太田述正コラム#7460(2015.2.1)
<強化された中共の思想統制(その2)>(2015.5.19公開)

 「この動きは、西側における市民社会と民主主義の概念の大きな部分を支えるとともに、中共政府が中国共産党の権威を掘り崩すかもしれないと恐れているところの、自由な思考とふるまいの類、を制限する、習近平主席による2年間にわたる文化的かつイデオロギー的攻勢の一部だ。・・・
 中共の観察者達は、このようなキャンペーンが直面する問題は、いわゆる、西側の諸観念やテクノロジー・・しばしば「普遍的」と称される・・が、多くの中共の指導者達が成年になったところの、孤立主義的な1960年代とは対照的に、既に中共の中に根付いていることだ、と語る。
 今日、中共の両親達、学生達、そして不動産投機家達は、学校に行き、投資用諸住宅を購入し、ビジネスを行い、そして、一流の諸専門職になるために、外国に赴くことに忙しい。・・・
 中国共産党内ですら、マルクスの輝きが薄れ、習の同国人達は人民にとっての代替的道標として、孔子という古の人物へと目を転じたが、殆んど成功していない。」
http://www.csmonitor.com/World/Asia-Pacific/2015/0130/China-builds-ever-higher-walls-against-West-and-its-values

⇒全面的日本化戦略を打ち出すための準備期間中の繋ぎとして、孔子を復活させたに過ぎないのであって、それは、中共当局自身にとっても、腰が余り定まっていない動きであった、というのが私の見方です。(太田)

 「1月19日に、中共指導部は、諸大学が、党、マルクス主義、及び、習の諸観念へのイデオロギー的忠誠に重きを置くよう求めるガイドライン群を発出した。・・・

⇒習の諸観念なるものには、人間主義の含意がある、と私は見ているわけです。(太田)

 中共の諸単科大学や諸大学の多くでは、英語の教科書やそれらの諸翻訳が、自然諸科学、経済学、法学、ジャーナリズム、及び社会諸科学に関して、広範に用いられるに至っている。
 <また、>外国で勉強したり働いたりしたい学生達の多くは、自分達の成功にとって、外国の著作を習得することが枢要であると信じている。・・・
 党が、この種の書籍群を完全に禁止することは考えにくいものの、政治的に問題のある諸観念を諸学校から洗い流そうというその決意は止めることは不可能なように見える。・・・
 しかし、支那の20世紀全般における近代化の諸経路の全ては、多かれ少なかれ、西側の諸影響の吸収過程だった。
 マルクス主義理論もまた、西側の理論だ。・・・

⇒以前にも指摘したことですが、それが、実は、「多かれ少なかれ」、日本語に翻訳された、或いは、日本人が翻案した、「西側の諸影響」であったことが重要なのです。(太田)

 <皮肉なことに、>首相の李<克強>首相は、<北京大>法学部の学生時代<(注1)>に、風変りで有名でかつ影響力あるイギリス人裁判官のアルフレッド・デニング(Alfred Denning)<(注2)>の『法の適正手続(The Due Process of Law)』を翻訳している。

 (注1)但し、李は、法学士号取得後、同大学で経済学修士号、経済学博士号を取得している。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E5%85%8B%E5%BC%B7
 (注2)1899〜1999年。オックスフォード大で数学と法学を学ぶ。男爵に叙せられる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Alfred_Denning,_Baron_Denning

 李氏は、また、この種の諸観念を勉強することが許されるようになった時、北京大学法学部で用いられていた西側の法的諸文献の編纂を助けた、すなわち、ある教授が『比較憲法及び行政法』という教科書を書くのを手伝ったのだ。」
http://sinosphere.blogs.nytimes.com/2015/01/30/china-warns-against-western-values-in-imported-textbooks/?ref=world&_r=0

⇒中共当局が、経済面で日本化するところの、改革・開放路線を推進しつつ、全面的日本化に向けての研究を行う過程で、初めて、日本語ないし日本人を介在させない形で、西側、より端的には米英、の研究を、米英の日本との比較を整理するために奨励した、と解することもできそうです。(太田)

 中共は、長らく世界で最もやっかいなインターネット諸制限の幾何かを有していた。
 しかし、最近まで、当局は、束縛度のより少ないインターネット・アクセスに大いに依存するところの、考古学者達から外国人投資家達に至る何百万人もの人々にとっての命綱としての、V.P.N<(注3)>の増殖を実質的に許容してきた。・・・

 (注3)virtual private network。「インターネット・・・のようなオープンなネットワークを, 暗号化などのセキュリティ技術を用いて, 専用線であるかのように利用できるサービスの総称」
http://ejje.weblio.jp/content/V.P.N.

 <だから、今回の、>最も広範に使用されている諸V.P.Nを機能停止させる動きは、怒りの迸りを喚起した。・・・
 「Eメールやインターネット・トラフィックに対する過度のコントロールの一つの不幸な帰結は正当な交易の速度の緩慢化であるところ、それは、中共にとってベストの利益になるようなものではない」、と中共での米商業会議所会頭・・・は語った。・・・
 外の世界からの情報に中共でアクセスできないようになる日がやってくれば、多くの人々は去ることを選ぶだろう。」
http://www.nytimes.com/2015/01/30/world/asia/china-clamps-down-still-harder-on-internet-access.html?ref=world

⇒チベットの共産党幹部達による独立策動の昨年における露見
http://www.asahi.com/articles/ASH1Y4D0QH1YUHBI01F.html?iref=comtop_list_int_n01
、次第にエスカレートしてきている感のあるウィグル人達による反中騒擾、或いは、最近の香港での「民主」化を要求した反中騒擾、更にはまた、このところ続いている、西側の主要メディア、就中米国のNYタイムス等による中共首脳クラスを標的にした腐敗の暴露、等によって、中共の安定が、内外、そして、四方八方から脅かされつつある、という切羽詰まった危機意識に習近平体制がかられている、ということなのでしょう。
 従って、中共当局による今回のインターネット規制の強化は、この当面の危機をやり過ごす間の暫定的措置に他ならない、と私は見ています。(太田)

(完)