太田述正コラム#7778(2015.7.10)
<中共の株価暴落>(2015.10.25公開)

1 始めに

 表記について、英米で、正反対の分析がなされ、珍しくも英国側の、しかもFT経済のコラムの分析の方が、ワシントンポスト系列のSlate誌よりも出来が悪い、という面白い状況が見られたので、それぞれのさわりをご紹介し、私のコメントを付そうと思い立ちました。

2 FTの分析

 「・・・中共では、諸市場は、国家によって運営され、国家によって規制され、国家によって法律が制定されていて、国家によって所有されている諸企業の諸株式を売却することで国家に資するために諸資金が調達されている。・・・
 <すなわち、>当局は、諸株式を社会主義に仕えさせるべく、市場を捻じ曲げてきたのだ。
 現在進行中の<株の>潰走(rout)は、この心地よい仕組み(cosy construct)をばらけさせてしまいかねない<ことから、中共当局は危機に直面している>。・・・」
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/a24c6f0e-264f-11e5-bd83-71cb60e8f08c.html?siteedition=intl#axzz3fRhfJQRI

3 Slateの分析

 「・・・<家計>消費は<、中共の>GDPのわずか36%・・文字通り、米国のそれの半分・・に過ぎ<ない。>・・・
 中共のバブルがはじけることに伴い、諸株を買うために信用でカネを借りている投機家達は疑いの余地なく痛みを感じるだろうが、これらの諸影響は限定的なものになりそうだ。
 まだ生まれたばかりの消費部門を持ち、米国型の家計債務の暗雲(overhang)を持っていないところの、中共は、米国と日本を苦しめた、厳しい苦しみをもたらす貸借対照表的諸景気後退を蒙る可能性は低い。
 では、中共における、悪名高い投資バブル、すなわち、・・・「ゴーストシティー群」、そして、鉄鋼、セメント、板ガラス、その他の産業のの過剰生産能力、或いは、GDPの50%という、聞いたことのない水準に近付きつつあるところの投資シェア、についてはどうか。<懸念すべきではないのか。>
 <確かに、>これらは全て、欧米の観点からは、隠そうとしても隠し切れない、不均衡と差し迫る諸崩壊の諸兆候だ。
 しかし、<そのような懸念は、>中共にはあてはまらない。
 それには、三つの主たる諸理由がある。
 第一に、中共は空前の都市化の只中にある。
 2000年以来、その都市人口は、毎年、約2000万市民達分、増えてきた。
 住居及びその関連インフラ諸所要で言うと、一年でニューヨーク市2個半に相当するものが追加されているわけだ。
 都市化がこの調子で少なくとも2030年まで続く可能性が高いのだから、これから何年もの間、高水準の投資が続くということだ。・・・
 第二に、・・・働き手一人当たりの株式資本(stock of capital)・・長く生産性の鍵となる駆動原と認識されている・・は、現在、米国と日本のそれの15%未満だ。・・・
 しかし、間違いなく、中共の債務負荷・・そのGDPの250%に近いと推定されている・・は心配の種では?
 これは、日本型の問題であって、表見的には、最終的に悲劇をもたらすように見えるではないか。
 しかし、ここでも、欧米的なレンズ<を通して中共を見てしまうと、>・・・分析が曇ってしまう・・・。
 中共の金融システムには、欲目で見ても、部分的にしか発展していない<、という事情がある>。
 <すなわち、>与信(credit)の大部分は銀行部門を通じて流れているのであって、債券市場も大部分の近代的諸経済に比べた場合は小さいし、バブルに傾きがちな株式市場は、中共の諸企業に対する確実な金融源であるとは到底言えない<、という事情が・・>。
 <しかも、>債務集中的な(debt-intensive)銀行与信志向の金融というバイアスは、中共が、最近の<欧米における>金融諸危機と大景気後退から自らを守る(shield)ために攻撃的に動くにつれて<、むしろ、>大きくなって行った(compounded)。
 <しかし、>債務集中的成長の諸危険を自覚し、当局は、現在、地方諸政府と国有諸企業を彼らの最近の与信諸過剰(binges)から離乳させようとしている。
 それこそ、実のところ、実体経済において現在展開中の、現在進行形の減速化の一つの鍵となっている要因なのだ。
 中共の当局が、この、いわゆるデレバレッジング(deleveraging)<(注1)>に関して、成功を収めている以上・・最近の諸指標はこの点では心強いものがある・・、中共の依然として速い名目GDP成長は、今後数年で、中共の全般的な債務比率を急速に低下させるはずなのだ。

