太田述正コラム#8260(2016.3.7)
<生態系について(その3)>(2016.7.8公開)

  イ エルトン

 「・・・自然世界に関する、キャノンに匹敵する先覚者(pioneer)は、チャールズ・エルトン(Charles Elton。1900〜91年)<(注5)>だ。

 (注5)Charles Sutherland Elton・「イギリスの動物学者、動物生態学者。個体群生態学、群集生態学の成立と外来種研究に影響を与えた。・・・リバプール大学とオックスフォード大学で教育を受け、・・・動物学の学士<号>を得・・・<、>オックスフォード大<で教鞭を執った。>・・・1927年に、現在では古典として知られている『動物生態学』を執筆した。これは動物の個体群や群集の生態学的研究のための(例えば食物連鎖、食糧の大きさ、生態的地位、生態系の構造を記述する手法として生態ピラミッドの概念のような)重要な原理を概説している。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3

 彼は、オックスフォード大の動物学者であり、北極圏の野生生物を研究した後、1920年代に生態学の科学を創建した。
 彼は、あらゆる諸生物(organisms)のコミュニティ群の中における機能的諸関係を図解した。
 つまり、彼は、個々の諸生き物(creatures)の食物がどこから来るかをなぞったわけだ。・・・
 彼は、個別の「食物連鎖(food chains)」・・、例えば、北極熊群はアザラシ・アシカ・オットセイ群(seals)を、そしてこれらは魚群を、そしてこれらは海洋プランクトン群を、食べる・・を図示し、次いで、これらを食物のサイクル群や蜘蛛の巣状群のネットワークでもって結び付けた。・・・
 次いで、エルトンは、食物諸供給が尽きるか疾病が襲うかするまで、急速に倍々ゲーム的に増えていき、その後数が激減するところの、兎達やタビネズミ(lemming)達のような、拡大北極地域において高速増殖する、若干の諸種における劇的な諸増減について、初めて記録することを始めた。
 この<急速増大・減少の>衝撃は、食物の蜘蛛の巣状<の連鎖>を全域にわたって震撼させる。
 例えば、エルトンは、ハドソン湾会社(Hudson Bay Company)<(注6)>のカナダ北部全域の毛皮獣捕獲諸記録を用いて、兎とオオヤマネコ(lynx)の数についての、相互に繋がった連鎖(cycle)、を解明した。・・・」(A)

 (注6)「北米大陸(特に現在のカナダ)におけるビーバーなどの毛皮交易のため1670年5月に設立された<イギリス>の勅許会社・国策会社である。イングランド銀行の貸付を受けていた。現在はカナダ最大の小売業を中心とする企業である。現存する北米大陸最古の企業でもある。・・・設立当時、イングランド王チャールズ2世の勅許状に記された正式名称は「ハドソン湾に於いて通商に従事する<イギリス>の総督ならびに冒険家の一団」(The Governor and Company of Adventurers of England trading into Hudson's Bay)という。同湾に流れ込む全ての河川の流域(ルパート・ランド)での毛皮独占取引権を許され、初代の総督をチャールズ2世の従兄に当たるカンバーランド公ルパートが務めた。初期に総督職に就いた人物には他にヨーク公ジェームズ(チャールズ2世の弟、後のジェームズ2世)、マールバラ公ジョン・チャーチルなどがいる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%89%E3%82%BD%E3%83%B3%E6%B9%BE%E4%BC%9A%E7%A4%BE

⇒話の本筋からははずれますが、キャノンの先祖が、現在のカナダに渡り、ハドソン湾公社の勅許領域外で、個人ベースで毛皮交易に従事したユグノー(カルヴィン派フランス人)であった
https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Bradford_Cannon 前掲
https://en.wikipedia.org/wiki/Jacques_de_Noyon
https://en.wikipedia.org/wiki/Coureur_des_bois
ことは、奇遇と言うべきでしょうね。
 なお、ホメオスタシス(すぐ後で改めて取り上げられる)は、「1859年頃、・・・生体の内部環境は組織液の循環等の要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)と提唱した・・・フランスの生理学者クロード・ベルナール<(Claude Bernard。1813〜78年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%AB >」であって、キャノンは、この事象に「ホメオスタシス」と命名した「だけの立場(?(太田))」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%92%E5%B8%B8%E6%80%A7 前掲
なのに、キャロルが、ベルナールに言及していなさそうであること、また、キャロルが、キャノンがフランス系米国人であることに言及していないのは、(自身が何系であるかは詳らかにしませんが、)彼の「欧州」人に対する何らかの偏見がなさしめているのか、と勘繰りたくもなります。(太田)

 (3)ホメオスタシス

 「・・・ジャック・モノー(Jacques Monod)(酵素規制=enzyme regulation)<(注7)>、遠藤章(ロバスタチン開発者=lovastatin developer)<(注8)>、そして、ジャネット・ラウリー(Janet Rowley)(癌及び遺伝性疾患の遺伝質性=cancer and inheritance of genetic diseases)<(注9)>、といった分子生物学の偉大な先駆者達を我々に紹介することによって、キャロルは、我々自身の諸身体の中で進行しているところの、自然の諸過程の強固な基礎を読者<の頭の中>に打ち立て、その上で、「レプレッサー(repressor)」と「サプレッサー(suppressors)」<(注10)>・・この二つは、「何かをなす」のではなく、何かを予防する働きをする・・の発見といった、ブレークスルーがいかに起きるか、を描写する。
 我々は、これらの諸メカニズムが失敗した場合に何が起きるか、についても学ぶ。・・・」(C)

 (注7)1910〜76年。パリ大学卒。「フランソワ・ジャコブとともに・・・フィードバックによる遺伝子の調節を説明する・・・オペロン説を提出し、これによって1965年度ノーベル生理学医学賞を受賞した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%8E%E3%83%BC
 (注8)1933年〜。「東北大学農学部<卒、>・・・三共株式会社に入社し、・・・東北大学農学博士<号を取得し、>アルバート・アインシュタイン医科大学(ニューヨーク)に留学。」遠藤が発見したのはコンパクチンであり、ロバスタチンは、米メルク社が発見したコンパクチン2号・・意味がよく分からない(太田)・・。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A0%E8%97%A4%E7%AB%A0
 (注9)1925〜2013年。シカゴ大卒、同医学校卒。米国のヒト遺伝学者にして染色体転座(chromosomal translocation)が白血病等の諸癌の原因であることを突き止めた最初の科学者。
https://en.wikipedia.org/wiki/Janet_Rowley
 (注10)「サプレッサーはサプレッション(突然変異によって現れていた形質が第二の突然変異によって回復、打ち消される現象)における第二の突然変異を起こした遺伝子を指・・・す。リプレッサーとはある種の調節遺伝子によって作られ、特定の遺伝子群の形質発現<(転写(太田))>を抑える働きをもつ制御タンパク質の一種・・・。」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1282721432
 リプレッサーは、転写抑制因子、と訳されることがある。
http://ejje.weblio.jp/content/repressor

⇒またもや話の本筋からははずれますが、ここで登場した3人の業績と受賞歴を一瞥しただけでも、ノーベル賞・・この場合は医学・生理学賞・・が恣意的に決定されている、と言って語弊があれば、受賞には運不運が付き物だ、・・受賞者はモノーのみ、遠藤は受賞を逸している、ラウリーの業績分野は授賞対象にならなかったようだ・・という印象を持ちます。(太田)

(続く)