カテゴリ: 守屋武昌と天下り談合利権

太田述正コラム#1997(2007.8.14)
<防衛次官人事問題>

 (本篇は情報屋台用のコラムを兼ねており、即時公開します。)

1 始めに

 防衛事務次官人事をめぐって一悶着起きています。
 この問題をどう考えたらよいか、私見を申し上げましょう。

2 防衛次官人事問題のあらまし

 防衛次官人事問題のあらましは以下のとおりです。

 「<防衛庁1971年採用の>守屋<武昌(62)>氏は2003年8月に<防衛>事務次官に就任。防衛庁の省昇格のほか、米軍再編特措法の制定、自衛隊のイラク派遣などの強力な推進役となった。「自分の気に入った人間ばかり登用する」などと批判もあるが、今秋の臨時国会でのテロ特措法の審議を控え、「自分でなければ乗り切れない」と続投に意欲満々だった。>
 小池<防衛相>は今月6日、守屋氏の在任期間が4年を超える異例の長さとなったことから退任させることを決断。後任には<警察庁1972年採用の>西川徹矢官房長<(60)>を充てることを内定した。
 しかし「寝耳に水」だった守屋氏は、・・猛反発。小池氏が後任に指名した西川氏が警察庁出身であることにも異を唱え、守屋氏自らの退任が避けられない場合でも、後任を防衛省生え抜き<で1974年採用の山崎信之郎運用企画局長(60)>に差し替えるよう要求、<小池氏の訪米中、自民党国防族議員や官邸に次官人事の白紙撤回を訴えて回った。こうした動きを受け「閣議にかけられた形跡もないものが独り歩きしている」(自民党の山崎拓安全保障調査会長)と小池氏への批判も出て、与党を巻き込む事態に発展。>
 さらに、首相補佐官時代の小池氏と外交面での主導権争いなどからしばしば対立してきた塩崎長官が「相談を受けてない」として、守屋氏と歩調を合わせている。小池氏が人事を15日の閣議で決定したい考えだったのに対し、内閣改造後に先送りするよう主張。13日、首相官邸を訪れた小池氏と会談し、こうした考えを伝えた。次官の任命権者は所管閣僚だが、制度上、官房長官が主催する閣議人事検討会議に諮る必要があり、塩崎長官が会議開催を拒否すれば、人事は事実上凍結される。小池氏が内閣改造で留任しない場合、内定した人事が覆る可能性もある。
 小池氏は<「案をのんでもらえないなら私にも決意がある」と辞任をちらつかせ>・・て13日夜、首相官邸に安倍首相を訪ね、人事方針に理解を求めた。・・政府筋は同日夜、小池氏の人事方針自体に変更はないとの見通しを示したが、27日に予定される内閣改造・自民党役員人事以降に手続きが先送りされる可能性も出ている。」 

 (以上、電子版の中では最も詳細な記事を掲載し、内容的にももっともらしい
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070814k0000m010149000c.html
をベースに、
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070814ia01.htm
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070814AT3S1301I13082007.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007081301000796.html
http://www.asahi.com/politics/update/0813/TKY200708130321.html
(いずれも8月14日アクセス)で補足した。防衛省内部事情に詳しいはずの産経はどうした?)

3 コメント

 (1)「低次元」のコメント

 守屋(62)氏が年齢といい、在任期間といい、とっくの昔に退任していなければならなかったのは当然として、西川、山崎ご両人とも「高齢」であることが気になりますね。
 それはさておき、山崎氏は単なる当て馬かも知れませんが、西川氏とどちらが次官として適任なのでしょうか?
 私は無条件で西川氏に軍配を挙げます。 

 拙著『防衛庁再生宣言』の冒頭の章に出てくるIT問題で、完全なIT音痴でありながら、庁内守旧派の言うがままに担当課長(総務課長)として、担当審議官であった私の案に強硬に反対し、私の案を葬り去ったものの、私が仙台防衛施設局長に転出した後、そして彼もポストを変わってから、結局私の案が採用されるに至ったこと一つとっても、山崎氏は、他省庁であれば、次官どころか有力な課の課長への就任すら疑問符がつく人物です。
 他方、西川氏は、当時審議官として警察庁から出向してきたばかりでしたが、防衛白書担当としては私の後任であり、引き継ぎをする際に、(ITについては他の審議官が引き継ぐことになっていたけれど、警察庁時代にIT担当として辣腕を振るったと聞いていたこともあり、)上記IT問題を説明して側面から私の案の実現に向けて動いてくれないかと依頼したところ、快諾してくれた人物です。

