カテゴリ: 北朝鮮

太田述正コラム#3182(2009.3.29)
<テポドン狂騒曲(その2)>(2009.5.13公開)

<補注>

 「・・・PACの発射機1基が防護できるのは半径約20キロで、秋田市や盛岡市など県庁所在地周辺の防護に限られる。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090329/plc0903290839004-n1.htm
(3月29日アクセス)
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 「・・・日本は、1998年に北朝鮮が長距離のテポドン1(Taepodong-1)ミサイルを日本列島を越えて太平洋へと発射したことで世界を驚かして以来、ミサイル防衛兵器への投資を始めた。・・・
 この発射と2006年の再度のミサイルのテストは日本に警戒心を呼び起こし、日本は米国製の弾道ミサイル防衛諸システムに大々的に投資を続けてきた。
 北朝鮮は、・・・日本のどこにでも打ち込める200基の中距離ミサイル・ノドンを持っている。
 ミサイルの専門家達の間では、日本の対ミサイル網・・海対空のイージスミサイルと陸対空のパトリオットロケットの組み合わせ・・でノドンの攻撃の際に同国を守れるか疑問の声がある。
 マサチューセッツ工科大学の科学技術・安全保障政策教授のテオドール・ポストル(Theodore Postol)は、ミサイルシステムの専門家だが、「<日本のミサイル網は、>到底その任にあらず」と言っている。」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/27/AR2009032700501.html

 「・・・北朝鮮は、核弾頭を弾道ミサイルに装着できるようになっているかもしれない」と米国防情報庁(Defense Intelligence Agency)長官のマイケル・D・メープルズ(Michael D. Maples)中将は乗員軍事委員会での今年の証言で述べた。
 ワシントンにある科学と国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security)の主宰者で物理学者かつ核兵器専門家のデーヴィッド・オルブライト(David Albright)は、北朝鮮は、日本を標的とする中距離ミサイルのための「初歩的な核弾頭をつくることができると思われる」と記している。
 専門家達は、北朝鮮が米国に打ち込むことができる長距離ミサイルに核弾頭を装着できるようになるまでは恐らく何年もかかるだろうという点で一致している。・・・
 韓国政府と日本政府はまだ北朝鮮が核弾頭を小型化することに成功していないと言っている。
 しかし、日本の防衛省は北朝鮮は、それに成功するのがそう遠くないかもしれないと結論づけている。・・・
 ・・・テオドール・ポストルは、・・・北朝鮮が、実験で検証されていないところの、2006年の核実験の時と同程度の比較的小さな核爆発を起こすことができる、初歩的な型式の弾頭をつくった可能性が全くないわけではないと述べた。
 それは、TNT換算で数百トンの威力があるかもしれない。
 (他方、<米国やロシアが保有しているところの>高度の核弾頭の25キロトンの破壊的威力はこれより何乗も優っている。)
 <よって>ポストルは、北朝鮮は、4フィートほどの直径があり約2,200ポンドの重さのものを搭載できるノドン・ミサイルに装着できるような小さくて軽い弾頭をつくることができると推測している。・・・
 北朝鮮のミサイル及びミサイル技術の最も初期からの、かつ最も忠実な顧客はイランだ。・・・
 先月、イランは長距離のサフィール(Safir)ミサイルを発射し、小さな衛星を軌道に乗せることに<初めて>成功した。
 このミサイルは、北朝鮮によって提供されたミサイル部品と技術的支援に拠っている。 同様、パキスタンの、核弾頭を搭載できる中距離のガウリ(Ghauri)ミサイルは、実際には、北朝鮮のノドンの名前を変えただけのものだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/26/AR2009032600414_pf.html

 「・・・そもそも日本にとっての脅威は、日本列島を射程に収める中距離弾道ミサイル・ノドンだ。北朝鮮の長距離ミサイルが脅威となるのは、グアムやハワイ、アラスカなどが射程に入る米国である。・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090327-OYT1T01328.htm
(3月28日アクセス)

→肝心なことを言っている日本のメディアの電子版は、この讀賣の社説くらいなものです。ノドン200基は、日本だけを念頭に置いたミサイルであり、もちろんすべて弾頭付きであり、中には核弾頭付きのものが複数あるかもしれない、ということについて騒ぐのであればそれなりに分からないでもありませんが、弾頭のついていないテポドンの試射に騒ぐ、というのは私には全く理解できません。
 もとより、米国が、テポドン2はグアムやアラスカ、米本土太平洋岸に打ち込める、というので騒ぐのは分かります。
 日本は米国の属国だからこそ騒がされている、という自覚をわれわれは持つ必要があります。(太田)

3 終わりに

 日本が整備しているイージス艦搭載SM3とPAC3からなるミサイル防衛網は、巨額の経費をかけているところの、現在の整備計画が完成した暁にも、北朝鮮の大量のノドンの脅威から日本の人口密集地全体を守るためには、質量ともに不足しており、ほとんど無効であるということです。
 では、どうして日本はそんなものを米国に整備させられているのでしょうか。
 日本のミサイル防衛網中の、SM3搭載イージス艦は、北朝鮮のノドンやテポドンの軌道の追跡に有効であるというのが第1点です。
 日本のミサイル防衛網中のPAC3は、大量に飛来するノドンに対しても、在日米軍基地だけを守るのであれば、それなりの効果があるというのが第2点です。
 そして、日本列島を越えてグアムやハワイの米軍基地に向けて発射される、ごく少数のテポドンに対してなら、SM3もそれなりの効果がある、というのが第3点です。
 これに加えて、日本は、そのカネと技術力を米国に吸い上げられ、SM3の後継ミサイルの共同開発をさせられています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E9%98%B2%E8%A1%9B上掲
 このように、日本は、ミサイル防衛においても、属国として宗主国米国に徹底的に収奪されている、と考えるべきなのです。 

(完)

太田述正コラム#3180(2009.3.28)
<テポドン狂騒曲(その1)>(2009.5.12公開)

1 始めに

 表記について、事実関係を押さえた上で、それぞれについて所見を述べ、最後に総括をしたいと思います。

2 事実関係

 「北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2」とみられる機体の発射準備を進めていることを受け、政府は27日、<本来開く必要のない>安全保障会議(議長・麻生首相)を開き、ミサイルが日本の領土・領海に落下する場合に備え、自衛隊法に基づく「弾道ミサイル破壊措置命令」を初めて発令することを決めた。これを受け、浜田防衛相は自衛隊に対し、破壊措置命令を発令した。
 発令は4月10日まで。北朝鮮は4月4〜8日の午前11時〜午後4時の間に、「人工衛星を運搬するロケット」の発射を予告している。
 河村官房長官は安保会議後の記者会見で「通常は領域内に落下することはない」との見方を示したうえで、「国民には通常の生活を送っていただきたい。万万が一に備え警戒態勢をとる」と述べた。
 破壊措置命令には(1)「日本に飛来する恐れがある」時に閣議決定を経て防衛相が命じる(自衛隊法82条の2第1項)(2)「日本に飛来する恐れがあるとは認められない」が、事態の急変に備え、あらかじめ防衛相の判断で原則非公表で命じる(同第3項)――の2種類がある。
 政府は今回、飛来する恐れは認められないが、「事故が発生したら≪・・ミサイルの1段目は正常に飛行した後、2段目が故障し、失速して・・・落下するなど、偶然が重なる、極めて限られたケース<だが>・・≫<日本の領土・領海に>落下する場合がある」(河村氏)と判断し、3項を選択。河村氏は非公表としてきた3項による破壊命令を公表した理由について(1)北朝鮮の事前通知があった(2)国民の不安を和らげるためできるだけ説明する必要があった――の2点を挙げた。
 迎撃や情報収集に備え、政府はイージス艦「ちょうかい」「こんごう」の2隻を日本海に、イージス艦「きりしま」を太平洋に配備する。日本海に配備される2隻は、迎撃用の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載済み。
 迎撃用の地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)は首都圏とミサイルが上空を通過するとみられる東北地方の計5カ所(陸上自衛隊の秋田、岩手、朝霞各駐屯地、航空自衛隊の習志野分屯基地、市ケ谷基地)に配備する。・・・」
http://www.asahi.com/politics/update/0327/TKY200903270033.html
(ただし、≪≫内は
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090327-OYT1T01328.htm
による。3月28日アクセス。以下同じ。)

