太田述正コラム#8481(2016.7.12)
<階級社会米国(その1)>(2016.10.26公開)

1 始めに

 本日のディスカッションで言及した、ナンシー・アイセンバーグ(Nancy Isenberg)の『白いゴミ--400年間にわたる米国の語られたことのない階級史(White Trash: The 400-Year Untold History of Class in America)』のさわりを書評等をもとにご紹介し、私のコメントを付します。

A:http://www.csmonitor.com/Books/Book-Reviews/2016/0706/White-Trash-argues-that-America-has-always-been-riven-by-class-conflict
(7月7日アクセス。書評(以下同じ))
B:https://www.washingtonpost.com/news/book-party/wp/2016/06/23/a-cultural-and-political-history-of-white-trash-america/
(7月11日アクセス(以下同じ))
C:http://www.nytimes.com/2016/06/26/books/review/white-trash-by-nancy-isenberg.html?_r=0
D:http://www.slate.com/articles/arts/books/2016/06/white_trash_the_400_year_untold_history_of_class_in_america_by_nancy_isenberg.html
E:http://www.newsday.com/entertainment/books/white-trash-review-nancy-isenberg-on-class-inequality-in-american-history-1.11933377
F:http://fusion.net/story/317051/nancy-isenberg-white-trash-history-of-class-in-america/
(筆者のインタビュー)

 以下は、目を通したものの、引用しなかった書評等です。↓
https://newrepublic.com/article/134875/white-trash-theory-donald-trump 
(書評(以下同じ))
https://psmag.com/americas-long-rich-history-of-trashing-poor-whites-4b4fc19191f8#.ou1u10ti2 
http://www.providencejournal.com/entertainmentlife/20160707/book-review-americas-preoccupation-with-good-and-bad-breeds 
http://www.npr.org/2016/07/07/485138723/dispelling-the-myth-of-a-classless-society-in-white-trash 
(筆者のインタビュー)

 なお、アイセンバーグは、米ラトガーズ大卒(1980年)、ウィスコンシン大修士・博士(米国史)(1990年)であり、賞を多数授与されているところの、現在ルイジアナ州立大教授、という人物です。
http://sites01.lsu.edu/wp/history/faculty/nancy-isenberg/ ←えり抜きの写真なのだろうがなかなかの美人。

2 階級社会米国

 (1)序

 「奴隷制が米国の原罪だとすれば、階級は隠された原罪だ。
 何かを達成したり我々自身を高めたりする機会は生誕時にあらかじめ決められてなどいないし、上昇移動は困難ではあっても可能である、というのは、我々の国民的信条(creed)の一部になっている。
 結局のところ、我々は、自覚された階層化(stratification)のある種の「ダウントン・アビー(Downton Abbey)」<(コラム#8164)>的地獄に囚われ人となっている英国人ではないのであり、我々は、そういったもの全てに対して叛乱を起こしたんだったよな、と。」(A)

 「米国の階級に関する一節で、最も名高いのは、ドイツの社会学者のヴェルナー・ゾムバルト(Werner Sombart)<(コラム#758、1021、4023、4367、8247)>によって1906年に書かれたものだ。
 米国における階級意識は、「大量のローストビーフとアップルパイの下では」雲散霧消せざるをえない、と彼は強く主張したのだ。
 ゾムバルトは、「米国に社会主義がないのはなぜか」、という問いを提起した最初の学者達のうちの一人だった。
 彼の答えは、今では、米国の例外主義に係る通俗的観念(conventional wisdom)へと凝固するに至っている、単純なものだった。
 「米国は、欧州よりも、もっと自由で平等な社会<だからなの>だ」、という・・。
 米国では、「殆ど全ての欧州の勤労者達が感じているところの、自分達は<お歴々とは>階級が異なっているとの汚名(stigma)を感じている者などいない…。欧州で非常に不愉快な印象を生んでいるところの、『より上流の諸階級』の前におけるお辞儀と後ずさり(scraping)など全く存在していないのだ」、と彼は主張した。
 この本において、著者は、このゾムバルトの理論を歴史の諸浅瀬に座礁させて壊してしまった前世紀の歴史学者達の長いリストの末尾に<今世紀において>名を連ねたことになる。
 20世紀の最初の3分の1における進歩派の歴史学者達であって多くの業績を残したチャールズとメアリー・ビアード(Charles and Mary Beard)は、米国史を持てる者達と持たざる者達の間の経済権力を巡る闘争、と再解釈した。
 W・E・B デュボイス(W.E.B. Du Bois)は、<南北戦争後の>再建時代(Reconstruction)を、解放奴隷達が自分達の勤務諸条件や諸賃金のコントロール権を争ったところの、偉大なる階級叛乱、と解釈した。
 1970年代と80年代の労働史や政治史の歴史学者達は、アンドリュー・ジャクソン(Andrew Jackson)時代の米国における勤労者党(Workingmen’s Party)から、19世紀末の奥ジョージア(upcountry Georgia)のポピュリスト達、そして、大恐慌時代の産業別組合会議(Congress of Industrial Organizations)の左派諸組合までの、ブルーカラー意識と草の根急進主義の忘れられた歴史を発掘した。
 影響力有るマイケル・B・カッツ(Michael B. Katz)のような、公共政策史の歴史学者達は、貧しい人々達自身のいわゆる病理学的ふるまいを奇貨とした経済的剥奪、及び、福祉諸プログラムに対する支援の浸食、を非難するイデオロギーであるところの、「非本来的貧者(the undeserving poor)」なる諸観念が持続していることを強調した。
 だから、著者による物語は、この本の副題が示唆しているところの、「語られたことのない」ものではない。
 しかし、彼女は、それを、尋常ならざる大志でもって、そして、(階級性を帯びた(class-laden)言葉を用いれば)ものの見事に(in a masterly manner)再度物語っている。
 ・・・著者は、ジョン・ロルフ(John Rolfe)とポカホンタス(Pocahontas)<(コラム#1759.3721、3757、7731)>から「ビヴァリーヒルの田舎者達(Beverly Hillbillies)」に至るところの、階級と劣等性の変化する諸概念の文化史を提供している。」(C)

(続く)