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太田述正コラム#1801(2007.6.10)
<英サウディ不祥事(その3)>(2007.7.28公開)

 この反資金洗浄措置法、及びその前年に制定されていた対テロ・犯罪及び安全保障法(Anti-Terrorism, Crime and Security Act)違反の疑いで、英国の重大不正局(Serious Fraud Office=SFO)は本件の捜査を始めるのです(注)。

 (注)今問題とされている、バンダルの米国での銀行口座(複数)に対しては、2002年から米FBIが捜査に着手したことがある。9.11同時多発テロの実行犯の一人に、サウディの慈善団体からカネが渡っていたからだ。バンダルの妻がこれに関与したという疑いをかけられたが、この件ではバンダル一家は全くシロであることが判明した。ところがこの捜査を契機に、更に米財務省や米上院が調査したところ、バンダルの上記口座が設けられていた銀行に、チリのピノチェト(Augusto Pinochet)将軍(元大統領)やアフリカの赤道ギニアの大統領といった世界中の腐敗した政治家達が秘密口座を設けていたことが判明した。英SFOは、米司法省が保有していたバンダルの銀行口座の情報の開示を求め、それが許可され、いよいよ調査に乗り出そうとした時に、捜査中止を命ぜられる(後述)

 ところが、一昨年にブレア首相は、サウディ政府から、本件捜査が中止されなければ、BAEから72機のユーロファイターを買う話を進めることはできない旨伝達されます。
 そして昨年12月、捜査は検事総長によって中止させられるのです。
 今年に入ってからの、OECDによる本件の調査に対しても、英国政府は、安全保障を理由に碌に情報を開示しませんでした。
 ブレア英首相は、BBCとガーディアンが本件を報じた後の6月7日、SFOの捜査が進むと、サウディの王族に対する捜査に発展する可能性があり、そうなると、サウディが諜報や安全保障面での英国との協力関係を絶つ懼れや、何千もの英国人の仕事が失われる懼れ、があったと、捜査中止の必要性を述べたところです。

5 これからどうなる

  米国にはもともと、外国の公務員への贈賄を禁じる「外国腐敗行為法(Foreign Corrupt Practices Act)」があり、BAEは2000年にこの法律を守ると誓約しています。
 本件が露見した以上、米国の議会が調査を始める可能性があります。民主党が米上下両院で多数を占めており、バンダルが共和党のブッシュ一家のお友達であることを考えればなおさらです。
 しかもBAEは、米国向けの売り上げが総売り上げの42%も占めており、また現在、米国のフロリダ州の重要な軍需会社を20億英ポンドで買収する話が進行中であり、買収には米国政府の許可を得なければならないのです。
 米国務省は、既に英外務省に対し、SFOの捜査が中止されたことは輸出に伴う腐敗を撲滅するというグローバルな努力を阻害する、として抗議しています。
 ですから、米国の出方によっては、本件の全貌が明らかになる可能性があるのです。

 (以上、特に断っていない限り、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/6728773.stm
http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/0,,2097149,00.html
http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/0,,2097098,00.html
(いずれも6月7日アクセス)
http://www.ft.com/cms/s/67aad6a8-151c-11dc-b48a-000b5df10621.html
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2098183,00.html
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2098302,00.html
http://www.bbc.co.uk/blogs/thereporters/robertpeston/2007/06/saudi_sandstorm.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/06/07/AR2007060701301_pf.html
http://www.nytimes.com/2007/06/07/world/europe/07cnd-britain.html?ref=world&pagewanted=print
http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/0,,2098232,00.html
http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/0,,2098262,00.html  
(いずれも6月8日アクセス)
http://www.guardian.co.uk/baefiles/story/0,,2098953,00.html
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2099078,00.html
(どちらも6月9日アクセス)による。)

6 所見

 欧米の対サウディ政策・・これは対中東産油国政策と言い換えてもよい・・は、一貫して、石油の輸入と武器の輸出と専制政府擁護という三位一体であったと言っても過言ではありませんが、その上、英国は武器の輸出のために賄賂を駆使してきたわけです。
 しかし、賄賂はもはや許されることではなく、英国だって早晩止めざるをえなくなるでしょう。
 それにつけても、日本が戦後武器輸出完全禁止政策をとってきたのは余りにも馬鹿げています。日本が米国の保護国から脱するにあたっては、ぜひとも武器輸出を解禁する必要があります。
 友好国への武器輸出は、独立国の外交・安全保障の手段として必要不可欠だからです。

(完)

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