・退行する米国(続x5)(その1)
・退行する米国(続x4)
・ブッシュとイラン・北朝鮮の核問題
・退行する米国(続x3)(その1)
・退行する米国(続々)(その3)
ブッシュ
2007年10月23日
太田述正コラム#2077(2007.9.21)
<退行する米国(続x5)(その1)>(2007.10.23公開)
1 始めに
キリスト教原理主義であるブッシュに対するBoston Globe誌のコラムニストであるキャロル(James Carroll)による批判を、適宜私の言葉を交えつつご紹介しましょう。
(以下、特に断っていない限り
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/II21Ak02.html
(9月21日アクセス)による。)
2 キャロルのブッシュ批判
米国の起源は世俗的なバージニア植民地と宗教的なマサチューセッツ植民地の二つ(コラム#1763)だが、後者の影響の方が大きい。
マサチューセッツ植民地を創ったピューリタン達は、米国は神に愛でられた特別な存在であると思っていた。いわゆる米国例外主義(American exceptionalism)というやつだ。
そのマサチューセッツ植民地には、コットン(John Cotton)やその同僚ウィンスロップ(John Winthrop)の宗政国家・・自分達流のキリスト教を住民に、そしてインディアン等に押しつけることを当然視する・・の考え方とウィリアムス(Roger Williams)の政教分離の考え方とがあった(コラム#485)。
ウィリアムスの考えは、180年後にジェファーソン(Thomas Jefferson)によって米国憲法に謳われることになる。
いずれにせよ、米国例外主義的な物の考え方は、米国人の間で脈々と受け継がれて行った。
リンカーン(Abraham Lincoln)大統領が米国を「人類の最後の望み」と形容したことや、米国による北米大陸の征服が、自由の民による自由の普及であって道義にかなったこととして正当化されたのがその現れだ。いわゆるマニフェスト・デスティニー(manifest destiny)だ。
自由(ないし民主主義)という言葉は、大方の米国人にとってはキリスト教による救済と同義なのだ。だから、自由(ないし民主主義)の普及、すなわちキリスト教の異教徒への普及は、大方の米国人にとって使命なのだ。
米国の保守派とリベラルの違いは、前者が自由(freedom)という言葉を使うのに対し、後者は人権(human rights)という言葉を使うことくらいだ。
だからソ連との冷戦もキリスト教対無神論の宗教戦争であると受け止められた。
アイゼンハワー(Dwight Eisenhower)政権のダレス(John Foster Dulles)国務長官は、まるで説教のような講演をしたものだが、「共産主義」のことを必ず「無神論の共産主義」と言ったことで知られている。アイゼンハワー自身、物見の塔の棄教者であったところ、1953年に大統領就任12日目に長老派(Presbyterian)教会の洗礼を受け、1954年には大統領宣誓に「神の下で」という文言を加えることとし、更に「神を信じるものなり(In God We Trust)」という文言を1956年に米国家標語(motto)として採用し、1957年にはこの文言を米国紙幣に印字させた(
http://en.wikipedia.org/wiki/Dwight_D._Eisenhower
(9月21日アクセス)も参照)。
さて、20世紀初頭に原理主義(fundamentalism)という言葉が生まれる。
これは、聖書の文字通り受け止めるプロテスタントの宗派を指した言葉だった。
このキリスト教原理主義は、啓蒙主義と科学の否定の上に成り立っていた。
考えてもみよ。
イスラエルはユダヤ教徒の国だと思われているが、自称ユダヤ教徒が占める比率は75%に過ぎない。ところが、米国では自称キリスト教徒が占める比率が80%に達しているのだ。
キリスト教原理主義に冒されている者はその一部だとはいえ、米国はイスラエルがユダヤ教国であるという以上にキリスト教国なのだ。
現ブッシュ大統領は、このキリスト教国米国において、本来出自が異なるところの、米国例外主義とキリスト教原理主義を結びつけたのだ。
ブッシュの下で共和党は、米国憲法の政教分離原則に反し、積極的にキリスト教原理主義諸派と提携し、これら諸派の政治力を活用するようになった。
その結果として共和党の政治家達は、世界を善悪二元論的な色眼鏡で見るようになってしまった。
また、国防省内では、組織の上下関係を通じたキリスト教宣教活動が黙認されるようになった。
上官が祈祷会を兼ねた朝食に部下がやってくることを促し、やってこないと人事考課でx点をつける、といったことはザラだ。
ブッシュの側近の2人(Ted HaggardとJames Dobson)が画策して空軍士官学校をキリスト教原理主義で染め上げようとしたことも分かっている。
メル・ギブソン(Mel Gibson)の映画、キリストの受難(The Passion of the Christ)を同校内で上映し、学生全員に鑑賞することを強制したのはその一環だ。これが問題になり、結局校長は辞任し、空軍は遺憾の意を表した。
しかし、それで終わった訳ではない。
私が空軍の従軍牧師長(chief chaplain)にインタビューしたところ、彼は、自分には二つの任務があり、それは米国憲法の遵守とキリスト教の福音の説教であり、この二つは密接不可分の関係にあると語ったこと一つとってもそうだ。
私は空軍士官学校卒であり空軍にも在籍したが、その当時、こんなことを言う従軍牧師は一人もいなかったし、そもそも、キリスト教の福音の説教を行う任務があると思っている従軍牧師などいなかったのだ。むしろ、礼拝堂の外に出たら、そんなことは絶対兵士に対して行ってはならないと思っている従軍牧師ばかりだったというのに・・。
(続く)
<退行する米国(続x5)(その1)>(2007.10.23公開)
1 始めに
キリスト教原理主義であるブッシュに対するBoston Globe誌のコラムニストであるキャロル(James Carroll)による批判を、適宜私の言葉を交えつつご紹介しましょう。
(以下、特に断っていない限り
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/II21Ak02.html
(9月21日アクセス)による。)
2 キャロルのブッシュ批判
米国の起源は世俗的なバージニア植民地と宗教的なマサチューセッツ植民地の二つ(コラム#1763)だが、後者の影響の方が大きい。
マサチューセッツ植民地を創ったピューリタン達は、米国は神に愛でられた特別な存在であると思っていた。いわゆる米国例外主義(American exceptionalism)というやつだ。
そのマサチューセッツ植民地には、コットン(John Cotton)やその同僚ウィンスロップ(John Winthrop)の宗政国家・・自分達流のキリスト教を住民に、そしてインディアン等に押しつけることを当然視する・・の考え方とウィリアムス(Roger Williams)の政教分離の考え方とがあった(コラム#485)。
ウィリアムスの考えは、180年後にジェファーソン(Thomas Jefferson)によって米国憲法に謳われることになる。
いずれにせよ、米国例外主義的な物の考え方は、米国人の間で脈々と受け継がれて行った。
リンカーン(Abraham Lincoln)大統領が米国を「人類の最後の望み」と形容したことや、米国による北米大陸の征服が、自由の民による自由の普及であって道義にかなったこととして正当化されたのがその現れだ。いわゆるマニフェスト・デスティニー(manifest destiny)だ。
