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太田述正コラム#1785(2007.5.29)
<英国・日本・捕鯨(続々)>(2007.7.19公開)

1 始めに

 英BBCが、捕鯨問題に関し、三つ目の記事(記事C)(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6667907.stm
。5月27日アクセス)を電子版に掲載しました。
 これまで同様、その概要をご紹介した上で私のコメントを付したいと思います。

2 科学的調査をめぐって

 日本の調査捕鯨の実態は商業捕鯨なのか?

 そもそも、IWCが商業捕鯨の禁止を打ち出したのは、当時、商業捕鯨を続けた場合、鯨類が絶滅するかしないかを見きわめられるだけの科学的データが得られていなかったからだ。
 日本政府は、まさに、この科学的データを得るために南氷洋において調査捕鯨を実施してきた、と主張している。
 この調査で大事なことは、どの鯨がどの鯨集団(population)に属するか、そして鯨集団がどれだけ混ざり合うか、だ。
 日本が行ったDNAを用いた調査結果によれば、例えば、南氷洋のミンク鯨には二つの集団が存在することが明らかになった。
 こういった情報は、商業捕鯨を再開した際、捕獲割当量を決めるために重要なのだ。
 調査においては、また、個々の集団の中の鯨の年齢構成に関する情報・・これは鯨の自然死亡率と密接に関係している・・、脂肪(blubber)の厚み・・健康と食糧の状況を見極められる・・、そして食餌、も収集している。
 最後の点だが、そのために、鯨の腹を切り裂き、消化器の内容物を全部空けて重さを量り、更にどんなものが含まれているか、その大きさ、重さ等々を調べる。
 そのためには、鯨を殺して捕獲しなければならない、というわけだ。
 鯨を殺さなければならない理由はもう一つある。
 木の年輪のように年齢を示すところの耳腺(earplugs=耳栓)を調べないと正確な鯨の年齢は分からないからだ。
 日本による科学的調査は、鯨を殺さない方法も併用されている。
 国際的監視員団を調査船団の先頭の船に乗せて、目視調査で、どんな種類の鯨がどれくらいいるかを調べさせているのだ。
 また、調査捕鯨の対象になっていない鯨種に関しては、鯨の体に投げ矢(dart)を打ち込み、肉片を回収して生検(biopsy)を行う。
 なお、鯨が集まっている所だけを目指す商業捕鯨とは違って、調査捕鯨の場合は、まんべんなく海域を回る。

 これに対し、目視と生検に加えて、鯨の糞の収集だけで、必要な全ての情報が得られる、という主張が環境保護団体によってなされている。
 生検でも、原理的には、染色体の端のテロメールの状況確認によって年齢を、ホルモン分析によって生殖状況を、安定アイソトープ・獲物の化学的痕跡の分析によって食餌を知ることはできるし、糞は、遺伝情報や食餌情報を与えてくれる、というのだ。
 しかし、目視・生検・糞の収集は、言いやすくして行うことは容易ではない。
 しかも、生検では魚かオキアミかくらいは分かるものの、魚の種類までは分からないし、糞を収集しただけでは、鯨が食べた分量は分からない。

 調査にあたって鯨を殺すことには、もう一つメリットがある。
 鯨の肉を売ればカネになるということだ。
 調査のために船団を何ヶ月も南氷洋に派遣するには膨大なカネがかかるが、鯨肉を売ることによって、その費用の大部分を回収することができるのだ。
 
 この日本による調査捕鯨に対して、世界の科学者達の評価は高い(注)。

 (注)1992年にIWC科学委員会は、日本の調査捕鯨の結果を踏まえ、南極海のミンククジラは今後百年間、毎年2,000頭捕獲しても枯渇しない、という結論を出している(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2007052802019611.html
。5月29日アクセス)。(太田)

 付言しておくが、日本における鯨関係産業の政治力など微々たるものであり、この産業の利益のために日本政府が商業捕鯨の再開を図っているとは言えない。
 
 結局、日本は、文字通り、本来のICWの設立目的に沿って、継続可能な(sustainable)商業捕鯨の再開に向けて科学的疑義の解消を図るために調査捕鯨を行っている、と結論を下さざるを得ない。
 そもそも、1982年のIWCによる商業捕鯨の禁止は、恒久的なものではなく、休止に過ぎない。

 だから、日本の調査捕鯨に異論を唱えてきた自然保護団体は、いかなる鯨種の鯨も一切殺されるべきではない、という立場から、いちゃもんをつけてきた、ということだ。
 もしあなたが、鯨は特段他の野生動物と異なることはなく、猪、鹿、山椒魚等と同様、捕獲され、食されて当然だと考えるのなら、日本の言い分を支持しなければなるまい。

3 私のコメント

 IWCの昨年6月の年次総会は持続的捕鯨を訴える捕鯨国側にとって画期的なことに「商業捕鯨禁止は必要ない。機能不全に陥っているIWCを正常化させるべきだ」との決議案を1票差で採択し、これを受け日本は今春、東京でIWC正常化会合を開催しました。
 米国アンカレジで28日から始まった今年のIWC年次総会では、キプロス、クロアチア、スロベニア、エクアドル、ギリシャなど「欧米の影響下にある」(日本政府筋)加盟国を増やした反捕鯨国側の攻勢が強まりそうです。
 (以上、東京新聞前掲による。)
 仮に、アングロサクソン文明と価値を真の意味で共有する唯一の文明に属する日本の使命はアングロサクソンの誤りを正しつつアングロサクソンと手を携えて世界を善導していくことである、という私のかねてからの主張に共感を覚えていただけない方であっても、せめて、日本政府の捕鯨問題での戦いには、私ともども、声援を送っていただけないでしょうか。
 アングロサクソンが内部分裂を始めた以上、日本の主張が通る日がやってくるのは決して遠くありません。

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