→米軍は三沢、首都圏、沖縄本島に駐留していますが、最初の2箇所を航空自衛隊のPAC3で、最後の1箇所については、嘉手納地区に配備されている米陸軍のPAC3
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%ABで対処する、ということです。これは、テポドンならぬ、ノドン(後述)が一部核弾頭付(?)で日本の米軍基地めがけて撃ち込まれる場合を想定した大規模演習をやろうというわけです。(太田)

 「<残骸を撃墜しても破片が散らばるだけではないか、との質問に対し、>・・・浜田靖一防衛相も「そのまま落ちてきた方が被害は大きい。宇宙空間で当たれば燃え尽きてほとんど落ちてこない。まず破壊することで規模を小さくするのが重要だ」と強調し、理解を求めた。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090326/plc0903261851015-n1.htm

→爆弾を積んでもいないミサイルないしその残骸を撃墜するなんてそもそもばかげています。あてられた側の破片が生じるだけでなく、迎撃ミサイルの破片も生じますし、一発必中とはいかないので、複数の迎撃ミサイルの破片が降り注いできます。迎撃ミサイルが命中ないし爆発した高度にもよるでしょうが、そのかなりの部分は、燃え尽きずに地上に落下すると考えられます。もっと政府は丁寧に説明すべきです。(太田)

 「・・・政府筋は23日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合に備える日本のミサイル防衛(MD)システムについて、「(事前予告がなければ、ミサイル発射から)7、8分たったら、浜田靖一防衛相から麻生太郎首相の所に報告に行ったら終わってる」と述べ、政府内での迎撃手続きに時間がかかると、撃ち落とすチャンスがなくなるとの見方を示した。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090324/plc0903240020000-n1.htm
 「・・・河村建夫官房長官は24日午前の記者会見で、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合に備える日本のミサイル防衛(MD)システムに関連し、政府筋が「いきなり撃たれたら当たらない」と発言したことについて「政府としては国民の安全を確保することに最善を尽くす。そういう懸念は持っていない」と強調した。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090324/plc0903241054002-n1.htm

→「今週初め、鴻池祥肇内閣官房副長官が、予め分かっていない軌跡をとる、残骸のような場合、これに<迎撃ミサイルを>命中させられる可能性は極めて低いと言った」と報じられており、
http://edition.cnn.com/2009/WORLD/asiapcf/03/27/north.korea.us.ships/index.html
最初の二つの政府筋も、どちらも鴻池副長官ではないでしょうか。
 最初の二つの発言は不勉強丸出しの間違いですし、最後の発言だって言うべきことではありません。
 そもそも、彼のダブル不倫疑惑問題
http://www.zakzak.co.jp/top/200901/t2009011426_all.html
はどうなったんでしょうね。政府はぶったるんでいます。(太田)

 「・・・北朝鮮が<ミサイルを>発射した場合、米国は≪早期警戒衛星<で>発射を探知し、日米<韓>のレーダーで<ミサイルを>追尾<し、>≫5分程度でこれが脅威となるかどうかを決定でき、必要があればこれを打ち落とそうとするだろう。・・・」
 (CNN上掲。ただし、≪≫内は、
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090327-OYT1T01328.htm
による。)
 「・・・韓国軍・・・は・・・、「北朝鮮のテポドン2号の発射が迫っているのに伴い、韓国海軍初のイージス艦“世宗大王艦”(7600トン級)を<日本>海に急きょ派遣することを決めた・・・また、米国はテポドン2号を追跡するため、韓米連合軍事演習「キーリゾルブ」が終わった後も<日本>海にとどまっているイージス艦「チャフィー・・・」と「ジョン・S・マケイン・・・」を投入した・・・日本は・・・イージス艦「こんごう」と「ちょうかい」を<日本>海に配備した。<これらのイージス艦は、>レーダー「SPY−1D(V)」を搭載し、最長で1024キロ離れた地点を飛行する弾道ミサイルを追跡でき<、また、>スタンダード艦対空ミサイル「SM3」を搭載し、弾道ミサイルを迎撃する能力を有している・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090327000014

→今回、米国の「指揮」の下、史上初めて米日韓三カ国の軍隊が連携して対処を行うわけであり、これは画期的なことではないでしょうか。(太田)

(続く)

太田述正コラム#2782(2008.9.10)
<金正日重病?>(2008.10.31公開)

1 始めに

 さんざん日本のTVでも報じていますが、金正日重病説の報道の整理をしておきましょう。

2 金正日重病説の報道の整理

 「金<正日>が最後に公の場に姿を見せたのは、8月14日に国営放送が、金が軍隊の部隊を視察したと報じた時だ。金が一カ月単位で姿を消すことはこれまでもしばしばあったことなので、このことはさほど問題視はされていなかった。・・・<ところが、北朝鮮>駐在外交団に対し、<当局より、9月9日の建国60周年記念行事の>数日前に、<同行事出席の際、>カメラを持参してもよいとの連絡があった。これは金がこの行事に出席しないと受け取られても仕方のないことだった。」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-kim10-2008sep10,0,3029826,print.story
(9月10日アクセス。以下同じ)
 「<そこへ、>韓国で最大の発行部数の朝鮮日報が9日、金が8月22日に倒れたと、氏名不詳の北京駐在韓国外交官の言をひいて報道した。」
http://www.nytimes.com/2008/09/10/world/asia/10korea.html?ref=world&pagewanted=print
 「・・・北朝鮮の金正日総書記は、北朝鮮の重要な記念日の一つである9日の建国60周年記念行事に結局姿を見せなかった。金総書記は1991年12月に朝鮮人民軍最高司令官に就任後、これまで実施された10回の全軍閲兵式にすべて出席していた。ここには建国50周年、55周年という節目の年の閲兵式ももちろん含まれる。
 しかし、金総書記は朝鮮労働党による政権が「還暦」を迎える<という極めて重要な>記念日であるにもかかわらず、正規軍による閲兵式を行わず、公開行事にも姿を見せなかった。・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000010
 「・・・過去に建国50周年では正規軍2万人が、 55周年では正規軍1万人が動員された閲兵式が行われた。・・・北朝鮮は韓国戦争(朝鮮戦争)期間中を除き、建国記念日をいずれも盛大に祝ってきた・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000011
 「・・・<また、>建国50周年と55周年のときは午前中に閲兵式と市民パレード、午後には舞踏会やたいまつ行進などを行っていた。・・・
 <ところが、>北朝鮮はこの日午前中、人民軍閲兵式などあらかじめ準備されていた行事を行わず、午後になって正規軍ではなく労農赤衛隊、赤の青年近衛隊、 さらに平壌市民のパレードだけを行った。
 ・・・昨年4月に行われた軍創設75周年記念行事では午前中に人民軍閲兵式を行い、正午に平壌放送で式典の模様を報じた。05年10月の労働党創設60周年記念式典では、午後3時に中央放送、平壌放送、中央テレビを通じて閲兵式の模様を録画中継していた。
 <ところが、>北朝鮮の朝鮮中央テレビは夜8時のニュースでも各国首脳からの祝電などを紹介しただけで、パレードや金総書記の動向には言及しなかった。中央テレビは夜9時になって労農赤衛隊などによるパレードが行われたことを初めて報じた。」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000018
 「<この結果、金正日重病説が全世界で報じられるに至った。これに対し、>9日に米国のある情報担当官は、・・・金が死間近であるようには見えないと語った。北朝鮮が権力の所在を移す準備をしていることを示す明確な気配が見いだせないからというのだ。・・・
 <また、>10日になって、北朝鮮外務省高官の宋・イルホ(Song Il-ho)が金重病と示唆する諸報道を否定し、「われわれはこのような報道は無価値であるのみならず、陰謀であると見ている」と語ったと共同通信が伝えた。その後、同国のナンバーツーである金永南(Kim Yong-nam)が金正日については「何の問題もない」と語ったと<同じく>共同通信が報じた。
http://www.nytimes.com/2008/09/10/world/asia/10korea.html?ref=world&pagewanted=print上掲
 「<更に、>北朝鮮の金正日総書記は最近健康に異常があったものの、回復しつつある」と米情報当局が判断していることが10日分かった。」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000034

