太田述正コラム#8495(2016.7.19)
<階級社会米国(その5)>(2016.11.2公開)

 (6)20世紀

 「連邦最高裁長官のオリヴァー・ウェンデル・ホームズ(Oliver Wendell Holmes)<(コラム#1079、1472、3335、3543、3548、4932)>は、この論理
(reasoning)を、1927年のバック対ベル判決(Buck v. Bell ruling)<(注9)>の中で恐るべき結論へと持って行った。

 (注9)強制的断種は米憲法修正第14条に言う適正手続きに違反しないとし、いわゆる消極的優生学(negative eugenics)を擁護したものと見なされた。この判決は、いまだに、明白な形では撤回されていない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Buck_v._Bell

 <彼は、>「低能者(imbecile)が三代も続いたらもう沢山だ(enough)」、との声明とともに、強制的断種(compulsory sterilization)を認める州法群を合憲とする決定を正当化したのだ。」(A)

⇒日本では、欧米から移入された優生学の考え方は、特異な歴史を辿ります。↓
 「1938年(昭和13年)戦争に対応するため厚生省が作られ、予防局優生課が『民族優生とは何か』など優生政策をすすめた。
 1940年(昭和15年)、人工妊娠中絶条項は国会の反対で大幅に修正されたものの、遺伝性精神病などの断種手術などを定めた国民優生法が公布された。この法による断種手術は1941年(昭和16年)〜1947年(昭和22年)で538件だった。しかし厚生省の意図とは異なり、当時の「産めよ増やせよ」の国策に加えて、天皇を中心とする家族的な国家観が強制断種と馴染まなかったなどの理由から、優生的な政策は必ずしも実効を結ばなかったとされる。・・・
 <なお、>神道家の曽和義弌は、1940年(昭和15年)に「民モ昔ニ遡レバ神ノ御末デアル、ソレヲ断種スルト伝フコトハ、……徹頭徹尾猶太〔ユダヤ〕思想デアル」と発言して神国思想から反対し<ている>(1940年、昭和15年3月13日、衆議院)。・・・
 日本において優生学的なイデオロギーが政策的に色濃く反映され、実効されたのはむしろ戦後の1948年(昭和23年)に成立した優生保護法の施行の後である。・・・
 優生保護法(1948年(昭和23年))は、優生学的見地からの強制断種が強化される原因になったことでも特筆される。元日本医師会会長でもある自由民主党の谷口弥三郎参議院議員を中心とした超党派による議員立法で提案された同法は、当時必須とされた日本の人口抑制による民族の逆淘汰を回避することを提案理由として、子孫を残すことが不適切とされる者に対する強制性を増加させたものとなった。
 同法は、ハンセン病を新たに断種対象としたほか、1952年(昭和27年)の改正の際、新たに遺伝性疾患以外に、精神病(精神障害)、精神薄弱(知的障害)も断種対象とした。1952年(昭和27年)から1961年(昭和36年)の間にの医師申請の断種手術件数は1万以上行なわれた。またあわせて遺伝性疾患による中絶も年に数千件あった。これを消滅させるべく、1997年(平成9年)に法改正がなされ、名称も母体保護法と変更された。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%84%AA%E7%94%9F%E5%AD%A6#.E6.97.A5.E6.9C.AC.E3.81.AB.E3.81.8A.E3.81.91.E3.82.8B.E5.84.AA.E7.94.9F.E5.AD.A6
 厚生省そのものが、日本人の質と量を増進させ、戦争に資する、という目的で設置されたこと自体興味深いことはさておき、質の増進については、戦時中には実効をあげることができず、戦後、どうやら、米国の占領政策の一環として、というか、米国に迎合する形で、実効化した、というわけです。
 憲法第9条、売春禁止法、優生保護法、という、吉田ドクトリン三悪法中、その後、優生保護法だけが廃止されたものの、いまだに、憲法第9条(ないし、そのおかしな政府解釈)、及び、売春防止法が生き残っているのは、まことに嘆かわしい限りです。(太田)

 (7)土地

 「我々は、我々の歴史の半分超は農業国であったことを忘れている。
 だから、我々は、土地に付随する象徴性の重要さを忘れているのだ。
 これらの諸主題は、我々の社会が機能(operate)する仕方の中に、依然として組み込まれている。
 例えば、我々が、富を独占しているのはウォール街だけではないことを忘れがちであるがゆえに、不動産王(estate mogul)であるところの、ドナルド・トランプが大統領選に立候補していることは、実際、極めて興味深いことだ。
 <最も富んでいるところの、>1%は、今日における最大の土地所有者達でもあるのだ。
 土地所有権に付随する不平等性は失われていない。
 中流階級に属すると見なされている人々だって、彼らの主要な投資は彼らの家に対するものだ。」(F)

 (8)白人内の「有色性」差別

 「この本が白人の人々に焦点を当てていて、著者が、白人達の間でさえ、感知された肌の色の諸差異が階級間の分裂の徴表にどのようにしてなったのかにこだわるのは、決して驚くべきことではない。
 19世紀の文化評論家達は、「黄色い羊皮紙」の肌の色を持ち、その夥しい子孫達が「死体のような血の気のない姿」をしているところの、白人の下流階級人達を、しばしば嘲った、と彼女は記す。
 そして、肌の色合い<の違い>から、(噂されたところの、)先天的な、そして、知的な(cognitive)諸不同性(disparities)へ、というのは、ほんの少しの跳躍だった、と。
 「木蝋色(tallow-colored)の肌というものは、それだけではなく、知的停滞、「不活発な(inert)」諸頭、「下手くそな(fumbling)」演説、の恒久的な印だったのだ」。
 南北戦争の後、「勤勉な黒人達は突然<キリスト教で言う>贖われた人々になった」けれど、貧しい白人達は、「未発達の、進化的に停滞した生き物達」であり続けた、というわけだ。」(B)

(続く)