太田述正コラム#7294(2014.11.10)
<米国知識人のロシア認識(番外編)(続)(その2)>(2015.2.25公開)

 そして、その間、ハンガリーの国有エネルギー企業であるMOLが、クロアチアが南西欧州のエネルギー安全保障において演じる鍵となる役割ゆえに欧州及び米国の役人達からの諸懇願を顧みず、ガズプロムにクロアチアのエネルギー企業の持ち株群を売却する話を進めていた。・・・
 ニューヨークでの9月のある演説の中で、オバマは、自国において反対派と市民的諸自由とを窒息させている諸国として、ハンガリーを、ヴェネズエラ、ロシア、エジプトと一括りにした。・・・
 「私が見るところの最大の脅威は、米国政府がこの地域全体が異様な(weird)方向に向かいつつあると思っているような印象(perception)を受けているが、それは事実ではないということだ。
 ハンガリーは<あくまでも>異常な存在(outlier)なのだ」と中欧のある外交官は本誌に語った。・・・
 この欧州の外交官は、オルバンの経済政策(economics)を、かつてのイタリアの独裁者たるベニート・ムッソリーニ(Benito Mussolini<。1883〜1945年>)<(コラム#1252Q&A、1428、2125、3381、3582、3675、4652、4830、4965、5131、5235、5955、6778)>の企業国家主義(corporate statism)<(注2)>に準えた。

 (注2)企業国家主義とは、「一政治文化にしてコーポラティズム(corporatism)<(コラム#1165、3758、3766、4362、5408、5410、5812)>の一形態であり、その支持者(adherent)達は、<現代の>国家は企業集団を社会の基盤(basis)としている、と主張する。・・・<この主義は、>オットマール・シュパン(Othmar Spann)やベニート・ムッソリーニによって推進された(developed)。
 企業国家主義は、与党が、勤労者達、資本家達、その他国家の主要(prominet)利害関係者達(interests)、について、彼らを統治メカニズムに制度的に組み込む(incorporate)ことによって、彼らの間の仲裁者(mediator)として行動すること、を最も共通して宣明(manifest)する。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Corporate_statism
 オトマール・シュパン(1878〜1950年)は、オーストリアの保守的哲学者、社会学者、経済学者であり、急進的な反自由主義かつ反社会主義的な諸見解を発表した。ナチスドイツによるオーストリア併合の後、ウィーン大学教授の座を追われ投獄された。教え子に、オスカー・モルゲンシュテルン(Oskar Morgenstern)、フリードリッヒ・ハイエク(Friedrich Hayek)<(コラム#1865、3541、4079、4858、4866、5285、5394、5659、6234、6429、7165)>、エリック・フェーゲリン(ヴェーゲリン)(Eric Voegelin)<(コラム#3710、4226)>らがいる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Othmar_Spann
 なお、モルゲンシュテルン(1902〜77年)は、「ドイツ生まれで、<ウィーン大学>で学び、<米国>で活躍した経済学者<で、>ジョン・フォン・ノイマンと共にゲーム理論を経済学の世界へと持ち込み現在のミクロ経済学の基礎をつくりあげた」人物であり、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%B3
フェーゲリン(1901〜85年)は、ドイツ生まれでウィーン大学で学んだ米国の政治哲学者。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%AA%E3%83%B3