自由(ないし民主主義)という言葉は、大方の米国人にとってはキリスト教による救済と同義なのだ。だから、自由(ないし民主主義)の普及、すなわちキリスト教の異教徒への普及は、大方の米国人にとって使命なのだ。
米国の保守派とリベラルの違いは、前者が自由(freedom)という言葉を使うのに対し、後者は人権(human rights)という言葉を使うことくらいだ。
だからソ連との冷戦もキリスト教対無神論の宗教戦争であると受け止められた。
アイゼンハワー(Dwight Eisenhower)政権のダレス(John Foster Dulles)国務長官は、まるで説教のような講演をしたものだが、「共産主義」のことを必ず「無神論の共産主義」と言ったことで知られている。アイゼンハワー自身、物見の塔の棄教者であったところ、1953年に大統領就任12日目に長老派(Presbyterian)教会の洗礼を受け、1954年には大統領宣誓に「神の下で」という文言を加えることとし、更に「神を信じるものなり(In God We Trust)」という文言を1956年に米国家標語(motto)として採用し、1957年にはこの文言を米国紙幣に印字させた(
http://en.wikipedia.org/wiki/Dwight_D._Eisenhower
(9月21日アクセス)も参照)。
さて、20世紀初頭に原理主義(fundamentalism)という言葉が生まれる。
これは、聖書の文字通り受け止めるプロテスタントの宗派を指した言葉だった。
このキリスト教原理主義は、啓蒙主義と科学の否定の上に成り立っていた。
考えてもみよ。
イスラエルはユダヤ教徒の国だと思われているが、自称ユダヤ教徒が占める比率は75%に過ぎない。ところが、米国では自称キリスト教徒が占める比率が80%に達しているのだ。
キリスト教原理主義に冒されている者はその一部だとはいえ、米国はイスラエルがユダヤ教国であるという以上にキリスト教国なのだ。
現ブッシュ大統領は、このキリスト教国米国において、本来出自が異なるところの、米国例外主義とキリスト教原理主義を結びつけたのだ。
ブッシュの下で共和党は、米国憲法の政教分離原則に反し、積極的にキリスト教原理主義諸派と提携し、これら諸派の政治力を活用するようになった。
その結果として共和党の政治家達は、世界を善悪二元論的な色眼鏡で見るようになってしまった。
また、国防省内では、組織の上下関係を通じたキリスト教宣教活動が黙認されるようになった。
上官が祈祷会を兼ねた朝食に部下がやってくることを促し、やってこないと人事考課でx点をつける、といったことはザラだ。
ブッシュの側近の2人(Ted HaggardとJames Dobson)が画策して空軍士官学校をキリスト教原理主義で染め上げようとしたことも分かっている。
メル・ギブソン(Mel Gibson)の映画、キリストの受難(The Passion of the Christ)を同校内で上映し、学生全員に鑑賞することを強制したのはその一環だ。これが問題になり、結局校長は辞任し、空軍は遺憾の意を表した。
しかし、それで終わった訳ではない。
私が空軍の従軍牧師長(chief chaplain)にインタビューしたところ、彼は、自分には二つの任務があり、それは米国憲法の遵守とキリスト教の福音の説教であり、この二つは密接不可分の関係にあると語ったこと一つとってもそうだ。
私は空軍士官学校卒であり空軍にも在籍したが、その当時、こんなことを言う従軍牧師は一人もいなかったし、そもそも、キリスト教の福音の説教を行う任務があると思っている従軍牧師などいなかったのだ。むしろ、礼拝堂の外に出たら、そんなことは絶対兵士に対して行ってはならないと思っている従軍牧師ばかりだったというのに・・。
(続く)
2007年10月21日
太田述正コラム#2075(2007.9.20)
<退行する米国(続x4)>(2007.10.21公開)
1 始めに
今回はもう一人の経済学者、クルーグマン(Paul Krugman。1953年〜)のブッシュ批判をとりあげたいと思います。
2 クルーグマンの主張
(1)大分岐の時代の到来
20世紀からの米国の歴史を振り返ってみよう。
これまで金ぴかの時代(Gilded Age。コラム#1776)は1900年前後に進歩の時代(Progressive Era)に変わったと考えられてきた。
しかし、実際には金ぴかの時代はニューディール時代のただ中まで続いたのだ。これを私は「長い金ぴかの時代」と呼びたい。
というのは、19世紀後半と同程度の経済的不平等が続いた(注1)からだ。
(注1)http://krugman.blogs.nytimes.com/中のSeptember 18, 2007付コラム(9月20日アクセス。以下同じ)に掲げられている表・・1917年から2005年までの、上位10%の人の所得が全所得に占める割合の推移・・をぜひご覧いただきたい。
何せ、勤労者達は人種的・宗教的・文化的に分断されていたのに対し、エリートは団結して政治を支配していたのだからどうしようもなかったのだ。(何やら現在と似ていると思わないか。)
次いで、「大圧縮の時代」(The Great Compression)となる。フランクリン・ローズベルトとニューディールのおかげで、1935年から45年にかけての極めて短い期間に金持達は後退し勤労者達はかつてない前進をかちとった(注2)。
(注2)これは「ニューディールのおかげ」ではなく、「第2次世界大戦争(その準備を含む)のおかげ」と言うべきではないか(コラム#599参照)。(太田)
その次が、その結果到来した「中産階級の時代」(Middle class America)であり、強力な労働組合、高い最低賃金、累進税制のおかげもあって、極端な金持ちや貧乏人がいなくなった時代だ。
これは、民主党と共和党が基本的な諸価値を共有し、超党派で協力することが可能な時代でもあった。
最後は現在であり、米国がもはや中産階級の社会ではなくなった「大分岐の時代」(The great divergence)だ。
1979年から2005年の間に中位家計所得は13%伸びただけだが、上位0.1%の金持ちの家庭の所得は296%も伸びた。
これは、技術変化やグローバリゼーションの必然的結果などではない。
1935年から45年にかけての変化が政治の産物であったのと同じく、1970年代以降の不平等度の高まりもまた政治の産物であったと私は考えている。
こんな趨勢は他の先進国では見られないのであって、サッチャー時代の英国の不平等度の高まりなんて可愛いものだ。
興味深いことに、この時代は保守化の時代(the era of “movement conservatism”)でもあった。
貧乏人の叛乱が起こるどころか、保守化がどんどん進行し、ついにブッシュの時代に、共和党は三権すべてをコントロールするに至ったのだ。
こうして、不平等度が高まったというのに、金持ちに対する税率は下げられ、セーフティーネットは穴だらけになった(注3)。
(以上、特に断っていない限り、NYタイムスブログ中のコラム上掲による。)
(注3)クルーグマンは、以上を詳述した'The Conscience of a Liberal'という本を近日上梓する予定。
(2)共和党の手口
共和党は、どうやって有権者を丸め込んだのか。
第一に、供給重視経済学(コラム#2052)だ。これは、税率引き下げを売り込むのに使われた。
第二に、国家公務員が多すぎるというためにする議論だった。
