太田述正コラム#8829(2017.1.2)
<日進月歩の人間科学(続x38)>(2017.4.18公開)

1 始めに

 本日のディスカッションで予告した記事
http://www.haaretz.com/science-and-health/.premium-1.762028?=&ts=_1483266061225
(1月2日アクセス)に係るコラムです。

2 匂いと人間

 「・・・<実は、>人間の鼻は驚異的な諸能力を持つ信じられないほどの装置なのだ。・・・
 もとより、ご承知のように、過去200年、いや、1000年においては、我々を取り巻く世界に対処することに関し、嗅覚の重要性は甚だしく減少した。
 しかし、1,000年というのは、感覚の進化の観点からはさして長い期間ではない。・・・
 <現在でも、人間にとって>真に重要な人生上の諸決定であるところの、二つのタイプ群である、食と番に関し、我々は視覚ではなく嗅覚に従っている。・・・
 男性達が女性たちの諸涙に晒されると、彼らのテストステロン(testosterone)の水準は30%低下する・・結果、彼らはより攻撃的でなくなる。
 実に劇的だ。
 我々は、現在、女性達の女性達の諸涙に対する反応の研究を完結しつつある。
 諸発見事項は暫定的なものだが、女性達のテストステロンの低下も生じるように見える。・・・
 ・・・握手は完全に日常的なふるまいの形だが、実際には、我々が握手をした人の匂いを嗅ぐ手段なのだ。
 握手の直後に、被験者達は彼らの手を上げ、明らかに無意識な動きでその匂いを嗅いだ。
 実際、我々は、恒常的に、諸物に触った手を顔のあたりに持ち上げてその匂いを嗅いでいるのだ。
 それは完全に自動的な動きであって、無意識に行われているのだ。
 ・・・<良く知られているように(太田)、>我々は、最適な免疫遺伝学的適合性に立脚した番相手を選択する傾向がある。
 おかしいことに、この嗅覚の様相は、避妊ピルによって大いに影響を受ける。
 だから、彼女がピルを用いている時に番うことにした者は、みんな、視野を狭められた馬のようにふるまっていることになる。・・・
 もし、あなたが長く匂いを嗅いだならば、それは、匂い(odor)が弱すぎるか、それが心地よいと見たか、のどちらかの徴表である<、ということだ>。・・・
 <また、>人々相互間の<嗅覚を通じた>化学的コミュニケーションの毀損は、自閉症の症状の一つだ。・・・
 <更にまた、>信頼感に関わる特徴的な体臭<も>存在する。・・・
 ・・・<もう一つ、他の動物とは異なり、>人間の諸妊娠の驚くほど多くの割合は流産で終わる。
 極めて初期段階に着目すれば、<それは、>90%にまで達しうる。
 しかし、みんなが同意する、30%という数字をとることにしよう。
 <その>症例の大部分は、医学的に検証しても説明がつかない。
 誰も、どうしてそれが起きるか、分かっていないのだ。
 そこで、我々は、流産を繰り返して苦しんでいる女性達の嗅覚を検証することにした。
 まだ我々はその論文を上梓していないので、ここで<は>、私は慎重にしゃべることにする。
 我々は、何度も流産を繰り返す経験を持つ女性達の嗅覚に関係するところの、極めて興味深い特別なプロファイルについて、暫定的証拠を得ている。
 これらの女性達は、特定の体臭を同定することに顕著に長けているのだ。
 更に言えば、我々は、その特定の体臭を同定する高い能力と流産回数の高さとの間に関連があることを見出したのだ。・・・
 <注意を喚起したいのは、>嗅覚に関する最も劇的な諸発見の一つに、「ブルース効果(Bruce effect)」と呼ばれているものがある<ことだ>。
 これは、それを1959年に発見した、ヒルダ・マーガレット・ブルース(Hilda Margaret Bruce)の名前をとっている。
 彼女は、妊娠の決定的に重要な初期段階の雌のマウスを選び、子孫の父親ではないオスの匂いに晒すと、その雌のマウスは流産することを証明したのだ。・・・」

3 終わりに

 香道が「日本独自の芸道である」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E9%81%93
ことは、日本文明が、嗅覚なる、動物たる人間にとって、最も根源的なことを、世界で唯一、高度な芸道にまで昇華させたことを意味します。
 他方、人間主義は、どうやら、人間以外の動物には無縁の代物のようですが、これを社会全体として維持してきた、殆ど唯一の文明もまた日本文明であるところ、香道の存在と人間主義の維持とは関係があるように私には思われてなりません。
 いずれにしても、平素余り意識していない嗅覚の世界を大切にして、唯一回きりの人生を堪能したいものですね。