太田述正コラム#8605(2016.9.12)
<英国のインド亜大陸統治の醜悪さ(その1)>(2016.12.27公開)

1 始めに

 ジョン・ウィルソン(Jon Wilson)の『英国によるインド亜大陸統治とインド帝国の混沌(Britain’s Raj and the Chaos of Empire)』

A:http://www.ft.com/cms/s/0/dfb65a78-6eb3-11e6-a0c9-1365ce54b926.html
(9月3日アクセス(以下同じ))
B:https://www.kirkusreviews.com/book-reviews/jon-wilson/the-chaos-of-empire/
C:https://www.easterneye.eu/comment/detail/jon-wilson-britain-cant-trade-on-its-history-with-india
(著者による解説)
D:http://economictimes.indiatimes.com/magazines/panache/the-british-raj-saw-violence-as-a-necessary-means-to-protect-their-vision-jon-wilson/articleshow/53945838.cms
(著者のインタビュー)
E:http://www.bbc.com/news/world-asia-india-37094519
(9月7日アクセス)

 なお、ウィルソンは、英国人で、米ニュースクール大学(ニューヨーク)
< https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%A4%A7%E5%AD%A6 >
のNew School for Social Researchで修士号、2000年にオックスフォード大で博士号を取得し、現在、ロンドン大キングズカレッジの大英帝国及び南アジア史の上級講師、という人物です。
http://www.kcl.ac.uk/artshums/depts/history/people/staff/Academic/wilsonj/index.aspx

2 英国のインド亜大陸統治の醜悪さ

 (1)序

 「この本の中で、ウィルソンは、英国は、インドを、その混沌から救い出したどころか、それを引き起こしたのであること、を示唆する。
 実は、多く<の英国人達>が抱いているところの、<英領インド>帝国に対する誇りは、英インド当局(Raj)が傑出して得意だったこと・・景気づけ的情宣(boosterish propaganda)」・・の、極楽とんぼ的残光(afterglow)に過ぎないのだ、と。」(A)

 「ウィルソンは、・・・英国の<インドにおける>帝国(imperial state)は、偏執症的麻痺と時々の極端な暴力の瞬間との間を揺れ動いたが、それは、英インド当局がインド社会と長期的な諸関係を創り上げることに失敗した帰結だった、と述べている。」(D)

 (2)諸政策

 「この本の核心は、英インド当局神話において好んで使われる諸言い回し(shibboleths)についての、巨匠的な破壊的叙述(takedown)だ。
 例えば、鉄道網は、全球的諸標準に照らせば比較的遅く整備されたが、それは、植民地当局の無関心の下で着手されたものだ。
 <ついに>公的関心が生じた時、<当局は、鉄道>網が経済的諸優先順位ではなく、軍事的諸優先順位に従うように執拗に主張し、その<経済>発展に対する<促進的>影響を減少させた。
 同様、灌漑の諸事業は、しばしば、公的無関心(apathy)と出し惜しみに直面しつつ進められた。
 著者は、最新のものより相当遅れた技術が用いられたところの、英当局が作った<灌漑>システムは、西暦1000紀の初期における灌漑水門群の発明者達にとっては陳腐なものだったに違いない、と主張する。
 法的諸問題に関しては、英当局は、私法(personal law)を改革して普遍性のある<内容の>ものにするという最も困難な任務から逃げ回避(duck)、近代的な商業諸関係を推進せず阻害したところの、財産法制の混乱したもつれを<そのまま>放置した。
 <また、>19世紀の最後の4分の1にける英当局の経済政策は、何百万もの職人技の諸仕事の破壊を単に促進しただけではなく、伝統的なノブレスオブリジェ的な支援諸システムを掘り崩した。
 これらを代替するものが何もなかったため、食糧価格の高騰が起きるたびに、飢饉によって何百万人もの諸死がもたらされた。
 これは、<インド亜大陸の、>まことにもって、極めて恐ろしく強烈な(very hard edge)全球化だった。」(A)

⇒よくぞ言ったといったところですが、分割独立から70年近く経った21世紀の現在にもなって、ようやくこれを書いたのが、インド亜大陸人ではなく、英国人であったことが、私を暗澹たる気持ちにさせます。(太田)

(続く)