その言い出しっぺはレーガンであり、1964年に共和党のゴールドウォーター大統領候補を応援する演説で、「250万人も非軍人の国家公務員がいるなんてキチガイじみている」という形で登場した。
実際には、そのうちの三分の二は国防省と郵便局の非軍人の国家公務員だった。
第三に、共和党の人間の批判をやると、共和党はみんなが協力して総掛かりで主要メディア、ラジオ、そして最近ではブログを駆使して批判者の人格攻撃を行い、完全に打ちのめしてしまう。
これに対し、民主党の人間の批判をしても、こんなことは全く起こらない。
第四に、これもレーガンが始めたことだが、生活保護を受けている人間がキャデラックに乗っているといった類の、実態は人種差別的な議論だ。
(以上、
http://bookclub.tpmcafe.com/blog/bookclub/2007/sep/11/crank_politics
による。)
(3)グリーンスパン批判
グリーンスパンは、クリントン政権時代には、ようやく財政が黒字になったが、再び赤字に転落させるなと警告を発していたというのに、ブッシュ政権時代になると掌を返したように、2001年の税率削減に上院での証言で賛意を表明した。
2004年に至ってもなおグリーンスパンは、税率削減を恒久化する措置に賛意を表明している。
そのグリーンスパンが、連邦準備制度理事会議長を辞めた今、ブッシュ政権の放漫財政批判に転じた。
これは、ブッシュ政権の開戦理由のいかがわしさに気付きつつも対イラク戦に賛成した人物が、その後のイラクの状況を見て、実は自分は対イラク戦に反対だったのだと言い出したようなものだ。
要するにグリーンスパンは、ブッシュ大統領の支持率が下がり、上下両院の多数を民主党が占めるようになったのを見て、またまた態度を豹変させた、ということだ。
(以上、
http://economistsview.typepad.com/economistsview/2007/09/paul-krugman-sa.html
による。)
3 感想
クルーグマンによって(正当にも)こきおろされたグリーンスパンですが、そのグリーンスパンまでブッシュ批判に転じたということは、ブッシュ政権がいかに異常な政権であるかを示している、と私は思います。
しかし、以上のようなクルーグマンやグリーンスパン、そしてライシュら経済学者によるブッシュ批判が大衆の賛同を得るのは容易ではなさそうです。
検索をかけると結構上位に来る投稿の筆者が、「クルーグマンは機会の平等ではなく結果の平等を求めるマルキストと同じだ。これは米国の建国の理念に反する」という趣旨の悪罵をクルーグマンに投げつけている(
http://www.freerepublic.com/focus/f-news/1898847/posts
)のを見ると、つくづくそう思います。
<退行する米国(続x4)>(2007.10.21公開)
1 始めに
今回はもう一人の経済学者、クルーグマン(Paul Krugman。1953年〜)のブッシュ批判をとりあげたいと思います。
2 クルーグマンの主張
(1)大分岐の時代の到来
20世紀からの米国の歴史を振り返ってみよう。
これまで金ぴかの時代(Gilded Age。コラム#1776)は1900年前後に進歩の時代(Progressive Era)に変わったと考えられてきた。
しかし、実際には金ぴかの時代はニューディール時代のただ中まで続いたのだ。これを私は「長い金ぴかの時代」と呼びたい。
というのは、19世紀後半と同程度の経済的不平等が続いた(注1)からだ。
(注1)http://krugman.blogs.nytimes.com/中のSeptember 18, 2007付コラム(9月20日アクセス。以下同じ)に掲げられている表・・1917年から2005年までの、上位10%の人の所得が全所得に占める割合の推移・・をぜひご覧いただきたい。
何せ、勤労者達は人種的・宗教的・文化的に分断されていたのに対し、エリートは団結して政治を支配していたのだからどうしようもなかったのだ。(何やら現在と似ていると思わないか。)
次いで、「大圧縮の時代」(The Great Compression)となる。フランクリン・ローズベルトとニューディールのおかげで、1935年から45年にかけての極めて短い期間に金持達は後退し勤労者達はかつてない前進をかちとった(注2)。
(注2)これは「ニューディールのおかげ」ではなく、「第2次世界大戦争(その準備を含む)のおかげ」と言うべきではないか(コラム#599参照)。(太田)
その次が、その結果到来した「中産階級の時代」(Middle class America)であり、強力な労働組合、高い最低賃金、累進税制のおかげもあって、極端な金持ちや貧乏人がいなくなった時代だ。
これは、民主党と共和党が基本的な諸価値を共有し、超党派で協力することが可能な時代でもあった。
最後は現在であり、米国がもはや中産階級の社会ではなくなった「大分岐の時代」(The great divergence)だ。
1979年から2005年の間に中位家計所得は13%伸びただけだが、上位0.1%の金持ちの家庭の所得は296%も伸びた。
これは、技術変化やグローバリゼーションの必然的結果などではない。
1935年から45年にかけての変化が政治の産物であったのと同じく、1970年代以降の不平等度の高まりもまた政治の産物であったと私は考えている。
こんな趨勢は他の先進国では見られないのであって、サッチャー時代の英国の不平等度の高まりなんて可愛いものだ。
興味深いことに、この時代は保守化の時代(the era of “movement conservatism”)でもあった。
貧乏人の叛乱が起こるどころか、保守化がどんどん進行し、ついにブッシュの時代に、共和党は三権すべてをコントロールするに至ったのだ。
こうして、不平等度が高まったというのに、金持ちに対する税率は下げられ、セーフティーネットは穴だらけになった(注3)。
(以上、特に断っていない限り、NYタイムスブログ中のコラム上掲による。)
(注3)クルーグマンは、以上を詳述した'The Conscience of a Liberal'という本を近日上梓する予定。
(2)共和党の手口
共和党は、どうやって有権者を丸め込んだのか。
第一に、供給重視経済学(コラム#2052)だ。これは、税率引き下げを売り込むのに使われた。
第二に、国家公務員が多すぎるというためにする議論だった。
その言い出しっぺはレーガンであり、1964年に共和党のゴールドウォーター大統領候補を応援する演説で、「250万人も非軍人の国家公務員がいるなんてキチガイじみている」という形で登場した。
実際には、そのうちの三分の二は国防省と郵便局の非軍人の国家公務員だった。
第三に、共和党の人間の批判をやると、共和党はみんなが協力して総掛かりで主要メディア、ラジオ、そして最近ではブログを駆使して批判者の人格攻撃を行い、完全に打ちのめしてしまう。
これに対し、民主党の人間の批判をしても、こんなことは全く起こらない。
第四に、これもレーガンが始めたことだが、生活保護を受けている人間がキャデラックに乗っているといった類の、実態は人種差別的な議論だ。
(以上、
http://bookclub.tpmcafe.com/blog/bookclub/2007/sep/11/crank_politics
による。)
(3)グリーンスパン批判
グリーンスパンは、クリントン政権時代には、ようやく財政が黒字になったが、再び赤字に転落させるなと警告を発していたというのに、ブッシュ政権時代になると掌を返したように、2001年の税率削減に上院での証言で賛意を表明した。
2004年に至ってもなおグリーンスパンは、税率削減を恒久化する措置に賛意を表明している。
