太田述正コラム#8182(2016.1.28)
<矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読む(その7)>(2016.5.14公開)

 「<2011年に福島で原発事故が起こった時点で>日本には・・・大気汚染防止法<、>土壌汚染対策法<、そして、>水質汚濁防止法<のような、>・・・汚染を防止するための立派な法律があるのに、なんと放射性物質はその適用除外となっていたのです>・・・
 そしてここが一番のトリックなのですが、環境基本法(第13条)のなかで、そうした放射性物質による各種汚染の防止については「原子力基本法その他の関係法律で定める」としておきながら、実はなにも定めていな<かった>のです。・・・

⇒このくだりも、下掲の事実↓に照らし、デマゴギーに近いですね。
 「1961年・・・「原子力損害の賠償に関する法律」が制定された。同法によると、原子炉の運転、加工、再処理および核燃料物質の使用により原子力損害を生じたときには、その原子炉の運転等にかかる原子力事業者が、過失の有無を問わずに損害賠償責任を負わなければならない(3条1項本文)。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変(たとえば異常に巨大な地震)または社会的動乱(たとえば戦争や内乱)によって生じたものであるときには、無過失責任は適用されない(同条但書)。」
https://kotobank.jp/word/%E7%84%A1%E9%81%8E%E5%A4%B1%E8%B2%AC%E4%BB%BB-140258
 つまり、原子力に関しては、大気汚染のみならずあらゆる損害についての措置、がちゃんと「定め<られ>てい」たわけです。
 問題は、「異常に巨大な地震」とは「地震であれば関東大震災の3倍以上の加速度をもつものをいうと<し、>・・・福島<の原発>事故には適用されない」と政府が考えていた
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%90%8D%E5%AE%B3%E3%81%AE%E8%B3%A0%E5%84%9F%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B
ことから、福島での原発事故の被害者側が、東電等を訴えても負けてしまう可能性が高い点にあった、と矢部は正確に記すべきでした。(太田)

 <で、急遽、政府は、>「原子力損害賠償紛争解決センター」という目くらましの機関をつくっ<たのですが>、加害者側のふところが痛まない程度のお金を、勝手に金額を決めて支払い、賠償するふりをしているだけなのです。

⇒原子力損害賠償紛争解決センターは、上記「原子力損害の賠償に関する法律に基づき、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会のもとに設置され・・・文部科学省、法務省、裁判所、日本弁護士連合会出身の専門家によって構成され」ているところ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%90%8D%E5%AE%B3%E8%B3%A0%E5%84%9F%E7%B4%9B%E4%BA%89%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC
被害者側は、賠償金額に不満があれば、なお、(後述するように勝てないでしょうが)訴訟を提起することや、(これは可能でしょうが)国会を通じて「原子力損害賠償紛争解決センター」の運用を改善させたり、その根拠法である「原子力損害の賠償に関する法律」そのものを改正することはできるわけであり、「福島第一原発事故での避難中に死亡した住民の遺族に対し、賠償額を半額に抑え込んでいたことが、一部メディアの報道により判明している。和解を迅速化させるために、センター側が東電に賠償額を受け入れやすいようにしたためとされており、強い批判が出ている」(上掲)といった運用実態であるとしても、矢部が、「目くらまし」だの「賠償するふりをしているだけ」だのと罵倒するのは、いかがなものかと思います。(太田)

 その後、福島原発事故から1年3ヵ月たって、さすがに放射能汚染の適用除外については、法律の改正がおこなわれました。・・・
 しかし最悪なのは・・・ほかの汚染物質と同じく、「政府が基準を定め(16条)」「国が防止のために必要な措置をとる(21条)」ことで規制するという形になったのですが、肝心のその基準が決められていないのです!・・・

⇒「原子力損害の賠償に関する法律」に基づく「原子力損害賠償紛争解決センター」体制という前例が既に確立しているわけですから、恐らくは学術的・技術的に容易ではないと想像されるところの「基準<を>決め」る緊急性はそれほどない、と言うべきでしょう。(太田)

 <しかも、>すでにのべたとおり、環境基本法の改正とほぼ同時(10日後の6月27日)に原子力基本法が改正され、原子力に関する安全性の確保については、「わが国の安全保障に資する[=役立つ]ことを目的として、おこなうものとする」(第2条2項)という条項が入っている<の>です。・・・
 つまり簡単にいうと、大気や水の放射能汚染の問題は、震災前派「汚染防止法の適用除外」によって免罪され、震災後は「統治行為論」によって免罪されることになったわけです。・・・

⇒少し前で述べたように、このくだりには同意できません。(太田)

 だからこうした問題について、いくら市民や弁護士が訴訟をしても、現在の法的構造のなかでは絶対に勝てません。」(90〜93)

⇒但し、前に紹介したように、司法判断において行政「裁量論」が幅を利かせているところの、人間主義のお国柄で日本はあることから、結論的には矢部の言う通りでしょうね。(太田)

(続く)