カテゴリ: 核武装論

太田述正コラム#3200(2009.4.7)
<核廃絶を目指すオバマ>(2009.5.22公開)

1 始めに

 オバマの打ち出している政策で一番注目されているのは不況対策でしょうが、今回は、彼の核廃絶政策に触れたいと思います。

2 オバマのプラハ演説をめぐって

 「4月5日、<プラハで>オバマ大統領は彼の政権が「核兵器のない世界」の実現に向けて努力する、と言明した。
 もちろん、我々は核兵器のないところの、そんなに昔でない世界を知っている。例えば1939年がそうだ。
 この年に始まった戦争が、核のない世界における核兵器開発のための緊急計画をもたらした。
 そしてこの戦争は、米国による核兵器の行使とともに終了した。
 オバマは、このことについて、「核大国として、そして核兵器を行使した唯一の核大国として、米国は行動する道徳的責任を負っている」と述べた。
 このオバマの声明が、我々の1945年の核兵器行使の否定<的評価>を示唆したものであるかどうかははっきりしない(注1)。

 (注1)このコラム筆者の、米ウィークリー・スタンダード誌編集長ウィリアム・クリストル(William Kristol)のこの不愉快そうな勘ぐりは正しい。もちろん、オバマは、彼が私淑していたライト師の薫陶よろしく、広島、長崎への原爆投下を戦争犯罪であり、かつ不必要な愚行だと思っているに違いない。また、だからこそ彼は、核廃絶をかくも声高に唱え続けているのだ(コラム#省略)。(太田)

 いずれにせよ、オバマが、彼のこのプラハ演説において、第二次世界大戦に一切言及しなかったことは銘記すべきだ。
 その代わり、彼は、何千もの核兵器が存在することが、「冷戦の最も危険な遺産」であると指摘した。
 この枠組みからすれば、冷戦が終わったのだから、核兵器の廃絶について考えることが可能となったと言えるわけだ。すなわち、「今日、冷戦は姿を消して久しいが何千もの核兵器はまだ姿を消してはいない」と彼は述べた。
 しかし、核兵器なき世界を正当化するためには、オバマは、本当のところ、戦争のない世界、あるいは戦争の脅威のない世界を心に思い描かなければならないはずだ。
 これは昔なじみの理想論だ。
 これこそ、米国の何人もの大統領達が世界中に自由民主主義と責任ある体制を普及することを助長せんと試みてきた一つの理由なのだ。・・・
 しかし、このような平和で自由な体制からなる世界を実現するまでには長い道のりが待っている。
 ジョージ・W.ブッシュが望んだ専制(tyranny)なき世界は、核兵器なき世界<実現>の必要条件・・ただし十分条件とまでは言えまい・・なのだ。
 何が危険かと言えば、核兵器なき世界の魅力が、現実の核脅威に対する行動を怠らせたり、場合によっては行動をしないことの口実にされたりする恐れがあることだ。・・・
 オバマが核兵器なき将来について語っているまさにこの現在、世界は核と弾道ミサイルを持った北朝鮮とイラン、そして一層危険な世界へと向かいつつあるのだ。」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/06/AR2009040601602_pf.html
(4月7日アクセス。以下同じ)

 「・・・このアイディアはもとより、レトリックもまさにオバマのものだった。
 彼のこれまでの軌跡を見よ。
 彼の上院議員としての短い任期の間、彼が自分の名前を掲げた数少ない外交政策イニシアティブの一つは核不拡散のための予算の増額だった。
 また、上院議員時代に彼が行った数少ない外遊の一つはロシア、ウクライナ、アゼルバイジャンへの核視察旅行だった。・・・
 <オバマがこれほど核廃絶にこだわるのは理解できない。>
 ・・・核兵器は抽象的には恐るべきものだけれど、イランからのものでさえ、欧州または米国にとって直接的な戦略的脅威ではない。
 生物兵器の方が潜在的にはもっと致死性が高い(lethal)し、化学兵器ははるかに安価に製造できる。
 米国内においても、在来型の爆弾とならず者が操縦する航空機が、既に山のような被害をもたらしている。・・・」
http://www.slate.com/id/2215493/

 「・・・<それほど心配することはない。というのも、オバマはちゃんと条件をつけているからだ。すなわち、彼は、>核兵器が存在する限り、米国は「安全できちんと保管され、かつ効果的な」核兵器群を維持するだろう、と<プラハ演説で>述べている。・・・
 <それに、そもそも核廃絶は、核保有国たる米国の義務とも言える。>
 核不拡散条約(Non Proliferation Treaty=NPT)・・第6条には・・・「Each of the Parties to the Treaty undertakes to pursue negotiations in good faith on effective measures relating to cessation of the nuclear arms race at an early date and to nuclear disarmament, and on a treaty on general and complete disarmament under strict and effective international control.」とあるからだ。・・・
 <ちなみに、現時点での各国の>核弾頭<保有>数<は、>ロシア2800、米国2200、フランス300、中共180、英国160、イスラエル80、インド60、パキスタン60、北朝鮮10未満<、となっている(注2)。>・・・

 (注2)これは、多弾頭を一弾頭とカウントしていると考えられる。英語ウィキペディアによれば、ロシア5,200(就役数。保管総数8,800)、米国4,075(就役数。保管総数5,535)、フランス350未満、中共160〜400、英国160、イスラエル100〜200、インド100〜140、パキスタン60以下、北朝鮮0〜10、となっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_with_nuclear_weapons

 <なんだ一般論、理想論だけじゃないかと思われるかもしれないが、決してそうではない。>
 欧州を訪問する前に、既にオバマは、米国自身の、いわゆる「信頼できる更新核弾頭」に係る核兵器開発予算を凍結した。
 これは、余りに長らくそのままであったために、科学者達がその信頼性に疑問符を付け始めた現在の核弾頭を更新しようというものだった。
 また、オバマは、これまで米国が単に非公式に遵守してきたところの、包括的核実験禁止条約を米上院が批准するように努力することを誓約した。
 彼は更に、ロンドンでロシアのメドヴェージェフ大統領と会談した後、米国とロシアが、今年末までに、核弾頭と恐らくはその運搬システムとを減少させる新たな条約について合意に達する意向であることを明らかにしたところだ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7984149.stm

 「<オバマの核廃絶演説にいちゃもんをつけている者がいるが、>・・・核廃絶という目標を放棄してしまえば、核保有可能な国々が核武装国家になるのを思いとどまらせるという核不拡散条約の力を弱めてしまうだろう。・・・」
http://voices.washingtonpost.com/postpartisan/2009/04/why_not_a_world_without_nukes.html?hpid=opinionsbox1

3 終わりに

 オバマは、米国を、そして世界を作りかえるポテンシャルを持っている、と思います。
 日本にオバマに匹敵する政治家が出現する可能性は当分の間、皆無でしょうが、せめて、オバマが何を考えているかを理解できる人間が日本で少しでも一人でも二人でも増えて欲しいと願う今日この頃です。
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太田述正コラム#3289(2009.5.22)
<歌舞伎観劇記(その1)>

→非公開

太田述正コラム#2621(2008.6.20)
<欧州配備米核爆弾>(2008.8.13公開)

1 始めに

 秘密の扉の奥に隠されてきた、欧州配備米核爆弾についての情報が一部明るみに出ました。
 (以下、
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1816035,00.html
http://www.fas.org/blog/ssp/2008/06/usaf-report-%e2%80%9cmost%e2%80%9d-nuclear-weapon-sites-in-europe-do-not-meet-us-security-requirements.php
http://en.wikipedia.org/wiki/B61_nuclear_bomb
(いずれも6月20日アクセス)による。)

2 欧州陸上貯蔵米核爆弾

 米国は現在、NATOに加盟する欧州6カ国(ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア、トルコ、英国)に推定200〜350個の B61 核爆弾(注1)を配備(正確には、兵器貯蔵・保安システム(WS3=Weapon Storage and Security System)なる地下壕に貯蔵)しています。

 (注1)水爆弾(thermonuclear bomb)。弾頭威力は戦術核クラスから戦略核クラス(広島に投下されたものの10倍の威力)のものまである。この核爆弾は、仮に盗まれたとしても、爆発防止措置が施されているので爆発させることはできないが、核物資を取り出すことにより、いわゆるダーティー・ボンブや初歩的核爆弾に転用することが可能。

 大部分の核爆弾は、米空軍基地に配備されているところ、ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリアでは、各国の空軍のそれぞれ一箇所の基地にも配備されています。
 ただし、その場合でも、米空軍の兵器支援隊(注2)がそれぞれの核貯蔵庫を管理し警備しています。

 (注2)Munition Support Squadron=MUNSS。これを統括しているのは米第38兵器支援集団(38th Munitions Maintenance Group)だ。

 しかしこれら核爆弾は、有事には、米国大統領の許可の下で、ホスト国の空軍の管理に移され、当該国空軍のF-16等の軍用機に搭載されて使用されます。

 このたび、米空軍の内部監査の結果、これら基地の貯蔵庫の塀や保安システムについて修理が必要であったり、兵器支援隊と協力するホスト国の保安要員が不足していたりその訓練が不十分であること等が分かりました。
 9ヶ月間徴兵された者が保安要員になっていたり、保安要員が組合に入っているケースすらあったというのです。
 このうち一箇所、恐らくドイツのBuchel独空軍基地かイタリアのGhedi Torre伊空軍基地のことであると考えられています、の状況が特に悪いので、米空軍はそこでの貯蔵を中止することになりました。
 望ましいのは、核爆弾をすべて米空軍基地に移すことなのですが、これはNATO創設以来の加盟国同士の負担分担(burden-sharing)精神に反することなので、米国としてもどこまで行うか慎重に検討しています。
 ちなみに、今年1月に初めて自国空軍の基地に米核爆弾が配備されていることをベルギーの国防相が明らかにしたところ、同国の野党議員達からただちに撤去するよう求める声が噴出したところです。ドイツでも同様の声が出ています。
 また、2001年にギリシャ空軍がB-61を搭載できない戦闘機を発注したため、米空軍は、ギリシャの空軍基地に配備していた同核爆弾を撤去した、という経緯があります。
 なお、以上のような、核配備計画は、NATOとして決定されたものではなく、米国とホスト国との二国間で合意されたものであり、その変更も当該二国だけの合意でなされることになります。

 マケイン米共和党大統領候補は、5月27日、大統領に当選した暁には、「同盟諸国との緊密な協議を行いつつ、米国とロシアの欧州における戦術核兵器の配備を削減し、あるいは望むらくは撤廃すべく、その方策を検討したい」と述べたところです。

3 終わりに

 日本に、自ら核武装するオプション(自分で核兵器を開発・生産する方法と核兵器を米国から購入する方法がある)と非核三原則を緩和するオプションのほか、その中間形態であるところの、航空自衛隊基地に米核爆弾を米空軍の管理の下で貯蔵し、有事に当該核爆弾の管理権限の移管を米国から受け、核爆弾を航空自衛隊の戦闘機に搭載して使用する、というオプションもあることが分かりますね。
 いずれにせよ、まずやらなければならないことは、米国との間で日本に係る有事における米国の核使用計画について話し合うことです。

太田述正コラム#2462(2008.4.2)
<過去・現在・未来(続x6)/マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その3)>

1 阿佐ヶ谷ロフト・トークライブ出演報告

 3月31日の阿佐ヶ谷ロフトでのトークライブ出演報告をごくかいつまんでさせていただきます。
 始まる前に楽屋で東京新聞の半田さんと交わした守屋論が大変面白かったのですが、生々しすぎるので省略します。

 前半では、半田さんが、「守屋が石破防衛庁長官(当時)に訪米時に米ミサイル防衛システム開発への日本の協力をぶち上げさせ、福田官房長官(当時)がすぐにそれを打ち消したにもかかわらず、更に画策を続けて、翌年の小泉訪米で、日本が、開発に協力するだけでなくミサイル防衛システムを導入することにまでコミットするに至らしめた」という話をしたことが印象に残っています。
 私は、「守屋は宗主国米国のエージェントとして動いただけのことだろう、米国と守屋の仲介をしたのは宮崎氏や秋山氏ではないか」と述べておきました。
 守屋、宮崎は立件されたが、果たして立件が政治家まで及ぶかについて、フロアの記者の人も交えて議論になりましたが、分からない、というムードでした。
 (なお、休憩時に、楽屋で、某出演者から、連休明け頃には間違いなく政治家が立件されるのではないか、と具体的根拠を示しつつ話がありました。)
 また、イージス艦の役割が話題になり、私から、「イージス艦を含む護衛艦は、空母や揚陸強襲艦を守る以外に使い道はない」と述べた上で、米海軍と海自の日米共同訓練をやる時、海自が護衛隊群で米空母を守らせてくれと申し出てかえって邪魔だと断られたことがあるというエピソードを披露しました。半田さんがこれを受け、「最近のリムパックでは、海自部隊が米空母部隊と行動を共にさせてもらえない」とし、「冷戦時代と違って、海自護衛艦の存在意義はなくなっている」と述べました。そこで、私から、「冷戦時代だって存在意義はなかった」と指摘しておきました。
 途中で、司会の週間金曜日の伊田さんが、「太田さんは凄い内部告発者だ」と言ったのに対し、私から、「自分では内部告発者だとは思っていない、防衛省・自衛隊の実態を明らかにすることによって、自衛隊はまさに憲法第9条の下、何の役にも立たない代物であることを、気前よく大金をイージス艦等に出している皆さんに知ってもらい、喜んでもらうことが目的だ」といつもの調子で混ぜっ返しておきました。伊田さんが、「皆さんとは「左」に人々ですね」と言うので、私は、「いや、「左」だろうが「右」だろうが意識していないのだけれど、どういうわけか、「右」の皆さんは、お前はなんでそんなこと言うのか、と怒るんですよね」と答えておきました。

 後半では、佐高、鎌田、佐藤、という錚々たる出演者が三菱重工は国家そのものだ、と規定した上で、同重工をぶったたき続けるのを静かに拝聴することに努めました。
 本を出したのは鎌田さんではなく、週間金曜日が、自らの連載を本にされたのですね。 私からは、発注者である防衛省が、天下りが減ってしまうこと等から、安くて性能のよいものをつくらせる気がないところへもってきて、武器輸出禁止という自主規制を行っているため安くて性能のよいものをつくっても仕方がない上、重要な装備、例えば戦闘機、について意欲的な国産開発をしようとすると宗主国米国からダメ出しがある、ということを指摘しました。
 そして、F-2が純国産から、米国の圧力で旧式のF-16をベースにした日米共同開発に切り替えられた頃、重工の航空機製作所を訪問したところ、技術者が怒っており、これでは碌なものができないなと予感したところ、案の定、できあがったF-2はバカ高く、要求性能を充たさず、しかも危険な戦闘機になったと付け加えておきました。
 もう一つ、好むと好まざるとにかかわらず、組織革新や技術革新は軍から始まるものであることを簡単に理由を挙げて説明した上で、戦後の日本の技術革新で見るべきものは即席ラーメンとウォークマンくらいだ。これは日本の自衛隊や重工のような軍事機構がいかにダメかを示している。最近重工は小型ジェット旅客機の生産を発表したが、皆さんは、自分らにこんなちんけなリターンしかしてくれないのか、と重工を突き上げるべきだ、とアジっておきました。

