太田述正コラム#8933(2017.2.23)
<映画評論49:ザ・コンサルタント(その3)>(2017.6.9公開)

 主人公が自閉症であるという設定の妙を指摘するむきも少なくありません。↓

 「無表情のままで彼を取り巻く暴力と騒動に心動かされることのない、自閉症のヒーローが、アクション映画の文脈の中に容易に収まることを自覚するのは異様なことだ。
 例えば、アーノルド・シュワルネッガー(Arnold Schwarzenegger)は、彼の<映画俳優としての>キャリアの大部分をこういう奴・・破壊を引き起こし他人との感情的断絶を体から滲み出している・・を演じることでもって送った。
 そして、同じことが、しばしば、ブルース・ウィルス(Bruce Willis)、スティーブン・セガール(Steven Seagal)、ジェイソン・ステイサム(Jason Statham)、メル・ギブソン(Mel Gibson)、そして、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)についてさえ、言える。
 しかし、<彼らとは違って、>少なくとも、この映画におけるヒーローには<自閉症という、もっともらしい>言い訳があるわけだ。」(十)

 「<何たって、>ニューロダイバーシティ(neurodiversity)<(注1)なる観念>は、<他の諸ダイバーシティに比して、>ポリティカル・コレクトネス度こそ低いけれども、社会的必要性は高い。

 (注1)神経学的諸状態は病理ではなく、諸偏差(variations)に他ならない、とする考え方。自閉症の人々を激励する目的でこの運動が始まった。
https://en.wikipedia.org/wiki/Neurodiversity#Autism_rights_movement
 「自閉症(・・・Autism)は、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強くなる先天性の脳機能障害。・・・治療法は存在しない」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E9%96%89%E7%97%87
 なお、「<一般的な>自閉症に見られるような知的障害および言語障害はない<自閉症が>・・・アスペルガー症候群(・・・Asperger Syndrome, AS)」だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%BC%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
 また、「サヴァン症候群(・・・savant syndrome)<は、>・・・脳の器質因にその原因を求める論が有力だが、自閉性障害のある者が持つ特異な認知をその原因に求める説もある<ところの、>・・・知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を指す。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
 この映画の主人公は、自閉症/サヴァン症候群、として描かれている。

 <だから、自閉症の男を主役にしたことに、>君は目くじらを立てるわけにはいかないのでは?」(三)

 「この映画のいいところ(victory)は、その色調(tone)にある。
 この映画のタイトルの登場人物は、超オタク(superfreak)として提示され・・これは、『レインマン(Rain Man)』<(注2)>ではない・・、そこでは、自閉症的諸才能(gifts)は、<『レインマン』でのレイモンド的な>手慰み的出し物(parlour tricks)を行う諸力として、ではなく、原型(prototype)にして美しい突然変異体(mutant)として、そして、恐らくは、スーパーヒーローとしての諸力として、提示されているのだ。

 (注2)「1988年公開の<米>映画。・・・サヴァン症候群のキム・ピークが<弟と共同主人公たる兄の>レイモンドのモデルであると言われている。・・・床に落ちた爪楊枝を瞬時に計数したキム・ピークの実体験がそのまま映画のエピソードとして出てくる。・・・<映画>公開後に有名となったキムは、しかしなんら生活を変えることなく、毎日を図書館で過ごし、小説から図鑑、電話帳、住所録までを片っ端から読破して、記憶する日課を死ぬまで続けて、2009年12月19日に58歳で亡くなった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%B3

 アフレックに関して言えば、彼は、『ジェイソン・ボーン(Jason Bourne)』<(注3)>的な役割と言うよりは、とぼけたユーモアを持った(dry-humoured)『ターミネーター(Terminator)』<(注4)>的な役割を演じている。

 (注3)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%B3_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
 (注4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA

 ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)演じるレイモンド(Raymond)は、諸フィッシュスティック(fish sticks)<(注5)>狂であると共に、ワプナー判事(Judge Wapne)<(注6)>狂であったのに対し、アフレック演ずるクリスチャン(Christian)・・彼の名前の一つ・・は、ルノワールの諸作品(Renoirs)とポロックの諸作品(Pollocks)<(注7)>の愛好家ときている。・・・

 (注5)細長い魚の切り身にパン粉をつけて揚げたもの
http://ejje.weblio.jp/content/fish+stick
 (注6)Joseph Albert Wapner。1919年〜。元裁判官でTV裁判バラエティで活躍。南カリフォルニア大卒、同大ロースクール卒。第二次世界大戦で武功。ロサンゼルス郡上級裁判所判事を長年務めて退職。
https://en.wikipedia.org/wiki/Joseph_Wapner
 (注7)ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock。1912〜56年)。「抽象表現主義(ニューヨーク派)の代表的な画家であり、彼の画法はアクション・ペインティングとも呼ばれた。抽象表現主義の画家たちの活躍により、1950年ごろから美術の中心地はパリではなくニューヨークであると考えられるようになった。・・・
 を代表する画家と呼ばれるようになったプレッシャーや、アルコール依存症の再発<・・>ユング派の医師による精神分析の治療を受けた<・・>、新たな画境が開けないなどの理由で、1951年ごろから混迷期に入った。黒いエナメル一色の作品を描いたり、具象的な絵を描いたり、色彩豊かな抽象に戻るなどの模索を繰り返した。そして1956年・・・、若い愛人とその友人を巻き添えに自動車事故を起こし、44歳で死亡した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF

⇒この映画を観ている時にはそこまで気が付きませんでしたが、主人公がルノワール・・パリで活躍した
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB%EF%BC%9D%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB
・・と(ニューヨークで活躍した)ポロックが好きであること、かつまた、彼がポロック・・彼同様、精神疾患に苦しめられていた・・の作品を、彼に協力し、彼が命を救ったところの、女性に贈呈すること、には、それぞれ、意味があったのですね。(太田)、

(続く)