そのグリーンスパンが、連邦準備制度理事会議長を辞めた今、ブッシュ政権の放漫財政批判に転じた。
これは、ブッシュ政権の開戦理由のいかがわしさに気付きつつも対イラク戦に賛成した人物が、その後のイラクの状況を見て、実は自分は対イラク戦に反対だったのだと言い出したようなものだ。
要するにグリーンスパンは、ブッシュ大統領の支持率が下がり、上下両院の多数を民主党が占めるようになったのを見て、またまた態度を豹変させた、ということだ。
(以上、
http://economistsview.typepad.com/economistsview/2007/09/paul-krugman-sa.html
による。)
3 感想
クルーグマンによって(正当にも)こきおろされたグリーンスパンですが、そのグリーンスパンまでブッシュ批判に転じたということは、ブッシュ政権がいかに異常な政権であるかを示している、と私は思います。
しかし、以上のようなクルーグマンやグリーンスパン、そしてライシュら経済学者によるブッシュ批判が大衆の賛同を得るのは容易ではなさそうです。
検索をかけると結構上位に来る投稿の筆者が、「クルーグマンは機会の平等ではなく結果の平等を求めるマルキストと同じだ。これは米国の建国の理念に反する」という趣旨の悪罵をクルーグマンに投げつけている(
http://www.freerepublic.com/focus/f-news/1898847/posts
)のを見ると、つくづくそう思います。
2007年10月18日
太田述正コラム#2131(2007.10.18)
<ブッシュとイラン・北朝鮮の核問題>
1 始めに
ブッシュ大統領は17日の記者会見で、北朝鮮とイランに対する厳しい見解を表明しました。
それぞれをどう受け止めるか、私見を申し述べたいと思います。
2 対北朝鮮
ブッシュ米大統領は、北朝鮮の核問題に関し、「北朝鮮は核拡散活動に関するすべての申告とともに、プルトニウム、(核)兵器をどれくらい生産したのか完全な申告を行<わなければならない>」と述べるとともに、「6<か国>協議では、拡散問題は兵器の問題と同等の重みを持っている」と強調し、「北朝鮮が合意を守らなければ、代償を払うことになる」とくぎを刺しました(注1)(
http://www.asahi.com/international/update/1018/TKY200710170368.html
。10月18日アクセス)。
(注1)10月3日に発表された6か国協議の合意文書では「すべての核計画の完全で正しい申告を年内に行う」とされたが、具体的な中身には触れていない。北朝鮮の6か国協議首席代表の金桂寛外務次官は、先月の6か国協議の際に開かれた韓国との協議等で、年内に行う申告に核兵器を含めない考えを示していた。
朝鮮日報は、「最近米国で北朝鮮に対しあまりにも譲歩し過ぎているのではないかという世論が巻き起こっているのを意識した<発言の>ようにみえる。」と論評しています(
http://www.chosunonline.com/article/20071018000000
。10月18日アクセス)。
しかし私は、このブッシュ発言は、北朝鮮が核計画の全貌を明らかにしなければならないということを明確に述べたものであり、シリアへの核協力といった弱みを抱えている北朝鮮としては、日本人拉致問題の全貌を明らかにすること以上の要求を突きつけられていることを意味するものである、と受け止めています。
これまで(コラム#2123等で)何度も申し上げていることですが、この発言は、ブッシュ政権が一貫して北朝鮮の体制変革を追求してきているとの私の指摘を改めて裏付けるものです。
2 対イラン
一方、イランの核問題については、ブッシュ大統領は、「もしイランが核兵器を保有することになれば、世界平和にとって危険な脅威となろう。だから私は、第三次世界大戦を予防しようというのなら、彼らが核兵器をつくるために必要な知識を獲得することを防止しようとすべきだと主張してきた。・・私は核兵器を持ったイランの脅威を極めて深刻に受け止めている」と述べています。
「第三次世界大戦」というのは極めて強い表現であり、イランに対して軍事行動をとる選択肢を留保していることを示唆したものであると受け止められています。
(以上、
http://www.nytimes.com/2007/10/17/washington/17cnd-prexy.html?hp=&pagewanted=print
(10月18日アクセス)による。)
しかし、これまた(コラム#2123等で)何度も申し上げてきているように、ブッシュの残任期中の米国の対イラン攻撃はありません。
ありえないのです。
現在米国の軍部には、反ブッシュ政権の気運が漲っています。
一番最近では、2003年半ばから約1年間在イラク米軍総司令官を勤め、現在は退役しているサンチェス元米陸軍中将が、10月12日、ブッシュ政権の指導者達を無能で腐敗しているとし、イラク占領政策の失敗は、職務怠慢の極みであり、軍人であったら軍法会議にかけられてしかるべきだと激しく非難したことが話題になりました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202459_pf.html、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7042805.stm
(どちらも10月14日アクセス)による)。
それに以前(コラム#2074で)、「仮にブッシュ=チェイニー・ラインがイラン攻撃を命じたとしても、ゲーツ<米国防長官>は自らこのことをリークし、或いは制服幹部達がこのことをリークするのを黙認することによって、この命令を覆すことを目論むでしょうし、それで覆せなければ、今度はファロンが公然と異論を唱えて辞表を叩き付けることでしょう」と述べたところ、私の指摘を裏付ける、要旨以下のようなコラムがスレート誌に掲載されました。
イラクの反省の上に立ち、今度、(将官達の間では絶対にやってはならないというコンセンサスができているところの)イラン攻撃を大統領から命ぜられた時にどうすべきか、侃々諤々の議論が米軍人達の間でなされてきた。
合法的な命令には服さなければならないので、命令に服するのを頭から拒否するわけにはいかないというのが大前提だが、その上でどうすべきかについて、ようやく以下のようなコンセンサスができつつある。
この種の軍事的にばかげた命令(注2)を大統領から受け、その命令に服すことが米国の安全保障を危うくすると信じた場合、軍人は、大統領に翻意を促す、プレスにリークする、学術論文を上梓してその中に主張を織り込む、議会でやらせ質問をしくんで言いたいことを証言する、こういったことを多数が一緒になってやる、と次第にエスカレートさせていき、それでもダメなら、辞任(resigning)するか何人かで一斉に退役(retiring)すると大統領に訴える(注3)、この辞任ないし退役を実行する、更に辞任ないし退役後速やかに声を挙げる、というものだ。
(以上、
http://www.slate.com/id/2176122/
(10月18日アクセス)による。)
(注2)「政治的に」ばかげた命令ではないことに注意。なお軍事的にばかげた命令には、誤った情報ないし歪曲された情報に基づいて大統領が発出した命令を含む。
(注3)辞任と退役は全く違う。退役する場合は、医療サービス受給資格や士官クラブ会員資格等の便宜供与を引き続き受けることができるが、辞任すればこれら一切を擲つことになる。だからこそ、この40年来、辞任した将官は一人もいない。
イラン攻撃はありえない、と信じていただけましたか?