2 朝鮮日報の親日狂ぶり続く
 
 「実は、安重根の抱いていたこのような考えは、安自身は気付いていなかったのでしょうが、伊藤博文の考えとほとんど同じだったのです・・。そのような伊藤の考えの実現を不可能にしたのは、当時の支那や朝鮮半島の指導者達の頑迷固陋さでした。朝鮮日報は喉まで出かかっていてもさすがにそこまで踏み込んで記していません」と(コラム#2426で)記したばかりですが、その後も朝鮮日報の親日狂ぶりは続いています(コラム#2444、2459参照)。
 
 つい最近も私の度肝を抜く記事が次々に掲載されています。

 4月1日付の東京特派員の記事は、東郷平八郎が「李舜臣将軍はわたしの師」と語った話や、司馬遼太郎も紹介するところの、日露戦争前後の日本が、李舜臣の戦法を研究するだけでなく、李舜臣の霊に祈りまでささげることを旨としたという話を紹介しつつ、

 「日露戦争での日本の勝利には、弱小国の民族運動を刺激したという世界史的な意味がある。しかしわれわれ韓国人からすれば、日本は帝国主義化、韓国は植民地化へと向かう一つの経過点だった。日本が世界から注目を浴び、強国への道を歩み始めるとき、韓国は静かに姿を消しつつあった。1909年に義士・安重根が伊藤博文を狙撃したときは、東郷艦隊の歴史的評価が最高潮に達したときでもあった。安重根義士が孤立無援の韓国を象徴するとすれば、伊藤博文は日進月歩で躍進する当時の日本を象徴していた。・・<現代韓国の>(人気小説家)キム・フンは「なぜ小説『安重根』が書けないか」で「伊藤博文の生きざまと内面に対する勉強が足りない」と<記している。>・・「勉強が足りない」というのは謙遜だろう。「当時の世界史をありのまま受け入れるには、まだ韓国社会にとって荷が重い」という表現がふさわしいのではないかと思う。東郷艦隊が敵将に祈るときのような「強国になりたい」という熱意が、自己否定に至るほどは切迫していないせいかもしれない。」

と結んでいます。(
http://www.chosunonline.com/article/20080401000039
http://www.chosunonline.com/article/20080401000040
(4月1日アクセス))

 ついに、朝鮮日報は喉まで出かかっていたことを記すに至ったわけです。
 最後のセンテンスこそ、ナショナリズムに藉口した韜晦ですが、要は、ほとんど同じ考えを抱いていた伊藤がいかに苦渋の思いで韓国の属国化を図ったか、忖度することができないまま伊藤を暗殺した安重根は愚かだった、とこの記事は言っているのです。

 3月31日付の記事にも、ただただびっくりしました。

 韓国の現行の歴史教科書の左傾化を是正するという触れ込みで『代案教科書 韓国近・現代史』が出版されたことは承知していましたが、この記事では、あるTV局が、この教科書に「従軍慰安婦が強制ではなく、大金を稼げるという言葉にだまされたものだ」との記述があると問題視したことに対し、執筆者側が、「既存の教科書の誤りを正すため、『挺身隊』と『慰安婦』が明確に別の存在であることを叙述したものであり、当時韓国の慰安婦の大多数が『就職詐欺』によって慰安婦になった点は、既に韓国国内のこれまでの研究成果によって明らかになっている」と反論したと報じているのです(
http://www.chosunonline.com/article/20080331000048
。4月1日アクセス)。

 そんな内容の教科書が韓国で出版されたこと自体もびっくりですが、この記事は、「従軍」慰安婦の実態がまさにそのようなものであったことを朝鮮日報の読者に周知させることが目的であるとしか思えないことに私は何よりもびっくりしたのです。
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<マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その3)>

 --マリネラは原爆情報をいかにして入手したか?・その2--


 『精神の金羊毛を求める探検』※1なる本によれば,天才について次のように述べられている.『彼らは第一列目に立つわけでもなければ、後続の人たちより一歩先を進んでいるわけでもない。 第一級の天才は、思想的に言って、要するにどこか全然別のところにいるのだ』 そして,普通の天才は世間に歓迎されるが,一級の天才は生前は理解されず、認められるのは未来の世代によってであり,そのような天才は,特に小国において埋もれがちなのだという.
 もっともマリネラ王国は,小国ではあるものの,天才を比較的輩出しやすいところとして,生物学や自然人類学上,よく知られた存在である.※2 『ダーウィン以来 進化論への招待』(早川書房、1995年9月)などの著書で知られるスティーヴン・ジェイ・グールドは,このマリネラ王国の特性について,「マリネラ島はバミューダ・トライアングル中央に位置するため,古来より人の出入りが少なく,そのために近親婚が繰り返されたためだろう」と推測している※3 
 様々な奇行で世に知られる現マリネラ国王パタリロ8世は,しばしば「躁鬱病の躁状態だけの人物」などと言われるが,前出の元KGBスドプラトフによると,ヒギンズ3世は逆に内向的で,「ぬぼーっとした人物」だったという. また,レオ・シラードによれば,オッペンハイマーを「問題の全体を見通し,学際の問題について実際的ない解決法を見つけ出すことのできる天才」とするなら,ヒギンズ3世は「問題を引っ掻き回し,第三者には理解不能のやり方でしか解決しない天才」だったという.※4「エドワード・テラー同様※5,ヒギンズ3世もロスアラモスでは浮いた存在であり,研究をいたずらに混乱させるような着想ばかりが目立っていた. 彼が原爆開発において何か貢献できるようには思えなかった」
 しかしオッペンハイマーは,熱意を失った後のテラーに対してと同様,ヒギンズ3世についても「何かしらの役に立つ可能性が少しでもあるなら」と,彼をロスアラモスに留めた. 私的にもオッペンハイマーは,ヒギンズ3世とは気が合ったらしい. それは二人が似たような境遇の持ち主だったからだろうと,スドプラトフは言う.「オッペンハイマーは,当時のマルクス的な平等主義の風潮の中,自分が裕福な生まれであることに引け目を感じていたが,ヒギンズ3世も同じように,ダイヤモンド産業のおかげで裕福な王家の生まれであり,そのことに引け目を感じていた. また,2人とも同じように内向的だった※6」
 そのときロバート・オッペンハイマー,39歳. 一方,ヒギンズ3世は,平均年齢25歳のロスアラモス研究所の中でも最年少の18歳だった.
(つづく)

※1 2008年時点で邦訳は存在しないが,クノ・ムラチェ(Kuno Mlatje)による同書についての書評『イサカのオデュッセウス Odysseus of Ithaca 』が,書評集『完全な真空』(国書刊行会,1989/11)に収録されている.
※2 その地理的特性のせいか,マリネラ王家の天才伝説にはオカルトの趣きもただよっている.
 例えば17世紀に英国艦隊がマリネラ島に来襲した際,ロケット砲やレーザー光線で反撃され,撃退された,とするオカルト伝説が根強く囁かれている.(ロベール・ド・ラ・クロワ著『海洋奇譚集』,白水社,1983/11 など)
 常識的な歴史学者は,この「レーザー」の実態は「ギリシャ火」に似たものであろうと推測している. これはナフサ、硫黄、松やに等の混合物で、大型の鉄筒に入れて砦の上から注いだり,石や鉄の赤熱した弾丸に詰めて発射したり、布切れにつけたものを矢や槍に巻き付けて投擲するなどした. 濃い煙と大きな音を出し、火炎は水をかけても消えなかったという.
※3 『Nature』1994; 371:125-6.
※4 『シラードの証言』(みすず書房,1982)

 なお,シラードはハンガリー人であり,ハンガリー語に忠実に名前を記述するなら「シラールド・レオー」になるが,本編では一般に通用している表現に統一した.
※5 前掲『オッペンハイマー』によれば,彼は原爆開発研究の途中,より大きな爆発力を持つ核融合爆弾の可能性に気づき,そちらを研究の主体にするよう主張したという. しかしそれでは爆弾の開発自体が大幅に遅れるとして,その主張は受け入れられなかった. その結果,テラーは熱意をなくし,最後には原爆開発から外れることになったという.

 なお,テラーもハンガリー人であり,ハンガリー名では「テッレル・エデ」となるが,本編では一般に通用している表現に統一した.
※6 内向的な性格は崩御するまで変わらなかった. ヒギンズ3世の晩年の楽しみは,テレビ・ゲームに熱中することだった.
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太田述正コラム#2463(2008.4.2)
<先の大戦正戦論から脱する米国?(続)(その1)>

→非公開

太田述正コラム#2460(2008.4.1)
<沖縄集団自決事件判決(その2)/マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その2)>

 原告は、遺族年金を受けるために住民らが隊長命令説をねつ造したと主張したのですが、判決は住民の証言は年金適用以前から存在したとして退けました。(東京新聞社説前掲)
 また原告は、軍命令は集団自決した住民の遺族に援護法を適用するために創作されたと主張したのですが、この主張を裏付ける沖縄県の元援護担当者らの証言について、判決は元援護担当者の経歴などから、証言の信憑性に疑問を示し、「捏造を認めることはできない」としてこれも退けました。(産経新聞「主張」前掲)
 更に原告は、渡嘉敷村の助役が集団自決を命令したとも主張したのですが、判決は「信じがたい」としてこれもまた退けました。(朝日新聞社説前掲)
 渡嘉敷島の集団自決の生存者を取材した作家の曽野綾子氏は1973年に出した著書において、隊長「命令」説は根拠に乏しいと指摘しました。これを受けて家永三郎氏の著書「太平洋戦争」は、86年に渡嘉敷島の隊長命令についての記述を削除しています。更に、座間味島の守備隊長に自決用の弾薬をもらいに行ったが断られたという女性の証言を盛り込んだ本が、2000年に刊行されています
 しかし、一方で、日本軍が自決用の手榴弾を配布したとの証言もあります。
 (以上、讀賣新聞社説前掲)
 これに対して判決は、一、多くの体験者が、兵士から自決用に手榴弾を配られた、二、集団自決が起きた場所にはすべて日本軍が駐屯しており、駐屯しなかった渡嘉敷村前島では「集団自決」が発生しなかった、ことなどを挙げて「集団自決には日本軍が深くかかわったと認められる」と述べ、その上で、「元守備隊長らが命令を出したとは断定できない」としながらも、「関与したと十分推認できる」ことから、大江が「命令があったと信じるには相当な理由があった」と結論づけました。(朝日新聞社説前掲及び琉球新報社説
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/d4ceae3a9350607917d91d5ffeed9694
(3月30日アクセス)による。)
 なお、沖縄守備軍が住民に集団自決を命じた文書は一切発見されていません。(沖縄タイムス社説
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/d4ceae3a9350607917d91d5ffeed9694
(3月30日アクセス))

 このように、「公共の利害に関する事実にかかり、公益を図る目的」(公共性のある)の言論に関し、名誉毀損にあたると主張する側に極めて厳格な証明を求めたこの判決の基本的な考え方には私は諸手を挙げて賛成です。
 新聞は、公共性のある言論を商品とする営利企業であることに鑑みれば、「集団自決の背景に多かれ少なかれ軍の「関与」があったということ自体を否定する議論は、これまでもない。この裁判でも原告が争っている核心は「命令」の有無である。」などと讀賣は社説の中で言って、果たしてよいものでしょうか。
 讀賣に掲載される記事が、すべてそこまで厳格なウラをとって書かれているはずがないからです。
 従って、この判決が、元守備隊長らが集団自決に関与したと推認できるので元守備隊長らが集団自決命令を出したと大江が書いたことには過失はなく、名誉毀損は成立しないとした論理構成については、読売だって産経だって賛成すべきだと私は思います。
 そうだとすれば、残された問題は、この判決が、元守備隊長ら、つまり原告らが集団自決に関与したと推認したことの妥当性だけだ、ということになります。
 すなわち、読売社説が言うところの「集団自決の背景に多かれ少なかれ軍の「関与」があったということ自体を否定する議論は、これまでもない」というのが事実だとすれば・・私は個人的にはそうは言い切れない気がしているけれど(脚注参照)・・後は元守備隊長らは少なくとも集団自決に「関与」しなかったかどうかだけでしょう。
 (部下の「関与」について、責任があるという論法をとれば話は別ですが・・)
 結局、元守備隊長らは、自分達が集団自決に関与しなかったことの証明に失敗したということです。
 そんな証明などおよそ不可能だ、というわけではありません。
 この裁判の口頭弁論終結後(判決前)の今年2月、座間味島で守備隊長が集団自決を戒めたとする元防衛隊員の証言が出てきたという産経新聞「主張」の指摘が正しいとすれば、控訴審でこの判決が覆る可能性があります。
 このことから、朝日や東京の社説だっておかしいこと、特に鬼の首をとったような朝日の社説のはしゃぎぶり・・直接お読みいただきたい・・はおかしいことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
 この判決や来るべき控訴審判決で大江側が敗訴した時、一体朝日や東京はどんな内容の社説を掲げるつもりなのか、予想ができますね。
 そんな社説を載せる社説欄など廃止すべきしょう。

(脚注)

1 住民の集団自決への軍の関与を推認させるとされる資料
 
 (1)「軍官民共生共死の一体化」の方針

防諜等二関スル県民指導要綱」(1944年11月18日)
 ・・原則トシテ皇国ノ使命及大東亜戦争ノ目的ヲ深刻ニ銘肝セシメ 我国ノ存亡ハ東亜諸民族ノ生死興亡ノ岐ル所以ヲ認識セシメ真二六十万県民ノ総蹶起ヲ促シ以テ総力戦態勢へノ移行ヲ急速二推進シ軍官民共生共死ノ一体化ヲ具現シ如何ナル難局二遭遇スルモ毅然トシテ必勝道二邁進スルニ至ラシムル様一般部民ヲ指導啓蒙スルコト・・
http://www.jca.apc.org/~husen/0704kaihou46_5.htm。3月30日アクセス

 (2)住民たるスパイを殺害せよとの命令

「鹿山文書」( 昭和二十年六月十五日)
(久米島部隊指揮官→具志川村 仲里村 村長 ・警防団長)

 ・・妄ニ之ヲ拾得私有シ居ル者ハ敵側「スパイ」ト見做シ銃殺ス・・
http://hc6.seikyou.ne.jp/home/okisennokioku-bunkan/okinawasendetakan/sikayamabunsyo.html。3月30日アクセス

米軍上陸後<の>三二軍司令部軍会報
 ・・軍人軍属ヲ問ワス標準語以外ノ使用ヲ禁ス 沖縄語ヲ以テ談話シアル者ハ間諜トシテ処分ス・・
http://hc6.seikyou.ne.jp/home/okisennokioku-bunkan/okinawasendetakan/usijimasireikannokunji.html。3月30日アクセス

2 住民の集団自決への軍の関与がなかったことを推認させる資料

 (1)大田実・沖縄根拠地隊司令官「遺書」

 ・・沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ
 ・・所詮敵来リナバ老人子供ハ殺サルベク婦女子ハ後方ニ運ビ去ラレテ毒牙ニ供セラルベシトテ親子生別レ娘ヲ軍衛門ニ捨ツル親アリ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%94%B0%E5%AE%9F。3月31日アクセス