 現在の日本のキャリア官僚は省庁を問わずおしなべて無能でやる気がないところ、特にひどいうちの一つが防衛庁(省)プロパーの官僚であることから、防衛庁(省)プロパーの官僚は当分の間、誰であれ、防衛事務次官にしない方がよいとまで私は考えています。

 (2)「高次元」のコメント
 
 8月10日付(9日発行)の日刊ゲンダイに、

 「・・小池防衛相のトップダウン人事で、クビを切られ<ることになっ>た守屋武昌事務次官・・。4年を超える異例の長期在任により、省内で"防衛省の天皇 "と畏怖されるほど強い影響力を持っていた。・・<今回の人事の>背景には検察の動向が見える。東京地検特捜部が「近々、防衛利権にメスを入れる」との情報が駆け巡っているのだ。「検察が重大な関心を寄せているのは、空自の次期輸送機CXの搭載エンジンの納入利権のようです。総額1000億円にも上る利権をめぐり、老舗防衛商社の山田洋行と、同社の経営陣が分裂して設立した新会社の間で熾烈な利権争いが勃発。・・ゴタゴタの裏側で『背広組や政治家が跋扈したのでは』とマークされているのです」(検察事情通) 検察のターゲットには「守屋氏の名前も取りざたされている」(司法関係者)と言われている。・・」

という記事が出ましたが、これこそ今回の人事問題の真の背景の一端を示している、と私は考えているのです。
 より一般化して申し上げれば、防衛官僚中、「出世」している人間の多くは、日米関係のことなどそっちのけで、自民党系政治家達と癒着しつつ、防衛利権にたかっている人物であり、かねがね米ブッシュ政権もそのことを苦々しく思っていた、とすれば、今回の人事問題の本質が理解できる、ということです。

 すなわち、小池氏は、外交担当の首相補佐官として、米国の気持ちを肌で感じており、検察の動向を奇貨として、防衛相就任と同時に、防衛庁内外の防衛利権にたかる人々の影響力を一掃しようと考え、次官更迭をプレスにリークした上で、宗主国米国に了解を得るべく電撃訪米を行い、チェイニー副大統領やライス国務長官らが諸手を挙げて小池氏を歓迎した(太田述正コラム#1991。情報屋台掲示板に転載)ことが示しているように、目論見通り米国の了解を得た、と私は見ているのです。
 とすれば、もはや勝負ありです。
 小池氏の防衛相続投は確定的ですし、森元総理も強く示唆している(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070812i107.htm
。8月14日アクセス)ことからも逆に塩崎官房長官の降板は避けられず、早晩小池人事は原案通り実現することでしょう。
 
 小池百合子(1952年〜)はマジ首相の器かもしれませんよ。

太田述正コラム#1669(2007.2.22)
<官製談合について(続)>(2007.3.24公開)

1 始めに

 官僚機構における天下りや不祥事の解消を図るための施策が種々講じられていますが、余り実効があがっていないようです。

2 天下り対処をめぐって

 先だって(コラム#1663で)「天下りは再就職とは言えません。天下った官僚は、業者にとっては人質のようなものであり、出勤はしても基本的に仕事はせずに給与だけをもらっているからです。」と申し上げたところですが、そもそも官僚は天下りはできても再就職ができるような知識や能力は身につけていないのが普通であることが分かる、以下のような面白い記事(

。2月20日アクセス)を見つけました。

 「人材バンクは、50歳以上の本省課長以上の事務職を対象に人材情報を登録。求人情報と照合し、再就職を仲介する仕組み。現在の登録者は約700人。2000年4月の運用開始からこれまでに99人の求人があったが、条件が折り合わないケースが多く、実際に再就職が決まったのは私立大学客員教授に迎えられた1人だけ。7年間にかかった費用は、システム構築やパンフレット作製など約7000万円だった。」