------------------------------------------------------------------
有料版のコラム#2132(2007.10.18)「報道の自由「後進国」の日本・再訪」のさわりの部分をご紹介しておきます。
コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://my.formman.com/form/pc/3NwnFLCP76BGd3Ij/
・・
・・今年も国際的NGOの「国境なき記者団」が「2007年世界報道自由度ランキング」を発表しました。
それによると、調査対象169カ国中、昨年51位だった日本が37位に上昇し、31位だった韓国は39位に下がりました。
・・
「2007年世界報道自由度ランキング」の原典・・にあたってみたところ、・・日本には閉鎖的な記者クラブ制度があること<等>が挙げられていました。
これらは一貫して日本が批判されている点です(コラム#936参照)。
・・
記者クラブの存在による病理であると最近思えてならないのが、防衛記者クラブ会員社であるところの新聞社やTV局等の主要マスコミが、どこもほとんどと言ってよいほど防衛省不祥事を取り上げていないことです。
・・
その結果、おかしなことが起こっています。
民主党が、・・防衛省の守屋武昌前事務次官の証人喚問を要求したのですが、守屋氏を証人喚問する理由が、氏が防衛局長時代に海上自衛隊のインド洋での給油活動での給油量の訂正や航海日誌の破棄などが相次いだことへの責任を問うためだけだというのです・・。
・・せっかく守屋氏を証人喚問するのであれば、少なくとも併せて防衛省不祥事についても問い質すべきでしょう。
・・
民主党が取り上げようとしない最大にして唯一の理由は、主要マスコミが本件をいまだに報道していないことだと私は見ているのです。
・・
コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://my.formman.com/form/pc/3NwnFLCP76BGd3Ij/
<ブッシュとイラン・北朝鮮の核問題>
1 始めに
ブッシュ大統領は17日の記者会見で、北朝鮮とイランに対する厳しい見解を表明しました。
それぞれをどう受け止めるか、私見を申し述べたいと思います。
2 対北朝鮮
ブッシュ米大統領は、北朝鮮の核問題に関し、「北朝鮮は核拡散活動に関するすべての申告とともに、プルトニウム、(核)兵器をどれくらい生産したのか完全な申告を行<わなければならない>」と述べるとともに、「6<か国>協議では、拡散問題は兵器の問題と同等の重みを持っている」と強調し、「北朝鮮が合意を守らなければ、代償を払うことになる」とくぎを刺しました(注1)(
http://www.asahi.com/international/update/1018/TKY200710170368.html
。10月18日アクセス)。
(注1)10月3日に発表された6か国協議の合意文書では「すべての核計画の完全で正しい申告を年内に行う」とされたが、具体的な中身には触れていない。北朝鮮の6か国協議首席代表の金桂寛外務次官は、先月の6か国協議の際に開かれた韓国との協議等で、年内に行う申告に核兵器を含めない考えを示していた。
朝鮮日報は、「最近米国で北朝鮮に対しあまりにも譲歩し過ぎているのではないかという世論が巻き起こっているのを意識した<発言の>ようにみえる。」と論評しています(
http://www.chosunonline.com/article/20071018000000
。10月18日アクセス)。
しかし私は、このブッシュ発言は、北朝鮮が核計画の全貌を明らかにしなければならないということを明確に述べたものであり、シリアへの核協力といった弱みを抱えている北朝鮮としては、日本人拉致問題の全貌を明らかにすること以上の要求を突きつけられていることを意味するものである、と受け止めています。
これまで(コラム#2123等で)何度も申し上げていることですが、この発言は、ブッシュ政権が一貫して北朝鮮の体制変革を追求してきているとの私の指摘を改めて裏付けるものです。
2 対イラン
一方、イランの核問題については、ブッシュ大統領は、「もしイランが核兵器を保有することになれば、世界平和にとって危険な脅威となろう。だから私は、第三次世界大戦を予防しようというのなら、彼らが核兵器をつくるために必要な知識を獲得することを防止しようとすべきだと主張してきた。・・私は核兵器を持ったイランの脅威を極めて深刻に受け止めている」と述べています。
「第三次世界大戦」というのは極めて強い表現であり、イランに対して軍事行動をとる選択肢を留保していることを示唆したものであると受け止められています。
(以上、
http://www.nytimes.com/2007/10/17/washington/17cnd-prexy.html?hp=&pagewanted=print
(10月18日アクセス)による。)
しかし、これまた(コラム#2123等で)何度も申し上げてきているように、ブッシュの残任期中の米国の対イラン攻撃はありません。
ありえないのです。
現在米国の軍部には、反ブッシュ政権の気運が漲っています。
一番最近では、2003年半ばから約1年間在イラク米軍総司令官を勤め、現在は退役しているサンチェス元米陸軍中将が、10月12日、ブッシュ政権の指導者達を無能で腐敗しているとし、イラク占領政策の失敗は、職務怠慢の極みであり、軍人であったら軍法会議にかけられてしかるべきだと激しく非難したことが話題になりました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202459_pf.html、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7042805.stm
(どちらも10月14日アクセス)による)。
それに以前(コラム#2074で)、「仮にブッシュ=チェイニー・ラインがイラン攻撃を命じたとしても、ゲーツ<米国防長官>は自らこのことをリークし、或いは制服幹部達がこのことをリークするのを黙認することによって、この命令を覆すことを目論むでしょうし、それで覆せなければ、今度はファロンが公然と異論を唱えて辞表を叩き付けることでしょう」と述べたところ、私の指摘を裏付ける、要旨以下のようなコラムがスレート誌に掲載されました。
イラクの反省の上に立ち、今度、(将官達の間では絶対にやってはならないというコンセンサスができているところの)イラン攻撃を大統領から命ぜられた時にどうすべきか、侃々諤々の議論が米軍人達の間でなされてきた。
合法的な命令には服さなければならないので、命令に服するのを頭から拒否するわけにはいかないというのが大前提だが、その上でどうすべきかについて、ようやく以下のようなコンセンサスができつつある。
この種の軍事的にばかげた命令(注2)を大統領から受け、その命令に服すことが米国の安全保障を危うくすると信じた場合、軍人は、大統領に翻意を促す、プレスにリークする、学術論文を上梓してその中に主張を織り込む、議会でやらせ質問をしくんで言いたいことを証言する、こういったことを多数が一緒になってやる、と次第にエスカレートさせていき、それでもダメなら、辞任(resigning)するか何人かで一斉に退役(retiring)すると大統領に訴える(注3)、この辞任ないし退役を実行する、更に辞任ないし退役後速やかに声を挙げる、というものだ。
(以上、
http://www.slate.com/id/2176122/
(10月18日アクセス)による。)
(注2)「政治的に」ばかげた命令ではないことに注意。なお軍事的にばかげた命令には、誤った情報ないし歪曲された情報に基づいて大統領が発出した命令を含む。
(注3)辞任と退役は全く違う。退役する場合は、医療サービス受給資格や士官クラブ会員資格等の便宜供与を引き続き受けることができるが、辞任すればこれら一切を擲つことになる。だからこそ、この40年来、辞任した将官は一人もいない。
イラン攻撃はありえない、と信じていただけましたか?