 (2)2次資料

 ・・県民は、軍に協力は惜しまなかったし、疎開に関してはその意図を知ってか知らずか、友軍(日本軍)の近くにいた方が安心、という気持ちが大きく働いて県外疎開を渋るものも多かった。そのことは県内疎開についても同様であった。・・
http://hc6.seikyou.ne.jp/home/okisennokioku-bunkan/okinawasendetakan/usijimasireikannokunji.html。3月30日アクセス

 ・・県下で「集団自決」が起きた現場のほとんどに日本軍がいたことを考えると、「自決」者たちは進めば米軍、とどまれば日本軍という極限状態に置かれ、結局は自らの命を絶たざるを得なくなり、犠牲者を増やした・・
http://www.yomitan.jp/sonsi/vol05a/chap02/sec03/cont00/docu128.htm。3月30日アクセス

3 私の見解

 以上から、私は、日本軍に同行した住民(老人、子供、及びこれらを率いた人々)は、軍の意向に反して同行したものであるところ、必然的に日本軍人とともに米軍の攻撃対象となり、仮に生き残ったとしても、米軍の暴行陵虐を受けると思いこんでいたことから、集団自決が起きた、と考えます。
 つまり、以前にも(コラム#2120、2129で)申し上げたように、サイパンでの日本人住民の集団自決と同じケースだと思うのです。
 ただし、サイパンと違って集団自決に「適した」断崖がなかった沖縄(含む座間味島)では住民は集団自決の手段を探し求めたと考えられるのです。
 手榴弾が、このような背景の下、軍から住民に手交されたケースがあったということでしょう。
 しかし、米軍の暴行陵虐を受けるという観念を流布させたのが軍であった可能性は否定できませんし、手榴弾が手交されたケースがあったことも間違いないないでしょうが、これらをもって軍の関与があったと言えるかは疑問です。言葉の定義の問題ですが・・。
 いずれにせよ、集団自決命令が、たとえ口頭にせよ発せられたケースはなかったと思われるのです。

(完)
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<マリネラの核武装問題:消印所沢通信25(その2)>

※1 『ザ・スーパースパイ 歴史を変えた男たち』( アレン・ダレス著)より.  ただし邦訳版(光文社,1987.11)では原著の2/3が 割愛されており,上記のエピソードは邦訳版には登場しない.
※2 『サムソン・オプション』(セイモア・ハーシュ著, 文芸春秋,1992,2)より.
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 パーヴェル・スドプラトフ. 1907年,ウクライナ・メリトポリ生まれ. 彼はKGBエージェントであったが,ベリヤ失脚と共に逮捕され,名誉回復されたのはゴルバチョフの時代になってからだった.
 スドプラトフは1944年2月,ベリヤから新たな任務を命じられる.※1 それはアメリカの原爆開発情報を入手せよというものだった.

 NKGB(KGBの当時の名前)ではそのころ,サンフランシスコ駐在官グレゴリイ・ヘイフェッツが,物理学者ロバート・オッペンハイマーとの接触に成功していた. オッペンハイマーの妻も弟も友人の多くも共産党員または共産党シンパであり,オッペンハイマー本人も共産党シンパとして,その活動に協力していた. また,ドイツ系ユダヤ人の移民の息子であるオッペンハイマーは,「ソ連国内にユダヤ人安住の地が約束された」と聞かされ,ひどく感動していた. 彼はヘイフェッツと,「(スターリンが提供してくれる予定の)クリミア半島のユダヤ人国家」について熱心に語り合ったという.

 NKGBはそのオッペンハイマーや,レオ・シラードの秘書などを通じ,ロスアラモス研究所に「もぐら」(潜入スパイ)を送り込むことに成功する.※2
 その「もぐら」の一人が遭遇したのが,彼だった.

(つづく) 


※1パヴェル・スドプラトフ他著『KGB衝撃の秘密工作』上巻(ほるぷ出版,1994年)

※2上掲『KGB衝撃の秘密工作』による.
 ただし,スパイ行為幇助の意図がオッペンハイマーにあったかどうかは,現在でも分かっていない. ガイ・バード他著『オッペンハイマー』(PHP研究所,2007年)は,オッペンハイマー=スパイ説を否定する. 同書によれば,FBIや軍情報部が彼を監視し,盗聴していたにも関わらず,スパイ容疑の確たる証拠を挙げられずに終わっているという. また,公開されたKGB文書にも,それを示すものはないという. オッペンハイマーの共産党シンパぶりについても,「それが当時のアメリカ人知識層の一般的な風潮だったのだ」と説明している.
 しかし同書では,キーパーソンの一人であるヘイフェッツについて殆ど無視しており,考察の客観性の点で問題がある. またスドプラトフによれば,戦時の緊急性と原爆開発計画の特殊な性格により,KGBエージェントは工作員勧誘に当たってモスクワの事前承認を得ることが省略され,そのやりとりもファイルされていないという.
 総合的に考えるに,実情はこういうことだろう.
 オッペンハイマーは確かに「もぐら」をロスアラモスに潜伏させる行為に手を貸しただろうが,それは通常の「友人の紹介」の範囲を超えなかっただろう. そしてその「もぐら」は,共産党とは全くかかわりがなさそうな人物だっただろう. 当時のソ連スパイは,「摘発される危険性が高い共産党関係者を,諜報組織に引き入れないこと」を鉄則としていたからである.
 例えばゾルゲ事件でも,僅かな例外を除いて,ゾルゲはその鉄則を守っているし,ゾルゲ・スパイ網が発覚するきっかけになったのも,その僅かな例外のせいだったと考えられている.
 原爆情報をソ連に提供したのは,オッペンハイマー自身ではなく,その「もぐら」だっただろう. そしてその「もぐら」は,これまでスパイ容疑者としては今まで名前が一度も挙がっていないような人物だろう.

※3 あ,今回,マリネラの「マ」の字も出てきてないや.
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<太田>

 所沢さん、送ってこられた「その1」の脚注を入れ忘れ、失礼しました。
 魔夜峰央のギャグ漫画『パタリロ!』のギャグにしてエープリルフールを兼ねるとは、脱帽です。
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太田述正コラム#2461(2008.4.1)
<駄作史書の効用(その4)>

→非公開

太田述正コラム#2105(2007.10.5)
<オバマの核政策>

1 始めに

 バラック・オバマ(Barack Hussein Obama。1961年〜)とヒラリー・クリントン(Hillary Diane Rodham Clinton。1947年〜)両米上院議員の民主党大統領候補争いは、現在クリントン圧倒的優勢となっています。
 今年6月に公表された世論調査で、劣勢だったオバマがついにクリントンと肩を並べたということもあった(
http://www.usatoday.com/news/politics/election2008/2007-06-04-poll_N.htm
。10月5日アクセス)のですが、10月の頭に公表された世論調査では、民主党員及び民主党シンパの人々を対象にした世論調査で、53%対30%とクリントンに大きく水を空けられるに至っています(
http://www.foxnews.com/printer_friendly_story/0,3566,299146,00.html
。10月5日アクセス)
 しかし、私はまだまだ先行き予断は許さないと思っています。
 今回は、私が注目しているオバマの核政策に触れたいと思います。

2 オバマの核政策

 (1)核の先制行使不可論

 オバマは今年8月2日、アフガニスタンとパキスタンにまたがるテロリストがらみの目標に関し、「私はわれわれが核兵器を用いることはいかなる状況下においても大いなる過ちだと思う。」と述べ、「それが一般市民を巻き添えにするものならば・・」と付け加えました。
 クリントンは、このオバマ発言について、すぐに「<米国の>大統領<たらんとする者>達は核兵器の使用ないし不使用について議論するにあたっては常に慎重の上にも慎重を期すべきだ。冷戦の始まり以降大統領達は平和を維持するために核抑止力を用いてきた。だから私は、いかなる大統領であれ、核兵器の使用ないし不使用に関して雑駁な(blanket)声明を発するようなことがあってはならないと信じている。」と批判しました。

 (以上、
http://blog.washingtonpost.com/earlywarning/2007/08/nuking_osama_wrong_wrong_and_w.html?nav=rss_blog
(8月14日アクセス)による。)

 (2)核廃絶論

 またオバマは10月2日、自分は米国が一方的に核軍縮をすべきだとは思わないが、諸外国と協働しつつ核物資をコントロールしながら核兵器を次第に削減して行くべきだと思っているとし、米国の政策は既に消滅したソ連と対峙していた時代のままであり、ならず者国家やテロリスト達の核脅威と戦うものになっていないと述べた上で、「米国は核兵器のない世界を求める。米国の安全を確保する最善の方法は、テロリスト達を核兵器で脅すことではなく、テロリスト達に核兵器や核物資を渡さないことだ」と語りました。そして、核廃絶が実現するには長い年月がかかるのであって、一人の大統領の任期では達成できない、と付け加えました。

 これに対し、米共和党全国委員会は、オバマの提案は米国の安全を損なうものであり、オバマは民主党の少数意見の持ち主達の機嫌をとっている、と批判しました。
 しかし、このオバマの考え方は、共和党の元国務長官であったキッシンジャー(Henry Kissinger)とシュルツ(George Shultz)の賛同を得ているのです。

 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2007/10/04/2003381659
(10月5日アクセス)による。)

3 所見

 オバマの核廃絶論を見ると、その核先制使用不可論が決して思いつき的な発言でなかったことが分かります。
 私はこれらのオバマの核政策に全面的に共感を覚えます。
 それは恐らく、被爆国である日本の大部分の国民の共感も呼ぶことでしょう。
 従来の米大統領達はもとより、大統領候補達が一人も口にできなかったことを口にしただけでも、オバマの勇気と先見性は大したものです。
 願わくば、オバマが民主党の大統領候補となり、更に米国の次期大統領になれますように。

太田述正コラム#1712(2007.3.30)
<日本は核武装すべきか(その2)>

 ここでほんの少し、「日本の自衛隊の在来兵器による第三国の核戦力の撃破計画」の種明かしをしておきましょう。
 冷戦時代のソ連の在極東第二撃核戦力(SSBN)の最大の脅威は、日本の自衛隊であったはずです、と言えば分かるかな?

<バグってハニー>

> まるで自分自身に対してコメントするようなコメントを次回以降行う羽目になりそうです。

 なんか、他人のふんどしで相撲取ってるような気分なのですが、安全保障関連は太田コラムが完璧に網羅しているので、結局そこにたどり着いちゃうんですよね。調べ物がなかなか分からなくて、ふと太田コラムを読み返してみると「何だ、書いてあんじゃん!最初から言ってよ!」というのがよくあります。

> 非核武装論は非武装論の一環であり、非武装論者でない人が非核武装論をとるのは論理的には矛盾です。

 これには高成田さんに激しく同意しますね。世界には200カ国近くある中で、核保有国はごく少数派です。その必要がないのか、別な手段で代替しているのかどちらかでしょう。五大国以外の核保有国ではイスラエル・印・パは今現在進行中の紛争を抱えてますし、日本とは違います。日本も、所期の目的が非核でも達成でき、なおかつそちらのほうがコストがかからないのであれば、当然そちらを選択するのが合理的というものです。

> 豪州政府や韓国政府等と違って、日本政府と米国政府との間で、米国の核の配置や米国による核使用に関する話し合いが全く行われていない

のが問題なのだったらその話し合いを始めればいいだけの話と違うのですかね。独自の核武装よりも政治的ハードルはずっと低いし、財政的コストは限りなく0に近いですよ。前に島田さんとの間で旧ソ連による東欧でのSS-20の配備の話が出ましたよね。西ドイツのコール首相(当時)は米国の戦術核を積極的に受け入れることによってこの危機を乗り越えました。さらに、コールの英断はINF全廃という画期的な軍縮条約へとつながり、最終的に旧ソ連を「撃破」したわけです。日米は共同して相手が音を上げるまで軍拡を続ければいいんですよ。米国と日本は世界第一位と二位の経済大国ですから、束になればどんな国でも絶対に追随できません。逆に他の国に万が一でも勝機があるとすれば、それは日米が離反したときでしょう。私は非核三原則のうちの「持ち込ませない」を朝鮮半島が非核化されるまで暫定的に廃止し、米戦略原潜に日本へ寄港することを要請するのが一番手っ取り早いと思いますね。

> 米国の核戦略へのコミットとは、NATO有事等における日本の自衛隊の在来兵器による第三国の核戦力の撃破計画が存在していることを指しています。

 最初は何のことかとドキッとしましたが

> 冷戦時代のソ連の在極東第二撃核戦力(SSBN)の最大の脅威は、日本の自衛隊であったはずです。

のことなのですね。自衛隊も「見せ金」ばかりじゃないじゃないですか。

> 議論が拡散しないための頭の整理の第一弾です。

 すいません。議論は拡散しちゃいます。というかそういう構想だったもので。

 以上は前置きです。
 それでは、太田氏への反論・第二弾を始めましょう。

??太田氏の日本核武装論は日本がおかれた国際的立場を無視している

 日本は資源・エネルギー・食糧を外国からの輸入に頼る工業国であり、そうやって作った製品を輸出することによって成り立っています。つまり、諸外国との良好な関係は日本にとって死活問題であり、たとえ米国が日本にとっての最大の貿易相手国であったとしても、大胆な政策変更を行う際にはそれ以外の国の反応も考慮する必要があります。そこで、太田氏への反論・第二弾では、私が知る限り太田氏が一度も触れたことのない、日本の核武装と核不拡散条約(NPT)の兼ね合いを議論してみたいと思います。

 言うまでもなく、日本の核武装にとってNPTは大きな足かせとなるでしょう。巷間ではNPTの趣旨が正しく理解されていないきらいがありますが、この条約は三つの柱からなっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_Non-Proliferation_Treaty
 すなわち、??核不拡散、??核軍縮、??核の平和利用です。日本の核武装がもたらす大きな弊害はその??と関わってきます。

 日本は北朝鮮とは異なり、国内に有力なウラン鉱脈がないため原子力発電に用いるウランも輸入に頼っています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%83%B3
そして、日本の円滑な原子力燃料サイクルを支えているのはとりもなおさず、このNPTなのです。このことに関して小川伸一防衛研究所主任研究官は以下のように述べています。

 日本は、米、英、仏、加、豪州、中国の6カ国と協定を結び、天然ウランや濃縮ウランを輸入しているが、これらの協定では、輸入した核関連物資の使用を平和(民生)目的に限定されている。したがって、日本が協定に違反した場合、禁輸措置に直面することは明らかである。日本の総発電量の約30%が原子力発電に依存していることを考慮すれば、こうした禁輸措置は、高速増殖炉を実用化し、核燃料サイクルを確立しない限り、日本経済に深刻な悪影響を及ぼすことが必定である。
http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2003/pdf/200304.pdf
 少し古いですが、それ以外の日本の核武装の問題点も非常に分かりやすく述べられているので、ぜひご一読ください。)

 太田氏が論じるように、日本の核武装が米国の戦略と合致し、民主主義の手続きに則り、日本の核がそれ以上拡散しないように努力する限り、米国は日本の核政策をインドのように承認し協力することでしょう。(米国とインドの関係は米印核協定
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States-India_Peaceful_Atomic_Energy_Cooperation_Act
を参照しました。)

