総動員体制の遺産をそのまま引き継いでいた。韓国の40代の人々ならば、体力章種目に「手榴弾投げ」をした記憶があるはずだ。
鄭根埴教授は「韓国における身体の動員は、1987年の6月抗争(民主化を求める100万人規模のデモ。このデモにより、ついに軍事政権から民主化宣言を引き出した)以降、根本的に減少した。韓国の民主化は、一方では軍事政権の退陣を意味したが、もう一方では植民総動員体制の解体をも意味していた」と評価した。」(注3)(
http://www.chosunonline.com/article/20070513000000
。5月13日アクセス)
(注3)韓国のスポーツ選手の運動能力の高さの謎(コラム#1133)が解けたような気がする。ところで、日本の戦後の政治・経済体制は、総動員体制を引き継いだものだ(拙著『防衛庁再生宣言』(233〜236頁)やコラム1113等)。韓国だって総動員体制を引き継いだものが「身体規律」だけではないはずだ。(太田)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<太田>
7〜12月期の会費を振り込まれた方々の声の一部をご紹介します。
会費の納入は6月28日までですが、早めに納入していただけると助かります。
新規の方々の申し込みもお待ちしています。
<3期継続予定の有料読者>
東京都xx区在住の○○です。
私は、有料会員のなかでは少数派と思われる「アニメ声優おたく」です。
時々コラムに「日本人が中性化している」という記述が見られますが、
決して異性に興味無くなっているワケではありません。
あまりにも現実(リアル)の女性を確保するのが大変なので、仮想(バーチャル)
の世界を向いている気がします。
ある意味で「おたく」っていうのは、超リベラルな存在なのかもしれません。
以上、よろしくお願いします。
<2期継続予定の有料読者>
(1)オフ会
先日のオフ会ではお世話になりました。ありがとうございます。
内容につきましては、いろいろ思うこともありますが、
本日は「太田さんは剛速球しか投げないからだ」(コラム#1774)の発言の趣旨を補足しておきます。
わたくしは世間(自分も含めて)の知的レベル(特に歴史・地理の知識)が低いことを危惧するものです。
そもそも国とは、優れた少数の人たちが支えるもので、
国民の知的レベルが低くても、それは仕方がない、という考えもあります。
しかしわたくしは、この考えに与しません。底辺のレベルが頂点の高さを規定すると考えるからです。
太田コラムのようなユニークな情報が、国民に行き渡ることは、
国民がものやことを感じる感受性の向上に資することであると考えます。
わたくしのいう「知的レベルの高さ」とは「ものやことを感じる感受性」です。
こうした観点から、「大衆も意識してください」という趣旨であの発言になりました。 具体的には、大衆啓発の手順の開発とでも言うのでしょうか?
「厳密さ等は妥協してやさしく面白く書く必要がある」ということは眼目ではありません。
なお、「高学歴」と「知的レベルの高さ」とはわたくしのイメージのなかでは、相関関係はありません。
「高学歴」でかつ惨憺たる「知的レベル」にある人を多く知っているからです。
(2)コラムへの感想
最近に記事で特に感銘をうけたもの
一、#1789(イギリスの内戦)
『キリスト教原理主義なるイデオロギーに取り憑かれた人々が、国王抜きの神の
共同体(godly commonwealth)たる共和制の樹立を目指した、とくれば、これ
は、その1世紀以上後に起こった米独立革命の先駆的事件であると言いたくなり
ます』は目からウロコです。
二、#1779(スターリン)
『それは、できそこないのアングロサクソンである米国のために、20世紀に入っ
てから日本が疎外され、日本を含めた自由・民主主義勢力が一体となって共産主
義に対抗することができなかったからです。』
含蓄のあるご指摘で、まったく同感です。
三、イラク問題(#1771など)
問題の深淵を覗かせてもらいました。
列挙すれば際限がありませんので、ここらでやめますがセポイの叛乱(コラム#1769)は期待しています。
<太田>
オフ会でのやりとりをご紹介したコラムの該当箇所は、その時出席された皆さんの発言をつまみ食いさせていただいたものであることをお断りしておきます。
セポイの反乱の続編については、その構想をまとめるのに時間がかかっています。
実は、英国の名誉革命(「イギリス内戦」の続きとも言える)についてもコラムを書こうとしているのですが、こちらも手こずっています。
どちらが先になるか、分かりませんが、もう少しお待ちください。
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