太田述正コラム#8693(2016.10.26)
<プーチンのロシア(その6)>(2017.2.9公開)

 (6)アレクサンデル・ドゥーギン

 「グミリョフが鼓吹した人々のうちの一人がアレクサンドル・ドゥーギンだ。
 彼のマルクス主義への諸異論は<グミリョフのそれと>同じようなものだった。
 著者によれば、ドゥーギンは、欧州の新右翼(New Right)の思想家達・・彼らは、自由主義、国民国家、そして、米国の支配的地位(domination)、の遺産(heritage)を弾劾し、欧州は自身を帝国的大国として再生(reinvent)させる必要がある、と主張した・・と諸結び付きがあった。
 彼らの思想は、また、ハルフォード・マッキンダー、及び、ナチスドイツの地政学理論家達・・彼らは、世界の諸事柄における決定的諸衝突は、米国を長とする海洋諸勢力とユーラシアの大陸諸勢力との間のものだ、と主張(maintain)した・・に由来していた。
 これらの諸潮流の全てがドゥーギンの本の中で結合している。
 『地政学の諸基礎(The Foundations of Geopolitics)』(1997年)がその本だ。
 それは、ロシア参謀大学校(Russian General Staff Academy)<(注10)>の教科書となった。

 (注10)Military Academy of the General Staff of the Armed Forces of Russia。1832年創立(名称は異なる)。モスクワに所在し、2年コース。概ね30歳台後半の、選良たる、全軍の中佐、大佐、准将が学ぶ、ロシア軍部の最上級学校。
https://en.wikipedia.org/wiki/Military_Academy_of_the_General_Staff_of_the_Armed_Forces_of_Russia

 その学校では、ドゥーギン自身が講義をしており、彼は、もはや、反体制派ではなく、支配層(establishment)の一支柱なのだ。

⇒上掲の英語ウィキペディアに、同校の著名な卒業生として、アルバニアの元国防相と元海軍司令官の2人だけが列記されているのは、編集ミスなのか、とも思う一方で、歴代の校長を含む教職員出身の著名人もわずか6名しか列記されておらず、しかも、そのうち元帥になったのは1名だけ、ということからすると、この学校のロシアの軍部ひいては国内での位置付けがさほど高くないということなのか、いずれにせよ、軍人そのものの地位が、帝政ロシア、ソ連、新生ロシアを通じて低かったことを推認させることから、この学校の教科書に採用されていること等がさほどのこととは思えませんし、いわんや、それらだけで、ドゥーギンがロシアの「支配層の一支柱」になっている、などとは到底言えそうにありません。(太田)

 1990年代のロシアの混沌は、欧米型の民主主義が、役に立つ(beneficial)どころか、実際には彼らの生活様式(way of life)を掘り崩したためであることを、多くのロシア人達に示唆した。
 NATOの拡大<(注11)>と1999年のセルビアにおける爆撃作戦<(注12)>は、欧米は敵であることを再確認させ、プーチンを含む、多くの、思想に耽る(thinking)ロシア人達を、修正ユーラシア主義への改宗者達にした。」(A)

 (注11)「<19>99年にポーランド、ハンガリー、チェコ、2004年にはルーマニア、スロベニア、バルト3国、ブルガリア、スロバキアが加盟し<ている。>・・・また、新たにクロアチア、マケドニア、アルバニアが加盟準備支援を受けることが、<20>04年6月イスタンブール首脳会議で確認されている。」
https://kotobank.jp/word/NATO%E3%81%AE%E6%8B%A1%E5%A4%A7-181148
 (注12)[NATO bombing of Yugoslavia。]「NATO加盟諸国がコソボ紛争末期の1999年に・・・ユーゴスラビア連邦共和国<(当時)に対して>・・・実施した航空攻撃を主とする作戦・・・。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B9%E4%BD%9C%E6%88%A6
https://en.wikipedia.org/wiki/NATO_bombing_of_Yugoslavia ([]内)

 「1997年の論文、「ファシズム--境界がなくて赤い(Fascism – Borderless and Red)」、の中で、ドゥーギンは、「ロシアでは、我々は、共産主義と自由主義という、二つのイデオロギーの諸段階を経験した(through)、と宣言した。
 「残るはファシズムだ」、と。
 そして、同じ年の主著であるところの、『地政学の諸基礎』<を上梓した。>」(E)

⇒共産主義といい、自由主義といい、また、ファシズムといい、或いは、ハルドゥーンといい、マッキンダー等の地政学者達といい、要は、ロシアは、(私はキリスト教・・正教・・も入れていいと思いますが、)外来の借り物思想に、次から次へと目移りする形で翻弄されてきている、と言えそうですね。(太田)

(続く)