 しかし、日本は米国以外の国からもウランを輸入しています。日本は米国の顔色だけを伺って核武装すればよいわけではないのです。最悪の場合、たとえ一時的だとしても、電力3割減を甘受することになります。工業国・日本にとって、これは大きな打撃となることでしょう。果たして我々は、ピョンヤン市民のように蝋燭の明かりの下で夕食をとることに我慢できるのでしょうか(以前PBSで観たドキュメンタリーにそういう場面があったので)。

 考えても見てください。五大国以外で核兵器を「違法」に所持しているのはイスラエル・印・パ・北朝鮮です。このうちイスラエル・印・パはNPTに一度も加盟したことがなく、イスラエルにいたっては核実験さえ行っていません。パキスタンは核実験に伴う制裁が効いたようで、今では米国の対テロ戦争のお先棒を担がされています。日本がNPT加盟国でありながら核保有国となれば北朝鮮に続いて二例目です。その暁には日本も晴れてトンデモ国家の仲間入りです。核武装とは国際的に干されることを覚悟の上で行うことなのです。

(第三弾では太田氏の提言を詳細に検証する予定です。)

<太田>

 それでは、議論が拡散しないための頭の整理の第二弾です。
 私の、昨年来の日本核武装論は、

>日本の核武装が米国の戦略と合致し、民主主義の手続きに則り、日本の核がそれ以上拡散しないように努力する

のが大前提です。
 そしてその場合、

>米国は日本の核政策をインドのように承認し協力する

であろうと私は考えているのです。
 この点について、議論が掘り下げられることを期待しています。

>他の国に万が一でも勝機があるとすれば、それは日米が離反したとき

 ここには違和感を覚えます。
 現状では日本は米国の保護国として、重要な対外政策に関しては常に宗主国米国の指示に忠実に従うことから、「日米が離反する」ことなどありえないわけです。
 しかし、アングロサクソン同士である英国と米国が(米国の独立戦争を含めて)二度も戦争をし、先の大戦直前に至るまで米国の最大の仮想敵国が英国であったこと(太田述正コラム#1621。情報屋台の太田による「日本・米国・戦争」シリーズ参照)を引き合いに出すまでもなく、日米それぞれの国益や対外政策等に係る世論が完全に合致することはありえません。
 しかもかねてから私が、米国を、力だけは滅法強い本来的国際音痴の巨人になぞらえていることは御承知のことと思います。
 従って、そんな米国とわが日本が一切「離反」しないことは、必ずしも健全なことではないと思っているのです。
 このような考えから、私は、(宗主国米国と合邦する・・米国に併合される・・というオプションも理論上ないわけではありませんが、)日本が米国から独立することが、日本のみならず、世界のためにも望ましいと考え、その旨を訴えてきました。
 敷衍すれば、私は、自由民主主義という価値観を真の意味で共有するところの、つまりは戦略の基本は予定調和的に一致しているはずであるところの、日本と米国(を始めとするアングロサクソン諸国)が、対等の立場で手を携えて「他の<非・自由民主主義>国」と対峙していくことが、現状よりはるかに世界にとって望ましいと考えているのです。
 以上のような考え方は、日米双方を母国とされるバグってハニーさんにはなかなか分かっていただけないのかもしれませんが・・。

>自衛隊も「見せ金」(太田述正コラム#1710)ばかりじゃないじゃないですか

 「みせ金」中、米国の戦略に使えそうな部分を、米国に勝手につまみ食いされてきた、ということです。「保護国民」たる日本国民の大部分があずかり知らないところでね。
 トリビアを一つ。
戦後、日本の占領領域内外の機雷掃海作業を行っていた旧帝国海軍の掃海部隊(形の上では海上保安庁所属)は、占領軍の命令で、朝鮮戦争に参戦しています。
http://www.mod.go.jp/msdf/mf/special5.htm
 この掃海部隊等がもとになって海上自衛隊の前身である海上警備隊が1952年に設立されるのです。

(続く)

太田述正コラム#1711(2007.3.29)
<日本は核武装すべきか(その1)>

<太田>

 私は、防衛庁の中にいた頃から、カーター政権末期以来、民主党、共和党を問わず、米国政府は一貫して日本に軍事的自立を促してきている、という認識を持っています(太田述正コラム#30)。
  なおこれは、日米安保を、拡大されたNATOの中に取り込む、あるいはオーストラリア等を含めた太平洋版NATOに発展させるもくろみとセットになっています(同上)。
 この事実から、日本のマスコミはあえて目をそらせてきたのではないでしょうか。
 現に、マスキー国務長官(当時)が初めてこのような趣旨の発言を行った(同上)際、これをキャリーした時事の配信を、日本のメディアは完全に無視しました。

 さて、この軍事的自立の中に、日本の核武装が入らないわけがありません。
 英仏はもとより、イスラエルやインド、更にはパキスタンにまで核武装を容認した米国ですよ。
 そもそも、これら諸国と違って、日本は、米国の核戦略に深くコミットしています(同上)。

 以上申し上げたことと、日本が核武装を選択するかどうかは全く別問題ですが、事実認識としては、以上のような認識を議論の共通の前提とすべきでしょう。

<バグってハニー>

 私は以下の三つの理由から太田氏の日本核武装論(注1)は意義が乏しく、実現性も非常に低いと考えます。

 (注1)私が核武装論者に「転向」したのは、つい最近の昨年7月のことであり、そのやむなき事情は太田述正コラム(#1339、1340。
http://ohtan.txt-nifty.com/column/
)上で明らかにしている。(太田)

??「米国は日本を核の傘の外に置いている」という前提がまずおかしい

 この傍証として前民主党政権のペリーらの発言を引いていますが、彼らの発言を太田氏が主張するように解釈することに私は同意しませんが、仮にそこは譲ったとしても、彼らの発言はあくまでも責任のない外野の発言でしかなく、それを「場合によっては米共和党も(太田コラム「戦後日本史の転換点に立って(その3)」から)」などと拡大解釈するのは根拠薄弱です。米国政府の真意はその最高責任者である大統領の発言から計るべきでしょう。高成田氏が「反撃されるかもしれないという可能性があれば、必ずしも100%反撃しなくても、抑止になる」といみじくも指摘したとおり、「攻撃される可能性は低いかもしれないが、もしも被害を受ければ甚大になる」というのが核による抑止の基本ですから、米大統領自身の明確なメッセージは核抑止の上で絶大な効果があります。
 北朝鮮の核実験直後にブッシュ大統領は以下の声明を表明しています。
 「私は、韓国と日本を含むこの地域の同盟諸国に対し、米国は核抑止と安全保障のコミットメントの全てを履行するであろうことを改めて保証した(太田コラム「北朝鮮核実験か(続x5)」から)」
 つまり、大統領自ら米国の核の傘は万全であることを保証しました。
 また、ブッシュ大統領は折に触れ北朝鮮の問題は話し合いによって解決することを強調しています。これは、ペリーらが主張する拙速な武力行使を明確に否定していることになります(というかブッシュが弱腰だからペリーらは強硬なこと言ってるのですが)。ブッシュの話し合い路線には様々な理由があると思いますが、米国が北朝鮮に武力行使すれば、韓国と日本の一般大衆が巻き込まれることは目に見えていますから、ブッシュ大統領は両国に対して配慮しているとも考えられます。さらに同日の会見では

 「北朝鮮による、核兵器または核物質の国家または非国家的存在への移転は、米国にとって重大な脅威であると見なされ、かかる行為のもたらす結果に対し、北朝鮮に完全に責任を負わせるだろう(同コラムから)」

とも語り、これはWP紙のクラウトハマーによれば

 「米国またはその同盟諸国で核爆発が起こった時は、北朝鮮以外に、核に係る諸義務をかくも不用意に破る核保有国はありえないので、これは北朝鮮による攻撃であると見なし、米国は北朝鮮に対し全面的な核報復を行う(同コラムから)」

ことを意味します。つまり、米国は従来の核抑止策に加え、「拡張された核抑止(同コラムから)」を整備する用意があることを表明しました。
 拡張された核抑止では、例えばテロリストによる核攻撃に報復する際に、その出所を迅速に同定することが重要になります。ブッシュ大統領の声明に呼応し、この「核反応物質プロファイリング」を実現すべく、マイケル・メイ(Michael May)ローレンス・バリモア国立研究所名誉所長、ジェイ・デービス(Jay Davis)米国防脅威削減局前長官、レイモンド・ジーンロズ(Raymond Jeanloz)米科学アカデミー国際安全保障軍縮委員長の三名はネーチャー誌に連名で国際的なデータ・バンクの創設を提言しました。
http://www.nature.com/nature/journal/v443/n7114/full/443907a.html
 今現在の技術でも、爆発が核によるものかどうかは一時間以内で、核物質の種類と起爆装置がどれだけ精緻であるのかは数時間から数週間で、核物質の「指紋」とも呼ぶべき固有の化学的物理的特徴は1??2週間で判明します。ウランなら、どこの鉱山で産出され、どのように処理されたかによって同位体や不純物の組成が変わってき、プルトニウムも原子炉のタイプによって特有の変化が生じます。核爆発では必ず核反応物質に燃え残りが生じるので、後はそれを採取し、あらかじめ収集しておいたデータ・ベースとつき合わせることによって出所が判明します。
 ドイツ・カールスルーエの超ウラン元素研究所やオーストリア・ウィーンの国際原子力機関にはそのような核反応物質のデータ・ベースがすでに存在します。これらを国際的な協力によってより完全なものにしていくことが期待されます。テロリストやテロ国家がたとえこっそり核を爆発させても必ず突き止められて報復にあう、というのであれば、それは新たな、強力な核抑止となることでしょう。

 すなわち、米国による核の傘はほころんでなどおらず、むしろ拡大強化されつつあると言えます。この時点で太田氏が唱える日本核武装論の根拠はすでに崩れています。日本がとるべき道は核武装などではなく、米国や諸外国と協調し、さらにはイニシアティブをとって、この新たな核抑止策を推進することにあると私は考えます。

(未完)

<太田>

 続編に期待していますが、このやりとりを情報屋台の掲示板に転載させていただいていることをお断りするとともに、そそっかしい「やみ鍋亭」さんに代わって、彼の言いたいこと(太田掲示板#203以下参照)をより的確に代弁しようとされていることに対し、私からも御礼を申し上げます。

 それにしても、苦笑せざるをえません。
 バグってハニーさんのおっしゃっていることは、昨年7月までの私の考えそのものであり、しかも、(最近のものではありますが、)私のコラムを盛んに引用しながら論旨を進めておられるからです。
 ですから、まるで自分自身に対してコメントするようなコメントを次回以降行う羽目になりそうです。

 以下は、コメントではなく、議論が拡散しないための頭の整理の第一弾です。
 典拠はつけなかったことをお断りしておきます。

 非核武装論は非武装論の一環であり、非武装論者でない人が非核武装論をとるのは論理的には矛盾です。
 だからこそ、米・ソ(露)・英・仏・中・イスラエル・印・パキスタンは核武装をしたわけですし、北朝鮮やイランは核武装をめざしているわけです。

 ただ、核兵器の使用にともなう直接的間接的惨害は在来兵器の使用の場合とは比較にならないくらい大きいことから、世界の大部分の人は、できれば自分自身が核兵器を使用する意思決定を行う立場には立ちたくないという気持ちを抱いているのではないでしょうか。
 また、核兵器を使用する意思決定を行う主体が増えれば増えるほど、その主体が非合理的な判断をしたり、あるいは事故が起きたりして、核兵器が実際に使用される可能性が増えることも懸念されます。

 ですから、核兵器は持たないし、他国に自分達のために核兵器を使わせることもしない、という方針をとる国が世界で大部分を占めていることは何ら不思議ではありません。

 その一方で、少数ながら、自分では核兵器は持たないけれど、国際機構に自分達のために核兵器を使わせるという方針をとる国もあります。
 米国以外のNATO加盟国がそうです。
実際には、米国が米国以外のNATO加盟国のために核兵器を使用するわけですが、核兵器の配置/備蓄場所(ただし、戦域・戦術核兵器が前方展開されていた頃)や核兵器使用をめぐって、加盟国の意向が反映するメカニズムがあります。

 最後に、極めて少数ながら、自分では核兵器は持たないけれど、他国に自分達のために核兵器を使わせるという方針をとる国もあります。豪州、韓国等米国と二国間軍事同盟だけを締結している諸国がそうです。
 日本もそうであり、この方針を、「やみ鍋亭」さんもバグってハニーさんも是認しておられるようです。昨年7月までの私もそうでした。

 ただし、私はこの方針を無条件で是認していたわけではありません。
 私は一貫して、日本が豪州や韓国等以上に米国の核戦略に深くコミットしながらも、その事実が国民に対して全く開示されておらず、かつ豪州政府や韓国政府等と違って、日本政府と米国政府との間で、米国の核の配置や米国による核使用に関する話し合いが全く行われていないという深刻な状況について、世論に注意を喚起してきたのです。
 なお、米国の核戦略へのコミットとは、NATO有事等における日本の自衛隊の在来兵器による第三国の核戦力の撃破計画が存在していることを指しています。

(続く)

太田述正コラム#1528(2006.11.25)
<日本の核問題をめぐって(その2)>

 (本扁は、コラム#1523の続きです。)

4 コラム「美しい国の核密約」について

 (1)氏の主張

 しかし、私の懸念はやはり的中しました。
マスター・H・N氏は次のコラム、「美しい国の核密約」の中で次のようなことを主張されたからです。(かなり圧縮しました。)
 
 佐藤栄作・・首相のときにつくった・・非核三原則・・は・・核兵器を持たない、作らない、持ち込ませないという三原則<だ>。・・<問題なのは、>持ち込ませない、という3番目の原則<だ>・・。<この原則をめぐって、>日本の米軍基地に核兵器を搭載した原子力空母や潜水艦が寄港しているのではないか、日本の領海内を核搭載艦船が通過したのではないか、といった議論が山のようになされ・・た。
 <しかし、そもそも、>持ち込みという・・日本語<は、>英語では・・通過を意味するトランジット、・・進入を意味するエントリー、そして・・貯蔵を意味するイントロダクション<の>3つを意味して<いるところ、実は、>1960年に日米安全保障条約を改定した岸元首相は・・マッカーサー将軍の甥であるマッカーサー米国大使・・との間で、最初のトランジットとエントリーは認める密約を結んでいた。
 <ところがこの>密約・・が、岸政権から池田政権に引き継がれていなかった。
 <だから、非核三原則がつくられた>後の国会論議の中で、歴代政府は<、>核兵器の日本領域内<設置はもとより、>通過<や進入も>日米安保条約の事前協議の対象になるから、米国からいまだかつて事前協議の申し込みがないところを見ると、核兵器の<貯蔵はもとより、>通過<や進入も>ないのだと・・繰り返してきた。
 <見かねて、>1963年4月4日・・ライシャワー大使が大平正芳外相を呼んで、・・核兵器は日本国内の武器庫に貯蔵され・・ない限り、持ち込んだということにはならないのだ、・・と<注意を喚起した>。
 その後、核兵器積載艦船の日本寄港<(進入)>の事実は、1974年9月にラロック<米>退役海軍少将、1981年5月にライシャワー元大使によって明らかにされ・・た。イントロダクション以外は日常茶飯事だったということは、すでに日米現代史の研究者の間では常識になって<おり、>つい最近も、米国務省関係の資料で裏付けられ・・た。
 1972年5月、佐藤内閣の下で沖縄が日本に返還され・・た・・。沖縄にはそれ以前、メースBと呼ばれる核基地があ<っ>たが、佐藤元首相は、いわゆる『核抜き』の返還を要求し、表向きそれに成功し・・た。しかし、裏ではニクソン大統領との間にやはり密約が結ばれていて、有事の際には再貯蔵するという約束が取り返され・・た。<こ>の密約の件は、まさにイントロダクションに当た<る。>
 つまり、非核三原則<中の「持ち込ませない」>というのは、いまや嘘であることがはっきりしている・・。
 <嘘で国民を欺く日本政府はけしからん。>