 しかし、同じ記事によれば、「今春からは登録対象者を地方勤務の本省課長・企画官級や技術職にも広げ、対象者は約5000人に増えるという。また民間の職業紹介業者と提携し、「幅広く求人情報を集めたい」(総務省人事・恩給局)としている。」とのことであり、人材バンクが全く機能していないというのに、総務省は更に国民の血税をドブに捨てたいと見えます。
 官僚を再就職させることなどあきらめて、年金を手厚くした上で、官庁による天下り斡旋を厳罰をもって禁じるべき(コラム#1663)なのです。
 ところが、国家公務員法改正をめぐって現在論議されているのは、幹部職員が職務と密接な企業などへの自らの再就職の要求、交渉をすること、及び、再就職したOBが退職後2年間、退職前5年間の職務に関係する契約や処分の要求を元の在籍官庁にすること、を禁止し、違反者には懲戒処分や過料を科すことであり、官僚の再就職を原則2年間禁止している現行の天下り規制は、暫定的に2年程度存続させた後、廃止するというのですから呆れます。
 官房の担当官僚が天下りシステムの管理やキャリア官僚の個別天下りをやってくれているのですから、何もキャリア官僚が自分で天下り交渉をする必要などないのです。(プロ野球選手が大リーグ移籍にあたって代理人を立てるように、そもそもこの類の話は、自分が直接やらない方が良いのは常識です。)
 また、天下ったOBが直接口利きを元の在籍官庁にする必要もまた全くないのです。
 天下りシステムは、官房の天下り担当官僚が、契約や政策の担当官僚に指示して官僚の天下り先の企業などに便宜を図るシステムであり、天下った官僚は、何もする必要はないし、むしろ何もしてはいけないのです。
 それなのに、肝腎の天下り斡旋については、企業などへの「押しつけ的な天下りの斡旋」を防止すると称して、斡旋にあたって不正な行為をした場合に刑事罰を科すだけにとどめようとしているというではありませんか。
 天下りの斡旋を受けた企業は、官製談合等を通じてその官庁に確実に儲けさせてもらえるのですから、何も「押しつけ」なくても喜んで天下りを受け入れるものなのです。
 どうやら官僚機構も、政府自民党も、官僚の天下りシステムに手を付けるつもりは全くなさそうです。
 (以上、事実関係は、
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070216i301.htm?from=main3
(2月16日アクセス)による。)

3 不祥事の解消をめぐって

 この問題についても、面白い記事を見つけました。
 「国務大臣のいる・・・1府12省庁のすべてが、公益通報者保護法が施行された2006年4月までに、職員が通報<(内部告発)>できる内部窓口を設置。21の外局のうち金融庁や公正取引委員会、国税庁など7機関は独自の内部窓口を設けていたが、林野庁や消防庁など残る14機関は所管省庁に窓口を一本化していた。このうち、<全省庁の申し合わせに沿って>外部の弁護士事務所にも窓口を設置していたのは、内閣府、総務省、金融庁の3府省庁だけだった。外務省は外部窓口を持たないが、調査を担当する「監察査察官」に同省に勤務する検事や公認会計士を指定。「外部の弁護士と同様の公正性と透明性を確保している」(同省)としている。残る30省庁・委員会では、ほとんどが人事や総務担当課に通報窓口を置いており、課長級職員ら「身内」が調査責任者になっていた。外部窓口を置かない理由については、「通報自体がない」(厚生労働、農水省)、「予算の関係」(防衛、環境省)などと回答。今後についても「状況を踏まえて判断したい」(財務省)と述べるにとどまっている。通報の件数は昨年12月までに計49件で、内訳は、外務省31件▽内閣府10件▽総務省3件▽法務省2件▽社会保険庁2件▽海上保安庁1件。外部窓口かそれに準じる態勢をもつ3府省が約9割を占める一方で、内部窓口のみの31省庁・委員会のうち27機関は「通報ゼロ」だった。通報内容については、外務省が「内容は明らかにできない」、海上保安庁が「調査中」としている以外は、不正の発覚や処分に結びつく有益な内容はなかったという。また、農水省と警察庁、海上保安庁は法施行時に文書で通知した後は、窓口の電話やファクシミリの番号、メールアドレスなども職員が直接人事部門などに問い合わせないとわからない態勢になっていた。」(
http://www.asahi.com/politics/update/0219/001.html
。2月19日アクセス)
 嗤っちゃいますね。
 せっかくできた中央官庁の内部告発制度も、仏造って魂入れずのようです。
 これでは、官製談合等について内部告発がされることなど、期待できそうにもありません。

