太田述正コラム#9329(2017.9.9)
<日本文化チャンネル桜収録(続)>(2017.12.23公開)

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[藤田幸生元海上幕僚長のこと]

 藤田さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E7%94%B0%E5%B9%B8%E7%94%9F
は、1942年生まれで防大卒後海上自衛隊に入り、海幕防衛部防衛課長、同防衛部長、海上幕僚長、を歴任された、海上自衛隊における典型的なエリートコースを歩んだ人物・・現在は(財)水交会会長・・であり、私は、彼が海幕防衛課長であった時(1989〜91年)、在日米軍人等との会議に、彼と共に、防衛庁側の一員として出席したことがある。
 その折、会議の議題とは全く関係がないのに、会議の冒頭、彼が、怖い顔をして、先の大戦において米国が日本に対してやったことは、私は絶対に忘れない、という趣旨の話を英語でしたものだから、その場の空気が一瞬凍り付いた。
 もとより、その後は、破顔一笑、会議は何事もなかったかのように進行したのだが・・。
 このような発言を、こういう公的な場ではもとよりのこと、私的な場においてすら、行った制服自衛官を、私は他に知らない。
 当時、大いに感銘を受けると同時に、これは、個人の孤立した意見ではなく、海上自衛隊の幹部の中で、そのように考えている人々が相当程度いるに違いない、と思った記憶がある。
 (ちなみに、先の大戦では、からっきしダメだった帝国海軍の直系であるにもかかわらず、海上自衛隊は、戦後、長く、陸海空三自衛隊中、最も米海軍との関係が密であった・・より直截的に言えば、事実上米海軍の一部だった・・ことから、国際軍事情勢について、陸空自衛隊はもとより、内局に比べても、より的確な情報と認識を持っており、私は、軍事に関し、最も多くを海上自衛隊の幹部の皆さんから学んだ。)
 このことを記したのは、桜TVの収録でご一緒した、陸1人海2人空1人計4人の自衛隊将官OBの諸氏に、いや、幹部自衛官OBならどなたでもいいのだが、このコラムが公開された暁に、この話をぜひ知って欲しいからだ。
 どうして、私が知って欲しいか、は、およそ想像がつくことと思う。
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[東條英機の遺書について]

 私が収録中に、「何も言い残さなかったらしい東條を始め、旧帝国陸軍の人々が、戦後、旧帝国海軍の人々に比べて殆ど弁明をしなかった」的な発言をしたところ、水島氏から、休憩時間に、東條には遺書があるではないか、と「反論」された。
 私も各種遺書めいたものがあるのは知ってはいたのだが、改めて調べてみた。
 「東條英機の遺書」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%A2%9D%E8%8B%B1%E6%A9%9F%E3%81%AE%E9%81%BA%E8%A8%80
には、三つの遺書が載っているが、うち一つは、原文が失われていて英訳しか残っていないだけでなく、そもそも本物であるかどうか疑う見解もあるし、もう一つは、家族宛のもので私的な内容しか書かれていないし、三つ目も、「判決を受けた昭和23年(1948年)11月12日から刑が執行された12月24日未明までの間<に、東條から>・・・聞いたことを後で書いたので必ずしも正確なものではない」という有様だ。
 強いて、三つ目のものに注目するとしても、「米国の指導者は大きな失敗を犯した。日本という赤化の防壁を破壊した。」というくだりこそ出てくるが、1947年3月のドルーマン・ドクトリンの宣言、すなわち冷戦の開始
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B7%E6%88%A6
を踏まえたところの、日本の明治維新以来の対露抑止政策の正当性の主張や、1947年8月14日および15日のパキスタン、インドの分離独立
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%88%86%E9%9B%A2%E7%8B%AC%E7%AB%8B
を踏まえたところの、大東亜戦争の副目的であった、アジアの解放が成就しつつあることへの言及や、中国国民党側が劣位に立って進行中であった国共内戦
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%85%B1%E5%86%85%E6%88%A6
への感慨も表明していない、という物足らないものであり、帝国陸軍、ひいては日本政府の戦前・戦中の諸政策のきちんとした弁明になど全くなっていない。
 というより、仮にこれが東條の言の正確な記録であったとしても、当時、昭和天皇を庇わなければならない立場にあった東條(典拠省略)には、そんな弁明を行うことは許されなかった、ということだろう。
 東條の孫の東條由布子が、英機が「「沈黙、弁解せず。一切語るなかれ」を家族に遺して」逝った、と書いている
http://www.tojo-yuko.net/publish/katarunakare.html
のは、額面通りに受け止めるべきだろう。
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