⇒この記事に登場する欧州の一外交官のムッソリーニ関する指摘は、企業国家主義に関する英語ウィキペディアによって一応裏付けることができますが、この典拠以外には、ムッソリーニが企業国家主義者であった旨を記述する典拠は殆んどなさそうであり、ムッソリーニに関する英語ウィキペディア
http://en.wikipedia.org/wiki/Benito_Mussolini#Economic_policy
にも全くそのような言及はありませんが、それもそのはずであり、イタリア・ファシズムの経済に関する英語ウィキペディア
http://en.wikipedia.org/wiki/Economy_of_Italy_under_fascism
によれば、ムッソリーニには経済思想(economic plan)など持ち合わせていなかった、という説がかなり有力だからです。
 いずれにせよ、ムッソリーニがシュパンと直接間接に関わりがあった旨の記述にはいまだお目にかかっていません。
 但し、ムッソリーニがコーポラティズム的な経済運営を行ったことは事実です。(ウィキペディア上掲)
 とまれ、コーポラティズムについては、過去に何度も取り上げつつ、掘り下げた分析を行っていないのは前から気になっているのですが、私の取り敢えずの考えは、それがカトリック教会主導のプロト欧州文明回帰的経済思想である、ということを以前に(コラム#5408で)申し上げたところです。
 戦後のフランスやドイツの資本主義がコーポラティズム的であることは争えないところであり、オルバンのハンガリーもまたコーポラティズム的な資本主義を追求しているのであるとすれば、現在のハンガリーは「異常な存在」どころか、現在の欧州の正統派の経済体制の構築を目指しているのであって、タテマエ論を口にしているフランスやドイツと違って、欧州の正統派のホンネを直截的に言動に移して、尖兵的にプーチンのロシアとの提携に乗り出しているだけのことである、と言えそうです。
 考えてみれば、プーチンのロシアが追求している経済体制もコーポラティズム的な資本主義なのであり、いわば、欧州大陸は、その外延たるロシアを含め、プロト欧州的経済体制志向で染め上げられつつある、と言っても過言ではありますまい。(太田)

 オルバンは、諸市場や消費者選択の言葉では考えない。
 すなわち、彼の政権は国家所有と統制の言葉で考え行動するのだ」と、ハーヴァード大ベルファー・センター(Belfer Center)<(注3)>でエネルギーの地政学を研究しているアンドレアス・ゴールドソー(Andreas Goldthau)<(注4)>は言った。・・・

 (注3)Robert and Renee Belfer Center for Science and International Affairs。ハーヴァード大ケネディスクール(John F. Kennedy School of Government)内に1973年に設置されたところの、軍備管理及び核脅威削減についての分析を提供することを目的とする常設研究センター。
http://en.wikipedia.org/wiki/Belfer_Center_for_Science_and_International_Affairs
 (注4)パリの高等教育機関(Institut d'Etudes Politiques de Paris)とベルリン自由大学の修士号を持ち、モスクワ大学でも学び、ベルリン自由大学で博士号(政治学)を取得し、ブダペストの米国系の大学院大学である中欧大学(Central European University)教授兼ベルリンの全球公共政策研究所(Global Public Policy Institute)フェロー。現在、更に、ハーヴァード大のフェローにして客員研究員を兼任。
http://publicpolicy.ceu.hu/profiles/faculty/andreas_goldthau
http://www.ogel.org/about-author-a-z-profile.asp?key=2451

⇒ゴールドソーは、ハンガリー人ではないかと思われるところ、上述した私と同じ考えなのではないでしょうか。(太田)

 同時に、とりわけロシアとの間の、巨大なエネルギー諸契約は、不透明な政治システムの周りに何10億ドルもの疑似餌の提供をはね散らす。
 「腐敗は、思うに、この首相と彼の内輪の仲間達が」諸核プラントや新パイプラインについて、「そのルートを辿るについての規定的要素なのだ」と大西洋評議会(Atlantic Council)<(注5)>の<デーヴィッド・>コラニー(<David> Koranyi)は言った。・・・」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/11/06/hungary_is_helping_putin_keep_his_chokehold_on_europes_energy_south_stream_orban?wp_login_redirect=0

 (注5)1961年にワシントンに設立されたところの、国際問題についての超党派のシンクタンク。
http://en.wikipedia.org/wiki/Atlantic_Council

⇒ハンガリー人ないしハンガリー系であるコラニー
http://en.wikipedia.org/wiki/Koranyi
は、自分の現在の祖国ないしかつての祖国のことが全く分かっていない、少なくとも、非本質的なことを言っている、ということになりそうです。(太田)

(完)