3 報道をどう受け止めるべきか

 一体、以上のような報道を、我々はどう受け止めるべきなのでしょうか。

 金正日はすでに相当前に死亡していて、8月14日に姿を見せたのだって金の替え玉ではないかという説もごく一部にはあります。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/09/09/AR2008090900506_pf.html
 こんな説はともかくとして、米スレート誌が'、Kim Jong, Ill? 'という、(金正il(日)と金正ill(病)をひっかけた傑作な)タイトルの記事の中で、「<北朝鮮に拉致されていて、夫の韓国人映画監督と共に>逃亡に成功した<韓国人>俳優たる妻が、1994年にロサンゼルスタイムスのインタビューに答えて、金は全体主義的独裁者となる運命でなかったならば、超一流の映画プロデューサーになれていた・・・」と語っている」と報じた
http://www.slate.com/id/2199688/
ことを我々は肝に銘じる必要があります。
 金がそんな人物であるからこそ、「何人かの米国の官僚たちは、金は確かに病気のように見えるけれど、前例もこれあり、つかまえどころのないこの指導者が、彼の健康状態についての憶測を呼び起こすとともに、彼の不在がこの地域にいかなる波紋を産むかを見極めようとしている可能性があると指摘している」
http://www.csmonitor.com/2008/0910/p25s13-woap.html
わけです。
 「<すなわち、>金は、現在まさに核計画がらみでそうであるように、国際社会の中で困難な立場に立たされるとなおさら、自ら公の舞台から消え去ることで知られている。」
http://www.csmonitor.com/2008/0910/p25s13-woap.html 上掲
というのです。

3 終りに代えて

 「6月に金は原子炉の冷却塔の破壊をテレビ中継するために外国人スタッフ達を招じ入れた。しかし、8月に入ると、米国が<北朝鮮の>テロ支援国家リストからの削除という約束を果たさないとして、彼は逆方向に舵を切った。・・・金が公の場から姿を消してからというもの、米国の官僚達いわく、彼らは北朝鮮の核計画に関する最近の紛争を解決するための手がかりを北朝鮮サイドから得るため悪戦苦闘してきた。例えば、北朝鮮は米国が提案した検証計画を拒否したけれど、何の反対提案も行おうとしないのだ。それどころか、北朝鮮の作業員たちは冷却塔の残骸を片付け始め、あたかも今後再組み立てをするための機器を準備しているかのように見える。・・・
 <おまけに、>8月26日には、<北朝鮮の>国営朝鮮中央放送は、北朝鮮外務省発の得体のしれない声明を報じた。「我々の関連部局の強い要請に基づき、我々はヨンビョンの施設を元の姿に復旧させることを考慮するだろう」と」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/09/09/AR2008090900506_pf.html上掲
という、このところの北朝鮮の核問題への対処ぶりを見ていると、金が、米国がグズグズしていると、北朝鮮軍部が、核に係る米国等との合意を反故にして、核計画を復活させるかもしれないぞ、と米国を脅迫している、と見ることもあながち不可能ではないのかもしれません。

太田述正コラム#2637(2008.6.28)
<北朝鮮テロ支援国家指定解除へ(続)>(2008.8.19公開)

1 始めに

 北朝鮮テロ支援国家指定解除問題の余震が続いているので、再度取り上げてみましょう。

2 ブッシュの勝利

 前回(コラム#2635で)「オバマは・・・必要があればいつでもテロ支援国家の指定や対敵国通商法の適用を復活させると言っているわけです。・・・他方、北朝鮮の方は、2007年の初期から、ゆっくりとではあっても、寧辺の原子炉の解体を続けてきており・・・これを再組み立てするといっても容易なことではありません。勝負の結果は明かですよね。金正日の敗北です。」と申し上げたところです。
 面白いことに、米タイム誌は、「北朝鮮との交渉でブッシュが勝利(Bush Wins in North Korea Deal)」という記事を掲げました。要するに金正日が敗北したというのですから、私と同じことを言っているわけです。
 この記事は、1994年にクリントン政権が北朝鮮と合意したのは、寧辺の核施設の検証付きの活動停止に過ぎなかったのに対し、ブッシュ政権は同核施設の解体(無能力化)を勝ち取るという成果を挙げたこと、そしてそのことの象徴として、北朝鮮に、27日、同格施設の冷却塔を爆破させ(注1)、同核施設の、まだ解体されていない部分についても、国際モニターの監視の下(注2)で解体することを約束させたことは画期的であると指摘しています(注3)。

 (注1)冷却塔の爆破については、27日時点では、北朝鮮国内で一切報道されていない(
http://www.nytimes.com/2008/06/28/world/asia/28nuke.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
。6月28日アクセス(以下同じ))。
 (注2)北朝鮮は、81ポンドのプルトニウムを生産したと申告したが、米国は110ポンド生産したのではないかと見ている。この点についても、国際モニターが現地調査を含む検証を行うことに北朝鮮は同意している(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/27/AR2008062700542_pf.html)。
 (注3)冷却塔は1ヶ月もあれば再建できるが、残りの寧辺の核施設を再組み立てするには少なくとも18ヶ月かかる(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-nkorea28-2008jun28,0,1108637,print.story)。

 そして、その見返りとして北朝鮮が得たものは、テロ支援国家指定(注4)解除が主なものですが、北朝鮮は1987年の大韓機爆破事件を最後にテロをやっていない以上、そもそも北朝鮮がこのリストに載せられ続けてきたのは、北朝鮮との核交渉の取引材料としてだけの目的であるとし、指定解除は象徴的な意味しか持たないと同記事は指摘しています。

 (注4)第一次世界大戦の時にできた敵国通商法(Trading With the Enemy Act)による措置。北朝鮮がテロ支援国家指定を解除されることになった結果、リストに残るのはキューバだけになった(
http://www.nytimes.com/2008/06/27/world/asia/27nuke.html?pagewanted=print)。

 もとより、指定解除によって、北朝鮮が世銀等の国際機関からカネを借りようとした時に米国政府がこれに反対する法的義務はなくなるものの、米国は、もし望むなら、これら国際機関が北朝鮮にカネを貸すことに政策的に反対することはできる、というのです。

 (以上、特に断っていない限り
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1818813,00.html
による。)

 しかも、米国企業が北朝鮮で事業を行うことは依然禁止されていますし、これまでの命令に基づいて米国内で凍結されている北朝鮮資産の凍結解除も行われていません(ニューヨークタイムス上掲)。

3 終わりに

 こうなると、金正日が、哀れにさえ思えてきますね。

太田述正コラム#2635(2008.6.27)
<北朝鮮テロ支援国家指定解除へ>(2008.8.18公開)

1 始めに

 26日、北朝鮮から核開発の申告書が提出され、米国政府はその見返り措置として、テロ支援国家の指定解除を議会に通告するとともに、対敵国通商法の適用除外を布告しました。
 そしてこれを受けて、27日、北朝鮮は、寧辺にある原子炉に通じる冷却塔を爆破しました。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008062702000143.html
http://www.asahi.com/international/update/0627/TKY200806270292.html
(どちらも6月27日アクセス。以下同じ)による。)

 一体現況をどう認識すればよいのでしょうか。簡単な整理を行ってみました。
 
2 まだほんの少しの変化に過ぎない

 「米国は国内法により、国際機関の米国人理事はテロ支援国に対するあらゆる支援に反対するよう規定してきた<が、>・・・北朝鮮がテロ支援国という足かせから開放されれば、原則として国際通貨基金(IMF)や世界銀行などからの融資を受ける資格が得られる。・・・また、27日には敵<国通商>法の適用対象からも外され、米国の金融機関との取引や貿易も可能となる。さらに現在米国で凍結されている3170万ドル(約33億9400万円)の北朝鮮関連資産の返還も要求することができるようになった。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080627000017
 「しかし、・・・当分の間、米国から北朝鮮にカネが流れ始めるとは考えにくい。というのは、北朝鮮は売るものがほとんどなく、使えるカネに至ってはもっとないからだ。」(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/jun/26/nuclear.korea