4 官製談合の現状

 市町村レベルでは、現在なお公共事業において官製談合が花盛りのようであり(
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070220/119375/
。2月21日アクセス)、遅ればせながら、官製談合の防止のために、市町村でも一般競争入札を導入する動きがあります(
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007021601000648.html
。2月17日アクセス)。しかし、すべてを一般競争入札にするわけにもいかないであろうことから、一朝一夕では官製談合はなくなりそうもありません。
  しかも、中央レベルでも、公共事業以外で依然談合が広汎に行われていることは明らかであり(http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200702190332.html。2月20日アクセス)、恐らく公共事業以外での官製談合もまた、行われているに相違ありません。

5 終わりに

 やはり、決め手は自民党恒久政権の打破です!

太田述正コラム#1655(2007.2.10)
<官制談合について>(2007.3.14ブログだけに公開)

 (明11日午前中にインタビューを受けるので、事前にもらった質問事項に対して回答を書いてみました。このインタビューが何のためであるかは、近日中に明かしますが、もし、私の回答ぶりに分かりにくい箇所やご批判等があれば、本日中にお寄せください。参考にさせていただきます。)

問1 官制談合おいて、官僚が談合に加担するのは、どのようなメリットがあるからなのですか?また、政治家はなぜ談合を仕切ろうとするのですか?

 最初に申し上げておきたいのは、私は官庁調達や官僚の人事の専門家ではなく、安全保障・外交問題の専門家であるということです。
 そんな私に、わざわざ大阪から官製談合問題で取材に来られる、というところに官製談合問題の根深さが表れている、と思うのです。
 つまり、事情に通じている政治・官僚・業者の現役・OBが固く口を閉ざしており、せいぜい匿名で断片的なことしかしゃべらない、ということです。
 どうして関係者が口を固く閉ざしているか、をお考えいただきたいのです。

 さて、最初のご質問についてですが、まず官僚に関しては、在職中に業者に官製談合等によって便宜を供与すれば、退職後にその業者に天下ることができるからです。
 天下りは再就職とは言えません。
 天下った官僚は、業者にとっては人質のようなものであり、出勤はしても基本的に仕事はせずに給与だけをもらっているからです。
 政治家に関しては、業者に便宜供与すれば、その業者から政治資金がもらえるし、選挙の時には票集め等の支援をしてもらえるからです。
 与党の政治家が業者に便宜供与する方法の一つが、官僚に官製談合をやらせて、お目当ての業者に落札させることです。官僚が与党の政治家の言うことを聞くのは、与党の政治家が官僚の人事や官僚の属す官庁への予算配分やその官庁の政策実現に強い影響力を持っているからです。
 つまり、与党の政治家、官僚、そして官需に依存している度合いの大きい業者の三者は、癒着関係に陥りやすいのです。ところが日本の場合、戦後、自由民主党系の議員が中央においても、またどの都道府県においても、ほぼ継続的に政権を担ったきたか議会で多数を占めてきたため、政官業が構造的な癒着関係にあります。
 福島県、和歌山県、そして宮崎県でこのところ次々に官製談合が露見しましたが、これは、中央での政官業の癒着関係と同じような政官業の癒着関係が、各都道府県レベルにおいても、そして恐らくは市町村レベルにおいても確立していることを示しています。

