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太田述正コラム#7372(2014.12.19)
<85歳のウィルソン(その1)>(2015.4.5公開)

1 始めに

 あのウィルソン(Edward O. Wilson)(コラム#5442以下、5507、5561)が、齢85歳にして、また、本、『人間の実存の意味(The Meaning of Human Existence)』を上梓し、しかも、下掲のように米英の主要紙の多くが書評で取り上げるという快挙を成し遂げたので、彼に敬意を表する意味も込めて、表記のタイトルの下、その内容のさわりを書評類をもとにご紹介し、私のコメントを付すことにしました。

A:http://www.washingtonpost.com/opinions/book-review-the-meaning-of-human-existence-by-edward-o-wilson/2014/11/14/deffe5bc-548f-11e4-809b-8cc0a295c773_story.html
(11月15日アクセス。書評(以下同じ))
B:http://www.nytimes.com/2014/10/10/books/edward-o-wilsons-the-meaning-of-human-existence.html?_r=0
(12月18日アクセス(以下同じ))
C:http://www.forbes.com/sites/brucedorminey/2014/09/22/nasas-messenger-spacecraft-headed-for-mercury-impact/
D:http://www.bostonglobe.com/arts/books/2014/10/11/book-review-the-meaning-human-existence-edward-wilson/f5frabYN7wQc6ONmAlHrZO/story.html
E:http://www.timeshighereducation.co.uk/books/the-meaning-of-human-existence-by-edward-o-wilson/2017261.article
F:http://www.independent.co.uk/news/science/why-richard-dawkins-is-no-scientist-the-survival-of-the-least-selfish-and-what-ants-can-tell-us-about-humans-eo-wilson-on-his-new-book-the-meaning-of-human-existence-9849956.html
G:http://www.csmonitor.com/Books/Book-Reviews/2014/1106/The-Meaning-of-Human-Existence-considers-humanity-s-purpose-and-place-in-the-grand-scheme-of-things
H:http://news.nationalgeographic.com/news/2014/11/141102-edward-wilson-meaning-existence-darwin-extraterrestrials-ngbooktalk/
(著者のインタビュー)
I:http://hereandnow.wbur.org/2014/10/14/human-existence-wilson
(この本の序文を収録)
http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/culture/books/non_fiction/article1485196.ece
(有料書評だが、例によって抗議を兼ねてURLを掲載しておく)

 「生物学者にして博物学者(naturalist)のE・O・ウィルソンは、これまで30冊の本を書き、二つのピュリッツァー賞を獲得し、ハーヴァード大名誉教授の称号を持っており、諸蟻について主導的な権威」(I)です。

2 85歳のウィルソン

 (1)宗教

 「最近の世論調査によれば。米国人の約3分の2が<宗教上の理由から>・・・進化論を拒絶している。・・・

⇒北朝鮮のような国家の締め付けなしに、迷信を3分の2が信じる国民から構成される国家など、まともに相手にすべきではないでしょうね。(太田)

 ウィルソンは、自然淘汰は、個人レベルだけでなく、諸集団のレベルでも働く(operate)、と主張する。
 我々の進化史を通じて、よそ者達に対して大いに堅固なる紐帯を結んだ諸集団は、より大きな生殖上の成功を享受したが、宗教は、人間の諸文化が生み出したところの、効能がある、<人と人とを>結び付ける力、のうちの最たるものだった。

⇒私は、下掲における、ピンカーに近い見方をしており、ウィルソンが依拠していると思われる、同性異人のウィルソンの説には違和感があります。↓
 「二つの主流な説はどちらも、宗教は自然<淘汰>によって進化したと考えているが、一方は宗教それ自体が選択上の有利さをもたらしたと考え、もう一方は宗教が他の精神的適応の副産物だと考えている・・・心理学者スティーブン・ピンカーにとっては宗教的信念に向かう普遍的な傾向は真に科学的な謎である。彼は宗教が適応と見なせる基準を満たしておらず、宗教的な心理は祖先の生存を助けた他の精神的適応の副産物だと考えている。一方D.S.ウィルソンは宗教が集団の生存を助けた群選択的現象であると主張している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E6%95%99%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90

 信者達に対して、苦悩を取り除き弱き者達の面倒を見るよう促す道徳的諸規範(codes)を含むところの、宗教的信仰から出現する諸便益を、ウィルソンは認めないわけではない。・・・
 <が、しかし、>ウィルソンは、「偉大な諸宗教は、悲劇的にも、止むことなき、かつ不必要な、苦悩の諸源泉でもある」、と嘆く。
 「それらは、現実の世界において大部分の社会的諸問題を解決をするために必要とされるところの、現実把握の諸障害となっている」、と。」(A)

⇒ウィルソンの宗教観とこの話とは矛盾しているように思われます。
 そうであれば、宗教は、信徒集団に「生殖上の成功を享受」などさせないことになってしまうからです。(太田) 
 
 「<神が森羅万象を創造したとする>創造主義(creationism)を猛毒性の寄生生物に準えることで、彼は、ヒッチェンス(Hitchens)の上を行く。
 彼は、個々の宗教や宗派の指導者達に、「自分達の諸信仰の超自然的<でとんでもない>諸詳細を公開の場で擁護<できるものなら>してみたらいかが」、と要求することを示唆する。
 彼は、「神と共に、或いは、神に代わって、語っている、と主張するいかなる宗教的指導者ないし政治的指導者も、涜神として告発」したい、と願っている。・・・
 ウィルソン氏は、アラバマ州バーミンガム(Birmingham)の生まれで、南部浸礼派(Southern Baptist)として育てられたところ、人類の将来に関して露骨に次のように語る。
 「信仰は、さもなくば善い人々をして悪しき諸事柄を行わせしめるもののうちの一つだ」、と。」(B)

⇒その生い立ちからして、ウィルソンはリベラルキリスト教徒であると考えられるのであって、彼のヒッチェンスも真っ青の戦闘的無神論は、その証左である、と言えそうです。
 また、最後の一文からして、彼の「宗教」に仏教は含まれていないように見えます。(太田) 

 「社会的諸紐帯を強化するために宗教は人類全般にわたって早期に発展したところ、ウィルソンは、宗教の有用性はもはやなくなっている、と結論付ける。」(G)

 「もしあなたが、故人を含め、誰とでも夕食を共にすることができたとして、誰としたいか、そしてどうしてその人としたいのか<、と問われ、ウィルソンは、>「・・・法王のフランシスコ(Francis)1世だ。・・・彼は、最近、・・私は正確に引用しているつもりだが・・「あらゆる<生物の>諸種族やあらゆる諸池(ponds)が、神の目からは貴重なのだ」、と声明した。私はそれを聞いてうれしかった。彼は、また、最近、進化とビッグバン理論は真実だと語った。だから、彼と私との間には共通性(commonality)がある」<、と答えた。>」(H)

⇒ウィルソンのフランシスコ評は、私も概ね同感です。(太田)

(続く)

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