 「しか<も>、・・・北朝鮮はこれら二つの措置以外にも、国連や米国からさまざまな制裁を受けている。中でも代表的なものが2006年に北朝鮮が核実験を強行した際、中国も支持して採択された安保理決議文1718号だ。この決議は、国連憲章の中では軍事行動規定に次ぐ強い条項である7章41条を土台として作成されており、すべての加盟国はこれを実行に移す義務がある。北朝鮮に大量破壊兵器関連物資やぜいたく品の輸出を禁じ、必要な場合には金融資産の凍結、船舶の臨検を行うことなども明記されている。
 米国は主に冷戦時代に制定された対北朝鮮制裁措置を、今も二重三重に維持している。米国商務省は輸出管理法により、人道物資を除く北朝鮮への輸出を統制している。武器輸出統制法では北朝鮮との防衛関連物資の取り引きを禁じている。また対外援助法は北朝鮮への援助を制限しており、北朝鮮に対する最恵国待遇を行うことを禁じている。輸出入銀行法は北朝鮮との金融取引を制限している。それ以外にも国務省は国連駐在の北朝鮮外交官の活動範囲を制限しており、ニューヨーク近郊から出る際には許可を受けなければならないのも制裁の一環だ。その結果、実質的に北朝鮮が受ける恵沢は、北朝鮮が期待するほど大きくはないとの分析もある。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080627000018

3 しかも、米国の措置は可逆的

 次の米大統領になることがほぼ確定的なオバマ上院議員は、次のような声明を発出しました。

 「<核開発の>申告書はまだ入手できていない。そこで米議会はそれを審査する機会がまだ与えられていない。北朝鮮のテロ支援国家指定を解除するするかどうかを判断する前に、米議会はこの45日間で北朝鮮の申告書の適切性とその検証手順を精査する必要がある。諸制裁措置は北朝鮮を行動させるための圧力の梃子として不可欠だ。これら<諸制裁措置>は北朝鮮の実績に応じてのみ撤廃されるべきだ。もし北朝鮮がその諸義務を果たさないようなことがあれば、われわれは速やかに解除された諸制裁措置を再導入するとともに、新たな諸制裁措置の導入を検討しなければならない。
 われわれは、結果を生み出すところの、北朝鮮との直接的かつ積極的な外交を引き続き追求しなければならない。目標は明確でなければならない。北朝鮮の核兵器計画の完全かつ検証可能な除去だ。・・・われわれが前進する際、北朝鮮がその諸義務をきちんと果たしていることが明確な場合以外に、これら交渉における梃子を引っ込めてはならない。」(
http://thecaucus.blogs.nytimes.com/2008/06/26/mccain-and-obama-on-north-korea/
 つまり、オバマは大統領になってから、必要があればいつでもテロ支援国家の指定や対敵国通商法の適用を復活させると言っているわけです。

4 終わりに

 他方、北朝鮮の方は、2007年の初期から、ゆっくりとではあっても、寧辺の原子炉の解体を続けてきており(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1818092,00.html
)、これを再組み立てするといっても容易なことではありません。
 勝負の結果は明かですよね。
 金正日の敗北です。
 今後、北朝鮮の核能力の完全撤廃まで、ブッシュ政権、そしてその後に来るオバマ政権は、北朝鮮を締め上げ続けることでしょう。

太田述正コラム#1693(2007.3.16)
<北朝鮮をいたぶる米国>(2007.4.15公開)

1 始めに

 2月13日の6か国合意の第一弾、ヨンビョン(Yongbyon)の核施設の閉鎖を北朝鮮が約束通り60日以内に実行するかどうかは、米国が北朝鮮に対して2005年9月に事実上科した金融制裁を解除するかどうかにかかっているのですが、米国は、猫がネズミをいたぶるように北朝鮮をいたぶっているとしか思えません。

2 いたぶりのその1

 北朝鮮を訪問したIAEAのエルバラダイ(Mohamed ElBaradei)事務局長(director)は、北京で14日、北朝鮮は、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(Banco Delta Asia=BDA)の北朝鮮の銀行口座(複数)に入っている2,500万米ドル凍結問題が、約束通り30日以内に解決・・北朝鮮からすれば凍結が解除・・された後に、核施設の閉鎖に着手するとの考えであると語りました。
 米国は、あえてその期限の3月13日を過ぎてから、14日に、上記エルバラダイ発言の後、リービ(Stuart Levey)米財務省テロ・金融情報担当次官(U.S. undersecretary of Treasury for terrorism and financial intelligence)がBDAに対する措置を発表しました。北朝鮮をじらしたとしか思えません。
 その内容は、米国の銀行のBDAとの取引を正式に禁止する一方、凍結されている北朝鮮の銀行口座の取り扱いはマカオ当局にゆだねる、というものでした。
 リービ次官は、北朝鮮の複数の会社が核兵器開発がらみの取引にBDAの銀行口座を用いていたとし、いくつかの口座は、米国通貨の偽造、タバコの偽造、覚醒剤の密輸に関わっていたし、北朝鮮のダミー会社の資金洗浄にも用いられていたとし、BDAはこれらを見逃す懈怠があったので米国の銀行のBDAとの取引は禁止するが、BDAが責任ある管理・所有の下に置かれるようになった暁には、この取引禁止を解除する、と述べました。
 この発表を受けて、凍結されている北朝鮮の口座をどうするかは、マカオ当局が中共当局の指示をあおぎつつ、決めることになりますが、その過程で米国とも事実上調整がなされると考えられています。
 米国政府内では、国務省サイドが凍結全面解除を示唆しているのに対し、財務省サイドは、三分の一ないし二分の一の解除を示唆しており、中共当局は悩ましい立場に置かれています。
 簡単に全面解除してしまうと、中共当局が、国際金融面での違法行為に甘いという非難を国際的に浴びる懼れがあるからです。
 そこで、中共/マカオ当局は、恐らく前面解除には踏み切れないだろうという観測がもっぱらです。
 しかも、仮に全面解除になったとしても、米国政府としては、事実上世界中の銀行が、米国に気兼ねして北朝鮮との取引を自粛している現状を解消すべく、「自粛する必要はない」といった明確なシグナルを発するつもりは全くなさそうです。
 つまり、北朝鮮が国際的な取引を行うことが極度に制約されている現状は、そのまま維持されることになりそうなのです。
 北朝鮮がこれに目をつぶり、2,500万ドル、悪くするとその一部を返してもらっただけで核施設の閉鎖に踏み切るかどうか、これは見物だと言わざるをえません。
 北朝鮮の狼狽ぶりは、中共の外務省の広報官が、「われわれは米側に深甚なる遺憾の意を伝えた。・・われわれは米側が、6か国協議の進展に資するとともに、マカオ特別行政区の社会的安定の維持に資する行動をとるべきだと思う。」と述べたことから類推できるのではないでしょうか。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/14/AR2007031401030_pf.html
(3月15日アクセス)、
http://www.ft.com/cms/s/c1b4ead8-d261-11db-a7c0-000b5df10621.html
(3月16日アクセス。以下同じ)、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-norkor15mar15,1,736269,print.story
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/14/AR2007031402299_pf.htmlによる。)

3 いたぶりのその2

 事業費が北朝鮮で不正に流用されているとの1月の米国の指摘(コラム#1637、1670)を踏まえ、国連開発計画(UNDP)は1月、外貨による事業決済や北朝鮮当局による地元要員採用中止を、新規事業承認や積み残し事業継続の条件とすることを決めたのですが、北朝鮮側がこれらの条件を履行しないため、3月5日、人道分野を含めたすべての対北朝鮮事業を1日で停止したと発表しました。
 5日は、北朝鮮の金桂冠(Kim Gye Gwan)外務次官が、ヒル米国務次官補との2国間会談に臨むべく米国を訪問した日でした。
 UNDPの2007??09年分の新規事業は既に凍結されており、今回の決定で05??06年分の積み残し事業約439万米ドルの執行が中断され、これで凍結された総額は1790万米ドルになりました。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007030601000063.html
(3月6日アクセス)、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/05/AR2007030501574_pf.html
(3月7日アクセス)による。)
 つまり米国は、金融「制裁」解除で北朝鮮に戻されるであろう金額に見合う金額を、別途あらかじめ凍結するのに成功したことになります。