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有料版のコラム#2132(2007.10.18)「報道の自由「後進国」の日本・再訪」のさわりの部分をご紹介しておきます。
コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://my.formman.com/form/pc/3NwnFLCP76BGd3Ij/
・・
・・今年も国際的NGOの「国境なき記者団」が「2007年世界報道自由度ランキング」を発表しました。
それによると、調査対象169カ国中、昨年51位だった日本が37位に上昇し、31位だった韓国は39位に下がりました。
・・
「2007年世界報道自由度ランキング」の原典・・にあたってみたところ、・・日本には閉鎖的な記者クラブ制度があること<等>が挙げられていました。
これらは一貫して日本が批判されている点です(コラム#936参照)。
・・
記者クラブの存在による病理であると最近思えてならないのが、防衛記者クラブ会員社であるところの新聞社やTV局等の主要マスコミが、どこもほとんどと言ってよいほど防衛省不祥事を取り上げていないことです。
・・
その結果、おかしなことが起こっています。
民主党が、・・防衛省の守屋武昌前事務次官の証人喚問を要求したのですが、守屋氏を証人喚問する理由が、氏が防衛局長時代に海上自衛隊のインド洋での給油活動での給油量の訂正や航海日誌の破棄などが相次いだことへの責任を問うためだけだというのです・・。
・・せっかく守屋氏を証人喚問するのであれば、少なくとも併せて防衛省不祥事についても問い質すべきでしょう。
・・
民主党が取り上げようとしない最大にして唯一の理由は、主要マスコミが本件をいまだに報道していないことだと私は見ているのです。
・・
コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://my.formman.com/form/pc/3NwnFLCP76BGd3Ij/
太田述正コラム#2069(2007.9.17)
<退行する米国(続x3)(その1)>(2007.10.18公開)
1 始めに
退行する米国シリーズでは、ブッシュの(日本にも関わる)ひどい演説の話から出発して米国のファシスト国家化という深刻な結論に到達したわけですが、今後ともこのテーマは機会あるごとにとりあげていきたいと思っています。
今回は、経済学者のグリーンスパンとライシュのブッシュ批判に触れたいと思います。
2 グリーンスパン
グリーンスパン(Alan Greenspan。1926年〜)は、言わずと知れた、1987年から2006年にかけての18年間、米連邦準備制度理事会議長を見事に勤めあげた経済学者(注1)です。
(注1)ユダヤ系。ジュリアード音楽院でクラリネットを学び、一流のジャズ奏者と競演したというユニークな経歴を持つ。ニューヨーク大学で経済学の学士号、修士号を取得した後、コロンビア大学の博士課程に入学するもドロップアウト。学位論文も書いていない(?)のに、1977年にニューヨーク大学から博士号(Ph.D.)を授与される。彼は、哲学者でかつ文学者であるランド(Ayn Rand。1905〜82年)女史の客観主義(Objectionism)哲学の熱心な弟子でもある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Greenspan
。9月17日アクセス)。
ちなみに、ランドもユダヤ系であり、ソ連のペトログラード(サンクト・ペテルブルグ)大学を卒業した後21歳の時に米国に亡命し、ハリウッドの脚本書きから出発し、在野の哲学者・文学者として生涯を終えた。彼女の客観主義哲学については、私はその内容をつまびらかにしないが、毀誉褒貶が激しいらしい。いずれにせよ、米陸軍士官学校の卒業式の祝辞の中で彼女は、「米合衆国は、その建国理念において、世界史上、最も偉大で最も高貴で、唯一の道義的な国家であると私は断言できます」と述べたというのだから、私としては、彼女の客観主義哲学なるものは、敬して遠ざけることとしたい(http://en.wikipedia.org/wiki/Ayn_Rand
。9月17日アクセス)。
グリーンスパンは共和党支持者でもあるのですが、彼がこのたび自叙伝'The Age of Turbulence'を上梓し、その中でブッシュ大統領と共和党を激しく批判していることが話題になっています。
すなわちグリーンスパンは、クリントンの財政政策とは違ってブッシュの財政政策は、政治的ウケ狙いの放漫財政であり、共和党は、財政規律を権力追求のために犠牲にし、その結果、昨年の上下両院選挙でその両方とも失ってしまった、と力説しているのです(注2)。
(以上、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/features/books/la-na-greenspan15sep15,0,6425254,print.story?coll=la-books-headlines
(9月16日アクセス)による。
(注2)グリーンスパンが、対イラク戦の本当の目的は石油だったはずだと書いたことも話題になっている。彼によれば、大量破壊兵器疑惑はタテマエとしての対イラク戦開戦理由に過ぎず、開戦の本当の目的が、サダム・フセインがホルムズ海峡を閉鎖して、世界の石油市場を大混乱に陥らせるようなことがないようにするためだったことは明白だ、というのだ。(
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2170661,00.html
。9月17日アクセス)
3 ライシュ
ライシュ(Robert Reich。1946年〜)カリフォルニア大学バークレー校教授は、クリントン時代の1993〜97年に労働長官を勤めた、日本でもおなじみの経済学者です。
彼が、このたび上梓した'Supercapitalism: The Transformation of Business, Democracy and Everyday Life'は、直接ブッシュ大統領を批判しているわけではありませんが、米国における所得と富の不平等化、雇用不安定性の増大、地球温暖化の放置を問題視している、という意味ではこれは、まぎれもないブッシュ批判の本であると言えるでしょう。
(続く)
<退行する米国(続x3)(その1)>(2007.10.18公開)
1 始めに
退行する米国シリーズでは、ブッシュの(日本にも関わる)ひどい演説の話から出発して米国のファシスト国家化という深刻な結論に到達したわけですが、今後ともこのテーマは機会あるごとにとりあげていきたいと思っています。
今回は、経済学者のグリーンスパンとライシュのブッシュ批判に触れたいと思います。
2 グリーンスパン
グリーンスパン(Alan Greenspan。1926年〜)は、言わずと知れた、1987年から2006年にかけての18年間、米連邦準備制度理事会議長を見事に勤めあげた経済学者(注1)です。