 (2)私の批判

 氏のお考えが必ずしも明確ではないので困るのですが、氏は、日本は米国の核抑止力に依存すべきではないのであって、米国の核戦略には一切関与するな、というお考え(考え方A)のようです。
 また氏は、そのようなご自分の考え方は考え方として、仮に日本が米国の核抑止力に依存すべきだという考え方に立ったとしても、非核三原則は、日本語の字義通り厳格に遵守されなければならない(考え方B)、と主張されているようです。
 考え方Aは、結局のところ非武装論/安保体制不要論に帰着するので、わざわざ論評する必要はありますまい。問題は、考え方Bの方です。
 私は、非核三原則は、厳格に遵守されてきたと考えているので、氏がなぜ肩に力を入れて日本政府を批判しておられるのか理解できないのです。
 
 まずは、1990年に横須賀市が行った二つの照会に対する外務省の回答(
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/kithitai/08/h02.html
。11月24日アクセス)をお読みください。

<横須賀を母港とすることになった米空母インディペンデンスの核装備の有無について> 安保条約上、艦船によるものを含め、核兵器の持ち込みが行われる場合は、すべて事前協議の対象となり、また、核持込みについての事前協議が行われた場合、政府としては常にこれを拒否する所存であるので、非核三原則を堅持するとの我が国としての立場は十分確保されると考える。
 政府としては、米国政府は核持ち込み問題に対する我が国の立場及び関心を最高首脳レベルを含めて十二分に理解しており、核持ち込みの事前協議が行われない以上、米国による核持ち込みがないことについては何らの疑いも有していない。

<横須賀に寄港することとなった英艦艇3隻の核装備の有無について>
 国連軍の我が国への駐留の根拠となっている吉田・アチソン交換公文及び国連軍地位協定上は、核の我が国への持ち込みが認められているいかなる規定も存在せず、また、これらの締結された趣旨に照らしても、国連軍による核の我が国への持ち込みは本来的に予想されていないところであり、核の我が国への持ち込みに当っては、別途我が国の同意が必要である。
 「非核三原則」に基づき、艦船によるものも含め、我が国への核兵器の持ち込みが行われる場合には、これを拒否する所存である。
 我が国の友好国たる国連軍地位協定締約国が無断で核を持ち込むようなことは考えられない。

 いかがですか。
 二つの回答は矛盾していると思われる方が少なくないのではありませんか。
 しかし、この一見矛盾するような二つの回答が意味しているところは、非核三原則の第三原則は、イントロダクションだけを禁止している、ということなのです。
 そして、このことを遅くとも1990年までに日本政府は明確に宣言している、ということなのです。
 どうしてそのように読めるのでしょうか。

 第一に、「持たず」「作らず」と違って「持ち込ませず」については、核武装国の同意がなければ実効性が担保されないところ、事前協議制がなく、また、その政府と日本の非核三原則に係る協議が行われたこともない以上、日本政府の同意なくして日本の米軍基地に軍隊を出入りさせることができる<朝鮮>国連軍地位協定締結国中の核武装国・・英国とフランス・・は、米国と違って自由に日本国内の所定の米軍基地に核兵器を持ち込めるはずです。
 第二に、英国とフランスが核兵器を日本に自由に持ち込めるのに、米国は持ち込めないというのでは、著しくバランスを失することになります。
 第三に、日米間で事前協議の対象となるのは、米軍配置の重要な変更、装備の重要な変更、日本国内の基地からの戦闘作戦行動、の三点であり、核兵器の持ち込みは「装備の重要な変更」に該当するとされている。11月22日アクセス)ところ、これまで米側から事前協議が提起されたことはない(
http://www.toonippo.co.jp/rensai/ren2000/misawa/msw0321.html
。11月22日アクセス)のですから、これまで一度も米国は核兵器を日本に持ち込まなかったことになります。
 第四に、しかし、かつて米軍の主要艦艇は日常的に核兵器を搭載していたことは、ラロックとライシャワーの証言(上掲)からも明らかです。
 第五に、その一方で日本政府は、「核持込みについての事前協議が<米国との間で>行われた場合、政府としては常にこれを拒否する所存である」と言明してきています(上掲)。

 以上から、「持ち込ませず」は、イントロダクションだけを意味する、という結論になります。
 すなわち、米国が日本に約束しているのは、核兵器の日本へのイントロダクションの回避だけだ、ということなのです。

 それでは、米国はダメだけれど、英国やフランスは核兵器を日本に自由にイントロダクションできるのでしょうか。
できません。
 というのは、まず第一に、現在、英国やフランスは自前の基地を日本国内に保有していません。新たに基地を保有しようと思ったら、日本政府の同意を得なければならず、当然その時に日本政府は核のイントロダクションを禁ずる条件を付けるはずです。
 第二に、では、在日米軍基地への英国やフランスによる核のイントロダクションはできるのでしょうか。
 これもダメでしょう。
 米国は、在日米軍基地の管理権を持っていると同時に、朝鮮国連軍として在日米軍基地に入った英国軍やフランス軍の指揮権を持っていることから、英国やフランスによる核兵器のイントロダクションは、即、米国によるイントロダクションを意味するからです。

 最後にもう一つ肝心なことを申し上げなければなりません。
 以上は平時の話であって、有事はまた別だ、ということです。
 有事には、ローマ法以来の「Necessitas non ha- bet legem.」(緊急は法を持たない)という法諺があてはまる(
http://www.shufuren.gr.jp/05kikanshi/1999/9907_12.html
。11月25日アクセス)ところ、そもそも非核三原則、就中その第3の原則、は法ですらないからです。
 朝鮮有事だろうが日本有事だろうが、有事において必要が生じれば、日本に米国や英国やフランスが核兵器を持ち込むことは想定できるのであり、その場合、米国から事前協議があれば、日本政府はそれに同意するでしょうし、時間的余裕がなくて事前協議なくして持ち込まれてしまった場合も、日本政府はそれを黙認することでしょう。
 沖縄返還時のいわゆる核の密約(上掲)は、単にその当たり前のことを日米両国政府が確認し合っただけなのであり、何ら問題にするにはあたりません。

 確かに、政治家や、政治家にひっぱられて外務官僚が、あたかも非核三原則がトランジットやエントリーまで禁じているかのような不規則発言を、折に触れて国会の内外で行ってきたことは事実ですが、政府の正式の文書にそんなことは一切書かれていないはずです。
ですから私は、非核三原則は厳格に遵守されてきた、と申し上げたのです。

 さて、以上は、マスター・H・N氏の設定された狭い土俵上での議論です。
この土俵をとっぱらってみると、恐らく氏が全くご存じないであろう、深刻な問題が見えてくるのです。

(続く)

太田述正コラム#1523(2006.11.22)
<日本の核問題をめぐって(その1)>

1 始めに

 情報屋台(コラム#1447。一般公開まで、もうすぐだと聞いています)の同僚執筆者の紀真人氏のコラム、「産業革命はなぜ連合王国で生じたのか 」に対するコメント(コラム#1477、1489、1501、1515、未完)はお読みになったことと存じます。

 今度は、もう一人の同僚執筆者であるマスター・H・N氏のこれまでの三つのコラム、「繰り返される悲劇の歴史」、「美しい国の核密約」、「フィクションとしての「日本核武装」」について、コメントしたいと思います。この三つのコラムは、すべて日本の核問題をテーマにされており、私としては、つい最近、日本核武装論者に転向した(コラム#1340)こともあり、取り上げさせたいただきたいと考えた次第です。

 なお、氏は、第三者からの聞き書きという体裁をとられていますが、私としては、氏自身の言としてコメントを加えさせていただくことを最初にお断りしておきます。

2 中身に入る前に

 中身に入る前に、氏が、二番目のコラムの「美しい国の核密約」で多用されている言葉が気になったのでまず一言。

 氏は、安倍首相のダブルスタンダード的手法なるものを批判して、「良く言えば、清濁併せ呑んで国民を導いていく。悪く言えば、国民を騙して突っ走っていく。まあ、寄らしむべし、知らしむべからず、という江戸時代からのお代官さまの論理と同じですね」と言っておられます。

 更にちょっと後で、今度は岸、池田、大平各首相の核政策について、「これは、寄らしむべし、知らしむべからず、という江戸時代の為政者の精神そのものでしょう。」とまたもやこの「寄らしむべし・・」という言葉を使っておられます。

 よほどこの言葉がお好きなのでしょうが、果たして氏はその意味がお分かりなのでしょうか。
 氏は、「寄らしむべし、知らしむべからず」が、論語の泰伯第八「<子曰>民可使由之不可使知之」の読み下し文であることはご存じなのでしょうか。

 また、その意味が、「為政者は民に信頼されるように努めよ。民に為政の内容を理解させることは容易ではないからだ」であることはご存じなのでしょうか。

 (以上、例えば、http://kanbun.info/keibu/rongo08.html
(11月22日アクセス)参照。ただし、訳文に私の手を加えた。)

 そもそも、江戸時代にこの言葉を為政訓とした為政者が本当にいるのでしょうか。寡聞にして私は知りませんが・・。

 この孔子の言葉は、間接民主制の根拠としても使える名言だと私は思っているので、この言葉は大切にお使いいただくよう、切にお願いしておきます。

3 コラム「繰り返される悲劇の歴史」について

 このコラムの前段の最後は、「核爆弾が炸裂すると、その瞬間は温度が1000万度にまで達するんですよ。人間は焼けて蒸発し、空気は急激に膨脹して爆風と衝撃波がすべてのものを吹き飛ばしてしまいます。同時に電磁波が走り、いろんな放射線が人間のからだを刺し貫いていくんです。そのあと、死の灰が降り、人間のからだに死神のように取り憑きます。たとえば、死の灰のひとつストロンチウム90はカルシウムと同じ化学的性質を持っていますから、骨に入り込んで骨がんや白血病をひきおこしてしまうんです。セシウム137も、人間のからだに必要なカリウムと区別がつきません。」という一節です。

 私はここまで読んで、氏が、核爆弾が即死しなかった被爆者にいかに苦痛を与えるかを訴えた上で、対人兵器であるダムダム弾や対人地雷、あるいは大量破壊兵器である化学兵器や生物兵器の使用が禁止されたのと同様、核兵器も国際法によってその使用が禁止されるべきであると主張されるのであろうと思いました。

 その過程で私は、ダムダム弾や対人地雷は、ほとんど同じ効果を持つ他の兵器で代替できるし、化学兵器や生物兵器は、気象条件によっては効果が不確実であり、かつ核兵器で代替できるのに、核兵器は効果が確実であり、しかも他の兵器で代替できないため、核保有国は核兵器の使用禁止に踏み切ろうとしない、といった話が出てくるのではないか、と期待したのです。

 ところが、氏は、日本人が広島と長崎で核爆発の被害を受け、更に第五福竜丸が水爆実験の被害を受けた話だけをしてこのコラムを終えられたので、いささか拍子抜けしてしまいました。
 いやいや、これは導入部に過ぎないのだ、と自分に言い聞かせました。

(続く)

太田述正コラム#1468(2006.10.25)
<日本の核武装をめぐって(その3)>

 (2)日本にとっての核の脅威
  ア 北朝鮮
 北朝鮮は四重の意味でパンドラの箱を開けてしまったと言えるでしょう(個々の典拠は略す)。
  一つは、北朝鮮が、核拡散防止条約(NPT)加盟国としては、初めてNPTから脱退し、核保有に至ったことです。(国連安保理事国以外で核保有国になったイスラエル・・ただし、同国は、核を保有していることを公式には認めていない・・もインドもパキスタンも、更に、一旦核保有国になってから核を廃棄したアパルトヘイト時代の南アフリカも、NPTに加盟していませんでした。)
 二つには、北朝鮮は、これまでの核保有国の中で、(核保有を公式には認めていないイスラエルはともかくとして、)際だって国土面積が小さく、人口も少なく、しかも貧しい国であり、どんな国でも、決意さえあれば核保有国になれることを証明したことです。
 三つには、北朝鮮が、米国のように対外戦争に勝利するためではなく、また、ソ連(ロシア)、英国、フランス、中共、インド、パキスタンのように核抑止力としてでもなく、初めて、通常兵器による攻撃から自国を守るために核保有をしたことです。(もっともこの点も、核保有を公式に認めていないイスラエルと共通している。)
 四つには、形の上では国家でも、テロ・拉致・通貨偽造行使・覚醒剤製造密売・武器麻薬密売の常習犯という、実態は組織暴力団に等しい北朝鮮が核保有をしたことです。従って、核兵器を上記以外の目的・・例えば、国際テロ組織への核兵器の密売・・に用いる可能性があることです。

 以上から、日本が北朝鮮から核攻撃される可能性が出てきただけでなく、北朝鮮以外の国が新たに核保有国になって日本が核攻撃をされたり、日本が核テロ攻撃を受けたりする可能性も高まったと言えるでしょう。

  イ 中共
 中共は、今年の年内から来年末までに、短射程のものはアラスカを、長射程のものは全米を射程に収める大陸間弾道弾の東風(Dong Feng )31を60基配備すると報じられています。東風31は、射程6,000??1万1,000kmで、中共の大陸間弾道弾としては、初めて米本土に到達できるだけでなく、初めての固体燃料を使用した弾道弾であって即時発射ができ、しかも、初めての移動式の弾道弾であり、固定サイロからではなくトレーラーや貨車から発車できるので、容易に米国によって補足できず先制的に破壊することが困難である、という画期的なものです(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060711/eve_____kok_____002.shtml
。7月12日アクセス)。
 中共は、現在、まともな反撃用の(原子力潜水艦に搭載された)第二撃核戦力を持っていませんが、仮に持った暁には、旧ソ連同様、全面的な対米核抑止力(相互確証破壊=MAD)を持つことになります。
 いずれにせよ、中共の核によって米本土が脅かされることになった以上、米国の日本に対する核抑止力の信頼性が、理論上、これまでより低下することは必至です。

  ウ まとめ
 2006年は、日本に対する核の脅威が、一挙に、考えようによっては冷戦時代のソ連と中共の核の脅威のレベルを超えて高くなった年として、後世記憶されることになるでしょう。

