太田述正コラム#8769(2016.12.3)
<米リベラル知識人の内省一(その4)>(2017.3.19公開)

 例外的アングロサクソン諸自由、の観念が、ボブ・ディランやストーンズ(Stones)<(注5)>はもちろん、ヒットラーの敗北直後の時期よりもはるかに昔にさかのぼることは明白だ。

 (注5)「ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) はイギリスのロックバンド。・・・<麻薬使用疑惑が絶えず、>日本公演・・・が、メンバーの麻薬所持による逮捕歴<等の>・・・理由により、入国許可が下りず、チケットが完売していたにも関わらず、公演が直前になって中止に」なったり、彼らの「「悪魔を憐れむ歌」<が>「歌詞が神を冒涜している」という宗教団体からの抗議が起こ」ったり、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA
したところの、その「自由さ」を指しているのだろうか。

 1830年代の米国の民主主義を尊敬するアレクシス・ド・トックヴィル(Alexis de Tocqueville)の叙述は良く知られている。
 <しかし、>同じ時期の英国についての彼の諸記述は余り知られていない。
 フランス革命直後に生まれたトックヴィルは、その強力な貴族制にもかかわらず、英国はどうしてフランス革命のような大動乱を免れているのか、という疑問に憑りつかれていた。
 英国の人々はどうして叛乱しなかったのか、というわけだ。
 彼の答えは、英国の社会システムは、一人の人間が一生懸命働き、才覚があって、運が良ければ、社会の中で上昇することができる程度にはオープンだからだ、というものだった。・・・

⇒封建的規制が(封建制がなかったので)なかったということは言えるけれど、にもかかわらず、イギリスでも、叛乱や騒乱は決して珍しくはなかったのであり(コラム#省略)、例えば、相当規模が大きく、しかも、結果として世界史的大事件となったところの、英領北米植民地の叛乱・・米国の独立・・が、いかに理不尽な屁理屈を捏ねて行われたものであった(コラム#省略)か、を思い出してください。
 フランス革命のような天変地異的叛乱ないし騒乱が起きなかったのは、基本的には、イギリスが、昔から一貫して、欧州諸国・諸地域に比して顕著に豊かだった・・18世紀以降は植民地経営の成功でそんな国に更に不労所得が大量流入した・・から(コラム#省略)であって、トックヴィルは、(奴隷制を無視した形で理解したところの、)米国についてのみならず、イギリスについても、甚だしくツボを外した浅薄な理解しかできなかったわけです。
 まさにそれは、アングロサクソン文明に比して劣っている欧州文明の人間たるトックヴィルの限界であった、と言うべきでしょう。(太田)

 現実には、恐らくは、無一文から大金持ちになった諸物語など、19世紀の英国にだってそう多くはなかったことだろう。
 しかし、南欧系の(Sephardic)ユダヤ人の両親の息子である、ベンジャミン・ディズレーリ(Benjamin Disraeli)が、首相に、そして伯爵になれる、という事実は、同等に、欧州において何世代にもわたって、英国が例外的な国であると信じる根拠を提供した。
 私自身の曽祖父達のような、ロシアやリトアニアやドイツの<北欧系の(Ashkenazi)>ユダヤ人達は、自分達自身だってイギリスの紳士になれる、という希望を抱いて、英国に移民として大挙やってきたのだ。・・・
 英国と米国では、十分な努力と才能によって逆境をはねのけることができる、という観念は、とりわけ重要であり続けている。
 英米流資本主義は、色んな意味で過酷たりうるけれど、自由諸市場は新しい才能や未熟練労働に優しい(receptice)ことから、もっと閉ざされた、共同体志向的な(communitarian)独裁的な諸社会の統治者達が軽蔑する傾向があるところの、実際主義的で相対的にオープンな、移民達が繁栄することができる、まさにその種の社会群を族生させた。
 1918年までドイツの皇帝であったヴィルヘルム2世は、彼の国が、彼がそれが起きることに最も寄与したところの、第一次世界大戦で敗北した時、まさにこういうご仁だった。
 自身がイギリス人のハーフであった<にもかかわらず、>彼は、イギリスを小売商人達の国、と呼び、それを「ユダのイギリス(Juda-England)」、と描写した。
 イギリスは、縁起でもない(sinister)外国人たるエリート達によって退廃させられていて、血と土の諸徳よりもカネがモノを言う国である、と。・・・
 昨今の英米ポピュリズムの恐るべき皮肉は、伝統的に英語圏諸国にとっての諸敵が用いてきた諸文句が共通に使用されていることだ。・・・

(続く)