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太田述正コラム#9277(2017.8.14)
<イギリス論再び(その4)>(2017.11.27公開)

 「著者は、例えば、チョーサー(Chaucer)<の『カンタベリー物語』に出てくる>巡礼達は、教会群よりも水車群の傍らを通り過ぎる方が多かったろう、と指摘する。
 「中世のイギリスがどんな感じであったかを想像するのは困難だが、どんな音がしていたかを想像することは、少なくとも可能だ。
 鳥の諸囀りや子羊達の鳴き声よりも、もっとイギリスの光景に不可欠なものとしては、全ての谷間、全ての日、各々の日、にバックグラウンド・ミュージックとして、水車が回ってきしむ音がそれだ」、と。・・・
 <著者は、>諸遺跡への国民的妄執<についても挙げる。>
 「平均的な土曜日において、サッカーの諸試合を見に行く人々よりも、ナショナルトラスト(National Trust)<(コラム#(181、)5009)>が管理する諸施設を訪問する人々の方が多い」、と。」(E)

 ・雨

 「行楽客なら誰でも知っていることだが、雨を忘れてはなるまい。
 どんな夏の日も、それがなければ、真にイギリスらしい、ということにはならない。
 粉糠雨降る午後の日々、ずぶ濡れの諸サンドイッチ、諸水たまりではしゃいで水を跳ね上げた子供時代の思い出、がなかったとしたら、我々は、一体どんな人々になっていたことだろうか。
 でも、と著者は言う。
 雨は、我々が考えているよりも、もっと重要なのだ、と。
 実際、ある意味では、雨こそ現実に我々を定義しているのだ、と。
 雨は、何世代にもわたって、自作農達と小作人達を、天気に油断を怠らぬようにさせ、人生の成行がどうなるのかに関して宿命論者的な人々にした。
 <また、>雨は、セヴァーン川(Severn)<(注9)>やトレント川(Trent)<(注10)>のような、容易に航行可能な諸川、そして、内陸諸港の稠密なネットワーク、を与えてくれた。

 (注9)「イギリスで最も長い川。全長354kmでウェールズのカンブリア山地・・・から始まり、・・・ブリストルの北西でブリストル海峡に注ぐ。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%B7%9D
 (注10)「イギリス・・・中部の河川。イギリスで3番目に長い河川であり、総延長は298km。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E5%B7%9D
 ちなみに、2番目に長い河川が346kmのテムズ川(Thames)だ。
 今から2万年ほど前の氷河時代には、海面が低く、ドーバー海峡地域は陸地であり、テムズ川はそこでライン川等と合流し、大西洋に注いでいた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A0%E3%82%BA%E5%B7%9D
https://en.wikipedia.org/wiki/River_Thames#Geological_and_topographic_history

 後になると、雨が、我々に、世界で最初の運河ネットワーク<(注11)>を与えてくれ、我々のエンジニア達が世界最初の諸鉄道に用いることとなる諸技量(skills)を教えてくれた。

 (注11)「<イギリス>の輸送用水路のネットワークは、(新規運河の工事よりも、既存の河川を運輸可能に整備する形で)ゆっくり着実に整備されていった。 水門と曵道を備えた最初の運河は1564年から1567年にかけてエクセターに建設された。・・・閘門を3ヶ所持つ当時としては注目すべき工事だった。18世紀になり産業運輸の需要が高まると爆発的に発展した・・・。当時の道路は大量輸送に適さなかったため・・・だ。・・・
 だが、19世紀半ばより鉄道が運河の代わりに使われるようになった。・・・
 20世紀後半になると・・・運河の歴史的価値やレジャーとしての活用の可能性が注目されるようになった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%81%8B%E6%B2%B3

 雨は、我々が伝える諸物語の中に登場する。
 ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer)<(コラム#54、3844、4888、4928)>の中世における『カンタベリー物語(Canterbury Tales)』の出だし・・4月がにわか雨で甘く匂う・・から、T・S・エリオット(T.S. Eliot)の偉大なる近代主義詩である『荒地(The Waste Land)』<(注12)>の掉尾・・酷暑の風景に雷が雨を運んできた・・に至るまで・・。

 (注12)「1922年<に発表された>・・・T・S・エリオットの代表作である長編詩。・・・第一次世界大戦後の西洋の混乱を前衛的な表現で、古典文学からの引用をちりばめて綴った難解なものである。・・・「荒地」は死の国のことで・・・セックスの荒廃と、その創造性とを描き、死と荒廃の支配と希望を描きつつ、いずれとも結論は示されない。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%92%E5%9C%B0_(%E8%A9%A9)

 実際、著者は、雨は、我々が、どうしてベーコン・サンドイッチ群を好むのか、を説明してくれる、とさえ考えている。
 雨は、あの全てのパン<の製造>のための<粉ひきを行う>水車群に動力を与えた。
 <それに加えて、>雨は、我々の先祖の人々が、彼らの豚肉を、フランス人達、スペイン人達、及びイタリア人達、のように、塩漬けにしただけで乾燥させる(dry-cured)こと<(注13)>を不可能にしたため、その代わりに、彼らは塩と煙でベーコンを作った<(注14)>のだ、と。」(D)

 (注13)「生ハムは、燻製はするが加熱しないもの(ラックスハム)、塩漬け・乾燥のみで燻製しないもの(プロシュットやハモン・セラーノなど)に分かれる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%A0
ところ、著者は後者の話をしている。
 (注14)ベーコンが、イギリスで生まれた、ということではない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%B3
https://en.wikipedia.org/wiki/Bacon

(続く)

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