 (注1)デレバレッジ:「投資家のレバレッジ取引による建玉を解消すること。投資家は、レバレッジを用いることにより自己資金を大きく上回る資金を動かすことができるようになる。これによりハイリターンが期待できる。しかし、レバレッジ取引はハイリスクも伴っている。デレバレッジは、レバレッジ取引による建玉を解消することによりハイリスクを回避することを目的としている。」
http://www.weblio.jp/content/%E3%83%87%E3%83%AC%E3%83%90%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8
 「レバレッジ(leverage)とはテコの意味。・・・<レバレッジ>を反対売買するのがデレバレッジ(deleverage、テコの解消)・・・。
 <21世紀に入ってから、>レバレッジを効かせた取引の担い手はヘッジファンド。世界の金融・資本市場や商品市場に巨額の資金をつぎ込んだ。低金利の円を調達し、高金利通貨などで運用する「円キャリー取引」もレバレッジ取引の一種。<2007>年夏以降、サブプライムローン問題の深刻化に伴う信用収縮で多くのファンドが資金難に陥り、デレバレッジを余儀なくされた。円相場急騰や証券化商品の急落など波紋が広がり、ファンドに融資していた金融機関にも打撃を与え<た>。」
http://www.nikkei.com/money/investment/toushiyougo.aspx?g=DGXIMMVEW4049008072008000001

 <だから、私見では、>欧米の新聞論調とは対照的だが、中共は次の日本や次のギリシャではないのだ。・・・
 <また、現在、>成長のエンジンを、製造業が主導する諸輸出と投資からサービス業が主導する消費に切り替える、という支那の挑戦<が行われているところだ。>・・・
 <以上をまとめると、中共の心強い事情が>三つの諸前線において示されている、ということだ。
 第一には、サービス部門の発展・・・第二には、eコマース<(注2)>の爆発的成長・・・第三には、都市化が恐るべき速度で進行中であること<、だ。>・・・」
http://www.slate.com/articles/business/moneybox/2015/07/china_stock_meltdown_why_its_actual_economy_will_be_just_fine.html

 (注2)電子商取引。「消費者側からは「ネットショッピング」とも呼ばれている。・・・コンピュータネットワーク上での電子的な情報通信によって商品やサービスを売買したり分配したりすること。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E5%95%86%E5%8F%96%E5%BC%95

4 終わりに

 私は、基本的に、Slateの分析を是としますが、若干、異論のある個所を指摘しておきます。
 下掲に目を通してください。↓
 「・・・一般に国土の狭い国では、気候条件や天然資源に偏りがあり、また規模の経済をあらゆる産業で享受するには国内市場だけでは狭すぎるなどの理由から、貿易依存度は高くなる傾向がある。ことに経済発展に伴って消費が多様化すると、そのような傾向が強くなる。オランダやベルギーなどの貿易依存度が高く、アメリカの貿易依存度が低いのは、そのような理由からである。技術進歩は、一方では輸送手段や通信手段の発達に伴う輸送費や取引費用の低廉化によって、貿易依存度を高める要因となるが、他方では天然原料にかわる合成原料の開発を通じて輸入依存度を低下させる効果もある。産業構造の変化については、第三次産業は貿易依存率が低いから、産業構造の高度化は貿易依存度を低くする一因となる。 
 日本の貿易依存度は、1887〜1896年(明治20〜29)には平均で9%台であったが、その後しだいに上昇し、1907〜1916年(明治40〜大正5)には23%台になり、1930〜1939年(昭和5〜14)には34%台にまで高まった。第二次世界大戦後、貿易依存度は大きく落ち込み、1951〜1955年(昭和26〜30)には平均で約10%にすぎなかったが、その後回復し、1966〜1970年には20%を超え、1981〜1985年には平均で23%台になった。しかしその後、ふたたび低下し、1990年(平成2)には16%台、1995年には14%台に落ち込んだ。・・・
 以後、日本の貿易依存度はゆるやかに上昇し、2005年に24.4%、2006年に28.2%、2007年に30.1%、2008年に31.6%となっている。なお、2008年における各国の貿易依存度をみてみると、<米国>は24.3%と低いが、ドイツ72.6%、中国59.2%、韓国92.3%と日本と比べてかなり高くなっている。」
https://kotobank.jp/word/%E8%B2%BF%E6%98%93%E4%BE%9D%E5%AD%98%E5%BA%A6-183454

 かねてから申し上げているように、私見では、中共は日本型経済体制を継受することによって高度成長を実現したのであり、消費よりも投資を重視したこと、企業の資金調達が株式はもとより、社債でもなく、主として銀行借り入れによってなされてきたこと、等は、その資本主義が未成熟であるためではなく、日本型経済体制だからなのです。
 但し、中共と日本の高度成長期の日本型経済体制の運用においては、若干の違いもあります。
 その一つは、中共では、人間主義が普及しておらず、エージェンシー関係の重層構造を基本的に共産党員だけで構築しなければならなかったために、自ずから国有企業の比重が大きくならざるをえなかったことであり、もう一つは、中共の高度成長が、より全球化が進展した時代に行われたため、これまた、自ずから貿易依存度が高くならざるをえなかったことです。
 中共にとっての、経済面での今後の課題の主たるものは、一般の国民の人間主義化を進展させ、国有企業の比重を下げて行くことと、日本型政治経済体制総体の継受を図る過程で生じうる政治的混乱が経済に悪影響を与えないようにすることでしょう。