(注1)ユダヤ系。ジュリアード音楽院でクラリネットを学び、一流のジャズ奏者と競演したというユニークな経歴を持つ。ニューヨーク大学で経済学の学士号、修士号を取得した後、コロンビア大学の博士課程に入学するもドロップアウト。学位論文も書いていない(?)のに、1977年にニューヨーク大学から博士号(Ph.D.)を授与される。彼は、哲学者でかつ文学者であるランド(Ayn Rand。1905〜82年)女史の客観主義(Objectionism)哲学の熱心な弟子でもある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Greenspan
。9月17日アクセス)。
ちなみに、ランドもユダヤ系であり、ソ連のペトログラード(サンクト・ペテルブルグ)大学を卒業した後21歳の時に米国に亡命し、ハリウッドの脚本書きから出発し、在野の哲学者・文学者として生涯を終えた。彼女の客観主義哲学については、私はその内容をつまびらかにしないが、毀誉褒貶が激しいらしい。いずれにせよ、米陸軍士官学校の卒業式の祝辞の中で彼女は、「米合衆国は、その建国理念において、世界史上、最も偉大で最も高貴で、唯一の道義的な国家であると私は断言できます」と述べたというのだから、私としては、彼女の客観主義哲学なるものは、敬して遠ざけることとしたい(http://en.wikipedia.org/wiki/Ayn_Rand
。9月17日アクセス)。
グリーンスパンは共和党支持者でもあるのですが、彼がこのたび自叙伝'The Age of Turbulence'を上梓し、その中でブッシュ大統領と共和党を激しく批判していることが話題になっています。
すなわちグリーンスパンは、クリントンの財政政策とは違ってブッシュの財政政策は、政治的ウケ狙いの放漫財政であり、共和党は、財政規律を権力追求のために犠牲にし、その結果、昨年の上下両院選挙でその両方とも失ってしまった、と力説しているのです(注2)。
(以上、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/features/books/la-na-greenspan15sep15,0,6425254,print.story?coll=la-books-headlines
(9月16日アクセス)による。
(注2)グリーンスパンが、対イラク戦の本当の目的は石油だったはずだと書いたことも話題になっている。彼によれば、大量破壊兵器疑惑はタテマエとしての対イラク戦開戦理由に過ぎず、開戦の本当の目的が、サダム・フセインがホルムズ海峡を閉鎖して、世界の石油市場を大混乱に陥らせるようなことがないようにするためだったことは明白だ、というのだ。(
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2170661,00.html
。9月17日アクセス)
3 ライシュ
ライシュ(Robert Reich。1946年〜)カリフォルニア大学バークレー校教授は、クリントン時代の1993〜97年に労働長官を勤めた、日本でもおなじみの経済学者です。
彼が、このたび上梓した'Supercapitalism: The Transformation of Business, Democracy and Everyday Life'は、直接ブッシュ大統領を批判しているわけではありませんが、米国における所得と富の不平等化、雇用不安定性の増大、地球温暖化の放置を問題視している、という意味ではこれは、まぎれもないブッシュ批判の本であると言えるでしょう。
(続く)
2007年10月16日
太田述正コラム#2065(2007.9.15)
<退行する米国(続々)(その3)>(2007.10.16公開)
<補注2>
1 始めに
ブッシュひいてはテキサス人の特異性を(コラム#2029で)指摘したところですが、このあたりのことをもう少し掘り下げてみましょう。
2 テキサスと死刑
テキサスは、住民の四分の三近くが死刑に賛成しているめずらしい州です。
何せ、1976年以来全米で1,000人ちょっとが死刑を執行されていますが、そのうちテキサスだけで半分近くを占めているのです。
ブッシュが知事であった6年間に152人の死刑執行を行いましたが、これは彼の後任のペリー(Rick Perry)知事に次ぐ、全米知事の最高記録です。
現在、全米50州中11州で死刑制度が廃止されており、4州で死刑の執行が停止されています。そして更に1州(ニュージャージー)で死刑制度が廃止されようとしています。
死刑制度が廃止されたり死刑執行が停止されるケースが増えてきているのは、人道的理由からだけではありません。
一つには今では、死刑にする方が完全終身刑にするよりはるかに沢山カネがかかることです。
例えば、北カロライナでは、200万ドルも余計にかかります。
というのは、通常の囚人ならメシを食わせて看守をつけておけば事足りるのですが、死刑囚には弁護士をつけて、長年にわたって無実の人間を死刑にするようなことにならないかを議論しなければならないからです。
例えばメリーランドの場合、死刑制度があるために、1978年から計算すると2,240万ドル余分の出費を強いられているというのです。これだけのカネがあったら、毎年500人追加的に警官を雇うことができ、あるいは1万人のヤク中毒者の治療ができる勘定なのだそうです。しかも、このような用途にカネを使えば、それは確実に命を救ったり暴力犯罪を予防することにつながる、というわけです。
ただ、メリーランドの上院では死刑廃止案は今年5対5の同数で先送りになりました。
二つには、今や死刑には犯罪抑止力がないことです。
2005年の数字で、死刑制度がある州の方がない州より、州民一人あたり46%も殺人が多いことです。しかもこの差は、1990年以来広がってきています。
そもそも、とっくの昔に死刑制度を廃止した西欧諸国より米国の方が殺人ははるかに多いのです。
しかも、殺人を犯した者の99%以上は死刑宣告を免れており、宣告された者も、毎年その2%しか刑を執行されていないのに対し、ヤク密売人の殺害率は年7%であり、死刑囚になる方がシャバにいるより安全だというのですから何をかいわんやです。
(以上、
http://economist.com/PrinterFriendly.cfm?story_id=9719806
(9月5日アクセス)による。)
このように見てくると、テキサス人は死刑が大好きだから死刑制度を存続させ、死刑を乱発している、としか考えられませんね。
まことにテキサスは異常な州なのです。
3 ブッシュの人柄
テキサス人のブッシュは、以前は人生も大統領職も軽く考えるようなだらしなくてのんびりした人物だったが、大統領になってからは細部にこだわる人物へと一変した。
ホワイトハウスにいる時には、クリントンはくつろいだ服装をすることを好んだが、ブッシュは背広とネクタイ着用にこだわる。それに、時間厳守だ。一度パウエル国務長官が閣議に遅れた時には、ブッシュは部屋に入れなかったことがある。
夜は9時に就寝し、朝7時から仕事を始め、15分刻みで精力的に仕事をこなしていく。
欠かせないのは一日2時間のサイクリングだ。
