太田述正コラム#7958(2015.10.8)
<キリスト教の天使と悪魔(その2)>(2016.1.23公開)

 (2)天使/悪魔の歴史

 「・・・リースは、天使達に関する熟考を、初期の諸文明、とりわけ、古典古代世界にまで遡ってなぞる。
 天使的諸存在についての聖書上の諸観念(notions)は、ギリシャ、アラブ、及び、エジプトの宇宙論と多大なる諸類似がみられる。
 これら<地域>における初期の諸説明(accounts)は、全て、精神的(spiritual)と肉体的(physical)両領域の相互関係という問題と取り組み、諸系列(series)の諸階層(strata)ないしは伝令者達(messengers)、換言すれば、天使達、を通して、その聖なる影響力が下方へと発出(emanate)されるところの、至上の存在(Supreme Being)、という観念(idea)を指し示していた。・・・
 プラトンのアカデメイア(Academy)<(注8)>の最後の哲学者だったプロクロス(Proclus)<(注9)>は、宇宙の中にある全てのものは、上御一人(One=神)から、それぞれが存在の連鎖を主宰(preside over)しているところの、神々の9つの諸層(orders)を通して下される発出の偉大なる連鎖によって整序(arrange)されていること、を示唆した。

 (注8)「アカデメイア・・・は、古代ギリシアの<アテネ>北西部郊外にあった、英雄アカデモスの聖林(森)に因む神域であり、リュケイオン、キュノサルゲス等と並ぶ、代表的なギュムナシオン(体育場)の所在地でもあった。・・・紀元前387年、プラトンがここに学園を開設したため、この地名「アカデメイア」がそのまま学園名として継承された。・・・
 算術、幾何学、天文学等を学び一定の予備的訓練を経てから理想的な統治者が受けるべき哲学を教授した。特に、幾何学は、感覚ではなく、思惟によって知ることを訓練するために必須不可欠のものであるとの位置付けで、学校の入り口の門には「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」との額が掲げられていたという。<そのほか>、問答法(弁証術、ディアレクティケー)<も教授した。>・・・
 東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌス1世の非キリスト教的学校の閉鎖政策によって、アカデメイアは529年にその歴史を閉じた。・・・
 <欧州>では<新>プラト<ン主義>の隆盛と相まり、高度な研究ないし教育機関をこれに因んでアカデミー (academy)、アカデミカ (Accademica) などと名付けることが行われ<るようになっ>た。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%A2
 (注9)Proclus Lycaeus(412〜485年)。ギリシャ新プラトン学派の哲学者。コンスタンティノープルに生まれ、アレクサンドリアで修辞学、哲学、数学を学ぶ。更に、アテネのアカデメイアにて勉強を続け、その学長となる。アテネで没。なお、彼は最後の学長ではない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Proclus

 ディオニュシウス(Dionysius)<(注10)>は、シリア出身のキリスト教新プラトン学派だったが、このシステムを彼のキリスト教宇宙論(cosmology)に採用した。

 (注10)偽ディオニュシオス・ホ・アレオパギテース(Pseudo-Dionysius the Areopagite、5〜6世紀。生没年不明)。
 「人間の魂がいかにして神に至るかをディオニュシオスは終始問題にする。そしてその際決定的となるのが位階(ヒエラルキア)である。位階とは聖なる秩序であり、知識であり、活動である。位階は、到達の段階に応じて、神の姿に似たものになろうとし、神より注ぎ込まれた照明の段階(アナロギア)に応じつつ、神と類似のものに向かって高まってゆく。上の位階は下の位階に対して啓示となり、下の位階にある者は上の位階があることによって神の恵みを受け取ることができるという。・・・
 <彼の>『天上位階論』に語られるところによれば、天使の位階には三つの階級(父、子、聖霊に対応)があり、ひとつの階級に三つの段階がある。つまり天使の世界には合計九つの位階が存在する。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%BD%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%91%E3%82%AE%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B9
https://en.wikipedia.org/wiki/Pseudo-Dionysius_the_Areopagite

 ディオニュシウスは、その『天上位階論(Celestial Hierarchy)』の中で、天の諸存在は、その全てが、最も至高の存在から螺旋状に繰り出されてくるところの、天使達だが、<彼らは>それぞれが異なった諸任務を担っている、と<見るべきだ、と>提案した。
 一番上にいて、神に最も近いのはセラフ(Seraphim=熾(し)天使)<(注11)>、ケルビム(智天使)、そして、トロノス(Thrones=座天使)<(注12)>であり、次いで来るのはキュリオーテス(Dominions=主天使)<(注13)>、デュナミス(Powers=力天使)<(注14)>、エクスーシス(Authorities=能天使)<(注15)>だが、第三集団のアルコーン(Principalities=権天使)<(注16)>、アルカンゲロス(Archangels=大天使)<(注17)>、アンゲロス(Angels=天使)が、地上における<人間達の>生活と最も交流がある(have consort with)と考えられた。

 (注11)「三対六枚の翼を持ち、2つで頭を、2つで体を隠し、残り2つの翼ではばたく。・・・悪魔の王となったルシファーも、堕天する以前は最上級の熾天使であったとされている(ルシファーは特別に、12の翼を有し、なによりも美しく光輝いている、と言われる)。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%BE%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注12)「名は「玉座」や「車輪」の意で、唯一神たる主の戦車を運ぶ者とされる。また、「意思の支配者(Lords of Will)」の異名も持つ。物質の体をもつ天使としては最上級にあたり、主に燃え盛る車輪の姿で描かれる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%A7%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注13)「名は「統治」「支配」の意。・・・そのシンボルは笏である。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%BB%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注14)「実現象としての奇跡を司り、それをもって英雄に勇気を授けるとされる。キリストが天に召される時に、付き添ったのも力天使たちであるという。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%9B%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注15)「神の掟を正しく実行にうつす働きを司る能力の天使。神に対して加えられた侮辱をつぐなう方法を教える。プロテスタント<は、>・・・誤読に基づく創作とし、存在を退ける。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%BD%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注16)「国家及びその指導者層の守護。国家の興亡。悪霊からの守護を司る。プロテスタント<は、>・・・誤読に基づく創作とし、存在を退ける。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%A9%E5%A4%A9%E4%BD%BF
 (注17)ミカエルとガブリエルの二大天使、それにラファエルを加えた三大天使、更にウリエルを加えて四大天使、その上に三体の天使を足した七大天使があるが、正教は二大天使、カトリックは当初四大天使だったが三大天使、プロテスタントは概ね二大天使。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%A4%A9%E4%BD%BF

 アルカンゲロスは諸国の面倒を見、アルコーンは諸帝国と人間の管理(human governance)を監督(oversee)し、最下層の成員達、すなわち、通常のアンゲロス、は人と神との仲介者達(intermediaries)だった。

(続く)