4 終わりに

 さあ、米国と北朝鮮の一体どちらが追いつめられているのでしょう?
 お答えするまでもありませんね。

太田述正コラム#1441(2006.10.10)
<北朝鮮核実験か(続)>

1 依然謎の爆発規模

 世界各国からの核実験監視データを集約しているウィーンのCTBT機関(注1)準備委員会によると、今回の爆発による揺れの規模はマグニチュード(M)4.0(誤差0.3以内)でした。一般に揺れを招くのは実際の核爆発エネルギーの1%とされるため、M4.0ならTNT火薬換算で1,500トン(1.5キロトン)に相当します。一方、ロシアは5??15キロトンとしています。

 (注1)The Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty Organization=包括的核実験禁止条約機関。この条約は、核保有国か実験用原子炉を保有する44カ国以上が批准して発効するが、まだ34カ国しか批准していない。米・中・印・パキスタン・イスラエル・北朝鮮は批准していない。CTBTの監視網は、世界約100ケ所から得られるデータによって1キロトン程度以上の地下核実験を探知することを目指している。1キロトンは、広島型原爆(濃縮ウラン型)の約15分の1、長崎型原爆(プルトニウム型)の約20分の1相当だ。これより小さい核爆弾は高度な製造技術が必要で、米ロなど核実験を重ね、大量に核兵器を保有する国にしか製造できないと考えられているためだ。

 これらは、昨日韓国等が報じた推定値より大きいものです。
 他方、フランスは、約500トンだとしており、これは韓国の推定値並です。
 米国政府は、まだ公式には何も言っていませんが、米国の政府専門家達は、恐らく1キロトン前後かそれ以下だったと見ています。
 なお、核爆発ではなく、在来型爆弾を爆発させたものではないかという憶測もあることに対しては、これら政府専門家達は、実験場を含む地域は偵察衛星によって監視されてきており、数百トンから1,000トン内外の在来型爆弾を運び入れた形跡がないことから、核爆発ではあったと見ています(注2)。

 (注2)この点については、実験によって発生した放射性物質を米軍や航空自衛隊が航空機で収集しており、その分析結果が収集後72時間後には出るのではっきりしよう。なお、地下核爆発の規模が大きければ大きいほど、回りの岩盤が溶解・粉砕されて防壁となるため、放射性物質が空中に放出されにくくなるが、今回の爆発の規模は小さいため、核爆発だったとすれば、確実に放射性物質を収集できると考えられている。

 現時点では、米国のある政府専門家は、核実験は「失敗に近いものだったと思われる<が、>・・地震波の規模があまりにも小さく、当局者らは確実な結論を下すことができずにいる」とし、別の政府専門家は、「規模が小さ過ぎる。北朝鮮は今回の実験で意図した結果を得ることができなかったとみられる」としています(注3)。

 (注3)核爆弾は100万分の1秒程度という瞬時に爆発しないと、連鎖反応がうまく続かず「未熟核爆発」になることがある。長崎原爆でも核反応を起こしたのは、6キロのプルトニウムのうち5??6分の1程度だったという。韓国政府が公表した地震波では大きな波がいくつかに分かれ、「理想的な核爆発」とは考えにくい面もある。

 米国の更に別の政府専門家は、今回の核実験が失敗であって、核爆発が部分的にしか起きなかったとしても、そんな核爆弾であってもテロリストは欲しがるだろうし、今後北朝鮮は改善を重ねていつかは成功するであろうことから、気休めにはならない、と語っています。
 (以上、
http://www.asahi.com/international/update/1010/006.htmlhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/09/AR2006100900543_pf.html
http://www.sankei.co.jp/news/061010/kok000.htmhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/10/20061010000006.htmlhttp://www.nytimes.com/2006/10/09/world/asia/10detectcnd.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(いずれも10月10日アクセス。以下同じ)による。)

2 各国等の反応

 公式には核保有を認めていないイスラエルを除き、パキスタン・インドを含む全核保有国が今回の北朝鮮の核実験を非難しています。EUも国際原子力機関も、インドネシア等のめぼしい非核保有国も非難しています。
 ただし、核疑惑の渦中にあるイランだけは、米国が北朝鮮を恫喝し侮辱したから北朝鮮は核実験に追い込まれた、と米国に矛を向けています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2006/10/09/world/asia/09cnd-nuke.html?ei=5094&en=e294c996e3f77f14&hp=&ex=1160452800&partner=homepage&pagewanted=print
による。)

 米国は9日、北朝鮮制裁決議草案を国連安保理に提出しました。
 この草案は、北朝鮮が6日の安保理議長声明を無視して核実験を強行したことを非難し、国連加盟国に対して、武器・核兵器・弾道ミサイル関連物資・指導者層が消費するぜいたく品の輸出入や技術移転の禁止、マネーロンダリング(資金洗浄)・麻薬・通貨偽造等の違法行為に関連した金融資産などの凍結、北朝鮮に行き来する貨物の検査、などを求め、更に、6カ国協議への復帰と核開発放棄を北朝鮮に要求し、決議採択から30日以内に北朝鮮の行動を再検討の上、必要なら追加措置を取るとしています。日本は、草案が定める物資の移転防止のため、北朝鮮籍船舶などの入港禁止、北朝鮮産物資の輸入禁止、北朝鮮高官の入国禁止、制裁委員会の設立、などの措置も盛り込むよう補足意見を出しました(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061010k0000e030022000c.html)。

3 コメント

 ここ一両日中に、核爆発であったか否か、核爆発であったとして、それが成功であったか失敗であったか、が判明する可能性が高く、また、国連による当面の北朝鮮制裁措置の内容が固まりそうです。
 いかなる成り行きになるか、手に汗を握って見守ろうと思います。

太田述正コラム#1440(2006.10.9)
<北朝鮮核実験か>

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――   「阿倍能成」は「安倍能成」の誤りであるというご指摘があり、コラム#1437および1439を訂正しました。なお、コラム#1439の「注1」についても誤りを発見し、直してあります。このほか、コラム#1438のミスプリ等も直してあります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 北朝鮮は、10月9日、10時36分に地下核実験を行ったと発表し(
http://www.sankei.co.jp/news/061009/kok009.htm。10月9日アクセス)、北朝鮮北東部の咸鏡北道の明川郡花台里(Hwaderi)を震源とするそれらしき地震波が韓国と日本で観測されました。
 爆発の規模は、TNT火薬換算で100トンから800トンとされています(http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006100901000308.htmlhttp://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061009k0000e040032000c.html
(どちらも10月9日アクセス)。
 北朝鮮は、中共に核実験を行うと20分前に事前通告し、中共は米日韓3カ国にその旨を通報しました(
http://www.cnn.com/2006/WORLD/asiapcf/10/09/korea.nuclear.test/index.html
。10月9日アクセス)。
 これが核実験だったとすれば、長崎に投下されたタイプであるプルトニウム原爆の実験であったと考えられますが、爆発の規模が小さいことが、北朝鮮が、スカッドやノドンといった弾道弾に搭載できる程度、核弾頭の小型化に成功したことを意味するのかどうかはまだ不明です。
 米国・中共・韓国がどうような対応をとるのかが注目されますが、中共が、ただちに、名指しで「断固反対する」との声明を行ったことは注目されます(
http://www.asahi.com/international/update/1009/008.html
。10月9日アクセス)。
 米国は、既に9月4日の段階で、明確な姿勢を打ち出しています。
 米国務省のヒル(Christopher R. Hill)次官補の「<北朝鮮には、>将来があるのか、核兵器を持つのか、そのどちらかだ。・・われわれは核を持った北朝鮮と共存するつもりはない。われわれはそんな事態を受け入れない。(North Korea "can have a future or it can have these weapons. It cannot have both,・・・We are not going to live with a nuclear North Korea, we are not going to accept it,")」という発言(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/05/AR2006100500617_pf.html
。10月6日アクセス)です。
 これは、武力を含むあらゆる手段を用いて北朝鮮に核を放棄させる、ということです。
 韓国については、本日1700過ぎにTV(10チャンネル)で見た、ノ・ムヒョン大統領の記者会見で、彼がずっとうすら笑みを浮かべていたことが気になりました。
 事態の深刻さがまるで分かっていないのではないか、ノ・ムヒョンは行為能力を失っているのではないか、とさえ思いました。
 ノ・ムヒョン政権の、北朝鮮が核実験実施宣言を行った以降も、北朝鮮の水害復旧のために支援を決めたセメント10万トンのうち、6400トンを5日、予定通り北朝鮮に北朝鮮に送る(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/05/20061005000010.html
。10月6日アクセス)という極楽トンボぶりには、全く困ったものです。
 既に今年7月に、金正日は、「今や全世界が敵であり、自力で難問を解決すべきだ」という指示を行っているという報道(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20061007/mng_____kok_____001.shtml
。10月7日アクセス)もあります。
 この金正日の情勢分析どおり、中韓を含め、全世界が一致団結して、北朝鮮に対処してほしいと切に思います。