 (3)コメント
 現在、ドイツ軍の総兵力は25万人ですが、そのうち9,000人が海外に派遣されているところ、今後は、ドイツ軍の国土防衛任務を基本的に解除し、これを国際派遣(intervention)任務主体の軍へと再編し、常時計14,000人を世界の5箇所に派遣できる体制の構築を目指すことになりました(
http://www.ft.com/cms/s/b0651290-6384-11db-bc82-0000779e2340.html
。10月25日アクセス)。
 ドイツには核の脅威がもはやほとんどないので、ドイツでは核保有論議は全く出ていません。
 日本は、北朝鮮からのゲリラ攻撃に備えなければならず、また、中共からの渡洋攻撃にも一応は備えなければならない、という点で違いはあっても、今年前半までは、日本の今後の防衛のあり方は、基本的にドイツのそれに倣えばよい、と私は考えていました。
 そのために乗り越えなければならない最大のハードルは日本による集団的自衛権行使の解禁でした。
 しかし、7月の北朝鮮のミサイル発射実験の際に行われた米元政府高官達の不用意な提言によって米国の日本に対する核の傘の信頼性が低下した(コラム#1339)上に、10月の北朝鮮の核実験によって、日本が北朝鮮の核攻撃を受けた場合に、果たして米国が核報復してくれるのか、疑問が生じてしまったわけです。
 このため、否応なしに日本は、自らの核武装の是非を考えざるを得ない立場に陥ってしまったことになります。
 米国政府もまた、日本の核武装を容認していると私が考えていることも既にご説明しました。
 しかも、米原子力空母の配備について、先般、横須賀市がいとも簡単に受け入れ決定をした(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060614/eve_____sya_____006.shtml
。6月15日アクセス)こと一つとっても、日本人の核アレルギーは、もはや風化してしまったと見てよいでしょう。
 となれば、今後は、北朝鮮の核の除去(及び拉致問題の解決)、そのための北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊が遅れれば遅れるほど、日本の核保有へ向けての動きは加速して行く、ということになりそうです。
 最後に蛇足ながら、小沢さんに一言。
 こんなご時世に社民党なんぞとつるんでいるようでは、補欠選挙に惨敗する(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061023k0000m010089000c.html
。10月22日アクセス)のは当たり前です。
 前述した自由党党首時代のあなたの核保有「恫喝」発言からしても、あなたは日本の安全保障について、強い危機意識をお持ちであると拝察します。
過ちを改めるにはばかることなかれ。
今後は持ち前の豪腕を発揮され、自民党の中のまともなタカ派と連携して政界再編する、という方向にぜひ民主党を引っ張って行っていただきたいものです。
 まずは、ご持論である、自衛隊と別組織の国連平和維持部隊構想を撤回され、集団的自衛権行使のための政府憲法解釈変更をお認めになり、その上で、(自民党の中川政調会長や麻生外務大臣に先を越されてしまったけれど、)改めてもう一度核保有「恫喝」発言をされることを強くお奨めします。
 開国政策をとった旧勢力の幕府が権力を失い、非常識にも攘夷の決行を唱えた新勢力の薩長が権力を掌握したからこそ、日本の真の開国と急速な近代化がなしとげられたという逆説的故事を踏まえれば、現在の日本の喫緊の課題であるところの、米国からの自立と体制の抜本的変革が、昭和のアンシャンレジームの残滓たる自民党に成し遂げられるはずがないのであり、私としては、頼りないことこの上ないけれど、いや頼りないことこの上ないからこそ、新興勢力たる民主党にこれまでずっと期待を寄せてきました。
 この私の期待を裏切らぬよう、小沢さんのご健闘を祈ります。

(完)

太田述正コラム#1464(2006.10.23)
<日本の核武装をめぐって(その2)>

4 コメント

 (1)日本の核武装能力
 アリソンもグロッサーマンも日本の核武装能力を当然視していますが、ここで簡単にこのことを説明しておきましょう。
  プルトニウムは、天然にはほとんど存在していませんが、ウランを原子炉の燃料として原子力発電を行う過程で副産物としてつくられます。
 日本は、米、仏に次ぐ世界第三の原子力発電大国です。
 その日本は現在、45トンのプルトニウムを保有していますが、プルトニウムの利用の方はまだほとんど始まっていないため、へたをすると2020年には日本のプルトニウム保有量は145トンにも達する可能性があると指摘されています。
 核爆弾1個をつくるために必要なプルトニウムの分量は8キロ程度とされています。
現在米国が保有する全核兵器のプルトニウムを合算しても100トンにしかならないのすから、145トンという量の巨大さが分かると思います。
 これだけの量の核爆弾の「原料」を日本は持っているのですから、一旦決意すれば、日本は、その科学技術力ともあいまって、恐らく6ヶ月もあれば、かなり高度の核爆弾をつくることができ、しかもその後短時間で、保有数を大幅に増やすことができると考えられています(注3)(注4)。
 (以上、注の部分も含め、
http://www.realcities.com/mld/krwashington/15550443.htm
(10月22日アクセス)、及び、
http://www.atimes.com/atimes/Japan/GI09Dh03.html
(2005年9月9日アクセス)、並びに、
http://sta-atm.jst.go.jp:8080/dic_0107_01.html
http://www.jnfl.co.jp/business-cycle/5_kongou/kongou_03/_03_01.html
http://www.jcp.or.jp/faq_box/001/200205_faq.html
http://kakujoho.net/npt/words2r.html#id2
(いずれも10月23日アクセス)による。)

 (注3)日本では、原子炉の燃料カスを再処理して分離回収したプルトニウムを高速増殖炉で使う予定であったところ、1995年に起きた高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故の影響で、その実用化が2030年以降になる見通しとなったため、その間、MOX (Mised-Oxide)燃料(=混合酸化物燃料=再処理により回収された(酸化)プルトニウムと、天然ウランもしくは同じく再処理で回収された(減損酸化)ウランと、を混ぜて作った燃料で、ウラン・プルトニウム混合燃料ともいう)を、通常の原子力発電所(軽水炉=Thermal Reactor)で使う計画が進められている。これを、プルトニウムの「プル」とサーマル・リアクターの「サーマル」をとってプルサーマル計画という。しかし、安全性への懸念が生じたこともあり、この計画も予定通り進捗していない。
 (注4)日本は、使用済み核燃料の再処理をフランスと英国の両国に委託して行ってきたが、青森県の六ヶ所村に再処理工場が建設され、既に今年から使用済み核燃料の再処理の試験操業を開始しており、日本は非核保有国としては世界で唯一、(核保有国たる英仏露とともに)プルトニウムの商業生産能力を持つ国となった。
 
 その上、日本は衛星打ち上げに用いてきた、液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの製造能力を持っており、固体燃料ロケットの方は、即時発射が可能なので核弾頭搭載用途に転用でき、しかも、日本のM-Vロケットは、固体燃料だけで打ち上げるロケットとしては世界最大級のものである(
http://www.universe-s.com/junior/rockets/japan_j.html
。10月23日アクセス)ことから、日本は、核爆弾をある程度小型化できれば、衛星の代わりにこの小型核爆弾を搭載することで、核弾道弾を保有することができるのです。
 もとより、日本が、陸上の核基地に対して核兵器による先制攻撃を受けた場合でも確実に生き残る反撃用の核戦力、すなわち本格的な第二撃核戦力、を持つためには、原子力潜水艦を保有する必要があり、原子力潜水艦の開発は一朝一夕にはいきません。
 しかし、原子力潜水艦を保有するまでのつなぎとして、海上自衛隊の潜水艦の標準装備となっている米国製のハープーン巡航ミサイルに搭載できる程度に核爆弾を小型化できれば、近く就航を始めるところの、最新型のAIP(Air Independent Propulsion System=大気独立型機関)を積んで潜水航続距離や潜水待機時間を大幅にアップした海上自衛隊潜水艦(
http://www.geocities.jp/dumbo_seal/dumbosseal_006.htm
。10月23日アクセス)が3隻??6隻そろったところで、核搭載ハープーンを装備させた上で、交代で東シナ海に常時1??2隻を派遣することが考えられます。
 中共の対潜水艦能力は極めて低いし、北朝鮮に至ってはゼロに近いので、在来型潜水艦であっても、簡単には撃沈されないでしょうから、こうすれば日本は、中共・北朝鮮に対して、第二撃核戦力を事実上持つことになります(注5)。

 (注5)イスラエルが核ハープーンを搭載した在来型潜水艦を3隻保有している、という話をコラム#169でしたことがある。ハープーンは射程が80マイル超(128キロ超)しかないが、中共の沿岸地域(含む北京)や北朝鮮の相当部分をカバーできることも、その時指摘した。
 
(続く)

太田述正コラム#1463(2006.10.23)
<日本の核武装をめぐって(その1)>

1 始めに

 北朝鮮の核実験をきっかけに、米国で日本が核武装するかどうか、議論が活発化しています。
 それぞれの代表的なものをご紹介した上で、私のコメントを付したいと思います。

2 日本は核武装する

 アリソン(Graham Allison)ハーバード大学教授は、米国と世界が北朝鮮の核武装を事実上黙認するようなことになれば、米国の核抑止力そのものの信頼性が低下するとし、そうなれば、10年以内には、被爆体験のある日本も、そして韓国も核武装国になるだろう、と述べています(
http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=3620&print=1
。10月21日アクセス)。
 この論考の載った米フォーリン・ポリシー誌電子版には、同誌編集部がまとめた、「次の核武装国リスト」という資料も掲載されており、筆頭に掲げられているのは日本です。 日本の後は、イラン・台湾・シリア・韓国と続きます。
 ちなみに、韓国については、「高度な民間核セクターを持ってはいるが、濃縮ウランや核兵器に使用できる品質のプルトニウムを生産する能力は多分有してはいない」と評しています。
 (以上、
http://www.foreignpolicy.com/story/cms.php?story_id=3616&print=1
(10月21日アクセス)による。

3 日本は核武装しない

 一方、米国の著名な安全保障研究所であるCSIS(The Center for Strategic and International Studies) の幹部のグロッサーマン(Brad Glosserman)は、日本は核武装しない、と言い切っています。
 彼は、10年も前に当時の羽田孜首相は、日本は核武装する能力を持っていると認めた(注1)が、日本には核武装の能力はあっても依然その意思はない、というのです。

 (注1)現在民主党代表である小沢一郎も、自由党党首の時代の2002年に、「われわれには原子力発電所に豊富なプルトニウムがあるので、3,000から4,000発の核爆弾をつくることができる」と述べたことがある(
http://www.atimes.com/atimes/Japan/HH16Dh02.html
。8月16日アクセス)。

 その理由としてグロッサーマンが挙げるのは、
 第一に、日本国民は相変わらず核をタブー視している点です。(彼は、いずれ世論調査でこのことははっきりするだろうとつけ加えています。)
 第二に、米国の核抑止力のおかげで、あの巨大なソ連の核戦力すら意に介さなかったのだから、ささやかな北朝鮮の核戦力ごときに憶するのはおかしいことに日本人が気付くはずだという点です。
 第三に、1990年代前半の第一次北朝鮮核危機の後で防衛庁で行われた研究が下した結論・・日本が核武装すれば、日本のイメージが悪化し、核不拡散条約を形骸化させ、地域の他の諸国の軍拡や核武装を引き起こし、もはや自主防衛ができるのだからと日米同盟の存続を危うくする反面、日本はその国土の狭さと人口の集中からして核攻撃に脆弱である(注2)ことから、核武装は日本の安全にほとんど寄与しない・・は今なお正しい、という点です。

 (注2)日本の核攻撃への脆弱性を強調するのが、アジアタイムス記者のクロウェル(Todd Crowell)だ。彼は、日本は中共に対し、相互確証破壊(MAD=mutual assured destruction) 戦略をとれないので核武装は無意味だとする。すなわち、日本は首都圏に3発、関西圏に2発核攻撃を受けたら終わりで、報復攻撃することもままならないのに対し、昨年中共の国防大学の国防研究所の所長(Zhu Chenghu 少将)が、台湾問題で米国を牽制して、「中共は西安以東のすべての都市を破壊されてもやむをえないと思っている」と言ったくらいであって、日本が5発核を打ち込んだくらいではほとんど痛痒を感じない、というのだ。クロウェルは、1981年に防衛庁が行った研究でも、日本が核武装してソ連との間で相互に核攻撃した場合、日本側は約2,500万人が死亡するが、ソ連の極東地域では約100万人しか死亡しない、という結果が出ていると指摘する。(アジアタイムス前掲)

 ただし、グロッサーマンは、米国の日本防衛へのコミットメントに疑問が生じた場合は別だと留保をつけています。
 しかし彼は、北朝鮮による核実験以降も日米両国政府が日米同盟の強化に努めてるいることからして、懸念の必要はなさそうだ、と締めくくっています。
(以上、特に断っていない限り
http://www.glocom.org/debates/20061012_gloss_straight/index.html
(10月22日アクセス)による。)

(続く)

太田述正コラム#0169(2003.10.13)
<イスラエルの核への米国の協力>

 (メーリングリスト登録者数は319名になりました。また、私のホームページへの月間訪問者数が4,494人と最高記録を更新した旨をホームページの掲示板でご披露しています。)
 
 ロサンゼルスタイムスと(これを引用する形で)英オブザーバー紙に衝撃的な記事(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iznukes12oct12.storyhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iznukesgraphic12oct12,1,4401644.story及びhttp://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1061399,00.html(いずれも10月12日アクセス))が載りました。
 イスラエルが潜水艦に核巡航ミサイルを装備しており、米国がこのことに「協力」しており、しかもその事実を米国とイスラエルの政府高官が認めた、という記事です。
 
 両紙の記事の内容を要約すると以下のとおりです。
 先週、ボルトン備管理担当米国防次官は、イスラエルは米国にとって脅威ではないので、その核装備計画を詮索するつもりはないと語った。
 その後、ボルトン次官以外の米国政府高官二名が以下のことを明らかにし、イスラエル政府高官一名もこれが事実であることを認めた。(この米国政府高官のうちの一人は、「我々は英国やフランスの核装備を認めているのと同じ理由でイスラエルの核装備を認めている。我々はイスラエルを脅威であるとはみなしていない」と語った。)
 イスラエルは、保有している潜水艦三隻に、核装備が可能、かつ陸上攻撃が可能で、射程も恐らく延伸されるように改造されたハープーン巡航ミサイル(本来は対艦ミサイル。米国も陸上攻撃用のハープーンを開発し、保有している(http://www.chinfo.navy.mil/navpalib/factfile/missiles/wep-harp.html。10月12日アクセス))を搭載しており、米国製のハープーンミサイルをこのように改造することについて、米国政府も同意していた。
 イスラエルが核装備をしており、米国製のF-15やF-16戦闘機が核爆弾を搭載し、あるいはイスラエル国産のジェリコ等の地対地ミサイルが核弾頭を搭載していることは公然の秘密だった。しかし、これら陸上に配備された核は、周辺イスラム諸国が長距離ミサイルを保有するようになった現在、先制攻撃をうければ破壊されてしまう恐れが出てきていた。
 しかし、核ミサイルを潜水艦に搭載すれば、これを攻撃して破壊することは困難(潜水艦探知能力が極めて弱体なイスラム諸国には不可能と言ってよい(太田))であり、イスラエルは有効な第二撃核能力を持ったことになる。
 米政府高官がこれを非公式に認めた意図は、イスラエルになお敵対的なシリアや、核開発疑惑のただ中のイランを牽制するためだが、むしろアラブ諸国やイランを硬化させる恐れがある。
 (文末の二つの参考を参照のこと。)

