太田述正コラム#9271(2017.8.11)
<イギリス論再び(その1)>(2017.11.24公開)

1 始めに

 イギリス論を取り上げるのは久しぶりですが、ロバート・ウィンダー(Robert Winder)の新著の『最後の狼(The Last Wolf)』のさわりを、諸書評をもとにご紹介し、私のコメントを付します。 

A:https://www.theguardian.com/books/2017/aug/06/the-last-wolf-hidden-springs-of-englishness-robert-winder-review
(8月7日アクセス)
B:https://www.thetimes.co.uk/article/review-the-last-wolf-the-hidden-springs-of-englishness-by-robert-winder-z0vlrz6qt
(8月9日アクセス)
C:https://www.prospectmagazine.co.uk/magazine/robert-winders-new-book-the-last-wolf-contains-a-message-for-brexiteers
D:http://www.dailymail.co.uk/news/article-4762814/DOMINIC-SANDBROOK-English-winning-life-s-lottery.html
E:https://www.ft.com/content/81caa1be-7ce8-11e7-9108-edda0bcbc928
(8月14日アクセス)

 なお、ウィンダーについては、インディペンデント紙の文学編集者を5年務めた後、1990年代はグランタ(Granta)誌の副編集長を務めた、フィクション、ノンフィクションの作家です
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Winder
が、年齢も学歴も分かりませんでした。
 このように、いささか胡散臭そうな人物が、おいおいお分かりになるように、「科学的な」イギリス(アングロサクソン)文明論ではなく、「文学的な」イギリス国民性論を展開している、というわけで、この本の質の程度が推しはかられるところですが、自らについて余り語らず、語ったとしても韜晦するのが常のイギリス人にしては、比較的明快に語っている・・私自身は、これもおいおいお分かりになるように、その内容に首を傾げています・・ことと、数は少ないものの、高級紙・誌や大大衆紙が書評を載せた、だけでも、紹介するに値する、と考えた次第です。

2 イギリス論再び

 (1)イギリスの「偉大」さ

 「ウィリアム・シェークスピアとアイザック・ニュートンからジェーン・オースティンとチャールズ・ダーウィン、という具合に、イギリスの男性達と女性達の世界文明への貢献に匹敵する貢献を行った人々は存在しない。
 我々のご先祖様達は、蒸気機関と切手から鉄道とワクチン、という具合に、ありとあらゆるものを発明した。
 イギリス性それ自体が、郷愁と威信、最新ファッション、及び、無窮の伝統、がユニークにブレンドされたところの、世界の偉大なる諸ブランドの一つになっている。」(D)


 「いわくつきの帝国建設者のセシル・ローズ(Cecil Rhodes)を引用するのは、今日では、とりわけ左翼の間では、大いに流行っているとは言えないが、彼は、そのことを誰よりも上手に述べている。
 彼は、ある時、イギリス人として生まれたことは、人生という籤で最大の当たりを引いたことだ、と喝破した。
 そんなことを言うのは極めて非イギリス人的ではあるが、もちろんのことながら、彼はまことにもって正しかった。」(D)

 (2)オーウェルの問題提起

 「ジョージ・オーウェル(George Orwell)は、「イギリス的天才性(the English genius)」に関する古典的な論考である、『ライオンとユニコーン(The Lion and the Unicorn)』<(注1)(コラム#7549)>を編み出すべく沈思した。

 (注1)The Lion and the Unicorn: Socialism and the English Genius。1941年2月出版。英国について論じた論考集だが、その冒頭の、'England Your England'において、オーウェルは、英国の階級制度・・私見では階層制度・・がナチスドイツとの戦いを阻害しているとし、抑圧的なソ連の全体主義的共産主義とは異なる、民主主義的なイギリス的社会主義、という、新しい英国性を樹立する革命を、と訴えた。
 かかる考え方の下、1949年に、逆ユートピア小説、『1984年(Nineteen Eighty-Four)』が書かれた。
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Lion_and_the_Unicorn:_Socialism_and_the_English_Genius
https://en.wikipedia.org/wiki/England_Your_England
 なお、ライオンとユニコーンは、「イギリスを中心とした英語圏の童謡であるマザー・グースの1編、およびルイス・キャロル著『鏡の国のアリス』(1871年)に登場するキャラクター<であり、>・・・<前者では、>ライオンは<イギリス>王家の紋章を、ユニコーンはスコットランド王家の紋章をそれぞれ表し、1603年、エリザベス1世の死後、スコットランド王ジェームズ6世が<イギリス>王位を継承したことによる両国の統合に至るまでの対立を歌ったものと言われている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B3

 彼は、その持ち前の渋みでもって、「我々は、我々の諸島を少なくとも6つの諸名前で呼ぶ。イギリス、英国、ブリテン諸島、連合王国、そして、極めて高揚した諸瞬間には、アルビオン(Albion)だ、という所見を述べ、このつぎはぎ細工はどういうことなのかを思いめぐらした。・・・
 <彼はまた、こうも言っている。>
 「イギリスの巨大さはあなたを飲み込んでしまう…その多様性、その混沌!
 この泥の中からパターンを見出すことができようか」、と。」(A)

(続く)