太田述正コラム#7230(2014.10.9)
<宗教の暴力性?(その3)>(2015.1.24公開)

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<脚注:イスラム教の暴力性等を巡るNYタイムスのコラム>

 「歴史的には、イスラム教は、特段非寛容ではなかったし、初期においては女性の地位を高めもした。

⇒サラフィー主義者達はその逆であるという認識であり、「歴史的には」、彼らの認識は正しいと言わざるをえない。(太田)

 20世紀のそれさえをも含む歴史を想起する者は誰でも、イスラムを血に飢えた宗教だと名指しはしないだろう。
 <20世紀において、>大量殺戮の諸記録を作ったのは、キリスト教/ナチ/共産主義欧州と仏教/道教/ヒンドゥー教・無神論アジアだった。・・・

⇒米国はどうした、第一、地域を超越したところの、キリスト教/ナチ/共産主義・・その根っこはキリスト教・・だろ、と言いたくなる。(太田)

 <仏教は平和的と言われているが、>第5代ダライ・ラマ(fifth Dalai Lama)は、1660年に子供達を、「卵群が諸岩にひしゃげられるように」殺戮されるよう命じている。

⇒前にも触れたことがあるが、仏教は平和的という観念が欧米で普及しており、それに対して、時々、米国人知識層の一部が反発して、苦し紛れの茶々を入れるところ、これもそんな事例の一つだ。
 第5代ダライ・ラマは、チベットの宗教面での最高権威者の身ながら、政治(世俗)面でもチベットの最高権力者になり、政教一致の専制政治体制を確立したというのだから、王子である身分を捨てて出家した釈迦とは対蹠的な人物であり、そもそも、破戒僧であった、と言うべきだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/5th_Dalai_Lama 
 (現在のダライ・ラマだって、つい最近まで、政治面でも最高権力者でこそ必ずしもなかったけれど、少なくとも最高権威者であったわけであり、その限りにおいては、仏僧として、褒められたことではなかった。
 法王領の主権者である法王についても、第5代ダライ・ラマの場合とは様相がかなり異なるが、同様の問題があることは、以前、指摘したところだ。)
 さて、コラム筆者の言及した第5代ダライ・ラマによる、この殺戮の話は上記ウィキペディアに出てこず、ネット上でかろうじて探し出した記事
http://newschecker.blogspot.jp/2007/05/tibet-when-dalai-lama-was-in-power.html
も、典拠抜きの簡単なものだったので、こんな話を持ち出した筆者・・恐らくは仏教が何たるかが全く分かっていない・・に敬意を表しておこう。
 もっとも、それが史実であったところで、当人が、政治面の最高権力者たる破戒僧である以上、少しも驚かないが・・。(太田)

 同様、コーランも、暴力について歓呼する諸行を持つことは事実だが、聖書もそうであり、アマレク人達(Amalekites)<(注1)(コラム#504)>に対するもののように、神が諸ジェノサイドを命ぜられたことを詳述している。

 (注1)「出エジプト記17章8-16節によれば、イスラエル民族がモーセに率いられてエジプトを脱出し、シナイ半島南部・・・に滞在していたときに、アマレク人がいきなり襲ってきた。モーセが山に登って・・・神に祈り、ヨシュアが兵士らと共に戦い、接戦の末、イスラエル軍が勝利した。
 <また、>サムエル記上15章1-11節によれば、イスラエルの初代の王サウルが、神の命令に違反して、アマレクの王アガクを助けたことが神の怒りを招き、彼の王権は失墜した」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%82%AF%E4%BA%BA

 ・・・イスラム世界は多くのものを包含している。
 すなわち、それは広大で種々なのだ。
 そう、アフリカ人の殆んど5分の4が棄教に対する死刑を是としているけれど、大部分のイスラム教徒は、そんなことは気が狂っていると言う。・・・
 アフガニスタン、ヨルダン、そして、エジプトでは、イスラム教徒達の4分の3を超える人々がイスラム教を棄てた者に死刑を課すことを是としている。・・・
 <しかし、>世界で最も人口の多いイスラム教国であるインドネシアでは、イスラム教徒のわずか16%しか、このような刑罰を是としていない。
 ・・・アルバニア、アゼルバイジャン、そして、カザフスタンでは、わずか2%、ないしそれ未満のイスラム教徒しか是としていない。・・・

⇒単に真正なイスラム教徒だけでなく、不真正なイスラム教徒もいるというだけのことだ。(太田)

 <とはいえ、以下のことも事実だ。>
 今日のイスラム世界には、本当に甚だしく非寛容で抑圧的な部類が含まれている。・・・
 <実際、>世界経済フォーラムの女性の諸権利に関する報告書における最低ランキングの10か国中、9つは、イスラム教徒が多数の国だ。
 キリスト教徒、アフマディー<(コラム#679、4899)>教徒(Ahmadis)、ヤジディ教徒(Yazidis)、バハイ<(コラム#679、1086、1736、2084、3353、7105)>教徒(Bahais)、そしてシーア派(Shiites)に対する迫害<が>、イスラム世界では余りにも共通に見られること<も事実>だ。

⇒棄教者への死刑に加えて、女性差別に異端、異教徒迫害、がいまだにイスラム世界に普遍的に見られるのは、それらが真正イスラム教の属性だからだ。(太田)

 <何よりも、>Isis内の野蛮人達は、彼らの極悪非道のふるまい・・最も最近では、イスラム教徒達の命を救うことに身を捧げていた援助従事者の首を刎ねた・・の理由として彼らの信仰を持ち出し、全イスラム教徒に汚名を着せた。」
http://www.nytimes.com/2014/10/09/opinion/nicholas-kristof-the-diversity-of-islam.html?ref=opinion
(10月9日アクセス)

⇒この筆者・・恐らく、イスラム教についてもまた、何たるかが全く分かっていない・・は、今度は、自覚せずして、ムハンマドを極悪非道者だと罵倒しているわけだ。(太田)
(続く)