太田述正コラム#0433(2004.8.6)
<崩壊し始めた北朝鮮(その2)>

 (本篇は、コラム#430の続きです。なお、8月7日付??8月9日付のコラムは、東京を離れるため、お休みさせていただきます。)

4 韓国

 ところが、韓国は朝野を挙げて北朝鮮の体制擁護に血道を上げています。
 米下院での2004年朝鮮人権法成立に対し、韓国議会では、反対決議案の採択に向けての動きが見られますし、韓国の人権擁護団体を含む10個の市民団体は、「北朝鮮に圧力をかけ孤立させることが人権状況の改善につながるという発想・方法には同意しがたい。かかる動きは朝鮮半島における平和を危うくすることになろう。・・アウトサイダーが北朝鮮の体制を変革しようとすることは、主権国家に対する内政干渉だ。・・北朝鮮からの亡命を促すことは<米国が>北朝鮮の体制を崩壊させようとしているとの疑いを惹起しかねない。」という共同声明を出しました。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200407/200407230048.html。7月24日アクセス)
 このような韓国では、先週ベトナム(?)から到着した468名の北朝鮮難民についても、北朝鮮の暴虐な体制から自由を求めて韓国にやってきた人々としてではなく、単に経済的苦境から故郷を捨て、韓国での豊かな生活にあこがれてやってきたやっかい者とみなされています。しかも、この北朝鮮の経済的困難は、人命を軽視する金正日体制の悪政によって生じたというより、米国の北朝鮮敵視政策によってもたらされた、と考えられているのです。
 ですから北朝鮮難民は、韓国で資本主義的生き様への適応に苦労させられるだけでなく、今では韓国の人々による厳しい差別の対象にもされる結果、その大多数は失意の下に隠れるような生活を送ることを運命づけられているのです。(これまでの北朝鮮難民5000人のうち、定職に就いている者は半分に過ぎません。)
 そもそも韓国では、北朝鮮の収容所(その中には化学兵器の生体実験が行われている収容所もある)のことや人間、麻薬、偽造貨幣の密貿易について、話すことさえはばかられる状況です。
 韓国軍もおかしくなってしまっています。
 今年10月に発行される韓国の防衛白書では、北朝鮮が韓国の主敵である、との表現が消えることになっています。
また、7月14日には北朝鮮の哨戒艇(2002年に海上休戦ラインを越えて韓国水域に侵入して韓国の艦艇を攻撃し、水兵6名を殺害した哨戒艇と同じ艇)が海上休戦ラインを越えて侵入したのに対して韓国の艦艇が警告射撃を行ったところ、北朝鮮は5月末に南北政府間で取り交わしたところに従い、所定の周波数を使って無線で(誤ってラインを越えた旨の)通報を韓国側に行ったにもかかわらず射撃されたと抗議してきました。この抗議により、韓国海軍は、無線通報を受けていたことを隠していたことが露見し、一人の海軍中将と国防大臣が責任を問われて辞任に追い込まれました。
 これで今後は、北朝鮮の艦艇が海上でラインを越えてもその後通報さえすれば、韓国側から攻撃どころか警告射撃を受ける恐れすらなくなってしまいました。
 そもそも5月末の上記合意以来、北朝鮮のライン越えの頻度はそれまでの5倍に増えており、北朝鮮は心理作戦を駆使することによって、韓国側の海上防衛態勢を切り崩すのに成功しつつあると言えるでしょう。
 こうなると、米陸軍が38度線から後方に移転した後の韓国陸軍単独での38度線防衛の成否にも深刻な懸念を抱かざるを得なくなってきます。

 以上ご紹介してきたことの背景には、金大中政権(1998年??)以来の韓国の国策の大転換があります。
 これを象徴しているのが金大中政権下の、北朝鮮の指導部と国民のいずれをも鬼畜視してきた国定教科書から、北朝鮮の指導部と国民のいずれをも同胞視する国定教科書への切り替えです。
 まさにこの頃から、韓国民にとっての敵が、北朝鮮から米国へと急速に180度すり替わって行くのです。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/Korea/FH03Dg03.html及びhttp://www.atimes.com/atimes/Korea/FH03Dg05.html(どちらも8月3日アクセス)による。)

(続く)

<読者>
最近読んだ本にスタンフォード大教授のPeter Duusによる「The Abacus and the Sword: the Japanese penetration of Korea, 1895-1910」があります。この本の主題は、西洋の帝国主義に征服されることを回避するために、明治維新をおこなった日本がなぜ韓国を併合し「帝国主義国」となったのか、ですが、この著者のポイントは、太田さんのコラムでの指摘と同じです。つまり、日本はもともと朝鮮の征服を長期的目標として行動していたわけではなく、常に朝鮮人が自分自身の手で自分達の国を改革し(親日国家として)独立を維持していくことを一貫して望んでいたが、その可能性が完全にたたれたときに重い腰を上げて併合に踏み切った、というものです。
この本は日本側の史料を多く用いて、1870年代から1910年に至るまでの日本の朝鮮政策を丹念に記述していまして、朝鮮史を読んだことの無い私には大変いい本でした。(著者は、言葉が読めないという理由で朝鮮側の史料は日本語または英語に翻訳されたものしか使用していませんが。)
著者は日本の韓国併合を擁護しているとは思われたくないようですが、彼の結論は併合は日本のロシアに対する防衛政策としての面が大きい、ということです。米国の有名大学の教授がこういう冷静な本を出していることが嬉しくて、紹介させていただきました。
最近ふと疑問に思うことがありまして、このまま太田さんにお聞きしてみようと思います。太田さんが「危機の韓国」シリーズでお書きになった(お書きになっている?)ように、韓国国内の状況は安定しているとはとても言いがたいですね。そしてDuus氏の本を読み、現代の韓国は併合間際の朝鮮によく似ていることに初めて気づき目から鱗の思いがしたところです。(同じ時期に太田さんによる同じ指摘もありました。)
たしかに韓国の抱える問題の多くは「両班精神のあらわれ」で説明がつくように思いますが、現在の韓国の親北朝鮮政策だけは両班精神では私はどうしても納得できません。金大中が太陽政策を始めた理由、そして現政権がそれをもっと進めた親北政策を進めているのは一体何故なのでしょうか。
私は最近まで、これは北が崩壊すると困るので韓国が北の延命をはかっているのだと思っていましたが、現政権になってからは北朝鮮にフレンドリーどころかなりふり構わない熱烈なラブコールをおくっているようで、これは「北の延命」などという冷静な理由があるとはとても思えなくなってしまいました。だいたい、自国の安全と経済のためには米国という強い友人がいるはずなのに、米国をないがしろにしてまで親北を貫いているわけですから…。
「我ら偉大な朝鮮民族は仲間割れなどしない。北の同胞もそう思っているはず」という、自己陶酔に基づいての行動かとも思えますが、私には確証はありません。最近のASIA TIMESでもDavid Scofield氏が韓国の親北政策について触れていましたが、それが何故なのかということには何の分析もありませんでした。(自明だからでしょうか?)
最新シリーズ「崩壊し始めた北朝鮮」で太田さんが触れられるだろうと思っていましたが、我慢できないのでちょっとお聞きしたく投稿した次第です。太田さんのご意見をお聞かせ願えないでしょうか。