問2 政治家は、どのように官僚に談合の話を持ってくるのですか?お聞きになっていることを教えて下さい。

 政治家は、大臣官房ないし長官官房で政治家との折衝を担当する官僚か、さもなければ面識のある官僚に対し、特定の業者をよろしくと話を持ってきます。これら官僚は、契約を直接担当する官僚にその話をつなぐのです。
 ちょっと補足させてください。
 防衛庁・・現在は防衛省ですが・・・の場合、昨年、防衛施設庁官製談合が明るみに出るまでは、契約を直接担当する官僚以外の官僚は、このような口利きに対して便宜を図ることを不当であるとは思っても、違法であるとまでは認識していなかった人が大部分だと思います。口利きがあった場合は、その業者を指名競争入札の指名業者にする慣行が成立していましたが、それだけでは、その業者が落札、受注する保証はないからです。
 しかし、官製談合が行われておれば話は別です。
 ちなみに、長官官房の官僚の多くは、官製談合が行われていることを知っており、政治家のこのような口利きに対して便宜を図ることの意味を十分認識していたはずです。というのも、長官官房は、防衛官僚の天下りシステム全体の管理と個別キャリア官僚の天下りも担当しており、防衛施設関係業者に、キャリア官僚OBを採用させるに当たっては、その業者に対し、防衛庁がいかなる見返りを与えることができるかを把握しているはずであるし、把握していなければ仕事にならないからです。
 同じことは口利きをする政治家についても言えます。
 特定の業者が政治家に口利きを依頼する際には、政治献金等の謝礼を用意するわけであり、政治家としても、この謝礼以上のメリットが確実に業者に与えられることが分かっていなければ仕事にならないからです。つまり、官僚に対し口利きをすれば、官製談合で、当該業者にその官庁が、いずれ確実に受注させてくれることを知っていたはずなのです。
 もちろん、政治家に口利きを依頼する業者も官製談合が行われていることを知っての上で口利きを依頼したはずです。
 (私自身は、契約を直接担当したことも、キャリア官僚の天下り担当であったこともなく、従って官製談合が行われていることも知りませんでしたが、官製談合ならぬ通常の談合がかなり広汎に行われているという疑いは持っており、それだけに政治家の口利きは極めて不当なことであると思っていました。一旦指名業者にすれば、談合の仕切り役がいつかは、その業者が落札できるように取り計らうであろう可能性が高いと考えたからです。その私でも、防衛施設庁の官製談合が報道された時にはびっくりすると同時に、ようやくすべてのカラクリが分かった気がしました。)

問3 官制談合について、政・官・業、それぞれどのような問題を抱えているとお感じですか?

 この三者の中では、政治家の責任が一番重いと思います。
 政治家が政治家であり続けるためには当選を重ねなければならない、そのためにはカネと票がいります。日本の場合、自由民主党が戦後ほぼ一貫して与党、すなわち政権政党であったことで、自民党の政治家は当選を重ねれば、確実に権力をふるえる立場になります。だから、彼らがカネと票をどんな手段でもよいから確保したいと考えるのは当然です。
 そのためには、談合であれ、官製談合であれ、利用できるものは何でも利用する、ということになっても不思議ではありません。
 ですから、自由民主党政権が、談合や、官製談合や、官製談合の背景にある官僚の天下りに対して、根本的なメスを入れるはずがないのです。
 しかし、一番悪いのは誰なのでしょうか。
 官製談合に象徴される政・官・業の癒着構造を生んだ責任は、究極的には、戦後ほぼ一貫して自民党系の議員に中央でも地方でも一番多数の議席を与え続けてきた有権者にある、と私はあえて申し上げたいのです。
 もちろん、これまで有権者に対して以上私が申し上げてきたような情報を積極的に取材し、提供してこなかったメディアも責任は免れません。

問4 官制談合で、官や業の逮捕者はでますが、政の責任に踏み込まない場合が多く見られます。どのような理由があるとお感じですか?

 防衛施設庁官製談合事件を見ても、検察は、国会議員の逮捕どころか中枢キャリア官僚の逮捕にも踏み切りませんでした。
 警察はいい意味でも悪い意味でも権力の走狗であり、そもそも権力の中枢に切り込むことはありえません。
 それができるのは検察ですが、検察といえども法務省の一機構であり、検察官を含む法務官僚の人事や法務省への予算配分や法務省の政策実現に強い影響力を持っている政権与党、しかも恒久的な政権与党、を敵に回すようなことは、よほどのことがない限り、検察として躊躇するのはごく自然なことでしょう。

問5 官制談合をなくすことができると思いますか?特に政・官にやめさせることができると思いますか?そのために必要なものはなんですか? 

