太田述正コラム#9437(2017.11.2)
<定住・農業・国家(その15)>(2018.2.15公開)

 「「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」での極めて洞察力ある書評の中で・・・ポール・シーブライト(Paul Seabright)<(注27)>・・・は、著者は言い過ぎ(risks proving too much)である、と記している。

 (注27)1958年〜。英国人たる仏ツールーズ大経済学教授(ミクロ経済学、開発経済学、産業政策専攻)。オックスフォード大卒、同大修士(経済学)、博士(経済学)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Seabright

 ソ連とタンザニアによって追求された大災厄的な集団化諸政策<(注28)>、及び、19世紀欧州における科学的林業が直面することとなった諸問題、の双方を描写するのに似通った言葉を使用することによって、彼は、意図せざる諸帰結こそあったけれど、全般的には成功を収めた諸政策について、大災害的な大諸失敗をしでかしてしまっている(he elides disastrous failures)<(注29)>、と。

 (注28)「1980年代中盤まで、タンザニアはジュリアス・ニエレレ大統領の下ウジャマー社会主義を標榜し、ウジャマー村と呼ばれる集団農場を中心とした社会主義経済を目指していた。しかし旧来の社会制度をまったく無視したこの方式は失敗に終わり、生活必需品の供給すら滞る状態となった。1985年にニエレレのあとを継いだハッサン・ムウィニは、IMFの勧告を受け入れ、貿易制限の緩和などを行い自由経済へと舵を切った。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B6%E3%83%8B%E3%82%A2#.E3.82.BF.E3.83.B3.E3.82.B6.E3.83.8B.E3.82.A2.E9.9D.A9.E5.91.BD.E5.85.9A
 (注29)Elide failureとは、「旧約聖書の『サムエル記上』に登場するユダヤの民族的指導者(士師)、祭司。王政を導入する前の最後の士師の一人<である>エリ(Eli)一家(Elide)が犯した失敗のこと。
https://books.google.co.jp/books?id=OHT6Y-6RCewC&pg=PA111&lpg=PA111&dq=elide+failure&source=bl&ots=UVeE-QknJT&sig=2Mf0726IP4wIzoXWDVdk1B5ADJE&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjX3t-kqZjXAhVKebwKHdyWD2IQ6AEIMjAB#v=onepage&q=elide%20failure&f=false 
 「エリはシロの町に住み、ホフニとピネハスという二人の息子がいたが、息子たちは神を軽んじていた。エリはこれを悲しみ、引き取っていた幼いサムエルに愛情を注いだ。エリの息子たちは神に対して罪を犯していたため、ペリシテ人との戦いで二人とも戦死し、民族の誇りである神の箱(契約の箱)[(Ark of the Covenant)]までも奪われた。エリはこの知らせを聞くと、椅子から転落し、首の骨を折って死んだ。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA_(%E7%A5%AD%E5%8F%B8) (「」内)
 ちなみに、契約の箱とは、「十戒が刻まれた石板を収めた箱のこと<であり、>・・・聖櫃・・・とも呼ばれる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%91%E7%B4%84%E3%81%AE%E7%AE%B1

 <著者の>このエリ的失敗(elision)<(注30)>は、<この本の読者を>誤解させる惧れがある。

 (注30)Elide failureを、「省略による失敗」と訳さずに、「エリ家の失敗」→「大失敗」、と訳したこととの整合性から、ここで、「省略」と訳さずに、無理やり「エリ的失敗」と訳してみたが、自信はない。

 シーブライトは次のように記している。
 「科学的農業が予期しなかった諸問題に直面したことは否定し難いし、(例えば環境に係る諸事といった)諸問題の若干は深刻だったことも否定し難い。しかし、科学的農業に帰せられる諸業績もまた瞠目すべきものがある。
 絶対数においてはいまだに受容し難い高さにあるけれど、<おかげで、>ひどい貧困にあえぐ世界人口の比率はほぼ間違いなくこれまでのどの時代よりも低くなった。
 サハラ以南のアフリカのような、体系的失敗の重要諸地域は、農業の科学それ自体よりも、全農民達を傷つけた社会的、そして、制度的、諸大失敗(disasters)によるところが、より大きい。
 科学的農業の諸問題をソ連の集団化の諸問題とを等しいものとするのは、あたかも、スターリン(Stalin)とデリア・スミス(Delia Smith)<(注31)>が、どちらも卵諸料理が苦手(have problems)だった、と言うようなものだ」、と。・・・

 (注31)1941年〜。イギリスの料理人でTVの料理番組で有名。英国教からカトリシズムに改宗し宗教上の著作もある。中卒で学業成績も振るわなかったが、料理人修行時代に大英図書館で料理本を勉強している。
https://en.wikipedia.org/wiki/Delia_Smith

⇒スミスが、1917年に制定された英国の名誉勲位であるOrder of the Companions of Honour(CH)
https://dictionary.goo.ne.jp/jn/92838/meaning/m0u/
の現行保持者62名のうちの一人に、(元香港総督の)クリス・パッテン、(物理学者の)ホーキンスや(ヒッグス粒子の)ヒッグス、アッテンボロー、(演出家の)ピーター・ブルック、ポール・マッカートニー、J・K・ローリング、らと共に選ばれている
https://en.wikipedia.org/wiki/Order_of_the_Companions_of_Honour
ことは、料理人というか、料理の、現在の英国で占める地位が決して低くないことを象徴していると言えるのではないでしょうか。(コラム#9433参照。)(太田)

(続く)