<太田>
 両班精神の両班精神たるゆえんは、理想と現実のバランスがとれないところにあります。
 ナショナリズムという理想(私が、ナショナリズムを欧州文明由来の民主主義的独裁のイデオロギーの一つ(初期のもの)という特異なとらえ方をしている点はごぞんじかと思いますが、いずれにせよ、ナショナリズムを今時理想視するのはアナクロ以外のなにものでもないことはさておき、)が一人歩きした結果が太陽政策だと私は考えています。
 韓国でナショナリズムが猛威をふるいやすいのは、韓国が世界一民族的に同質性が高い国だからでしょう。
 世界で韓国に次いで民族的に同質性が高い国である日本がナショナリズムを克服できたのは、敗戦のせいというより、日本人のバランス感覚(=両班精神の欠如)のおかげだと思います。

太田述正コラム#0430(2004.8.3)
<崩壊し始めた北朝鮮(その1)>

1 始めに

 先般、ある東南アジアの国(ベトナムと考えられている)が今年5月に韓国政府に対し、その国に滞留している北朝鮮難民を引き取らなければ中国に送還するぞと脅し、両国間の交渉の結果、韓国政府は7月27日、28日の両日にわたって北朝鮮難民468名を韓国に引き取りました。
 朝鮮戦争が1953年に終わって以来、韓国にやってきた北朝鮮難民を全部合わせても5000名程度に過ぎなかったのですから、とんでもないことが起こったことになります(注1)。

 (注1)もっとも韓国は、90年代に入ってから北朝鮮の食糧不足などに耐えかねて急速に増加した脱北者を、ここ数年、毎年1000名以上受け入れており、今年も前半の6ヶ月だけでその受入数は760名に達していた。

 中国及びモンゴル・ベトナム・カンボジャ・タイ等の中国の周辺諸国に滞留している北朝鮮難民の数は30万人とも見積もられており、これら諸国がその負担に耐えられなくなってきていることが今回の大量引き取りの背景にあります。
 (以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/3919203.stm(7月23日アクセス)及びhttp://news.ft.com/cms/s/007b196a-e28f-11d8-8005-00000e2511c8.html(8月1日アクセス)による。)

2 北朝鮮

 中国は北朝鮮の最大の友好国として、北朝鮮の体制崩壊を避けるためにも難民の北朝鮮送還政策を強化していますが、その他の国々は国際的非難を受けてまで北朝鮮に義理立てする必要もないことから、今後次々に韓国に引き取りを求めることになりそうです。
 そうなるとますます北朝鮮からこれらの国々を目指す脱北者が増えるのは必至であり、いまや北朝鮮は体制崩壊のとば口に立たされていると言っても良いでしょう。

北朝鮮が危機意識を抱いたのは当然のことです。
「大量亡命は・・南朝鮮(韓国)当局の組織的で計画的な誘引、拉致行為であり、白昼のテロ犯罪<であると同時に>反民族的行為<である>」とした上で、「<これは>われわれ(北朝鮮)の体制を崩そうとする最大の敵対行為<であり、>今回の事態がもたらす結果については、すべて南朝鮮当局が責任をとることになり、協力した他の勢力も高い対価を支払うことになるだろう」と韓国及びベトナム(?)を批判するとともに、「<これは>米国が(北朝鮮の)社会主義制度を転覆させるために莫大な資金と物資をばらまきながら行っている反共和国・・謀略策動の産物だ」と米国を批判しました(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20040730/mng_____kok_____002.shtml。7月30日アクセス)。

3 米国

 北朝鮮が言うところの「米国<の>謀略策動」とは何でしょうか。
 7月21日、米国下院は全会一致で2004年朝鮮人権法(Korea Human Rights Act of 2004)案を可決し、上院に送付しました。
この法案は米行政府に対し、北朝鮮の人権問題を重要な議題として北東アジア諸国と協議すること、北朝鮮に係る人権団体に潤沢な資金援助を行うこと、北朝鮮向けのラジオ放送を開始すること、人道的支援物資の配給状況の監督体制を強化すること、脱北者達(defectors)を難民と認定しこれら難民を収容する国際難民キャンプを設立すること、そして脱北者達が米国に保護(asylum)を申請することを認めること、を求めるものです。
また、同法案ではこれに関連し、来会計年度から、北朝鮮の人権状況改善活動に200万ドル、北朝鮮における情報の自由促進のために200万ドル、北朝鮮難民支援に2000万ドル、合計2400万ドル支出することも行政府に求めています。
他方米上院には既に、北朝鮮の崩壊を意図するといってよいより過激な2003年朝鮮人道自由法(Korea Human Freedom Act of 2003)(注2)が上程されています。

(注2)この法案は、米国行政府に対し、北朝鮮の収容所群の衛星写真撮影の頻度を高め、かつ関連インターネット情報を活用することによって北朝鮮体制による人権蹂躙に係る情報の調査・集積・発信を行うとともに、米国国際宗教的自由委員会(US Commission for International Religious Freedom)の調査費を増額して北鮮体制の宗教迫害状況に目を光らせるよう、求めている。
    また、ロシア政府、及びとりわけ中国政府に対し、北朝鮮から逃れてきた者の難民申請にしかるべき対応をするように、かつまた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、1995年の中国・UNHCR条約によって与えられている権限を行使し、中国政府がUNHCR要員に「難民にいつでも無条件で面会できる」ように取り計らわなかった場合に生じた紛争を拘束力ある国際裁定にゆだねるよう強く働きかけることを求め、もって北朝鮮の難民及び上級レベルの脱北者達の苦難の軽減を図ることを目的としている。

この二つの法案は、いずれも米行政府を拘束するものではありませんが、上院がこの二つを別々に審議するのかそれとも一緒に審議するのか注目されています。
(以上、(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200407/200407220030.html(7月20日アクセス)、及びhttp://times.hankooki.com/lpage/opinion/200402/kt2004022715562311320.htmhttp://brownback.senate.gov/pressapp/record.cfm?id=220932&&days=365&(どちらも8月1日アクセス)による。)

(続く)

太田述正コラム#0171(2003.10.15)
<「降伏」した北朝鮮とパレスティナ(続)>

北朝鮮が、「現在「降伏」条件のつめをしているが、「降伏」条件の提示ができなくて困り果てている状況である」と私が見ているゆえんをご説明しましょう。
ポイントは北朝鮮が、金日成の子孫が独占的に元首の地位を継承する特異な民主主義的独裁国家(注1)である点にあります。

(注1)民主主義的独裁国家であって、元首である親が自分の子供にその地位を継がせた例は、北朝鮮以外にはありません(でしたが、ソ連の承継国家の一つ、アゼルバイジャン(=依然として民主主義的独裁国家であると言ってもいいでしょう)のアリエフ大統領が、今年10月、この北朝鮮の顰みに倣って自分の子供に大統領職を「選挙」で継承させました。同様の可能性がとりざたされている民主主義的独裁国家(及びそれに準じるもの)としては、やはりソ連の承継国家であるグルジアとカザフスタンがありましたが、グルジアでは11月に無血革命が起こり、シェヴァルナーゼ大統領が追放されました(以上、http://www.nytimes.com/2003/10/15/international/asia/15LETT.html(10月15日アクセス)及びhttp://slate.msn.com/id/2091902/(12月4日アクセス)による)。このほかキューバでは憲法規定に基づき、フィデル・カストロの弟ラウルが職責上大統領職を継承することになっています(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-uscuba10oct10,1,1166164.story?coll=la-headlines-world。10月11日アクセス))。

