太田述正コラム#7220(2014.10.4)
<新しい人類史?(その11)>(2015.1.19公開)

その後、新たな書評が出ているので、その書評から一部を紹介しておきましょう。

 「ハラリは、人類(humankind)について、4つの異なった里程塚群を巡って組織<的な説明を>する。
 約70,000年前に、認知(cognitive)革命が我々の歴史を起動させ、約12,000年前に農業革命がそれを加速させた。
 次いでやってきたのが、人類(mankind)を統合するとともに地球上において植民するという営みであり、<その後、>最終的に、約500年前に科学革命が始まった。
 科学革命は、現在でも進行中であり、我々全員のとどめを刺すかもしれない。
 この3つの革命の最初のものである認知革命は、真に革命的(game-changer)だった。
 すなわち、遺伝子の突然変異が、人間(Homo sapiens)の<脳の>内部配線を変え<(注6)>、未曽有の諸流儀で考えたり、全くもって新たなタイプの言語・・それは情報伝達だけでなく想像上の諸世界を創造することもできた・・でコミュニケーションをとったりしたりすることを可能にした。

 (注6)「最近の分子生物学的研究によれば、FOXP2と名づけられている遺伝子に生じたある種の変異が言語能力の獲得につながった可能性がある。さらにその変異は現生人類とネアンデルタール人が分化する以前の30-40万年前にはすでに生じていたとの解析結果が発表されており、現生人類が登場とともに既に言語を身につけていた可能性も考えられる。しかしFOXP2は言語能力を有しない他の動物の多くが持っていること、FOXP2の変異が言語能力の獲得の必要条件であるとの直接的な証明はまだなされていないことなどに留意する必要がある。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E

⇒私は、言語の起源について、ハラリが、漸進説ではなく革命説を所与のものとしている点に対する批判を既に行っていますが、生物学的起源説だけに着目している点と、生物学的起源説における有力仮説について、それがあたかも事実であるかのように記述している点、についてもハラリの勇み足である、と言うべきでしょう。(太田)

 共通の諸神話を鍛造するこの能力こそ、人間が大人数で柔軟に協力することを可能にしたのだ。」
http://www.theguardian.com/books/2014/sep/21/sapiens-brief-history-mankind-review-yuval-noah-harari
(9月23日アクセス)

3 終わりに

 イスラエルの新進気鋭の学者であるハラリもまた、私の言うところの人間主義に注目し、その関連で仏教に強く惹かれていることは心強い限りです。
 しかし、そうであれば、ハラリは、言語の起源、すなわち、彼の言うところの認知革命より、むしろ、人間主義の起源ないし人間主義革命について語るべきでした、

 私は、言語の起源に関してトバ・カタストロフ理論に前に事実上言及していますが、認知革命を70,000年前としているところから、ハラリもまた、この理論に拠っているように思われるところ、同理論は、むしろ、人間主義の起源と結び付けられるべきではないか、と私は考えています。
 トバ・カタストロフ理論とは、「いまから7万〜7万5000年前に、・・・インドネシア、スマトラ島にある・・・トバ火山が・・・大規模な噴火を起こし・・・大気中に巻き上げられた大量の火山灰が日光を遮断し、地球の気温は平均5℃も低下し・・・劇的な寒冷化<が>およそ6000年間続<き、>・・・人類も、トバ事変の気候変動によって総人口が1万人にまで激減し・・・<たとし、この寒冷化を契機に、人類>が衣服を着るようになったのではないかと想定している」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E7%90%86%E8%AB%96
理論です。
 私は、ずっと以前に(コラム#3140で)、米国の人類学者にして類人猿学者であるサラ・ブラッファー・ハルディ(Sarah Blaffer Hrdy) の説を援用して、人間主義がトバ・カタストロフ起源ではないか、と示唆したことがあります。
 このカタストロフによる人間の数の激減時において、それまで、平均的な人間は、哺乳類の間で広くみられる人間主義(コラム#3571)程度の人間主義しか実践できなかったと考えられるところ、高度な人間主義(組織的相互協力)を実践しなければ生存できなくなり、(それ以前における遺伝子の突然変異によって、高度な人間主義を実践できる人々が既に存在していた可能性と、その時点で、新たに遺伝子の突然変異が起こって高度な人間主義を実践できる人々が生まれた可能性とが考えられますが、)その結果、高度な人間主義を実践できる人々だけが生き残り、その子孫が現在の人類の隆盛をもたらした、と考えたらどうか、ということです。
 なお、高度な人間主義の実践の必要性に迫られたことが、既に人間が他の多くの動物達と共有していたFOXP2遺伝子を言語による高度なコミュニケーション用に転用する結果をもたらした、と考えれば、人間主義革命とハラリの言う認知革命とが結び付くことになりそうですね。

(完)