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太田述正コラム#7388(2014.12.27)
<河野仁『<玉砕>の軍隊、<生還>の軍隊』を読む(その6)/私の現在の事情(続x48)>(2015.4.13公開)

 「もうひとつ内務班生活を象徴するものに「員数主義」がある。兵器、被服、営内靴、銃口蓋など軍から支給された備品の数が、検査のときにすべてキッチリ揃っていなければいけないという考え方である。備品を紛失してはいけないことは公式の規範であるとしても、「員数をそろえるためには何をしてもよい」「盗んできたものであっても構わない」というルールは「インフォーマルな規範」である。この「員数主義の思想」はじつは重要な含意を持つ。内務班生活における「規範の逆転」を明瞭に示唆しているからである。・・・

⇒こんなに接近して、漢字表記の「揃って」とひらがな表記の「そろえる」が、表記が統一されないまま用いられている、ということは、もちろん直接的には出版社の講談社(の校正者)のミスですが、前から何度も指摘しているように、河野自身が言葉の一貫性に無頓着であることから、原稿段階で、そもそも、こういった表記の不統一を連発していると想像され、それに、出版社側が対応しきれなかった、と私には思われるのです。(太田)

 「市民」意識がなかなか抜けない米軍兵士は、戦場での戦闘行為を「殺人」ととらえ、「道徳的葛藤」に悩むことが多い。<ところが、>・・・筆者が聞いたかぎりではこの道徳的葛藤に悩んだという日本兵はほとんどなかった。・・・
 平時には人を殺してはいけないが、戦時にはいいのだという、この戦時における公式な規範の「逆転」を受け入れやすくするという機能が、この「員数主義」にはあったのではないだろうか。・・・
 たとえ一般社会の道徳とは相反するきまりであっても、それを受け入れなければならない。道徳的葛藤を感じることなく「敵を殺す」ことを「兵士の任務」として受け入れることは、そうした論理の延長線上にあったと考えることができないだろうか。」(89〜91)
⇒戦時においては、平時では許されない殺人が許されるだけでなく、当然、傷害も監禁も恐喝も詐欺(欺騙)等も許されるところ、そのような意識の転換は、常時弥生モードの米国育ちの新米米兵に比べ、平時は基本的に縄文モードの日本育ちの新米日本兵にとって、遥かに困難であるはずであり、私的制裁同様、員数主義にも、そのためのイニシエーションとしての意義があった、と私自身も思います。
 しかし、戦闘行為において「道徳的葛藤」に悩まされるかどうかは、このような意識の転換がなされているかどうかもさることながら、兵士が当該(戦闘ならぬ)戦争について正戦意識を抱いているかどうかが一層重要である、というのが私の考えであって、どうして、同じ太平洋戦域において合いまみえた同士だというのに、PTSD罹患者が日本軍兵士に少なくて米軍兵士に多かったのかについて、私は、前者が戦争の大義が自国側にあることを信じていたのに対して、後者は信じられず、しかも、信じられない度合いが戦闘を重ねるにつれて高まって行ったからではないか、という仮説をかつて提示したところです。
 大義を信じられなければ、戦闘行為において「道徳的葛藤」に悩まされる度合いが大きく、その結果、PTSDに罹患する場合も多くなる、と見たわけです。
 前から感じているのですが、河野は、(実はその逆なのに、)米国の方が日本に比して文明的に優位にあると考えているように思われ、そのことが、彼の見解に、随所で歪みをもたらしている、と私は考えています。(太田)

(続く)
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--私の現在の事情(続x48)--

 明日のディスカッションでご披露しますが、年の瀬が押しつまった本日もまた、私の広義のコラム執筆環境の整備に、読者の方々のご尽力をいただきました。
 この際、今年、この種のご尽力をいただいた方々に、まとめて御礼を申し上げておきたいと思います。

 オフ会幹事のBERNIE、TT、KTのお三方。
 関西オフ会主幹事の鯨馬さん。
 福岡オフ会主幹事のChaseさん。
 オフ会申込みフォームをその都度作成していただいているUSさん。
 マンション管理で私の年金以外の収入源確保にご助力をいただき、コーヒーのドリップバッグの提供を通じて私をコーヒーに目覚めさせ、また、スピーカーの提供まで申し出ていただいたHNさん。
 八幡市での市民講座で使用したパワーポイント資料の作成をやっていただいた、US、Chase、TAのお三方。
 太田HP、ブログ、SNSの管理人をしていただいているやまもとさん。
 私のIT環境を整備していただいているK.Kさん。
 コラムの校正を自発的にやっていただいているTAさん。
 コラムの番号付与ミスの指摘を自発的にやっていただいているKCさん。
 私をオーディオに目覚めさせた上、私のオーディオ環境を整備していただいたkomuroさん。
 このほか、コラム用にと、本や資料の提供をしていただいた方が数名おられます。

 皆さん、まことにありがとうございました。
 来年も、引き続き、或いは、ご縁がございましたらまた、よろしくお願い申し上げます。

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