カトリーナ災害が起こった時、サイクリングの直後で消耗しきっていたために禄に質問もできず恥をかいたのはよく知られている。9.11同時多発テロの前日にブッシュの頭の中を占めていたのは、サイクリングで1マイル7分を切ることだった。
警護官はたまったものではない。
全速でサイクリングをするブッシュを同じマウンテンバイクに乗って伴走しなければならないし、ブッシュのでかける先にあらかじめ行ってサイクリング・コースを決定した上で、自転車が走る道を平らにしたり雑草をむしったりしておかなければならないからだ。
ブッシュは一旦決心をするとテコでも動かなくなる。また、一旦決心をするとその後がどうなろうとほとんど関心を示さなくなる。
ブッシュの記憶力はすこぶる弱い。
ブッシュの辞書に失敗という言葉はないので、悪いニュースをブッシュに伝えると大変なことになる。だから、側近達は悪いニュースはなるだけブッシュには伝えないようにしている。
(以上、
http://books.guardian.co.uk/departments/biography/story/0,,2168980,00.html
(9月15日アクセス)による。)
いやはや、ブッシュはスタイルが変わっただけで、ハーバード・ビジネススクールの時のままの悪ガキですね。
お坊ちゃんの安倍首相の方が、まだはるかによいのではないでしょうか。
それに何と言っても、ブッシュはイラクだけで一般住民を100万人も殺した(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq14sep14,1,3270284,print.story?coll=la-headlines-world
。9月15日アクセス)けれど、安倍首相はただの一人も殺していませんからね。
(完)
<退行する米国(続々)(その3)>(2007.10.16公開)
<補注2>
1 始めに
ブッシュひいてはテキサス人の特異性を(コラム#2029で)指摘したところですが、このあたりのことをもう少し掘り下げてみましょう。
2 テキサスと死刑
テキサスは、住民の四分の三近くが死刑に賛成しているめずらしい州です。
何せ、1976年以来全米で1,000人ちょっとが死刑を執行されていますが、そのうちテキサスだけで半分近くを占めているのです。
ブッシュが知事であった6年間に152人の死刑執行を行いましたが、これは彼の後任のペリー(Rick Perry)知事に次ぐ、全米知事の最高記録です。
現在、全米50州中11州で死刑制度が廃止されており、4州で死刑の執行が停止されています。そして更に1州(ニュージャージー)で死刑制度が廃止されようとしています。
死刑制度が廃止されたり死刑執行が停止されるケースが増えてきているのは、人道的理由からだけではありません。
一つには今では、死刑にする方が完全終身刑にするよりはるかに沢山カネがかかることです。
例えば、北カロライナでは、200万ドルも余計にかかります。
というのは、通常の囚人ならメシを食わせて看守をつけておけば事足りるのですが、死刑囚には弁護士をつけて、長年にわたって無実の人間を死刑にするようなことにならないかを議論しなければならないからです。
例えばメリーランドの場合、死刑制度があるために、1978年から計算すると2,240万ドル余分の出費を強いられているというのです。これだけのカネがあったら、毎年500人追加的に警官を雇うことができ、あるいは1万人のヤク中毒者の治療ができる勘定なのだそうです。しかも、このような用途にカネを使えば、それは確実に命を救ったり暴力犯罪を予防することにつながる、というわけです。
ただ、メリーランドの上院では死刑廃止案は今年5対5の同数で先送りになりました。
二つには、今や死刑には犯罪抑止力がないことです。
2005年の数字で、死刑制度がある州の方がない州より、州民一人あたり46%も殺人が多いことです。しかもこの差は、1990年以来広がってきています。
そもそも、とっくの昔に死刑制度を廃止した西欧諸国より米国の方が殺人ははるかに多いのです。
しかも、殺人を犯した者の99%以上は死刑宣告を免れており、宣告された者も、毎年その2%しか刑を執行されていないのに対し、ヤク密売人の殺害率は年7%であり、死刑囚になる方がシャバにいるより安全だというのですから何をかいわんやです。
(以上、
http://economist.com/PrinterFriendly.cfm?story_id=9719806
(9月5日アクセス)による。)
このように見てくると、テキサス人は死刑が大好きだから死刑制度を存続させ、死刑を乱発している、としか考えられませんね。
まことにテキサスは異常な州なのです。
3 ブッシュの人柄
テキサス人のブッシュは、以前は人生も大統領職も軽く考えるようなだらしなくてのんびりした人物だったが、大統領になってからは細部にこだわる人物へと一変した。
ホワイトハウスにいる時には、クリントンはくつろいだ服装をすることを好んだが、ブッシュは背広とネクタイ着用にこだわる。それに、時間厳守だ。一度パウエル国務長官が閣議に遅れた時には、ブッシュは部屋に入れなかったことがある。
夜は9時に就寝し、朝7時から仕事を始め、15分刻みで精力的に仕事をこなしていく。
欠かせないのは一日2時間のサイクリングだ。
カトリーナ災害が起こった時、サイクリングの直後で消耗しきっていたために禄に質問もできず恥をかいたのはよく知られている。9.11同時多発テロの前日にブッシュの頭の中を占めていたのは、サイクリングで1マイル7分を切ることだった。
警護官はたまったものではない。
全速でサイクリングをするブッシュを同じマウンテンバイクに乗って伴走しなければならないし、ブッシュのでかける先にあらかじめ行ってサイクリング・コースを決定した上で、自転車が走る道を平らにしたり雑草をむしったりしておかなければならないからだ。
ブッシュは一旦決心をするとテコでも動かなくなる。また、一旦決心をするとその後がどうなろうとほとんど関心を示さなくなる。
ブッシュの記憶力はすこぶる弱い。
ブッシュの辞書に失敗という言葉はないので、悪いニュースをブッシュに伝えると大変なことになる。だから、側近達は悪いニュースはなるだけブッシュには伝えないようにしている。
(以上、
http://books.guardian.co.uk/departments/biography/story/0,,2168980,00.html
(9月15日アクセス)による。)
いやはや、ブッシュはスタイルが変わっただけで、ハーバード・ビジネススクールの時のままの悪ガキですね。
お坊ちゃんの安倍首相の方が、まだはるかによいのではないでしょうか。
それに何と言っても、ブッシュはイラクだけで一般住民を100万人も殺した(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq14sep14,1,3270284,print.story?coll=la-headlines-world
。9月15日アクセス)けれど、安倍首相はただの一人も殺していませんからね。
(完)


