太田述正コラム#7764(2015.7.3)
<現代日本人かく語りき>(2015.10.18公開)

1 始めに

 本日は、A:學士會会報March Mo.911 2015-II、及び、B:學士會U7 March 2015、からの落穂拾いです。

2 松里公孝「ウクライナ動乱の一年に思う(A:30〜34頁)

 松里は、東大法昭60卒、同法博、現在同法学部教授、という人物です。(上掲)

 「・・・ドネツクが独立宣言した<2014年>4月7日<(注)>、IMFからウクライナへの資金供与が始まった(4月だけで約7000億円)。

 (注)独立宣言は5月12日(現地時間11日)では?
 なお、松里がドネツクだけに言及し、ルハンスクに言及しないのはどうしてだろうか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A
https://en.wikipedia.org/wiki/Donbass_status_referendums,_2014

 それはウクライナのロシアに対するガス代未払いを償却させるためと説明されたが、軍費に使われることは初めからわかりきったことだった。戦争がしたくてしたくてたまらないが金欠ゆえに我慢していたクーデター政権に、大金を供与したのである。4月13日、トゥルチノフ大統領代行は「反テロ作戦」の開始を宣言し、内戦が始まった。・・・

⇒国際機関であるIMFが資金供与の要件がクリアされていると判断して資金供与されたカネは、当然のことながら、色が付いているわけではない、というだけのことでないとすれば、松里は、IMFの「真の」意図を疎明する典拠を示すべきでした。(太田)

 8月28日、・・・「ドネツク人民共和国」(・・・:DNR)・・・は反転攻勢に転じた。ロシアが慌てて止めに入り、9月5日にミンスク合意が締結された。これはDNRにとっては不本意な停戦であった。・・・

⇒いくら弱体化していたとはいえ、叛乱勢力が正規軍と渡り合えるわけがないのであって、ドネツク側の全ての動きは、武器、糧食等、資金、軍人等を送り込んだロシアの統制下のものである、と考えるべきでしょう。
 (松里は軍事的素養がゼロなのでしょうが、)「ウクライナ東部動乱」に関する、このような軍事常識に基づいた国際通念に真っ向から異を唱えるとは、松里の精神状態を疑わざるをえません。(太田)

 <親露派のヤヌコーヴィッチ政権の崩壊>が解き放った凄まじい暴力、内戦に巻き込まれることへの住民の恐怖心を無視して、ウクライナ東部動乱は理解できない。・・・

⇒「住民の恐怖心」がどれほどのものであろうと、繰り返しますが、「武器、糧食等、資金、軍人等」の提供無くして「動乱」など起こせません。(太田)

 今のウクライナ<の>・・・DNRの捕虜を死ぬまで虐待し、しかもそれを動画に撮って得意げにYouTubeに載せるような神経はまともではない。そのような軍隊が勝てるはずがないし、暴力の一年がウクライナ青年をここまで退廃させたかと心が痛む。・・・

⇒お互い様ではないのでしょうか。
 とにかく、ドネツク側は、国際法違反とウソで固めているのですから、政府側だって紳士的対応に飽き足らない分子が出来するのは避けられません。(太田)

 日本政府に期待することは、IMFのキエフ政権への援助が軍費に使われた実態と経過を解明することである。・・・」

⇒米国はEU諸国以上に、ウクライナ政府側に入れ込んでいます。
 日本は米国の属国である以上、百歩譲って松里の指摘が正しかったとしても、米国の梯子を外すようなことができるはずがないでしょう。
 恐らく、松里
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E9%87%8C%E5%85%AC%E5%AD%9D (←褒めすぎ!)
には、日本が米国の属国である、という認識が皆無なのでしょうね。
 東大法学部の教授陣は、吉田ドクトリンの汚染が進行し、私の頃より更に劣化しているようです。(太田)

3 村上正直「人権条約の意義と日本の課題」(A:35〜39頁)

 村上は、阪大法昭55卒、同国際公共政策博、現在同国際公共政策研究科教授、という人物です。(上掲)

 「・・・<諸>人権条約を含む条約は、日本について発効して以降、日本法と同様の法的拘束力をもつ。また、その効力は、憲法より下位ではあるが、法律よりも上位に位置する。・・・
 人権条約の国際的な解釈と日本の政府・裁判所などの解釈との間に乖離があることもあって、履行監視機関により日本に対して条約違反が指摘され、改善が求められている事項が多数ある。・・・これについて、日本の政府は、これらの勧告が法的拘束力がないとして、少なくとも表面上、積極的に対応する姿勢はみせていない。
 <また、>日本の裁判所をみると、一般に裁判所は、人権条約を用いることに消極的である。・・・」

⇒憲法にすら規範性がないのですから、もちろん条約にもない・・規範性を有するのは法律のみ・・と考えれば、説明がつくんですよ、村上サン。(太田)

4 丹羽宇一郎「グローバリゼーションと日本の将来」(B:30〜41頁)

 丹羽は名大法昭37卒、伊藤忠社長を経て駐中大使を務めた、我々お馴染みの人物です。(上掲)

 「・・・ある中国高官は次のように言っていました。
 「中国が国家の諸問題に取り組む際、欧米諸国の経験は多少の参考になっても、そのまま当てはめることはできない。中国のように巨大な国土と人口を持つ資本主義は、人類は未経験だからだ。中国は今、過去に例のない大実験を始めたところだ。修正を繰り返しながら、ベターな方向を模索するしかない。
 極めてまっとうな意見で、私は賛成しました。・・・」

⇒インドの改革開放は時期的に中共より遅れたとはいえ、中共とは違って、それまでのインドは、英労働党ばりの社会主義体制だったので、あくまでも資本主義です。
 その資本主義インドで、(「中国高官」は直接それに言及してはいませんが、)自由民主主義がまがりなりにも機能してきており、そのインドと中共とは人口的にほぼ拮抗しており、領域的にも、インドはかなりの大国です。
 ぬけぬけとそんなことを言う「中国高官」も人を喰っていますが、そんな「意見」に二つ返事で「賛成し」てしまった丹羽には開いた口が塞がりません。
 インドに失礼だし、相手からもバカにされるだけです。(太田)