 官製談合そのものより、官製談合が起きる構造に目を向けるべきでしょう。
 このところ、公共事業をめぐる官製談合が次々に明るみに出てきているのは、政府・自民党が、集金・集票構造、ひいては政・官・業の癒着構造、の全面的な組み替えを行っているからに他なりません。
 すなわち政府・自民党は、経済構造の変化、財政再建の必要性、少子化の進展等を背景として、財政支出のうち公共事業が占めるウェートを減らし、田舎から都市、とりわけ首都圏における財政支出を相対的に増やすことによって、より効率的・効果的に集金や集票ができるようにしているのです。
 当然、公共事業に携わる業者は淘汰され、それ以外の業者は相対的に増え、増えた業者が新たな癒着構造の下で自民党にカネと票を貢がされることになります。
 この過程で、談合や官製談合に対する法規制が強化されるとともに、生き残りをかけて公共事業に携わる業者の間の競争が激化し、官製談合のタレコミが増えている、ということなのです。
 しかし、官僚機構も官僚の天下りも、更には天下りと表裏一体の関係にあるところの業者への便宜供与システムも、政・官・業の癒着構造の下で温存されることでしょう。
 具体的に申し上げれば、官製談合は、その中心が公共事業からそれ以外の調達事業へと移るだけであり、防衛庁等の艦艇・航空機の調達等の相対取引の世界での官・業の癒着構造は堅持されるでしょうし、政策官庁における、許認可・補助金等をめぐる官・業の癒着構造もまた堅持されるでしょう。この官・業の癒着構造に、政治家がたかる、という構図もまた、変わることはないでしょう。
 このうち官製談合以外は、捜査当局による立件がほとんど不可能な世界です。
 この癒着構造を破壊するためには、官僚の再就職規制を強化したり、官僚OBによる出身官庁への口利きを禁止したりすることでお茶を濁すのではなく、官庁による、(天下りを含む)官僚の再就職の斡旋を厳罰でもって禁止する必要があるのですが、そんなことを政府・自民党がやるわけがありません。
 そこで再度申し上げますが、官製談合に象徴される政・官・業の癒着構造を壊滅するためには、自民党系の政治勢力を一旦完全に政権の座から引きずり下ろすこと、つまりは宮崎県で起きたことを、全国の都道府県で、そして中央で、一定期間にわたって有権者が実現する以外に方法はないのです。
 大阪を選挙区とする野党の辻本清美議員や西村真悟議員だってカネがらみの不祥事を起こしていると言われるかもしれませんが、権力犯罪的な不祥事ではありませんでしたし、仮に野党が政権の座に就けば、事情通の野党自民党の監視下で、癒着構造を再構築することなど、新しい与党には到底できないはずです。
 お断りしておきますが、私は自民党にも、そして自民党の個々の議員にも全く含むところはありません。
 日本の政治をより良くしたい、日本の財政支出が抱える壮大なムダを除去したい、日本の行政の歪みを正したい、公共支出に依存する業者の堕落を是正したい、という思いから、申し上げているのです。

<読者AY>
 私は、公共支出に依存する業者がそれほど「堕落」しているとは思いません。公共事業は大事な社会福祉政策でもあると思うからです。
 また官僚は、天下りするよう運命づけられているので、ある程度は同情の余地もあるような気がします。
 最も「堕落」しているのはやはり政治家だと思います。
 効率的・効果的な集金・集票のためだけに地方を切捨てるのは、政治家としてあるまじきです。
 やはり次の選挙は自公以外の政党に投票しなければいけませんね(笑)

<読者KY>
 すぐには回答できない問題ですが、私の意見は「日本型官製談合とはなにか」ということです。政・官側と業者側の利害関係はご説明により分かりましたし、政権交代の必要性も判りますが「官製談合」を必要あらしめる現状とはいったい何かが分かりません。
 
 「・・その一つは、米軍の仕事は日本独特の談合など入り込む余地のまったくない、国際入札に基づいて行われていたことである。工事の発注は米軍総司令部直属のO,E,D(オ
キナワ・エンジニアリング・ディス卜リ クト)と呼ばれる工作隊が担当。工事現場にはインスペクター(監察官)と呼ばれる軍人が絶えず目を光らせ、さらにその上には大佐クラスのコンストラクト・オフィサーがいて、不正などの入り込む余地などまったくないばかりか、競争原理に裏打ちされた合理的システムによって動いていた。また米軍の指示通りに工事をしない現場には、米軍が工作チームを独自に派遣して自ら工事を強行し、後で『フォースアカウント軍勘定』という名目の、高額の金を徴収されるようなことも体験した」 (「金融腐敗の原点」 立石 勝規 著 株式会社徳間書店発行 ISBN4-19??890775??7 P214より引用)

 公然と長期に渡り行われている物事はその「善悪」の判断は別にして、個人や組織の判断ではどうにもならない必然性があるものと私は考えますが、その必然性のありようが分かりません。

↑このページのトップヘ