太田述正コラム#9165(2017.6.19)
<武光誠『誰が天照大神を女神に変えたのか』を読む(その16)>(2017.10.3公開)

 「<こうして」、縄文人由来の>大地の女神と<弥生人由来の>農耕神の蛇神が、ともに日本のあらゆる土地を守っている」と考えられ<るに至っ>たのである。
 私は古代の日本人はこの事実を、次のように解釈していたと考えている。
 「古くは、大地の女神がいた。そして人びとが水田をつくるようになったあとに、新たに訪れた農耕神である蛇神が、大地の女神のもとに婿入りした。このおかげで夫婦の神が力を合わせて日本を守るようになったのである」・・・
 <実際、>弥生時代のごく初めに、稲作技術をもって朝鮮半島から移住してきた男性が、縄文人の集落の女性と結婚してその集落が水稲耕作をはじめた場面も少なくなかったろう。・・・
 <このことを検証してみよう。>
 農耕神は弥生時代後期にあたる2世紀なかば頃に、「国魂(くにたま)」<(注41)>と呼ばれるようになった。

 (注41)「国魂(くにたま)とは、神道の観念の一つで、国(令制国)または国土そのものを神格化したものである。国霊とも書く。・・・古来、国を治めるのは為政者だけでなく、その土地に鎮座する神の力も働いて成就されると考えられていた。大国主神の別名に「大国魂神」「顕国魂神」があるが、これは各地の国魂神を大国主に習合させたものと考えられている。各地の神社で開拓の祖神として祀られている大国主は、元々はその地の国魂神であったと考えられる。ただし、・・・大国主神<を>・・・個別の神と<す>・・・る説もある。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%AD%82

 「国魂」<(注42)>とは『古事記』や『日本書紀』に用いられた、首長(宗教的指導者)を務める豪族が治める「国」(クニ)と呼ばれる一定の土地を守る神をさす言葉である。

 (注42)国津神。「大国主など、天孫降臨以前からこの国土を治めていたとされる土着の神(地神)を「国津神」・・・という。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%B4%A5%E7%A5%9E%E3%83%BB%E5%9B%BD%E6%B4%A5%E7%A5%9E 前掲

 「国魂」はのちに「国神(くにつかみ)(地祇(ちぎ))」と呼ばれるようになる。
 これは6世紀に天照大神信仰が整えられていく中で、新たに「天神(あまつかみ)」という言葉がつくられたためである・・・。
 そのため国魂として祭られていた神々は、天神より格の低い国神とされるようになったのだ。

⇒これは、武光が唱えている説のようですね。(太田)

 大国魂神の別名をもつ出雲大社の大国主命は、国神を代表する神と考えられている。・・・
 日本神話で・・・素戔嗚尊が国神<たる>・・・山の神・大山祇神(おおやまつみのかみ)・・・の子孫にあたる国神脚摩乳(あしなづち)・・・の子供にあたる奇稲田姫(くしなだひめ)・・・を妻にしたことによって地上を治める権利を得たありさまがわかる。・・・
 <ちなみに、>素戔嗚尊は『私が・・・八岐大蛇(やまたのおろち)という怪物・・・を倒して、奇稲田姫を妻に迎えて大切にしよう』と<いう>約束<を果たして彼女と結婚するのだが、>・・・八岐大蛇は、未開発の山野を意味する神であったとする説もある。
⇒この「説」には魅力を感じますが、ヤマタノオロチのウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%83%8E%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%83%81
には、登場しないところ、匿名の人物による下掲で展開されている説のことでしょうか。
http://himiko-y.com/scrp3/wajinden.htm (太田)

 その考えに従えば、大蛇を対峙した素戔嗚尊は、山野をきり開いて農地を開発した先祖たちを神格化したものとなる。・・・
 <さて、>大国主命は『古事記』では素戔嗚尊の6代目の子孫・・・、『日本書紀』では素戔嗚尊の子とされている。
 いずれの伝承に従っても、素戔嗚尊が自分の子孫の中から、自分がもっとも大事にした娘・・・<である>須世理比売(すせりひめ)・・・を妻にした者を選んで、出雲の支配権の後継者としたことになる。

⇒日本の神々は、みな、広義・狭義の親戚関係にあるようであるとはいえ、『日本書紀』に従えば、大国主命と須世理比売は兄妹婚であったことになるわけであり、古代の日本では近親相姦に対する禁忌がなかったことを裏付ける挿話の一つ、と言えそうです。(太田)

 天照大神の命を受けて地上を治めるために日向に降った瓊々杵尊(ににぎのみこと)は、その地で国神である大山祇神<(前出)>の娘の木花開耶姫(このはなさくやひめ)を妻に迎えたという。
 この(神)話<も、>皇室の祖先にあたる神が、国神に婿入りすることによって地上を治める権利を得たことを示すものと解釈できる。・・・
 <これらは、>婿入りした神は、娘やその親たちの力を借りて、ようやく一人前の働きができるようになるという発想をあらわすものと<も>みてよい。・・・
 <というのも、>日本神話を読み解いていくと、<そもそも、>立派な男性の神が単独で活躍する場面が思いのほか少ないことに気付く。
 夫婦の神が力を合わせて大きな事跡を挙げたとされるのだ。
 しかもそのような夫婦の神の夫が、婿である場合も多い。
 日本神話は、女性の母としての役割が重んじられ、女系で家族がつくられていった時代に生まれた。
 そのため日本神話に母としての女神視点をあてた話が多く書かれたのだ。」」(90〜94)

⇒「<こうして」、縄文人由来の>大地の女神と<弥生人由来の>農耕神の蛇神が」、から、このあたりまでの武光の論理・・説と言ってもいいでしょう・・は、分かり易く、説得力があります。(太田)

(続く)