 日本の核政策を考えるにあたって、以上の意味するところは重大です。
 まず、日本は核燃料も、スーパーコンピューターも、F-15も、(F-16をベースにして日米共同開発した)F-2も、そしてハープーンミサイル(水上艦艇、潜水艦、及びP-3Cに搭載済み)、も持っているということです。
特に、すべてハープーン搭載可能な潜水艦を16隻も持っていることが重要です。(イスラエルはわずか三隻です。)これらの潜水艦に、対地攻撃が可能なように改修されたハープーンを搭載して北朝鮮や北京の領海すれすれから、更には対潜水艦能力の劣る両国の領海内に侵入し、このハープーンを発射すれば、北朝鮮の平壌はもとより、上海、天津等の中国の沿海都市、更には射程を若干延伸すれば北京や南京等を攻撃できます。核弾頭を核実験なしで開発し、このハープーンに核弾頭を装備すれば、それだけで日本は有効な核戦力を保有できることになるわけです。(英国は潜水艦搭載核戦力しか持っていないことを思い起こしてください。)
イスラエルでもできたことですから、数年もあれば日本にできないはずがありません。
しかも、米国はイスラエルによるハープーン改造とハープーンへの核弾頭装備に消極的に協力したのですから、日本にはこれを許さない、というオプションをとることは論理的にも道義的にも困難でしょう。同じ文明を共有する英国に対しては、米国は核装備(核搭載原子力潜水艦)を供与するという積極的協力をしていますが、消極的協力、しかも対イスラエル並の対応を求めるだけなのですから・・。
多分、北朝鮮も中国も、この記事を見てショックを受けているはずです。それも本件をリークした米政府高官達の意図するところでしょう。
時代はまことに急速に動いています。

<参考1:各国の保有核爆弾数>
ロシア  :8,232
米国   :7,068
中国   : 402
フランス : 348
イスラエル: 100??200前後
英国   : 185
インド  :  50??100
パキスタン:  50??100
北朝鮮  :  2??6(保有していない可能性もある)

<参考2:イスラエル核装備史>
1949年:フランスの協力の下にイスラエル、核装備計画に着手。ネゲブ砂漠でウラン鉱脈発見。
1956年:フランスの協力の下にネゲブ砂漠で原子炉建設着手。
1960年:米国、イスラエルが核装備を計画しているとの疑惑を持つ。
1961年:米ケネディ政権、イスラエル政府に核査察を承諾させ、数年にわたって査察を実施。しかし、イスラエルは核装備計画を隠し通し、米国をあざむくことに成功。
1965年:プルトニウムを初めて抽出。フランス、核装備可能なジェリコ地対地ミサイル開発への協力開始。
1967年:核爆弾二個の製造に成功。
1968年:米国、イスラエルの核装備を察知。
1969年:米ニクソン政権、核保有を公表しないとの条件の下、イスラエル政府に対し、核装備を黙認すると密約。その後、米国、核実験をシミュレートできるスーパーコンピューターを供与。
1975年:米国、核装備可能なランス地対地ミサイルを供与。その後、米国、核装備可能なF-15(行動半径2000マイル)、F-16戦闘機(行動半径1000マイル)を供与。
1981年:イスラエル、建設中のイラクの原子炉を空爆し、破壊。
1986年:英サンデータイムズ紙、イスラエルが核装備していることを暴露。
1987年:ジェリコ??地対地ミサイル(射程930マイル)の実写実験を行う。
1990年代中頃:ドイツにディーゼル潜水艦(ドルフィン級。行動半径数千マイル。一ヶ月間行動可能)三隻を発注。1999年と2000年に取得。
2000年:核装備可能でかつ対地攻撃が可能なように改修され、かつ射程も延伸された可能性のあるハープーンミサイル(射程80マイル超)を潜水艦から実射実験(於インド洋)。その後、潜水艦を核装備し、三隻中常に一隻はペルシャ湾に、もう一隻は地中海に配備。
2002年:この事実を暴露した本(カーネギー財団)が出版される。

<問い>
数ヶ月前のサンデープロジェクトで田原と森本教授で次のようなやり取りがありました。
田原「日本が核兵器開発をやるとして法律は考えないことにして技術的にどのくらいの期間で開発・配備できますか」
森本「そうですねぇー。最短で3ヶ月ぐらいかな」

如何なんでしょうか。
専門家によって様々な意見がありますが本当のところどうなんですか。

<答え>
  率直に言って森本さんの答えは間違いです。
 核「爆弾」をつくるだけなら、あるいは三ヶ月でもできるかもしれませんが、安全性に疑問があって、しかも重く、かさばり、国外に運び出す手段が輸送船か輸送機しかないようなものは核「兵器」とは言えないでしょう。
  物が物だけに何重にも安全措置を講じながら開発しなければならず、小型化した上で、しかも軍事的に意味のある運搬手段の確保もあわせ行わなければならないことから、核兵器の開発には、どんなに急いでも2??3年はかかると思います。

太田述正コラム#0143(2003.8.23)
<日本の核政策はどうあるべきか(その1)>

 (前回のコラム#142でもとんだケアレスミスをしてしまいました。「東北(満州)地方以北、アムール河以南の地」は「アムール・ウスリー河以北の地」の誤りです。私のホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄でご確認ください。)

始めに代えて・・コラム#142の補足

8月22日付の読売新聞朝刊に「日本国内には、北朝鮮が求める不可侵条約を結ぶことに対しても反対意見が根強い。防衛大学校の西原正校長は14日付の米紙ワシントン・ポストで、「米朝不可侵条約は日米安保条約と衝突する」と指摘した。ただ、外務省は核抑止力を損なうことがなければ、日米安保体制に影響することはないとの立場だ。」という記事が出ていました(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20030822i201.htm。8月22日アクセス)。
これは外務省ならずとも、コラム#142で私が述べたとおり、あたりまえのことです。

1 非核三原則の欺瞞性

それよりももっと重要な話がこの記事の中に出てきます。
「日本政府は、米国のクリントン前政権が1994年に結んだ米朝枠組み合意について、北朝鮮の非核化が実現した場合の措置として、「米国は、米国による核兵器の威嚇もしくは使用はしないとの公式の保証を北朝鮮に対して与える」との条項が入っていることをかねて問題視して<おり、>・・・北朝鮮の核開発問題に関する北京での6か国協議で焦点となる北朝鮮への安全の保証をめぐって・・・今月13、14両日にワシントンで行われた日本、米国、韓国の3か国局長級協議で、藪中三十二外務省アジア大洋州局長<は、>ケリー米国務次官補(アジア・太平洋担当)に対し・・・<米国が北朝鮮に対し、>核兵器の不使用を確約しないよう・・・要請した。」という箇所です。
この報道が正しいとすれば、遅きに失する感なきにしもあらずですが、北朝鮮に対する国民世論の変化もあってか、外務省においても、これまでような愚民的超然主義を改め、核にかかわるホンネの外交交渉の内容をプレスにリークする気になったのかもしれません。もしそうだとすれば、一般日本国民の一人として慶賀に耐えません。

ところで、そもそも日本の核政策はどうあるべきなのでしょうか。
この記事の解説も兼ね、ごく基礎的な話から始めることにしましょう。

自らは核兵器を保有せず米国の核抑止力に依存する、というのがこれまでの日本の核政策であることはご存じの通りです。
この核政策は、米国の抑止力に依存する日本の安全保障政策の重要な柱であり、日本が第三国から武力攻撃を受けた場合や武力攻撃を受けるおそれがある場合、米国が核兵器を含む武力の行使や武力による威嚇を行うことによって、この第三国による日本に対する武力攻撃を阻止したり思いとどまらせたりする、というものです。
ですから、米国が北朝鮮等に対し、核の先制使用を行わないと確約することは、米国の抑止力の信頼性を低下させ、北朝鮮等が生物化学兵器による攻撃を含む対日武力攻撃を行う敷居を低くしてしまうので、避けるべきなのです。
上記の藪中局長の対米要請・・恐らく事実であると思います・・は、日本の核政策が、非核三原則なるきれいごとを唱えつつも、自らの手は汚さずに米国に核兵器を使わせ、使用に伴って生起する人道的問題等の責任は挙げて米国に負わせるという、非情かつ利己的な政策であることを雄弁に物語っていると言えるでしょう。

この「非核三原則」と「自らの手は汚さずに」という二点については補足が必要です。
まず「非核三原則」(核を持たず作らず持ち込ませず)ですが、これが平時にあっても、核装備をした米国等の艦艇の日本寄港や日本の領海の通航を禁じるものではない、ということはもはや周知の事実であると言ってもいいでしょう。
これが有事ともなれば、日本防衛のために米国が核兵器を使用することを躊躇するようなことがあっては困るわけで、日本政府として、米国が日本の領域内に核を持ち込むことに異を唱えるはずがありません。
そうだとすれば、「非核三原則」というのは明白なウソであって、せいぜい「持ち込ませず」抜きの「非核二原則」でしかないということになります。
次に「自らの手は汚さずに」ですが、米国の核戦略にコミットしてきたという意味では、日本の「手は汚れて」いるという認識を持つべきです。
冷戦時代の後半、日本の海上自衛隊が、オホーツク海等において、ソ連の第二撃戦略核戦力である戦略核ミサイル搭載原子力潜水艦を撃沈することをその主たる任務の一つにしていた(コラム#58や#30参照)こと一つとってもそうです。
最近で言えば、日本のミサイル防衛システムの整備が米国の核戦略と密接な関わりを持っています。
防衛庁は2004年度から、飛んで来る弾道ミサイルを大気圏外でイージス艦から発射するSM3で迎撃し、失敗した場合は着弾直前に地対空迎撃ミサイル「パトリオットPAC3」で撃ち落とす、二段構え方式のミサイル防衛システムを整備する予定です(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20030822k0000m010146000c.html。8月22日アクセス)。そして現在、SM3を更に高度化した「海上配備型ミッドコース防衛システム(SMD)」を日米で共同研究中です(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20030822k0000m010144002c.html。8月22日アクセス)。
ミサイル防衛システムの整備が進めば、弾道ミサイルが北朝鮮のものであろうが中国のもであろうが、そしてそれが通常弾頭であれ、生物化学兵器搭載弾頭であれ、或いは核弾頭であれ、日本に対する脅威は減殺されることになります。また、在日米軍基地の安全性も高まることになり、日本から見た米国の抑止力の信頼性が高まることになります。
しかしこのことは同時に、核バランス上米国が更に優位に立つこと・・・第三国が日本を核攻撃するのは困難だが、米国はその第三国を確実に核攻撃できる・・・ことを意味するのであって、日本のミサイル防衛システムの整備は米国の核戦略に資することになるのです。
なお、SMDの日米共同研究は、より直截的に米国の核戦略に資するものであることは申し上げるまでもありません。
(続く)

太田述正コラム#0079(2002.11.26)
<日本の核武装>
読売新聞が報じた世論調査結果によると、北朝鮮との交渉における最も重要な課題として、「核兵器やミサイル開発の中止」を挙げた人が日本では44%(米国では59%)に上り、「日本人拉致事件の解決」の37%を上回った(http://www.yomiuri.co.jp/01/20021125ia24.htm。11月26日アクセス)そうです。 まだまだ米国民に比べると甘いとは言え、日本国民は、初めて核の脅威を肌身で感じているようです。日本の全域をカバーするノドンミサイルを100基も持っている「ならず者国家」北朝鮮が、自ら核保有を認めたのですから、当然のことと言うべきでしょうか。
 米ニューヨークタイムスは、このような日本人の意識の変化をとらえ、東アジア諸国の間で日本の核武装への懸念が広がっているとした上で、防衛大学校の西原校長にインタビューしたところ、西原氏が「日本国内では日本が核武装すべきだとの声は出ていない。」と語った旨報じました(http://www.nytimes.com/2002/11/11/international/asia/11MISS.html。11月11日アクセス)。
 しかし、(そもそも、防衛庁の一機関である防衛大学校の校長にこの種問題について発言の自由があるかどうかはさておき、)日本人以外で、この西原発言を額面通り受け取る人は余りいないようです。

論より証拠。英高級紙オブザーバー(ガーディアンの姉妹紙)に掲載された英国の国立研究所RUSI(=the Royal United Services Institute)のダン・プレッシュ(Dan Plesch) 上級研究員の論考(http://www.observer.co.uk/worldview/story/0,11581,841965,00.html。11月17日アクセス)をご紹介しましょう。

「核軍縮が国際的優先課題ではなくなりつつあることから日本は核オプションを考慮している、と国際原子力機関(IAEA)の長官であるモハメッド・エル・バラダイ氏は語った」・・バラダイ氏は、国連監視・検証・査察委員会(UNMOVIC)委員長のブリックス氏とともにイラクの国連査察にあたることになっている人物です(太田)・・。
バラダイ氏は、「中国、フランス、ロシア、英国、そして米国がことごとく核兵器にしがみついているため、イラクと北朝鮮の核(武装)計画を阻止し、インドとパキスタン(の核武装の進展)を掣肘する努力が妨げられていると訴え・・「抑止」概念、と非核保有国における米国のいわゆる「核の傘」に頼る考え、とを問題視し・・このようなダブルスタンダードの世界は維持し続けられるものではない」としめくくった。
しかし、「ブッシュ政権は、「対テロ戦争」でパキスタンとインドの手を借りる必要があるため、両国(の核武装の進展)を見て見ぬふりをしている。いかに米国がパキスタンに影響力がないかを示すいい例が、パキスタンがミサイルを提供してもらう見返りに北朝鮮が(濃縮)ウランを製造するのを助けていたのについ最近まで気づかなかったことがあげられる。その北朝鮮から日本まではミサイルでほんのひとっ飛びだ。」
そこで、「米国の日本専門家による専門家パネルが、日本政府が(日本が)核武装すべきか否かについて国家的議論を開始していること、このことは必ずしも(米国にとって)悪いことではないこと、を慎重に指摘した。・・広島と長崎(の悲劇)が(反核の)国民的心情を醸成したため、長年にわたって日本は(核)軍縮に関する世界的議論をリードしてきた。しかし近年、(日本の)政府高官達は、明らかに日本が核武装した場合の国際世論を軟化させるねらいで、核武装の考えを繰り返し公にするようになった。日本の世論は(日本の)核オプションに対し依然絶対反対であるかもしれない。しかし、過去においてこれらの高官達が、米国の核部隊の日本への受け入れから民衆の目をそらすことに成功していることからすれば、日本の政治が保守化しているだけに、このより深刻な問題についても彼らは同様に立ち回ることができるかもしれない。・・このところ西側世界では、(核に係る)ダブルスタンダードを、西側世界が世界の残り(の国々)に比べて道徳的に優位にあるとして正当化することが流行している。英国ではロバート・クーパー(コラム#28参照)がこの理論の主唱者だ。」米国で「朴訥にこの立場を信奉するのが共和党のチャック・ハーゲル上院議員(ネブラスカ州選出)だ。・・ハーゲルは共和党の中で最も国際主義的な人物だが、その彼ですら肩をすぼめ、米国としては、米国自身及び米国の友邦は、(その他の国々に比べて)より責任感が強いので、核兵器を持つことが許されるのだと感じているとのたまう。しかし、この責任感あふれる(西側)世界は、まず日本によって、そしてその次ぎには多分韓国とオーストラリアによって、慰問(comfort)される日々を待ち望まなければならないのだ。」

 私は、プレッシュは深読みをし過ぎており、とりわけ日本の政府高官を買いかぶりすぎていると思います。
 ただ、一つだけはっきりしていることは、英米の政府関係者の中には、日本が核武装することに理解を示しつつ、日本が近々核武装するであろうと予想している人々がいるということです。しかも、私には彼らが決して英米の政府関係者の中で少数派ではないという確信があります。

 当コラムの読者の中にはショックを受けた方もおられるかもしれません。

 お前はどう考えているのかですって?