この北朝鮮の最弱点を衝いてしまったのが日本人拉致問題です。
昨年の日朝首脳会談の際、金正日は北朝鮮が日本人を拉致したことを認めて謝罪し、拉致した人々の現況を明らかにしました。その後北朝鮮は、拉致してまだ生存している日本人(のうち)5名を返還してきました。これで日本を喜ばせ、日本と国交回復して日本からカネを引き出して破綻状況にある北朝鮮の延命を図ろうとしたわけです。金正日の乾坤一擲の勝負です。
ところが、金正日の思惑は完全にはずれ、日本の世論は一挙に硬化し、この世論に突き上げられる形で、5名の家族の「返還」はもとより、拉致問題の全面的な解決を日本政府が求め、現在に至っています。
この拉致問題について、日本の世論が納得するような形で「解決」するためには、金正日が日朝首脳会談の席上拉致問題について述べたこと・・拉致されて生存している日本人は5名だけだ等々・・がウソだったことを認めなければならず、これは金正日の権威を著しく失墜させ、金「王朝」の終焉を招来しかねません。
そこで金正日は対日攻勢を断念し、今度は核装備計画をプレイアップすることによって、米国相手の瀬戸際外交に打って出たのです。追いつめられた金正日の、いわば最後の勝負です。
ところが、米国は米朝二国間交渉を拒んだ上に、あえて拉致問題一辺倒の日本を核問題をめぐる六カ国協議のメンバーに押し込みます。これで金正日の思惑はまたもやはずれてしまったのです。
しかも、この間、米国の対北朝鮮経済封鎖準備態勢(注2)や攻撃態勢(注3)は着々と構築されてきており、北朝鮮経済の命綱を握る中国すら、米国による日本核武装カードの「提示」に屈し、北朝鮮への圧力を強めてきています。しかも、中国もソ連も北朝鮮の自壊や米国による対北朝鮮攻撃を想定したダメージコントロール措置を講じ始めており(注4)、北朝鮮の自壊や北朝鮮攻撃を事実上「容認」するに至っています。

(注2)北朝鮮を念頭に置き、米豪仏日の四カ国の艦艇や航空機が参加して、大量破壊兵器(WMD)などの密輸封じ込めに向けた「拡散防止構想」(PSI)の初めての共同訓練が9月13日、豪北東部沖のサンゴ海で行われた。PSDにはこの四カ国のほか、英、独、伊、蘭、スペイン、ポルトガル、ポーランドが加入している。
(注3)在韓米軍の韓国南部への移駐(コラム#117参照)こそまだ完了していないが、9月中旬までに在韓米軍防御用のパトリオットPAC3弾道ミサイル迎撃ミサイルの配備は完了した(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200309/200309160004.html。9月16日アクセス)
ところで、イラク戦争終結後、米国が治安の回復に手こずり、12万人もの地上兵力をイラクに拘束されたままの状況が続いていることは、(アフガニスタンにも依然米地上兵力が展開していることとあいまって)米国の対北朝鮮攻撃を困難にしているとの指摘がある。
しかし、北朝鮮への軍事力行使の態様は大小色々ありうるし、仮にその結果北朝鮮の体制が崩壊するとしても、戦後の治安維持に米軍が狩り出される必要はなく、韓国軍にまかせればよい、ということを考えれば、イラク情勢いかんにかかわらず、米国は対北朝鮮攻撃についてフリーハンドがあると私は見ている。
むしろ米国が、イラクが大量破壊兵器を持っていると言い張ってイラク戦を引き起こしながら、結局大量破壊兵器を見つけられなかったことから、北朝鮮核保有情報等の米国発情報に対する信憑性が落ちてしまい、皮肉にも北朝鮮の「核」に対する切迫感(=金正日による脅しの威力)を減殺させてしまっている・・世界の世論は、米国は北朝鮮が数個核爆弾を持っている可能性があると言っているが、全く保有していない可能性の方が強いのではないかと疑っている・・ことの方が、イラク情勢の北朝鮮問題に対するインパクトとしては大きいと言えるのではなかろうか。 
(注4)8月中旬から下旬にかけて、中国は中朝国境の警備をそれまでの武装警察から正規軍に置き換え、三個軍団15万人もの兵力を投入した。その目的について、中国軍事筋は、北朝鮮脱出住民の大量流入を防ぐためだけではなく、中朝国境を封鎖することで米軍による限定的な空爆や本格的軍事侵攻が起きた時の混乱に備えるものだと述べ、いずれにせよ中国軍は参戦しないと語ったとされる。(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20030902k0000m030148000c.html。9月2日アクセス)
     またロシアは、8月に初めて日韓両国と海上演習を実施するとともに、戦争が勃発し、あるいは体制が崩壊したために北朝鮮から避難民が押し寄せてきた場合を想定し、3万人の部隊による陸上演習を実施した(http://slate.msn.com/id/2087174/。8月20日アクセス)

金正日の思惑は、核開発計画を放棄する見返りに北朝鮮の体制保証を米国に認めさせ、あわせて米国の子分である日韓から経済的「援助」を引き出そうというものだったのですが、それには拉致問題の「解決」が大前提ということになってしまったのです。ところが、拉致問題の「解決」は、さきほども指摘したように、金「王朝」の終焉、すなわち体制変革を招来しかねない、というわけで金正日は進退窮まっています(注5)。
(注5)北朝鮮が核問題の六カ国協議から日本を排除する動きを見せていること(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20031012/mng_____kok_____002.shtml。10月12日アクセス)や、北朝鮮が「「毒素は適時に根元から断たねばならない」と述べ、日本を「毒素」として非難した」り、「日本が「核問題に人為的な障害を生み出している」と主張し「日本のような無責任で腹黒い者たちが(協議に)加われば、(核)問題を公正に正しく解決することはできない」と述べ」、更に「日本は心中穏やかではないだろうが、事態をここまで追い込んだのは日本自身だ」と指摘、「米国に追従する敵視政策」を転換するよう求め」る(http://www.sankei.co.jp/news/031014/1014kok075.htm。10月14日アクセス)等、日本に八つ当たりしているのは、北朝鮮の絶望の深さを物語っている。
北朝鮮が通常の民主主義的独裁国家であれば、金家が元首の地位を明け渡すことによって国家体制の存続を図ることができるはずですが、それができないところに北朝鮮の国家体制の致命的な弱点があるのです。
 
 拉致問題は従って、このまま全く進展がないまま推移し、北朝鮮の国家体制の自壊か強制的体制変革があった後にようやく解決する、というのが私の予想です。(生還した5人の家族中、日本人であることがはっきりしている子供達の帰国がそれまでに実現する可能性が皆無であるとは言い切れませんが・・。)
 拉致問題一辺倒の日本の世論への期待は、こうなったら、拉致問題解決のために北朝鮮経済制裁に着手せよとの声が一層高まることです。そうすれば日本政府も重い腰をあげて経済制裁に乗り出さざるをえなくなることでしょう。そのことが、絶望による北朝鮮の暴発を極力回避しつつ、北朝鮮の国家体制の自壊を促進させることにつながる、と私は考えています。

(続く:今回、またもパレスティナ問題まで行き着きませんでした。次回に回します。)

<問い>
北朝鮮が降伏した場合、その後の朝鮮半島はどのような政治体制になるのでしょうか。
1.北朝鮮は親中国政権となる。
2.韓国主導で統一朝鮮国が誕生する
3.その他
日本の国益ことに安全保障面の観点からどのような朝鮮半島が望ましいのでしょうか。

<答え>
 私が「降伏」と言うのは、北朝鮮が体制保証(体制存続を可能にするための経済援助の確保を含む)さえ得られれば、それ以外の全てを擲つことを決意したことを意味しています。(コラム本文中でもっと明確に書くべきでした。)
 他方、米国は体制保証をする気などさらさらなく、北朝鮮の自壊か経済・軍事手段による強制的な体制変革を意図しているわけです。
 コラムの中でも示唆したように、私は、北朝鮮は早晩米国の意図通り、自壊するか強制的に体制変革をさせられることは必至である、と考えています。
 その後は、米・日・EUから旧北朝鮮復興資金が提供されるとの条件の下、韓国が北朝鮮を併合することになるでしょう。
 日本は米国の保護国ですから、国益を考えるなどおこがましいのですが、あえて申し上げれば、米軍が拡大韓国に引き続き駐留することが日本にとって望ましいことははっきりしています。
 朝鮮半島が敵性勢力の影響下に入ることは、日本の安全保障にとってゆゆしい問題だからです。(この点は、幕末期以来、全く変わっていません。)
 しかし、拡大韓国が米軍の引き続きの駐留をすんなりと認める保証はありません。このところの韓国の反米親中国傾向には眉を顰めさせるものがあるだけでなく、中国が修正史観の提示によって韓国の対中国事大主義を煽り立てる準備をしている(コラム#141、142参照)からです。日本としては、米・EUと連携して、旧北朝鮮復興資金の提供等をてこに、韓国を自由主義陣営に引き留めるべく懸命の努力を行う必要が出てくることでしょう。

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