太田述正コラム#7202(2014.9.25)
<中東イスラム文明の成立(その9)>(2015.1.10公開)

 Isisが深刻な脅威である理由の第一は、既に示唆したように、それがイスラム世界の全体の統治を目指す領域国家である旨を宣言していることです。
 ところが、英米のメディアには、下掲のように、Isisを矮小化する傾向が見られます。

 「Isisの蜂起は、バグダードとシリアのイラン寄りのシーア派の二つの政府と諸民兵による権力と諸資源の暴虐的剥奪に対するしっぺ返しである。」
http://www.nytimes.com/2014/09/17/opinion/thomas-friedman-isis-and-the-arab-world.html?ref=opinion
(9月17日アクセス)

 これでは、Isisは、あたかも、イラクとシリアだけの領有を目指しているかのうようですね。

 「現在は、イラクとシリアに限定されているけれど、Isisはヨルダンとレバノンの「諸国境を取り除く(break)」とともに、「パレスティナを解放する」ことを約束してきた。
 それは、世界中のイスラム教徒達の支持を惹きつけているところ、・・・バグダーディーなるその指導者にみんなが忠誠を誓うよう求めている。」
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-29052144
(9月12日付)

これは、上掲記事よりはマシではあるものの、Isisが、せいぜい、イラク、シリア、ヨルダン、レバノン、パレスティナ、つまりは拡大レバントの領有を目指しているだけのように読んだ人は受け止めてしまいますよね。
 
 Isisが深刻な脅威である理由の第二の理由は、これも既に示唆したように、それが、イスラム教の創世期を忠実に、但し、時間を圧縮して、かつ、その後の挫折原因をあらかじめつぶした形で、再現しようとしていることです。
 ところが、下掲のような記事からは、この厳然たる事実から必死に逃げ回っているかのような印象を受けてしまいます。

 「・・・イスラム教の学者達は、最も穏健な者から最も戦闘的な者まで、全員が<バグダーディー>を大言壮語の詐称者(grandiose pretender)である、とこき下ろしており、世界が、彼の追従者達の増加とその悪しき諸殺害に、口を開けてぽかんとさせられている。
 しかし、彼の容赦なき信条は、18世紀のアラビア半島にその明確なルーツを有する。・・・
 「それは、馴らされていないワッハーブ主義なのだ」と、プリンストン大学の学者のバーナード・ヘイケル(Bernard Haykel)は言った。
 「ワッハーブ主義は、Isisの最も近しき宗教的血族(cognate)なのだ」と。・・・
 IsisまたはISILとしても知られるところの、イスラム国家、の指導者達を導く諸原理が、イスラム教スンニ派のワッハーブ運動への殆んど排他的コミットメントであることは、明らかでありはっきりしている。
 この集団は、サウディアラビアのワッハーブ派の宗教的教科書群の諸写し(images)を、それがコントロールしている諸学校に回付している。
 この集団の支配領域からの諸ビデオにおいて、ワッハーブ派の教科書群が公式宣教用バンの側面に張り付けてあるのが見える。
 このアプローチは、アルカーイダの系譜を形成しているところの、イスラム主義的かつ聖戦主義的思想の主流と背馳するするのであって、それは、暴力の見方に関する<両者の>根本的な違いへと導いた。
 アルカーイダは、イスラム教諸国家と諸社会が罪深き不信心(unbelief)へと陥ってしまった、と見る急進的宗派(radical tradition)から生まれ出たものであり、これらをこの罪悪から救う(redeem)ための手段(tool)として暴力を抱懐した。
 しかし、ワッハーブ派(Wahhabi tradition)は、これらの不信心者達(unbelievers)と見なされた者達の殺害を、信心者の(faithful)コミュニティを浄化するために必須である(essential)、として抱懐したのだ。
 ヘイカル教授は、「暴力は彼らのイデオロギーの一部なのだ」と言った。
 「アルカーイダにとっては、暴力は諸目的のための諸手段(means)だが、Isisにとっては、それは目的そのものなのだ」と。
 この区分は、ファトワ群の戦闘の中でとことん演じられている(playing out)。
 最も影響力ある聖戦主義的理論家達はイスラム国家を逸脱した存在である(deviant)と批判しており、それ自身が宣言したところの、カリフ国は無効である(null and void)、とし、ジャーナリスト達やボランティア活動家達の首の切断を行っていることから、その指導者達を血に飢えた異端者達である、と酷評(slam)している。
 しかし、イスラム国家の尊大で生意気な論客達は、その批判者達やアルカーイダの指導者達ですら、全員、欧米に対して甘くなって(go soft)しまった悪いイスラム教徒達なのだ、と反駁する。
 一人のイスラム国家イデオローグは、最近、パレスティナの闘士集団であるハマスの役人達や戦闘員達でさえ、イスラエルとの休戦に合意したことで首を切られる罰に値するかもしれない「不信心者達」と見なしている。
 「イスラム教徒の義務は、神の諸命令と諸規則の全てを、水で薄めて(sofgly)ゆっくりと(gradually)ではなく、直ちにそしてその場で、実行することである」と学者たる30歳のアル・トゥルキ・ベン=アリ(Al Turki Ben-Ali)は、あるオンライン・フォーラムで言った。・・・」
http://www.nytimes.com/2014/09/25/world/middleeast/isis-abu-bakr-baghdadi-caliph-wahhabi.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&version=HpSum&module=first-column-region®ion=top-news&WT.nav=top-news&_r=0
(9月25日アクセス)

(続く)