太田述正コラム#8184(2016.1.29)
<矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読む(その8)>(2016.5.15公開)

 「<実は、>日米原子力協定<(注8)>という日米間の協定があって、これが日米地位協定とそっくりな法的構造をもっている<のです。>

 (注8)Agreement for Cooperation Between the Government of the United States of America and the Government of Japan Concerning Peaceful Uses of Nuclear Energy。「1968年7月10日旧協定発効、1973年一部改正。1988年・・・、現行の改定協定発効。有効期間は30年で、2018年7月に満期を迎える。有効期限の6か月前から文書で通告することによって協定を終了させることができるが、この事前通告がなされない限り協定の効力は継続する。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%8D%94%E5%AE%9A

 つまり「廃炉」とか「脱原発」とか「卒原発」とか、日本の政治家がいくら言ったって、米軍基地の問題と同じで、日本側だけではなにも決められないようになっているのです。
 ・・・アメリカ側の了承なしに日本側だけで決めていいのは電気料金だけ・・・なのです。・・・
 <しかも、日米地位協定よりも更にひどいことに、日米原子力協定>第12条4項<は、「>どちらか一方の国がこの協定のもとでの協力を停止したり、協定を終了させたり、[核物質などの]返還を要求するための行動をとる前に、日米両政府は、是正措置をとるために協議しなければならない(shall consult)。そして要請された場合には他の適当な取り決めを結ぶことの必要性を考慮しつつ、その行動の経済的影響を慎重に検討しなければならない(shall carefully consider)<」、と、>「アメリカの了承がないと、日本の意向だけでは絶対にやめられない」ような取り決めになっているのです。・・・

⇒協議を経なければ「やめられない」よ、というだけのことです。
 なお、「アメリカ側の了承なしに日本側だけで決めていいのは電気料金だけ」に、(電気料金と核(原発)とは直接関係がないことはさておき、)矢部は、これまた当然ながら、典拠を付けることができていません。(太田)

 <これに加えて、>次のようなとんでもない条文があるのです。
 ・・・第16条3項<ですが、「>いかなる理由によるこの協定またはそのもとでの協力の停止または終了の後においても、第1条、第2条4項、第3条から第9条まで、第11条、第12条および第14条の規定は、適用可能なかぎりひきつづき効力を有する」
 もう笑うしかありません。
 「第1条、第2条4項、第3条から第9条まで、第11条、第12条および第14条の規定」って…ほとんど全部じゃないか!
 それら重要な取り決めのほぼすべてが、協定の終了後も「引きつづき効力を有する」ことになっている。

⇒「適用可能」ではない、と日本側が認定すれば、「効力<は>有<しなくなる>」というだけのことです。(太田)

 こんな国家間の協定が、地球上でほかに存在するでしょうか。

⇒いくらでも存在するはずです。
 米国が日本以外と結んでいる原子力協定も同様の内容である、と推定されます。
 いや、「日本<自身、>数多くの国と原子力協定を結んでいる」
http://www.gepr.org/ja/contents/20151109-01/
ので、その中にだって同様の規定を持つものがあるかもしれませんよ。
 (どなたか、調べていただけるとありがたい。)
 それはそれとして、「日米原子力協定は、その名のとおり原子力分野での協力を目的としているが、あわせて米国が供給する核燃料及び原子力資機材に対して、核不拡散の観点から米国が規制をかけるためのものであった」(上掲)ことは事実であるものの、その一方で、「世界の非核保有国の中で日本だけが、再処理工場を持てるのもこの協定があるため」
http://www.sankei.com/politics/news/150911/plt1509110005-n1.html
であり、これが、日本に、他の非核保有国の中で、核に関して特権的地位を付与している協定(条約)であることについても、我々は忘れてはなりますまい。(太田)
 
 もちろんこうした正規の条文以外にも、日米地位協定についての長年の研究でわかっているような密約も数多く結ばれているはずです。」(95〜97)

⇒前述したように、日米地位協定に関して、そのようなものは基本的になかった・・後に再び取り上げる・・のと同様、日米原子力協定に関しても、そのようなものは基本的にはない、と見てよいのではないでしょうか。(太田)

 野田内閣は2012年9月、「2030年代に原発稼働ゼロ」をめざすエネルギー戦略をまとめ、閣議決定をしようとしました。・・・
 <ところが、>駐米大使が、アメリカのエネルギー省<(注9)>のポネマン<(注10)>副長官と9月5日に、国家安全保障会議のフロマン<(注11)>補佐官と翌6日面会し、政府の方針を説明したところ、「強い懸念」を表明され、その結果、閣議決定を見送らざるをえなくなってしまったのです(同月19日)・・・

 (注9)United States Department of Energy(DOE)。「マンハッタン計画終了後の1946年に設立された原子力委員会(AEC)を前身とする。1973年のオイルショック後再編され、1977年・・・にエネルギー省が発足した。・・・その役割は核兵器の製造と管理、原子力技術の開発、エネルギー源の安定確保、・・・石油の戦略備蓄・・・及びこれらに関連した先端技術の開発と多岐にわたる。・・・
 連邦エネルギー規制委員会 (Federal Energy Regulatory Commission、略称:FERC) はエネルギー省内の独立規制機関であり、電力及びガス事業に対する規制・監督を行っている。」 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E7%9C%81
 (注10)1956年〜。ハーヴァード大卒、同法科大学院卒、オックスフォード大修士(政治)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Daniel_Poneman
 (注11)1962年〜。プリンストン大卒、オックスフォード大博士(国際関係論)、ハーヴァード大法科大学院卒(オバマと同級生)。現在、米通商代表。
https://en.wikipedia.org/wiki/Michael_Froman

 <そもそも、>アメリカ政府のエネルギー省というのは、前身である原子力委員会から原子力規制委員会を切り離して生まれた、核兵器および原発の推進派の牙城・・・です。
 こんなところに「原発ゼロ政策」をもっていくのは、アメリカの軍部に「米軍基地ゼロ政策」をもっていくのと同じで、「強い懸念」を表明されるに決まっています。
 以上から拒否される筋書きができていたと考えるほうが自然です。

⇒米国政府のどの関係部署にもっていったとしても「「強い懸念」を表明され」たはずですが、結論的には矢部の言う通りであり、野田首相は、世論や党内の突き上げを受け、「原発ゼロ政策」を一応掲げつつ、それをつぶす役割を米側に担ってもらった、と私は想像しています。(太田)

 <それどころか、>大使の面会からちょうど一週間後の9月12日、野田首相の代理として訪米した大串博志・内閣府大臣政務官(衆議院議員)たちが同じくポネマン副長官と面会しましたが、・・・<その時、>「プルサーマル発電の再開」を国民の知らない「密約」として結ばされる結果となりました。(「毎日新聞」2013年6月25日)」(95〜99)

⇒「密約締結」というより、「強い要請受理」でしょうが、むしろ、どうして、米国は、日本に一貫して、核に関する特権的地位を維持させようとしてきたのか、を不思議に思って、その点を追求しようとない矢部が、私には理解できません。(太田)

(続く)