私は、日本は核武装する必要はないが、非核政策を今後とも維持するためには、政府の防衛政策を抜本的に転換しなければならないという立場です。そのことは後日、改めて詳しく論じる所存です。

http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1039523462982&p=1012571727085。12月13日アクセス)

太田述正コラム#0069(2002.10.21)
<核保有をほのめかした北朝鮮(続)>

 その後、北朝鮮の核をめぐる状況が大分はっきりしてきました。

1 二種類の原子爆弾
 核爆弾(=原子爆弾=核分裂爆弾。水素爆弾=核融合爆弾、ではない)には、「濃縮ウラン型(広島型)」と「プルトニウム型(長崎型)」があります。濃縮ウラン型なら、爆発実験なしでも実戦配備可能とみなされています(詳細については、日本経済新聞2002.10.20(朝刊)5面の記事参照。読まれた方も少なくないと思います)。
 かねてより、米CIAは、北朝鮮がプルトニウム型1-2個をつくれるだけのプルトニウムを精製済みであると指摘してきましたが、ラムズフェルト米国防長官は、9月16日に引き続き、10月17日に、改めて、北朝鮮が(プルトニウム型)核兵器を既に保有していると信じていると語ったところです。今後、北朝鮮は1994年の枠組み合意によって封印されている黒鉛減速炉の使用済み燃料棒を引き出し、プルトニウムの精製を再開するかも知れません。
 他方、10月初めの平壌での米朝高官協議の席上、北朝鮮は濃縮ウラン型の開発を行っていることを認めたわけですが、濃縮ウラン型の核爆弾の製造・保有までには、今後更に数年ないし10年を要すると見られています。(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A53209-2002Oct19.html。10月20日アクセス)

2 濃縮ウラン型の技術等の入手先
 米朝高官協議の席上、北朝鮮はケリー米国務次官補からウランを濃縮するためのガス遠心分離装置の購入関係書類をつきつけられ、購入を認めたと報じられています(http://www.asahi.com/international/update/1018/007.html。10月18日アクセス)。具体的には、それは遠心分離装置用の高強度アルミニウム管材の大量購入だったと言います(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A43632-2002Oct17.html。10月18日アクセス)。
朝鮮日報は、韓国高官がケリー次官補から聞いた話として、その購入先はパキスタンであり、今年の7,8月頃、この装置を使ってウラン濃縮実験を行ったと報じました(http://www.tokyo-np.co.jp/00/detail/20021018/fls_____detail__020.shtml(10月18日アクセス)から孫引き)。パキスタンはその見返りに、北朝鮮からノドンミサイルを供与されたと言います。このパキスタンと北朝鮮とのバーター取引は、ムシャラフ大統領が政権を奪取する約二年前の1997年頃から始まり、昨年の9月11日以降まで続いた形跡があると言います。パキスタンは、1998年にノドンの独自改良型(射程700マイル)の発射実験を行いましたが、カネのないパキスタンがどうしてノドンを入手できたのか、当時の米国のクリントン政権は首をひねっていたようです(http://www.nytimes.com/2002/10/18/international/asia/18KORE.html。10月18日アクセス)。

3 イラクと北朝鮮の扱いの差
 米国が米朝高官協議で出た北朝鮮の核開発の話を10月16日まで伏せていたのは、米上下両院での、対イラク戦権限を大統領に付与する決議の審議に悪影響を及ぼさないためであり、16日に、米国のプレスがこの話をかぎつけて記事にしようとしていることが分かって急遽話をオープンにしたようです(http://www.guardian.co.uk/korea/article/0,2763,814389,00.html。10月18日アクセス)。
 どうして米国は、こんなはれ物にさわるような扱いをしたのか。そもそも、核兵器を開発中だがまだ保有していないイラクには厳しく軍事的に対処しようとしているのに、既に核兵器を保有している可能性の高い北朝鮮に対しては穏やかに外交的に対処しようとしているのか。首尾一貫性を欠いていると取りざたされています。
 思うに、この「違い」のよってきたるゆえんは以下の通りです。

 第一に、昨年9月11日の同時多発テロに際して、フセインは世界の国家首脳の中でただ一人、この出来事を賞賛したのに対し、金正日は、お悔やみの言葉を述べたことに象徴されているように、ならず者国家はならず者国家でも、両国のならず者たる逸脱の程度が異なることです。
第二に、フセインは、国連の経済制裁で国民が塗炭の苦しみに陥っているというのに、一向に気にしている気配がなく、また、米国等に武力攻撃される時が刻々と迫っているにもかかわらず、意気軒昂としていますが、金正日は、日朝首脳会談の際に拉致を認めたことからも、日本からの経済援助をのどから手が出るくらい欲しがっていること、米国からは武力攻撃・体制変革をしないという言質を何が何でも得たがっていること(=米朝高官協議の席上、北朝鮮側は、(1)米朝平和条約の締結(2)北朝鮮を先制攻撃の対象としない(3)北朝鮮の経済システム是認―の3点をブッシュ米政権が受け入れれば、核兵器開発計画を放棄すると言明していたと報じられています。(http://www.nikkei.co.jp/news/main/20021019AT3KI00I919102002.html。10月19日アクセス))、が明らかであり、イラクに対しては抑止戦略がきかないが、北朝鮮にはきくと考えられることです。

(この第一と第二は、ウォルフォヴィッツ米国防副長官が実際に語ったこと(ワシントンポスト、前掲)を敷衍しました)。

第三に、私が前回述べたように、米国は対テロ戦全般と来るべき対イラク戦の二つで手一杯であり、現時点では北朝鮮の核問題に真正面から取り組む余裕がないことです。
第四に、日本は、恐らく北朝鮮の目論見通り、拉致者及び北朝鮮在の拉致者の家族を人質にされていて身動きがとれなくなっており、また、米国としても、(事前に十分な対米調整を経ずしてフライング的に行われた)小泉首相による日朝首脳会談の「業績」を無に帰せしめ、忠実な保護国たる日本の政治の不安定化を招来するわけにはいかないことです。
第五に、韓国の首都ソウルは、北朝鮮との軍事境界線から50数キロしか離れておらず、仮に米国が対北朝鮮戦を決行した場合、北朝鮮からの砲撃だけによっても甚大な被害を受けることが必至だからです。いわば、韓国はソウルの1000万市民を全員人質にとられているような状況にあります。(The Bush National Security Strategy・・What does 'pre-emption' mean?, Strategic Comments Vol.8 Issue8, October 2002)

(第一??第五は、ワシントンポスト、前掲も参考にしました。)

 第六に、北朝鮮を軍事攻撃するとなると、北朝鮮の庇護者に任じて来た中国がどう出るかを慎重に見極める必要があることです。

 (第四??第六のように米国が深刻な考慮を払う必要のある周辺国は、イラクの場合は見あたりません。米国がサウディの王制がつぶれてもやむを得ないと考えていること、また、イラクのミサイルの標的となっているイスラエルは、実は米国と並ぶ対イラク戦の首謀者であること、は既にこのコラムでご説明しました。)

 第七に、軍事的手段で北朝鮮の金正日体制を崩壊させたところで、体制変革の展望が容易には開けないことです。
イラクに比べて北朝鮮による国民のマインドコントロールの度合いは徹底しており、国民の窮迫の度合いもはるかに深刻です。イラクと違って北朝鮮には石油資源というカネのなる木もありません。従って、北朝鮮国民が飢餓から解放され、更に自由・民主的な体制になじむまでには長年月を要すると思われます。
もとよりイラクと違って、北朝鮮には南に統一を希求してきた韓国が存在しますが、当初から韓国に全面的に旧北朝鮮の面倒を見させれば、悪くすると韓国を含め共倒れになりかねません。南北の経済格差や人口比は旧西独と旧東独の比ではないからです。

 このほか、イラクはまだ核兵器を保有していないのに、北朝鮮は既に保有している可能性が高いことこそ、米国をして北朝鮮に対して軍事的手段をとることを断念させた決定的理由だとする説があります(例えば英BBC(http://newssearch.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/2340405.stm。10月19日アクセス)や米クリスチャン・サイエンス・モニター紙(http://www.csmonitor.com/specials/sept11/dailyUpdate.html。10月19日アクセス)。ただし、どちらも、米政府「筋」の発言すら引用してはいない)。
しかし、私はそうは思いません。
 (北朝鮮が保有している可能性が高いとされる)1-2発程度であれば、今後、新たな国や、テロリスト等が核兵器を保有することになる可能性は排除できません。保有(または保有の可能性が高いこと)が判明した瞬間、米国が軍事的手段をとることを断念するということがあらかじめ分かっておれば、これらの国や団体が核兵器を開発、或いは取得しようとするインセンティブは一層高まり、核拡散の勢いは著しく加速する恐れがあります。そんな愚かな政策を米国が採用するはずがありません。
 この話は、第五で述べた話に吸収されると考えます。

4 日本は核攻撃されるか
 最後に、北朝鮮が日本を核攻撃することがありうるのか、そもそも北朝鮮は日本を核攻撃する能力があるか、ということですが、こればかりは日本政府が米国からできる限りの情報を入手した上で、自ら熟考し、国民に明らかにしてくれることに期待するほかありません。
以下は、あくまでも一般論です。
現時点で北朝鮮が保有している可能性の高いとされる1-2発の核兵器はプルトニウム型であり、核爆発実験なくして、果たして使用可能な状態になっているかどうかは疑問です。
この核兵器を航空機に搭載して日本に投下しようとしても、日本の現在の防空システムで発見し、対処することが可能です。
ミサイルに搭載して日本に打ち込もうとしても、核弾頭をコンパクト化できているかどうかは疑問ですし、仮にコンパクト化できていたとしても、飛行中の振動対策等まで既にクリアできているとは思えません(この点は、日本経済新聞、前掲記事を参照)。
残された方法は、潜水艦ないし工作船に搭載した形での「特攻」攻撃ですが、潜水艦の侵入対策は、旧ソ連を対象に海上自衛隊が力を入れてきた分野であり、ある程度の対処は可能だと思われますし、工作船についても、米国の軍事偵察衛星による工作船出港情報が入る可能性があり、その場合は対処可能です。しかし、この種「特攻」攻撃を完全に防ぐことは、事柄の性質上困難でしょう。
 後は、虎の子の1-2発を、上述のように不確実な日本への「特攻」攻撃に割くほど、標的としての日本(ただし、警戒厳重な在日米軍基地を除く)の序列が高いかどうかです。
 皆さんはどう思われますか。
 いずれにせよ、冷静な対処が必要です。

http://www.atimes.com/atimes/Korea/EA03Dg01.html。1月3日アクセス

太田述正コラム#0067(2002.10.17)
<核保有をほのめかした北朝鮮>

「ラムズフェルド米国防長官は16日の記者会見で「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は核兵器を開発し、保有している」と述べた。米国は北朝鮮について従来「核爆弾を1―2個製造できるプルトニウムを抽出した」との公式見解を繰り返している。国防長官の発言は保有にまで踏みこんだが、根拠については触れなかった。(ワシントン共同)」という記事(http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20020917k0000e030005000c.html。9月17日アクセス)が出て首をひねってからちょうど一ヶ月、「米国のアーミテージ国務副長官は16日、ワシントンで訪米中の橋本龍太郎元首相と会談し、「<ケリー米国務次官補が米朝協議を行った際、10月4日に>高度濃縮ウランを使った核兵器開発を進めていることを北朝鮮が認めた。枠組み合意に違反するものであり、米国は重大な懸念を持っている」と述べた」(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20021017d2mi01b717.html。10月17日アクセス)というニュースが飛び込んできました。

これらの記事を注意深く読むと、「プルトニウム」を使った核兵器開発・保有疑惑が「高度濃縮ウラン」を使った核兵器開発・保有疑惑にすりかわっている点が気になりますが、この点の追求は他日を期したいと思います。

福田官房長官が「9月に開いた日朝首脳会談の前に米国から核開発情報の概要を提供されていたことを明らかにし、その上でも「米国は会談開催を支持していた」と言明しており(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20021017d3ki02g717.html。10月17日アクセス)、かつ、米国が、内々日本政府等に伝達しつつ(NHKTVの報道)も、12日間にわたって、(善後策をつめるためか、)公にしなかったところから見て、対テロ戦争と対イラク「戦争」で手一杯の米国としては、北朝鮮の問題には当面、とにかくさわりたくないというということなのでしょう。

肝心の、北朝鮮が既に核兵器を保有しているのかどうかという点については、米国政府は、北朝鮮がどう述べたのかを明らかにしようとせず、また、北朝鮮が核実験を行ってはいないこともあって、米国政府自身、北朝鮮の核保有の有無について判断がつきかねていると報じられています(http://www.nytimes.com/2002/10/17/international/asia/17KORE.html。10月17日アクセス)。一ヶ月前のラムズフェルトの「突出」発言をも念頭に置いて憶測をめぐらせれば、その後、北朝鮮と米国がぐるになって北朝鮮の核保有の有無を明らかにしないことにした、とも勘ぐれます。

とにかく、日本は北朝鮮の核に関する自前の情報が皆無であるところへもってきて、米国の核抑止力に依存しつつも、米国の核戦略に全く関与しないという非論理的な姿勢を貫いてきているため、米国自身の核情報を含め、周辺諸国の核情報についても、確かなことは日本政府と言えども教えてもらえない、という情けない立場にあることをお忘れなく。

これで、世界には、国連安保理事会の常任理事国たる核保有国が米、英、仏、露、中の五カ国、それ以外の核保有国がインド、パキスタンの二カ国、そして核保有の疑いがある国がイスラエル、北朝鮮の二カ国あるということになりました。

日本人が忘れがちであるイスラエルの核の話を最後にしておきます。(以下、ミリタリーバランスによった箇所以外は、http://www.guardian.co.uk/israel/comment/0,10551,804336,00.html(10月4日アクセス)による。)

最初にイスラエルの核計画が暴露されたのは18年前の1986年です。暴露したイスラエル核技術者のモルデカイ・ヴァヌヌは、モサドによって滞在中のローマで拉致され、スパイと国家反逆の罪で爾来ずっと獄中にあります。
1986年に至って、ついにあの権威あるジェーンの情報レビュー誌が、イスラエルは核兵器を保有していると認めました。最新の「ミリタリー・バランス2001-2002」(IISS)は、「イスラエルは、最大100発の核弾頭を保有していると見られている。その運搬手段は、航空機、(最大射程500kmの)ジェリコ1地対地ミサイル、(推定射程1,500-2,000kmの)ジェリコ2地対地ミサイル等である。」と記述しています。
米国が、国際的枠組みの埒外で核兵器を開発する国への援助の供与を禁止する米サイミントン法の存在にもかかわらず、このイスラエルに対し、毎年30億ドルにのぼる援助を行っていることは、覚えておいていいでしょう。

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